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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
13/228

10、「冒険者の街」

 遠くに街が見えてきてからさらに三十分ほど歩いて、ようやくはっきりと街の姿が見えるようになった。

「砂漠のど真ん中にあるにしては、おっきい街だねー……ってゆーか、どゆこと?」

 どう見ても崩れかけた高層ビル群に見えるんですけどー。

 それほど高くは見えないけれど、それはたぶん、半分砂に埋もれてしまっているせいなのだろう。

 グレちゃんはちょっぴりSFちっくって言ってたけど近未来SFな感じ? 核戦争で世界が荒廃した後のモヒカンひゃっはーみたいな? 謎の拳法使いとか跳梁跋扈してそーな。

「βんときの、西の街リグレットに似てんな」

「ってことは、機械とかゴロゴロしてるんかな」

 レッドとバーンは特に驚いた様子はない。

 LROっていわゆる剣と魔法のファンタジー世界だと思ってたけど、案外そうでもなかったらしい。

 まあ、ナィアさんがスマホ持ってる時点で多少はそういった要素もあるだろうと思ってはいたけれど。コテコテなファンタジーものを期待していたボクとしては少しばかり残念な風景ではあった。

「……なんか、残念そうだね? アユム」

 ファナちゃんがちょっと首を傾げて、上目使いで見上げてくる。かわいい。

「え、うん。もうちょっとファンタジーっぽいの期待してた」

「グレイスちゃんが、SFっぽいところって言ってたでしょ?」

「うん……」

 ちょっとため息。

 まあ、期待とは違っても、やっぱり現実世界では味わえない体験なのは確かだし。

 ぽじてぃぶしんきんぐー!

 きっとホラ、遺跡っぽいし、いかにもなダンジョン探索とかできそう! 知らないけどきっとそう。

「アユムはなんかころころ表情が変わっておもしろいのです!」

 ちびねこちゃんが目をくりくりさせて、ボクの脚に抱きついてきた。

 頭をなでなでしながら苦笑する。

 ボクって意外に考え顔に出まくってるのかもー?



 そのまま歩きつづけ、街を歩く人の姿まで確認できる距離になった。

 ビルのガラスのようなものはほとんど割れて無くなってしまっているけれど、崩れたビルの合間合間に煉瓦を積み上げて作った建物や、布や毛皮で作られた天幕が立ち並び、人々の生活が垣間見えた。

「さて……ここまでくれば、もう迷うこともないだろう」

 蛇女ナィアさんは、そう言って立ち止まり、ボクに手にしたエモノを差し出してきた。

「すまんが頼みがある。街でこれを金に変えて来てはもらえないだろうか。普段は街にいる知り合いに頼んで換金してもらっているのだが、このところ都合が悪いらしく連絡が付かないのでな」

「え、いいけど。もしかしてナィアさんって、街に入れないの?」

 尋ねると、ナィアさんはちらりとレッドとバーンの方を見た。

 視線を向けられた男二人が、びくんと背を震わせる。

「……冒険者という輩は、同じ言葉を話しながら話の通じない者が多い。特に新参者の無知蒙昧な輩は嬉々としてナィアーツェに襲い掛かってくるのでな。騒ぎを起こさぬよう、あまり近づかないようにしている」

「そうなんだ」

「まあ、そこらの有象無象に傷つけられるほどナィアーツェは弱くない。全て返り討ちにしてやったがな」

「……そうなんだ?」

 ナィアさんのにやりとした笑みがちょっと怖い。首ちょんぱして血をすすったり……してないよね? ……まあ、仮にそうしてたとしても正当防衛なんだろうけれど。

「まあ、ナィアーツェのような長い身体を持つと、街中を歩くのが迷惑だということもある。ナィアーツェもみだりに尾を踏まれたり、意図せず天幕を倒したりするのは避けたいからな」

「にゃるほど」

 確かに長い蛇の身体は微妙に迷惑なのかもしれない。

「まあ、気を付けるがいい。あの街はナィアーツェのような異形だけでなく、新参者にも優しくは無い。分け前が減る、と古参のものほど新参者を排除する傾向にある。ファナトリーアやアユムのように容姿が美しいものは、また別の危険もあるから十分に注意しろ」

「え?」

 ファナちゃんはともかく、ボクが美しいとか。それはいくならんでも褒めすぎだと思う。

 間近でみられて「なんだ男か」って言われるくらいなのに。

 戸惑っていると、ナィアさんが、ボクの耳に口を寄せてきた。

「(レッドとバーンと言ったか。あの二人は当てにならん。アユムがファナトリーアとティア・ローをしっかり守ってやれ)」

 囁きとともに、ボクの手に何か金属の筒のようなものが押し付けられた。レッドやバーンに見えないように、身体の影に隠して。

「(ナィアーツェは剣は使わぬからこれを持っていくがよい)」

 金属の筒にしか見えない、これ、剣だっていうんだろうか。

 もしかして、某星戦争のライトセーバーみたいな武器っ!? わお、いいものもらっちゃった? さっそく影収納でしまっておこう。

 最後に軽く、ボクの頬を舌でちらり、と舐めてナィアさんが離れた。

 ちょっとぞくぞくって来た。

「では、獲物の換金はまかせたぞ。異邦人ならこちらの通貨もあまり持っておらんだろう。宿代くらいは手間賃として使って構わん。……その獲物を持ち逃げしても、まあ腹は立てん。明日の昼頃この辺りで待っている」

 ナィアさんは、スマホのような機械に地図を表示させて、獲物を換金できる場所、比較的信用できる宿、待ち合わせ場所などに印をつけ、ボクのシスタブに情報を転送してくれた。

 便利だね、シスタブ!

「いろいろありがとね」

「なに、こちらもいろいろ話が出来てよかった」

 こちらに背を向けたまま手を振って。ナィアさんは街とは逆の方向に行ってしまった。

 さっきまではきっと、ボクたちの足に合わせてくれていたのだろう。波しぶきを立てるように白い砂を巻き上げて、急いでいるようには見えないのにすごいスピードで、あっという間に見えなくなってしまった。




 最初に向かったのは、神殿の出張所だった。

 ファナちゃんが、転移ポイント設定しとかないと、また砂漠を歩くことになるよ、ってシスタブ片手にみんなを案内したのだ。確かにグレちゃんにドアの説明されたときにそんなことを言われた気がする。

 シスタブには転移ポイントをサーチする機能があるらしく、迷いなく歩くファナちゃんについてくと、崩れかけた小さな神殿に着いた。

 神殿と言っても小さな祠みたいなもので、誰かいるわけでもなく、そもそも人が入れるような建物ではなかった。

 ファナちゃんにいわれるままシスタブを祠に向けると。


≪グレイブホールを転移ポイントとして登録しました≫


 ってメッセージが出て無事に登録されたようだった。これで次にはプライベートルームから直接ここに来られるようになったんだと思う。



 その次にはナィアさんに教えてもらった獲物を換金できる場所に向かった。

 ある程度話は通っていたようで、商人はボクたちを一瞥したあと「明日の朝また来い」と半金だけ投げてよこした。残りは売れてから、ということらしい。

 なるほど。ナィアさんが明日の昼に、とか宿代出してもいいよとか、その辺はこの辺りの事情によるものらしかった。

 その場で売ってはい終わりってわけじゃないんだねー。うむー。

 とりあえずのお金を得られたので、今度は宿屋に向かうことにする。

「宿なんていらなくね? オレらその辺でログアウトしちまえばいいだけだろ」

 レッドはそんな風に言ったけれど。

「おいしーものを所望するのです!」

 目を輝かせたちびねこちゃんには勝てなかったようだ。

「まあ、人が集まるとこなら色々情報も仕入れられるんと違うかね?」

 バーンも賛成に回ったのでとりあえず宿で落ち着こうという話になった。

 ログアウト時間も伸ばしたから、もう何時間かは余裕もあるし。五感を再現しているってことは味覚なんかも再現されてるんだろうから、ボクもおいしーものたべたい。

 ファンタジーな世界の食べ物って、どんな味かするのか楽しみだった。



 前金でもらったお金がどのくらいの価値があるのかはよくわからなかったけど、β組はだいたいの相場がわかるらしく、「まあ、このくらいは手間賃扱いでもらってええよな」「いいんじゃないかな」って。

 ……宿に着くなりいきなり酒盛りをはじめたよ、この人達。

「かんぱーい」

「おー、結構イケル」

 正確な年齢は知らないけれど、見た目二十歳前後の野郎二人はまあいいとして。

「んー、おいしいですね!」

「……ファナちゃん、さっき十六歳って言ってたよね?」

「こっちの世界では、飲酒に関する法律はないのでーす。物理的にも別の身体だからもんだいないのでーす」

 すでに頬を少しばかり赤く染めて、うふふと笑うファナちゃん。

「なのでーす!」

 ってちびねこちゃんまでお酒飲んでるっ!?

「さすがにちびねこちゃんは危ないでしょ。身体によくないよ」

「あー、返すのです! はんにゃとうなのです! おくすりなのです!」

「ほら、アユムもかたいこと言わないで、ね? 」

「ぼ、ボクを酔わせて、何をする気なのっ!?」

 ……とりあえずボケ倒して飲酒は回避した。

 法律云々以前に、ボク、お酒っておいしいものだとは思えないんだよね。

 気になると試してみなきゃ気が済まないボクは既に現実でお酒を舐めてみたことがあって、結論としてあんなもの何がおいしいんだろ?としか思えなかった。

 むしろ、食べ物の方が期待大。

 いろいろ食べたいので、バラバラに注文してみんなで適当につつく、という感じだったんだけれど。

 周りが砂漠なだけに、料理の素材にもいろいろ制限があるのだろう。乾燥に強そうなイモとかマメとかタマネギとかばかり。流石に青物野菜はまったくなし。お肉なんかもなかなか手に入らないのだろうか、ガッチガチなベーコンの切れ端みたいなのしかないようだった。

「いろいろ工夫されてるみたいだけど、ごちそうって感じでもないかなー」

 もぐもぐ。

 まあ、お腹は満たされるよね。根菜多いし。

 ……こっちでご飯食べて満足して、でも現実世界でもまた食べなきゃなんだよね。

「んー、オレ、トイレいってくる」

「いってらー」

「だしてらー」

 すっかり酔ってしまったのか、ふらふらした足取りでレッドが店の奥に消える。

 あ、ボクもちょっと催して来たかも。

「ボクもいってくるー」

「いってらー」

「だしてらー」

 ……さっきから出してらーって、ファナちゃんちょっと下品だよー。




 トイレは男女別に分かれていたりせず共用らしい。男性用は壁際に溝があって、そこに垂れ流す感じらしい。

 個室に入ろうとすると、ちょうど出ようとしていたレッドが「大か。がんばってこいよー」とかしつれーなことを言ってきたので無言でデコピンしてやった。

 んー、どうやってするんだろ……。

 個室の中には、素焼きっぽいくずかご大のツボ。底は床を抜けてかなり深いようだ。

 トイレットペーパーのようなものは無く、代わりに小さなツボに白い砂がいっぱい入っていた。

 ……用を足した後、この砂でこすれってことっ!?

 なんかお股がじゃりじゃりになりそう。でも砂漠の砂って、乾燥してる上にお日様カンカン照りだから細菌とかほとんどいなくってその意味ではとっても清潔だって聞いたことあるし、意外に理にかなってるんだろうか。

 ズボンをぱんつごと膝までおろして、素焼きのツボにまたがる。なんかドキドキ。

 ふー、と緊張を解放しながら。

 あれ、ゲームの中で出しちゃったりして現実世界でお漏らししてたりしないよね?

 違った意味でさらにドキドキした。

 ……ちなみに砂のじゃりじゃりは意外に悪くなかったデス。手のひらにこんもり砂を盛るのがコツ。

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