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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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12、「疑惑の砂」

 女神様が帰ってしまってからも、部屋には残り香が漂っていた。

 大きく息を吸って、吐く。

 右手に握りしめたままだった金属の筒をじっと眺める。

 ……よく見ると、押しボタンのようなものが付いていた。

 こんな簡単なことに気が付かなかっただなんて。自分では落ち着いて冷静に対応していたつもりだったけれど、どうやらかなり動揺していたみたいだった。

 かちん、と押し込んでみるが特に反応は無い。

 ふと気がついて。ボタンを押しこんだまま、筒のくぼんだ部分を下に向けると、とろりと水銀のようなものが流れ出して刃を形成した。ボタンを離すと固まって、押し込むとまた液体に戻るっポイ。鞘イラズだね。お手入れも簡単そう。

 ライトセーバーじゃなくって、液体金属の剣だったのかー。

 上段に構えて、軽く振り下ろす。ボクみたいな細腕でも軽くて振り回しやすい。

 あの時、この剣を使えていたら……。

 ため息ひとつ。

 レッドが立っていた場所に、部屋の鍵が落ちていたので拾い上げる。

 ……おっと、ファナちゃんひとりにしっぱなしだよ。早くもどらなきゃね。

 手早く服の乱れを直し、埃を払う。

 パーカーのフードを深くかぶり直して、部屋を出た。




「ファナちゃんひとりにしちゃってごめんねー……え?」

 テーブルに戻ると、なぜか幼女が増殖していた。

 いち、にぃ、さん。ファナちゃんを入れて、幼女が四人になっている。

 ふわふわの洋風ドレスを着た子と変形和服を着た子は、追加注文したらしき料理をもぐもぐと頬張っている。北欧系の天使みたいな銀髪紅目の幼女だ。ふたりとも顔がそっくりなので双子なのかもしれない。どこか人間離れした雰囲気があって。

 ……さっき会った女神様に雰囲気が似てるかも?

 着ている服も顔立ちも違うのに、なぜかそんな風に思えた。

 そして残るひとりは、現在ファナちゃんを絶賛お説教中のようだった。

 黒い髪、黒い目。明らかに日本人顔で、たぶんキャラメイクの時にほとんどいじらなかったプレイヤーなのだろうとなんとなく思った。

 ファナちゃんと知り合いっぽいし。

 小柄だけれど、幼女は流石に言い過ぎだったかもしれない。中学生くらい?

 綺麗な装飾の施された銀色の胸鎧を着こんでいて、なんだか女騎士!(ただし背伸びした女子中学生の自称れべる)って感じに見えた。

「……ちびねこちゃんにお酒のませたりして。それにハナちゃんだって未成年でしょう?」

「もう、りるねぇ! ほら、物理的に別の身体だから、それは問題ないんだってば!」

「法律の話じゃないのよ。ハナちゃんがちびねこちゃんにお酒飲ませなかったら、あの子たちも変な考えを起こさなかったかもしれないし。そうしたら、もしかしたらハナちゃんがその対象になっていたかもしれないのよ? よく知らない人と無防備にお酒飲んで酔っ払うとか、そんなバカなことをしたことを責めているの」

 騎士ちゃんは、ファナちゃんに、りるねぇって呼ばれていたしハナちゃんのお姉さんなんだろうか。

 どうやらお酒を飲んだこととかでお説教というか言い合いになっているらしい。

「アユムが居るから、大丈夫だっておもったんだもん」

「そのアユムって人だって、二人っきりになったらオオカミになるのよ? ハナちゃんちっちゃくてとってもかわいいんだから」

 おっとこっちにまで飛び火してきそう。というかさっきからボクが戻ってきたのに気が付いてないっポイ。

 どうしようかな。今割り込んだら藪蛇になりそう。

 うーん、とうなりながらテーブルのそばに突っ立っていると。

「ん、ここに座るの」

「ここに座るの」

 騎士ちゃんとファナちゃんの言い合いなど知らん顔でご飯を食べていた双子幼女が、自分たちの間に座れ、とばかりに座席を叩いた。

「え、うん」

 わー、かわいい幼女に挟まれるとか。両手に花だね!

 言われるがままに大人しく座ると。

「ルラなの」

「レラよ」

 双子幼女が交互に両手を上げてご挨拶してくれた。

 洋風ドレスの幼女がルラちゃん。変形和服の幼女がレラちゃんというらしい。

「ボクはアユムだよ。よろしくね」

 けど、ルラにレラってなんか聞き覚えがあるような。

「くんくん。ティアお姉ちゃんの匂いがするの」

「まさか、ティアお姉ちゃんにもセクハラしたのかしら?」

「……してません」

 どんなぱんつ穿いてるかなって妄想しただけだもん。

 ぎゅってしてくれたのは女神様の方だもん。

 けど、女神ティア様をお姉ちゃん、ってどゆことだろ。

「ふーん。ところでアユムって、おにいちゃん?」

「それともおねえちゃんなのー?」

「……」

 無言で双子幼女の肩に腕を回して、ぎゅうとボクの胸に押し付けるようにして抱きしめる。

「んー。おねえちゃんなの!」

「ふむー、大きさと言いハリといい、これぞまさにちっぱいバンザイなの!」

「……レラちゃんはボクのお胸もむのやめてね?」

 お前はおっぱいソムリエかー。あとちっぱいバンザイってなにさ。

 ちょっとレラちゃんの頬をつねると、思った以上にやわらかくて幸せだった。むにょんと伸びる。

「いひゃいの」

「女の子同士でもね、そういうのはあんまり気軽にすることじゃないんだよ」

 諭すように言うと、

「ん、グレイスからはアユムにならセクハラしていいって聞いているの!」

「セクハラを行うものは自身もセクハラを受ける覚悟ありってことなの!」

 そう言って双子幼女はボクのお胸に頬を擦り付けてきた。

「そーですかー」

 うん、プライベートルームに戻った時にグレちゃんと話すことがまた増えたね。

「ところで。ルラちゃんとレラちゃんて、ファナちゃんとどういう関係?」

 それにさっき会った女神様との関係も気になるところ。

 問いかけると、ルラちゃんとレラちゃんが互いに顔を見合わせてニヤリとした嫌な笑みを浮かべた。

「きいておどろけー」

「みてわらえ―」

 某お面を付けたバイク乗りの人みたいな奇妙なポーズを取って、双子幼女が高笑い。

「わたしは女神ルラなの。主に世界観の構築とイベント関係の設計担当なの」

「わたしは女神レラなの。主にシステム全般の担当なの」

「LROを遊んでくれてありがとなのー」

「さんきゅーふぉーゆあぷれいんぐなのー」

「あ、やっぱり運営関係だったんだー」

 そういやLROってルラレラ女神オンラインの略だし。女神ルラレラが作った世界っていう設定だっていうから、女神ルラレラ、っていう設定上の神様でもいるのかと思っていたら。

 ルラとレラって、別々の人でしかも運営、というか開発?の人だったんだね。

 さっき会った女神ティアさんのことをティアお姉ちゃんとか言ってたし、なんとなくそうだろうとは思っていたけれど。

 ああ、ルラ、レラ、ティアの三人の女神の名前をつなげて、この世界をルラレラティアって呼ぶのかなー。

 LROのタイトルに女神ティアさんの名前が入ってないのも気になるけれど。

 何より、LROでは基本的に現実世界の姿のままでログインさせられたわけだけれど。こんな幼女がほんとにこんな、超技術のゲームを作り上げたっていうのかな?

「……女神ルラレラだったら略称がLOになって変態紳士御用達のマンガ雑誌みたいになるの」

「女神レラルラだったら略称がROになってどこぞの老舗ネトゲみたいになるの」

「ティアお姉ちゃんが入ってないのは四文字になると語呂が悪いからなの」

「ってゆーかティアお姉ちゃんは運営には関わってるけど世界構築には関わってないの」

「別にハブってるわけじゃにないの」

「だからルラ・レラ・オンラインでLROなの」

 交互に両手を上げて双子幼女がボクの疑問に答えてくれる。

「……ってゆーか、ボク口に出してないよね?」

 ニヤリ、と双子幼女がそろって微笑んだ。

 女神の名前は伊達ではないということらしい。運営側の特殊なツールでもあるんだろうか。

 なんにせよ、見た目通りの年齢じゃないってことなのかも。

 ファナちゃんも幼女な見た目でじゅうろくさいだって言ってたしなー。

 ん? そういやファナちゃんとの関係って結局答えてくれていないような。

「あ、アユム! 戻ってきたんなら言ってくれたらよかったのに」

 ようやくファナちゃんがボクに気が付いたらしい。

 騎士ちゃんのお説教から逃げるように席を立ってボクとルラちゃんの間に割り込んできた。

「むー。ハナひどいの」

 ルラちゃんの苦情も気にせず、ファナちゃんが心配そうにボクに顔を寄せてくる。

「……大丈夫だった? 知愛(ちあ)お姉ちゃんが来てくれたと思うけど」

「うん。ボクには何もできなかったけど、女神ティア様が助けてくれた」

「よかった」

 ファナちゃんが、抱きついてきた。

 ――女神ティア様と、同じ匂いがした。




「で、ファナちゃん。紹介してくれる? この人たち」

「え、うん」

 ファナちゃんは少し頬を染めて、恥ずかしそうにボクから離れた。

「ルラちゃんとレラちゃんは……大丈夫かな? このセカイの女神様なんだよ」

「うん、それはさっき聞いた」

 どういう関係なのか聞きたかったんだけど。まあいいや。

「……で、さっきからじーってこっちにらんでるのが、りるお姉ちゃん」

「初めまして。こっちではリルファリアと名乗っています」

 ファナちゃんと言い合いをしていた騎士ちゃんが、じろじろとボクを値踏みするように睨みつけてくる。

「でもって、こっちがアユムね」

「初めまして、アユムです」

 ぺこりと頭を下げる。

「ファナちゃんのお姉さんなんですか」

「いえ、血のつながりはないのよ? よく言われるんだけど……」

 なぜかリルファリアさんがため息を吐いた。

「りる姉も、妙に若作りだからね……。わたしももうちょっと年相応になりたいかも」

 ファナちゃんもため息。

 そういや見た目が小学生なファナちゃんだから、中学生くらいのリルファリアさんをお姉ちゃん、って呼んでても違和感なかったけど。基本、現実と同じ姿な仕様ってことはリルファリアさんも見た目と実年齢が違うってこと?

「見た目小学生なファナちゃんはじゅうろくさいって聞いてるんですけど。見た目中学生なリルファリアさんはおいくつなんですか……?」

「ノーコメントで」

 きっぱり断られた。これは、思った以上に年上かな。

 ひとつやふたつ上って感じじゃなさそう……。

「えっとね、りる姉は確かにーちゃんの二こ上だから今年でさんじゅう……」

「私はまだ二十代です!」

 それどっちにしてっも妖怪じみてるよね。

「……ファナちゃんの住んでるとこって、妖精とか住んでたりしない?」

 エルフとか。あと著作権に触れるので名前出せないちびっこ種族とか。

「今はいないけど、ちっちゃな妖精さん住んでたらしいよ?」

「へー」

 ……そう来ましたかー。ファナちゃんの可愛さにもなっとくだね。

 きっと妖精の血がはいってるんだよ、うん。




 経緯をまとめると。

 ファナちゃんがシスタブのグレちゃんを通して運営に通報して、それで状況を知ったリルファリアさんたちが念のために駆け付けて来た、ということらしい。

 そういう情報が得られる立場ってことは、プレイヤーかと思ってたけどリルファリアさんも運営関係だったりするのかな。双子女神ちゃんたちもその関係?

 ……とすると。

 なんだか妙にシステム周り詳しかったりしたけど。ファナちゃんも運営に近い立ち位置っぽいな。

 ボクいきなりセクハラっていうか、ファナちゃんにキスしちゃったけど。あとでYOU! バン!とかって言われないよね?

「ん、アユムの顔見たから帰るの」

「バイバイなの」

 双子女神ちゃんはテーブルのご飯をたいらげて満足したらしく、小さく手を振って席を立った。女神ティア様のように光になって消えたりはせず、普通に出入り口から出て行った。

「……」

 残ったリルファリアさんは相変わらずボクのことを睨みつけてくる。

「ハナちゃんに変なことしたら、お姉さん許さないからね?」

 すごんでも正直、中学生の女の子がかわいいなーとしか思えません。

 というかすでにファナちゃんにはキスとかしちゃってるし。

「ふふーんだ。りる姉は自分に恋人いないからって、わたしの恋路のじゃましないで欲しいの」

 ファナちゃんが、べーっとリルファリアさんに舌を出して見せる。

 ……どうしよう。リルファリアさんに何か思うところがあるわけじゃないけれど。正直、じーって警戒の眼差しで見つめられ続けるのは居心地が悪すぎる。

 ここはちょっと悪乗りしてみる。

「そろそろ部屋に行こうか、ファナちゃん」

「……ええっ!? あ、はい」

 こくんと頷いたファナちゃんの肩をそっと抱いて。

「”影移動”」

 二人そろって影に潜り込む。

「あー! ちょっと待ちなさい、二人とも!」

 ごめんねー。

 向こうからは見えないだろうけど、小さく手を振ってその場を後にした。

 裏の世界は白黒反転している。初めて見る世界に、ファナちゃんもふわー、と声を上げていた。

「しっかりつかまっててね」

 ボクから離れるとどうなるのか、正直仕様は不明だし。離れない方がいいよね。ファナちゃんの小さな肩をぎゅーっと抱きしめられるのは役得なのです。

 二人三脚でもするみたいにして階段を上り、部屋の鍵を開けた。

 正直、さっきの嫌な思い出があって、あまり長居もしたくなかった。

 ぐるんと白黒反転して表の世界に戻る。

「……明日は朝九時ぐらいでいい?」

「え、はい」

 なぜか頬を染めたまま目をつぶっているファナちゃん。

 せっかくなので、そのかわいいおでこにそっとキスをした。

「えっと、わたし、初めてだから、その……」

「それじゃあ」

 あんまり可愛くてそのまま抱きしめたくなっちゃったけど。

 設定したログアウト時間も迫ってるしね。

 ボクはリターン、と心の中で唱えた。




「おかえりアユムー。大活躍だったね」

 プライベートルームでは、グレちゃんがニヤニヤした笑みを浮かべて待っていた。

「あのさー、風評被害を広めるのはやめてくれる? グレちゃん」

 とりあえず釘をさしておいた。

「アユムの自業自得だとオモオイマス」

「むー。反論できないのがなんかくやしい」

 なんにしても。なんだか、色々あって疲れた。

 砂の街は空気が乾いてたし、早く自分の部屋に帰って熱いシャワーを浴びたい気分だった。

 四時間ほど遊ぶつもりで、もう六時間以上もプレイしてるしね。

「あとね、」

 何か言いかけたグレちゃんを手で制して止める。

「ん、ごめんグレちゃん。今日は疲れたからもうログアウトしちゃうね。いろいろありがとう。また明日ね」

 プライベートルームからだと壁のメニューからログアウトボタン選択だっけ。

「あ、うん。それじゃ、また明日ね?」

「ばいばーい」

 グレちゃんに小さく手を振って、ログアウトボタンを押した。




「――うわ。寝汗がすごい」

 無事にログアウトすると、全身がびっしょりと汗でぬれていた。少し肌寒さを感じる。

 部屋は適温にしていたはずなのに。砂漠の中を歩いて暑さを感じたのが、現実世界の方にも反映されちゃったのかな。

 ゴーグルを外して、ベッドの上で胡坐をかく。

「……いろいろあったけど、なんか疲れたなぁ」

 夕ご飯な時間だけれど、ゲームの中でお腹いっぱい食べたせいか食欲はあんまりなくて。

「シャワー浴びたら、もう寝ちゃおうかな」

 どういったVR技術を使っているのかわからないけれど、やっぱり脳みそ酷使してるのかな。

 身体はそうでもないけれど、精神的に睡眠を欲してるかんじ。

 タンスからぱんつとタオルを引っ張り出してバスルームに向かう。

 熱いシャワーを全身に浴びて、息を吐く。

 手で汗を流しながら。

「……あれ、なんかじゃりじゃりしてる」


 ――なぜかお股に砂がこびりついていた。

 微妙にだらだら、うまくまとまらず……。

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