えぴろーぐ
――話は戦闘終了直後まで戻る。
蜘蛛の子を散らすようにという表現そのまんまの、大量の偽イズミちゃんをマジカル・グレネード・ショットガンで吹っ飛ばした後。
残敵掃討を済ませて意気揚々と勝鬨をあげるぬこぴー兵を尻目に。
ボクたちはすっきりしない感情を抱えたまま中央の司令部に向かった。
「おつかれさまー! いちおう、戦闘終了だねっ!」
出迎えてくれたのは自称神様。ちょっと疲れた顔をしてた。
司令部も撤収を始めたのか、いつのまにかシス子ちゃんたちがわらわらと飛び回ってなにやら作業中のようだった。
「おつかれさまです。途中からシスタブ不通になって中央の方とかさっぱりだったんですけど。結局どうなったんですか? 軍用通信の方で交渉決裂したらしいことは知ってますけど」
「あー、それはねぇ」
「いや、すまないがそれは私の方から話そう」
同じく疲れた顔の野井さんが、言いかけた自称神様を遮って片手をあげた。
「……結局のところ、話は平行線で終わった。イェーラは機人種の身体を欲しがり、私はその提供を拒んだ。終始その繰り返しでね。私の娘が迷惑をかけたことを謝罪するよ」
言いながら、ボクが貸したシスタブを返してくれる。
「そうなんですかー」
「そうこうしているうちに、君が東の方のデカブツを倒してしまっただろう? 埒があかないと思ったのか、それとも交渉の背景となる戦力に不安を感じたのだろうね。イェーラは一方的に交渉を切り上げて。今度は停止していた西の方のデカブツが動き始めた。その後は君の方が詳しいかもしれないね」
「まあ、今東側片づけてきたところですし。なんだか、いろいろ、すっきりしないんですけど」
結局、イェーラちゃんは何がしたかったのかよくわからないんだよね。
自由になる身体を欲しがっていたのはわかっているけれど、キューちゃんの幼女化はいやだって言うし。そのくせ野井さんに機人種の身体作ってとかいうし。
最後は大量の偽イズミちゃんを四方八方にばらまいて姿をくらましちゃうし。
「……あ、エリアの封鎖はどうなったんですか?」
「それなんだがね。どうも我々は思い違いをしていたらしい」
「どういうことですか?」
「イェーラの要求には機人種の身体だけでなく、エリア封鎖を解くことも含まれていたんだよ」
「え?」
レイちゃん知ってる? どゆこと?
[ん。えりあふうさ?を行ったのはレイたちではない。イェーラがそれをしたかどうかは、レイは知らない]
ということは。
「それ、イェーラちゃんがこの灼熱エリアを他から切り離していたわけじゃないってことです?」
「そういうことになるね」
「じゃあ、まだこのエリアのどこかに潜んで。探さなきゃ!」
「あ、だいじょぶだよっ! ってゆーか、あたしが取っ捕まえたから」
あわててジュ・トゥ・ヴーに乗りこもうとすると、自称神様に止められた。
「え、そうなんですか?」
「うふふ。伊達に神様を名乗ってないんだよっ! 今外とつながってるのはマーカーで囲んで穴開けた街周辺だけだからね! シスタブのネットワーク経由で逃げ出そうとしたところをダミーに追い込んでキャッチって寸法なのでっす!」
「……そう聞くと、エリア封鎖ってもしかして。レイちゃんたちを一か所に押し込めて逃がさないようにしていたっぽい? 誰がそんなことを」
「……それはわからないんだけどね。あたしの創ったセカイであたしより上手ってゆーのがちょっとムカツクねっ! しかもあたしが取っ捕まえた直後に何もしてないのにエリア解放されるしさ。ちょっとイラってするね! 誰かの手のひらの上でころころされるのってさー」
「……それ、ボクたちの前でよく言えますね?」
かなり自称神様には手のひらの上で転がされて弄ばれた覚えがあるんですけどー。
いや多少はボクの自業自得なところもあった気はするけど。
(ほとんどそうだよね? 魂の煉獄エリアの件とかさー)
ファナちゃんひどい。本当のことでも言われると傷つくんだぞー。
「あっははー! まあそれは言いっこなしってことで?」
ごまかすように自称神様は笑って。
「あ、シスタブは既に既存ネットワークごと新品に創り直したからっ! もう普通に使えまっ!」
「おお。仕事が早い」
さっそくシスタブを開いてみる。
うん、普通に使える。みんなは……あれ?
「……オサちゃんがリストから消えてる?」
いろいろな後始末があるので、打ち上げの温泉パーティは翌日ということになった。
公式HPでも告知されて、いったんはお開きということでボク達もナーガ・ナィアーツェに一度戻ったんだけど。
「……そうなんだ?」
戦闘に参加した人たちや、ナーガ・ナィアーツェで作業していたシス子ちゃんたちに聞いても、オサちゃんのことは知らないということだった。
ただ。
ユキノジョウが使っていた鎧が行方不明になっていて。
そういえば、最後の戦闘中に誰が乗ってるかわからない鎧が居たことをふと思い出した。
北の方のサボリさんかテトラさんが合流してきたのかと思ってたけど。もしかしたらあれはオサちゃんだったのかもしれない。
戦場で何をしていたのか、なんでいなくなっちゃったのかわからないんだけど……。
一応、過去のメッセージのやりとりに返信する形でオサちゃんにメッセージ飛ばして見たけど応答は無し。
ぶっ倒れてナーガ・ナィアーツェで治療中だったイズミちゃんも意識を取り戻したけれど。
そもそもずっと気を失ってたのでオサちゃんのことは何もわからないらしい。
ただ、イズミちゃんにだけは「心配しないで」ってメッセージがあったようで。イズミちゃんは楽観的に「そういう年頃なのよっ! きっとね!」って気にしてないようだった。
……巨大イズミちゃんの局部スクショとか出回ってるのを知ったら「ぎゃー」って悲鳴あげてたけど。
いくら本人の姿で無いといってもかなり忠実に本人の姿を映してたっぽいしなー。
見られても平気とか言ってたけど。どうもイズミちゃん、ハダァカといってもアニメのフィギュアみたいなつるんとした感じの認識だったみたい。
まあ、流石にアレはそのうち女神様たちがなんとかしてくれると思うけど。
激戦?を潜り抜けたジュ・トゥ・ヴーはオーバーホール中。
まあ、イェーラちゃんは捕まったみたいだし、レイちゃん達が幼女化して身体を得た以上、もう溶岩人形とのバトルは発生しそうにないから、たぶんナーガ・ナィアーツェと一緒にまた砂漠の底に封印されるのかも。
「プ」
え? シェラちゃんの影収納に入るの?
そういや赤メイドさんだか青メイドさんがなんか背後の空間から鎧を引っ張り出してたしね。
まあでも、LROのダンジョン狭いから、普段の冒険では使い道ないよね。
キューちゃんのジムノペディの方は魔王専用機として侵略戦で使うつもりみたい。
巨大UFOはそもそも輸送船だからまともな武装ないからにゃー、って言ってた。戦艦ヴェータの方とは和解できたっぽいけど、廃人が巨大飛行船とか持ち出してくる可能性があるしね。
……侵略戦と言えば。あんなに強力なぬこぴー兵のカードばらまいて、次からどーするんだろ。
女神側もテコ入れしないとまともに戦いにならない気がする。
現実を直視しないようにと、つらつらと考えて来たけど。
「あゆむー……どうしよう」
「どうしようねぇ、ファナちゃん」
いろいろ終わって、影憑依を解除したのだけれど。
ボクの目の前にはボクがいたりした。
意味不明。
じゃあなくって。
ファナちゃんがボクの姿になっていたりした。
ボクはボクのままなんだけど。
うん、意味不明。
影憑依を解除して、ファナちゃんボディからするりとボクが抜け出したら、ファナちゃんがボクの姿になんでか変わっちゃったんだよね。
「流石にログアウトしてもアユムのままってことはないと思うけど……」
グレちゃんがボクの姿をしたファナちゃんの周りをぶんぶん飛び回っていろいろ調べてるけど。
なんかよくわからないみたい。
「ぬこぴーみたいなアバターそのものを書き換えるカードを影憑依で重ねたりとかしてたから、どこかバグってるのかなー?」
「キューちゃんのぬこぴーカードもかなり突貫工事で創ってたしね……」
一応、キューちゃんに聞いてみたけど「オレしらんで? バグちゃう」って否定してた。
「でもアバターが他人のになるとか、ちょっと考えられないんだけど」
ファナちゃんプライベートルームでカード入れ替えてみたりしたんだけど。
ボクの姿で羽が生えたりお魚のしっぽが生えたり。
あとぬこぴーカード抜いているのに、両肩にガトリングガンついてたのは絶対おかしい。
「とりあえず、ハナちゃんはしばらくログインしない方がいいかも? こっちで少し調べてみるね」
グレちゃんが腕組みして言った。
「えー! 明日は温泉パーティなのにぃ!」
ファナちゃんがボクの姿でバタバタ暴れる。見た目はボクなのがちょっとアレだけど仕草はやっぱりファナちゃんだった。
「まあ、解決すればすぐだから」
「ううー」
そんなわけで、キューちゃんのなんちゃって侵略から始まった一連のドタバタは。
少しばかりの謎と、ちょっと困った事象が起こったまま幕を閉じたのだった。
なんか微妙なとこで終わってますけど、以上で第四話終了です。見切り発車過ぎて最後までずっとぐでぐででしたね……。巨大ロボとかレイみたいな謎の存在とか当初まったく構想に無かったりとか。最初に書いたメモ書きには「謎の侵略者、生体兵器な感じのぐろぬちょで触手ぷれいひゃっはー!」とか書いてあるんですが(オイ)。黒いモヤモヤとかがその名残かも。
この後は閑話で掲示板でぬこぴー部隊側の話とか、温泉イチャコラの続き、第五話に向けての何か、あたり予定デス。
第五話は第二陣の新規プレイヤーがやってきて―って感じの予定。まだそれだけしか考えてないとも言います。




