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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
14/228

11、「女神降臨」

 すっきりした気分でトイレを出る。ちなみに手を洗う水なんてものもなくって、砂でしゃばしゃばだった。しょうがないので、ちょっと汚いけどズボンでぬぐって埃をはたいておく。

 テーブルに戻ると、なぜかちょっと騒ぎになっていた。

「――あれ、どしたの?」

 というかなんかレッドが興奮してひとりでわめいていた。

「だから、小便がでたんだよっ!」

「そりゃあれだけ飲んだら出るもの出るよね」

 おしっこが出たって、そんなに大喜びすること? 腎臓でも悪いのかな。

 何興奮してるんだろ。さっきトイレですれ違った時には普通だったのに。

「なあ、お前もトイレいったわけやけど、出すもんだしたんか?」

「え、うん。もちろん。それがどしたの?」

 首を傾げるボクに、バーンがちょっと考えるようにして、どうやらボクがβテスターでないことを思いだしたらしい。

「βじゃな、インナー脱げなかったんよ」

「あー、そうなんだ?」

 まあ、このゲームR15だし見えても下着までだよね。

 ……って、そういやさっきおしっこした時、モザイクとかかかってなかったよ。あれ、ヤバくない?

「たぶん、お風呂入りたいっていう要望が通ったせいかなー」

 ファナちゃんが、頬を染めてぽあぽあした感じでうふふと笑う。

「汗かいても、下着ごとじゃないとお風呂入れなくって。改善要望あげたんだー」

「……まあ、こんだけリアルに感覚再現されてるとお風呂入れないの気持ち悪いかもね」

 汗はいっぱいかいたけど、空気が乾燥しているせいかあんまり不快感はない。でもβの時は蒸し蒸しした草原を歩いたらしいし、気持ち悪かったんだろうなと思う。

「……俺もちょっと試してくるし」

 流石にこの場でぱんつ脱げるか試せなかったのだろう。バーンがトイレに立った。

「おう、いってらー」

「だしてらー」

「ファナちゃん下品だよ」

 なんかファナちゃんって、見かけ幼い割にネットゲームに慣れてる感じ。

「……あれ? そういやちびねこちゃんは?」

 さっきまでお酒のツマミみたいなのをもぐもぐ頬張っていたけれど。ボクがトイレに立つ少し前からなんか静かだった気がする。

「ティア・ローちゃんならここだよ」

「うにゃにゃ~……」

 ファナちゃんがお膝を指さす。見るとちびねこちゃんがファナちゃんのお膝を枕にして丸くなって眠っていた。

「そういやボクたちはログアウトでいいけど、ちびねこちゃんはどうするのかな。またど○でもドアで帰っちゃうのかな」

「……ぐっすり眠っちゃってるし。宿とって寝かせた方がいいかも」

 ファナちゃんがちびねこちゃんの頭をなでながら答えた。

「そうだね」

 砂漠を元気に歩いていたけれど。流石にこの年齢で何時間も砂の上を歩くのは大変だったと思う。きっと、疲れて眠っちゃったんだよね。

 ぐびぐび飲んでたお酒のせいかもしれないけどー。

「……じゃ、俺らが運ぶわ」

 いつの間にか戻ってきたバーンが、なんか妙な顔でレッドに目配せしていた。

「お、おう、オレとバーンで寝かせてくらぁ」

「二人もいらなくない? ボクが行こうか、二人はまだ飲んでていいよ」

 立ち上がろうとしたら。

「ええからお前は座っとき」

 バーンに両肩を押さえられた。むぅ。ちゃんと手は洗ったのかな。

「まあ、いいけどさ」

「んじゃ俺らにまかせとき」

「……ちょっと飲み疲れたからな、少しばかりオレらも部屋でのんびりしてくらぁ」

 バーンとレッドが、なんか互いに目配せしながら変な顔でうなずく。

 んー。男二人で何か秘密の相談でもあるのかな。

 じゃあいいや、任せちゃおう。

「それじゃ、おねがいね」

「おう」

 ファナちゃんからちびねこちゃんを受け取って、バーンに渡す。ちびねこちゃんは、ちっちゃくて軽いね。

 宿の人にお金を払って一部屋確保して、二階に上る二人の後ろ姿を見送る。

 ちょうどいいからログアウト場所も、とった部屋にすればいいよね。

 ぼんやり考えていると。

「……」

 ファナちゃんが、なぜか二人の消えた階段の方をじーっと見つめていた。

「どしたの、ファナちゃん」

「んー、あの二人、なんか様子がおかしかったかなって」

 陶器の杯を傾けながら、ファナちゃんが首を斜めにする。

「ボクたちにナイショでワイ談でもしたかったんじゃないかなー」

「……そういえば、ぱんつ脱げるってわかってから様子が変だった気がするかも?」

「んー。もしかしたら、部屋で自家発電に励んでたりしてー」

 冗談めかして言ってから、その可能性に気が付いた。

「あはは、まさかー……」

 ファナちゃんも笑い飛ばしてから、その可能性に思い当たったらしい。

「――え、まさか、ねぇ」

 でも、なんでちびねこちゃんを自分たちが運ぶのに拘泥したかっていったら。

 いくらゲームの中だからって。現実とは番うからって。

「ファナちゃん一人にしてごめん。ボクちょっと行ってくる」

 何もなければそれでいいんだけど。やっぱり、あの二人なんか妙だったし気になる。

「わたしはグレイスちゃんに連絡してみるね。彼らのこともモニタしてるはずだから」

「お願い」

 さっき取った部屋は二階の一番奥。

 階段を駆け上がって、一気に奥を目指す。影族の身体は、こういうのに向いているのか音ひとつ立てずに移動できた。

 ドアノブをゆっくり回してみるが――カギが、かかっていた。

 カギは持ってないけど。

 軽くノックする。が、反応はない。

 扉に耳を付けてみると、なんだか荒い息が聞こえる。

「――っ」

 影移動は障害物を越えられない。けど、影渡りなら。会ったばかりのデイジーちゃんが、ボクの影に転移できたくらいだ。パーティメンバーでこの近距離なら。きっといけるはず。

「”影渡り”」

 ブン、と一瞬目の前がぶれた気がして。気が付いたら部屋の中にいた。

 ベッドの上に寝かされているちびねこちゃんと。

 そのスカートを捲り上げて、かぼちゃぱんつを脱がそうとしているバーンとレッド。

「はぁ、くっそ、なんで脱がせねえんだ」

「しっぽのとこ引っかかってるんじゃね?」

「あ、ホンマやしっぽの上でリボンみたく結んであるわ」

「……ねぇ、何をしてるの?」

 その汚い背中に、声をかける。

 ボクはセクハラ常習犯だし、グレちゃんのスカートめくったりもしたけど。

 意識のない相手を好き勝手にするだなんて、そんな卑怯なことだけはしたことがない。

 ……まあ、相手の反応がないと面白くないからだったりするんだけどそれはこの際、置いておく。

「うお、アユムかっ!? いつの間に」

「レッド、部屋の鍵かけんかったんか?」

 あわてる二人。もう、黒確定だよね、コレ。

「……質問に答えてくれないかな?」

 影収納から、ナィアさんにもらった金属の筒を取り出しておく。

「おまえは蛇女のおっぱいもんだからいいだろ」

「このゲームがどこまでよくできるか確認しとるだけや。ぱんつのなかどーなってるかとかな? お前も興味あるやろ、ん?」

「いえすろりーたのーたっち! 幼女にふれちゃいけません」

 ぶっちゃけた話、確かにボクだってちびねこちゃんのしっぽの付け根がどんなふうになってるかとか気にならないではないけれど。疲れて寝ているところにイタズラするだなんて。許せないよね。

「は、いい子ぶりやがって」

 レッドが顔を真っ赤にして、ボクに手を伸ばしてきた。

「汚い手で触らないでくれるかな。ってゆーか、二人とも酔っぱらった勢いで変なことするのはやめなさい、ってあいた」

 レッドの手を払おうとしたら、どん、と胸を押されて突き飛ばされて尻餅をつく。

「……あん?」

 レッドが自分の手を見つめて変な顔をした。

「今の感触……。え? ちょ、うそだろ? お前、まさか、女だったの?」

「……それがどうかしたの?」

 触られてもわからないくらいぺったんだけど。一応、とっくに第二次性徴を迎えている身としてはそれなりに柔らかいと自負しているので微妙な心境。

 とたんに男二人の目つきが変わって。ボクの身体を嘗め回すように見つめてくるのがキモチワルイ。

 ――嘔吐感を覚える。

 こういう目で見られるのが嫌だから、男の子だって誤解されてもそのままにしてるのに。

「……ちんまいちびねこじゃ、流石に突っ込むのは無理そうだったが。お前ならいけんじゃね?」

「……キモチワルイ目でみないでくれる?」

 なんかお尻がきゅーってするから。

「お前、ぱんつ脱いでケツこっち向けね? かわいい男の娘みてぇなてめえのツラ顔見なけりゃイケそうだわ」

 レッドが口の端を吊り上げて、嫌な目でわらった。

「冗談でしょ」

 美少女相手なら考えなくもないけど。

「ここは現実と違うんやで? お前も、どこまでリアルと同じか試して見たくないん?」

 バーンもなんだか息を荒くして、あろうことかズボンのベルトに手をかけて。

「……ちょっと酒に酔ってーとかじゃもう、すまないよ?」

 剣の使い方よくわからないけど。身の危険を感じるし、正当防衛成立だよね?

「ええからケツだせや」

「アッーーー!?」

 冗談めかして叫んで、バーンの足を払う。

「いて」

 転がったバーンから距離を取って立ち上がり、金属の筒を。

 やっぱ使い方がわからないしっ!

 ほーすをしんじるのじゃー!

 むーんと念を込めてみるけど反応なし。

「ばーか、なにやってんだ。んなもんよりもっとイイモノぶちこんでやるからよっ、ヒヒッ」

「あ」

 筒を握りしめてる間に、レッドがボクの背後に回り込んでいた。

 羽交い絞めにされて、身動きが取れなくなる。

 影移動か、影渡りで抜け出せないか、と思ったけれど、パスンと気の抜けたような音がするだけ。どうやら契約者以外が体に触れている場合はどっちも不発になるっぽい。

「は、ぺったんこやけど揉んだらおっきくなるかもしれんで?」

 起き上がったバーンが手をわきわきさせながら近づいてきて。

「――んーっ!」

 どうしよう。

 もがくものの、流石に大人の男性をボクの細腕では振り払えない。

 なにか、出来ることは!?

「イケメン面は気にくわんけど、女やおもたら意外にかわいいかもな」

 その手が。

 ボクに。

「――はいそこまで。ハラスメント行為の現行犯でアカ停止ね」

 いきなり部屋の中に光があふれて。突然レッドとバーンの動きがぴたりと止まった。

 動きを止めた、というより、一時停止されたみたいにまったく身じろぎもしない。

「……あー。βの時にも前科があるね、キミたち。うん、一応、検討はするけどほぼアカウント削除確定だと思ってね。レッドにバーンでアカバンとか、冗談みたいだけど」

 光が収まると、部屋の中には青い巫女装束のようなものを着た少女が立っていた。

 黒い髪をポニーテールにして、赤い瞳でぐるりと部屋を見回す。

 その姿には見覚えがあった。ボクが、プライベートルームに閉じ込められた時にログアウト処理をしてくれた運営のキャラだった。ただし、ねこみみがついていない。

「……えっと、あなたは」

 声をかけると巫女さんはにっこりと微笑んで、バーンとレッドを指でつついた。

 とたんに光の粒子になってバーンとレッドの姿か消える。

「……ごめんね。怖かったでしょう」

 そのまま巫女さんが、ボクの頭を胸に抱くようにして。そっと手をボクの背中に回してきた。

 やさしく、落ち着かせるように、ボクの背中を撫でて。ぎゅっと抱きしめてくれる。

 背の高さはそれほど変わらないのに。なんだか、お母さんみたいだって思ってしまった。

 何か、いい匂いがして。それでようやく、少し気持ちが落ち着いた。

「遅くなっちゃってごめんね。ハナちゃんの通報でログ確認してからすぐ来たんだけど。まあ、大事に至る前でよかったって感じ?」

 最後に軽く、ボクの後頭部をやさしく撫でて。巫女さんはボクから離れてベッドに歩み寄ると、ちびねこちゃんの頬に手を振れた。

 すると、吸い込まれるようにちびねこちゃんの姿が消えてしまい。そして巫女さんの頭にねこみみが生えた。どゆこと?

「私は女神ティアよ。人が増えると、どうしても困った人が混ざってきちゃうんだよね。つらい目に会わせちゃって申し訳ないけれど、どうしても人がやることだから絶対に次がないと保証できないところがつらいなー。これにめげずに、セカイを歩いて欲しいものだけど」

 ぴこん、とねこみみを立てて。女神さまがなんだかからかう様な笑みを浮かべてボクに近づいてくる。

「ティア・ローのこと守ってくれてありがとね。うん、これは個人的なお礼」

 ぱちんと指を鳴らすようにして、手の中に現れたのは一枚のカードだった。

 それを、ボクの手に押し付けてくる。

「えっと、女神様とちびねこちゃんって……」

「ティア・ローは私の分身みたいなものかな。また会うこともあるかもね。じゃ、また何かあったらシス子ちゃんを通して運営までご連絡ください」

 じゃあね、と小さく手を振って、女神様は光の中に消えてしまった。

 ……すっごい演出だよね。

 ネトゲの運営っていうより、本物の女神様みたいだった。

 女神ティア……ね。

 ふむー。


 ――ところで女神様って、巫女装束の下はどんなぱんつ穿いてるんだろう……。

 本当ならアユムのが先にハラスメント行為でバンされそうな気がする…

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