5、「すーぱーようじょたいせん」
「ぬこぴー兵のカード持ってるとか、相変わらずMK2はおかしいよね……」
こないだキューちゃんに聞いた話だと、ロリ化して15分以上経った上で、侵略終了を迎えないと入手できないみたいなんだけど。
砂漠エリアは割と速攻で大型UFO落とされたので被害は少な目。島エリアは人がいっぱい居たので被害も多かったけど、早いうちに掲示板でリターンによる離脱方法が周知されて、プレイヤーで最後まで残った人は少なかった。
だから、まだぬこぴー兵のカード持ってる人ってかなり少ないはずなんだけど。
しかも普通のぬこぴー兵のカードってただ幼女化するだけだから、ねこみみとしっぽ付きって、さらにレア物のぬこぴー騎士かぬこぴー魔法騎士のカードってことだし。
レオタードの模様と色からして、極寒エリアの三毛ぬこちゃん?とこのみたいだけど、どうやって手に入れたんだろ。キューちゃんの話だと、三毛ぬこちゃんは寒くて速攻引き上げたとか言ってたような?
「……単なる偶然だ。極寒エリアのねぐらに居たら、変な格好したねこみみ幼女がガタガタ寒さに震えながらやって来てだな、火にあたらせて暖かい飲み物出してやったらお礼にってくれたんだよ。詳細はあとで公式HPで知った」
「あー。そういや極寒エリアにMK2の隠れ家あるんだっけ」
「ああ。アユム達にしか教えてないんだから、誰にも言うなよ?」
「言わないけど。……相変わらず敵が多いんだ?」
こないだは大都市エリアがらみでポータル使えなくなったみたいなこと言ってたし。
MK2も大変だねぇ。
「おう、だからこのカードでまた姿と名前変えようともってたんだが。ネーアのとこに見せに来たらお前らが来ただろ? お前らにばれなきゃ誰にもわからないだろうと思ったんだがなァ。そんなにバレバレか? 年齢がだいぶ下がってるから、ぱっと見じゃ絶対気付かれないとおもったんだが……」
ため息を吐いて、がっくりと肩を落とすMK2。
「これまでに聞いた偽名が、アヤノ・コージ・マキってつなげると本名じゃない。あと、全然違う場所で会ったんならともかく、ネーアちゃんのそばに居たらそりゃあ、想像つくよ?」
「あー、そりゃぁそうか。名前はほら、呼ばれ慣れてないととっさに返事できねーからしょうがねェよ。アユムがシスタブで連絡するとか言い出すから、着信音でばれる前に、って顔出したのが失敗だったかー」
「まあ、なんでもいいけけど、MK2」
「なんだ?」
「……ぎゅーってしていい?」
へいかもーんと、かぽんかぽん、と両手をはぐはぐしながら聞いたら。
「お前変なとこ触るからヤメロ」
速攻で断られたよ。残念。
「……いや、異邦人というものは本当に面白いね」
野井さんはまだずっと笑いをこらえるように口元を押さえていた。
「別にコントやってるつもりはないんだけど。そんなに面白いです?」
何がそんなにおかしいのかよくわからないけど。
箸が転がってもおかしい年頃ってわけでもないだろうし。
「いや、ナィアーツェをそんな姿にしたのも異邦人のカードとやらの力なんだろう? いやはや、あのナィアーツェが、まさかそんな可愛らしい姿になるなんてね。昔を思い出すよ」
「む、わらうなノイ!」
なぃあちゃんが、ふわりと飛び上がって野井さんのそばに降り立った。
「おっと、今日は本体だから触れるのは止めてくれたまえよ?」
拳を振り上げたなぃあちゃんをなだめるように、野井さんが絹の手袋に覆われた手を向ける。
んー? なんだったっけ。
あ、野井さんって冥族ってやつだから、触れるとエナジードレインとかゆうのが発生するんだっけ?
前にナィアさんの遺跡で会った時にはエコーという分身みたいなのだったから握手なんかも出来たけど、今日は本体だから触っちゃダメってことか。
「ぐぬぬ、ノイのひきょうものー!」
なぃあちゃんが悔しそうに唸ってる。なんかこういうナィアさんを見るのも新鮮だよね。
いつもはずーっと年上のお姉さんって感じでキリリとしてるのに。野井さんといるときは、なんだかいつもより子供っぽいというか素直になっているというか。
「そういえば、野井さんってずっとこっちに居るみたいだけどお空の方って大丈夫なんです?」
たしか魔法で惑星間を転移できるのが野井さんくらいで、いろいろやってるって聞いたけど。
「うん、まあそのうちに戻る必要はあるがね。ヴェラとテッラに任せて来たから大丈夫だよ」
「そうなんだー」
ええっと。
シェラちゃんの心の中で会った、赤メイドさんと青メイドさんだっけ? 一回、会っただけだし、どっちがどっちかもう覚えてないけど。
「それよりは、まずは失敗を取り戻す必要があるからね」
「あー」
そういえば。キューちゃんが攻めて来たせいでノイさん地上に降りてきたんだっけ。
……言った方がいいのかなぁ。これから定期的に発生するイベントだなんて。言ったらまずいかなぁ。
開発の太郎さんやちみっこ女神ちゃん達にもナイショで進められていた、自称神様のサプライズだったから大事になっちゃったけど。
どうしようか迷っていると、シスタブに着信があった。
それはキューちゃんからで。
十五分後に遊びに行くでー、という内容だった。
場所は書かれていないけど、きっと、ここに。島エリアに来ると思う。
――ボクを迎えに。
「……ん、侵略イベント来るみたい」
「え、なんでアユムが分かるの? あ、キューちゃんから?」
ファナちゃんが首を斜めにする。
「うん、ちょっとね」
さて、決めなきゃいけないよね。
キューちゃんのお誘いに乗るか、それとも迎撃するか。
「MK2、その格好ってことは、侵略者側でやるの?」
「あん? わかってねぇなあ、アユム。ぬこぴー兵だと、操られずに自由行動出来るんだぜ?」
にやぁ、と不敵な笑みを浮かべてMK2が笑う。
「――最大の利益を得られる方向で動くに決まってんだろォ? まあ、ネーアの敵に回るつもりはないけどな!」
「……うわー。悪い顔してる」
そういや大都市エリアでも複数の姿を使い分けて、両方の陣営を引っ掻き回したとか言ってたっけ。自由行動できるってことは、ぬこぴー兵のまま女神側に回ることも可能ってわけかー。
しっかし。
リアルの内気な綾小路真樹ちゃんを見たあとだと、ほんとにMK2か疑わしくなるね。
「……じゃあ、ボクも準備に戻るかな」
カードの差し替えはプライベートルームでしか出来ないしね。
「あれ、何か変えるの? わたしは準備万端だけど」
ぴこぴこと背中の羽を動かしてファナちゃんがガッツポーズ。
「あー、なるほど。有翼族だと空飛べるのかな? 小型UFOに対抗できる?」
「そのつもりー! 魔法の矢は散弾タイプにしてきた! いつでもばっきゅーんだよっ!」
さすがファナちゃん。こないだの突発イベントに参加できなくて悔しがってたし、いつでも戦えるようにしてきたんだね。
「いくさか? このようなからだではふあんもあるが、なぃあーっつぇもたたかおう」
なぃあちゃんもファナちゃんと一緒に戦う気満々みたい。
「ん、ボクはちょっと準備しなきゃだから戻るね。ネーアちゃんも、野井さんも、またね!」
「ああ、アユム。今度はこのヴェータで迎撃に上がるからな! 任せておけ」
「異邦人のお手並み拝見だね」
二人に手を振って。
シェラちゃんと一緒にプライベートルームに戻る。
端末の前に座って、カードの画面を表示させる。
あんまり迷ってる時間もないしね。
「……さて、シェラちゃん。覚悟はいーい?」
「……ピ」
ごめんね、ファナちゃん。ボクはにんげんをやめるぞー!
と、思ったんだけど。
「……うーん。やっぱファナちゃんにも話しといた方がいいよね。シェラちゃんと二人だけこっそりっていうのも仲間外れにしたみたいでアレだし?」
「ピ!」
というわけで。
ファナちゃんに「ちょっと相談があるからプライベートルームに来てー」とシスタブで連絡。
すぐにファナちゃんがやって来る。
「どしたのアユム? あんまり時間ないんじゃないのー?」
「えっとねー、ファナちゃん。実は、こうゆうものがあるんだけど」
キューちゃんから預かった、ぬこぴー騎士(白)(黒)(三毛)と、ぬこぴー魔法騎士(白)(黒)(三毛)の6枚のカードを広げて見せる。
「わー! すっごーい! って、MK2のことオカシイとか言っておきながらアユムはなんでこんなの持ってるのっ!?」
「キューちゃんにね、オレの配下になればエリアの半分をくれてやろう、とか言われてね。魔王側で参加できるようにって、カード預かったんだよ」
「おー?」
「……というわけで、今回は侵略側で参加しようと思ってるんだけど。ファナちゃんはどうする?」
「うーん……。どうしよ。UFO撃ち落とす気満々だったからなぁ」
腕組みして悩むファナちゃん。
「ぬこぴー兵になったら、光線銃撃ちまくりだよ?」
「やる」
さすがファナちゃん。即答だったね!
さてどのカードを使うかだけど。
ボクは髪の色に合わせてぬこぴー騎士(黒)にすることにした。まあ痴女スタイルで黒レオタードに慣れてるっていうのもあるけれど。白はなんかスケそうな気もするしね。
シェラちゃんはぬこぴー騎士(白)。
ファナちゃんはぬこぴー魔法騎士(三毛)を選んだ。MK2のもだったけど、三毛っていうけどなんか迷彩柄っぽい感じなんだよね。
ちなみにカードの効果はこんな感じ。
ねこみみ幼女化:老若男女問わず、ねこみみの生えた幼女の姿になる。
カード無効化:ぬこぴーカード以外のカードが使用不可能になる。
幼女保護結界:侵略時間中に限り、身体的ダメージを負わない。
幼女化光線銃:侵略時間中に限り、幼女化光線銃を使用できる。
ここまでは共通。
通常のぬこぴー兵の場合、これに加えて。
上意下達:上官の命令には絶対服従なのにゃー。
というのが付いているらしい。自由意思で動けるけれど、上官の命令には従わないといけないみたいなんだよね。まあ、軍隊だし。
でもって、ぬこぴー騎士の場合は、共通の四つに加えて以下が付いている。
ニャン鉄剣:あらゆる防御を無視できる斬撃。ただし幼女には傷ひとつつけられない。チャージに10分かかる。
ぬこぴー魔法騎士の場合は、共通の四つに加えて以下が付いている。
にゃんこ・ぶらすたー:使用者を中心とした全方位魔法攻撃。当たると全部脱げる。チャージに15分かかる。
……うん、キューちゃんの趣味かなー。
というわけでさっそく、カードをセット。シェラちゃんのもセットしちゃうよ。
わくわく。
「……ふぁなちゃん、どお?」
なんだかひどく目線が低い。部屋が広がったみたいな気がする。
ぴっちぴちの黒レオタードだけど、体も幼児化してるからあんまりえっちくない。
頭の上でぴこぴこ動いてるのはねこみみかなぁ。おしりがむずむずするのはねこしっぽ? わお!
「わー! アユムがちっこい! かわいい!」
「わー」
ファナちゃんにぎゅーってされた。ってゆーか、ボクの顔、ファナちゃんのお胸にぎゅーってされてる。
いつもと逆だー。えへへ、幸せ。
「ピピピピピ!」
って、後ろからシェラちゃんも来たよ。
「あ、シェラちゃんもちっちゃくなってるー!?」
影族のカード差しても見た目はほとんど変わらなかったのに。
シェラちゃん、ちんまりかわいい、白にゃんこになってるよ!
「うううー! わたしもにゃんこになってくるー!」
「うん、時間がないから、ボクたちは先に島に行ってるねー? ポータルで待ち合わせねー」
「わかったー!」
ファナちゃんがバタバタ慌てて出て行った。
自分のプライベートルームじゃないとカード設定変更できないのは、ちょっと面倒だよねぇ。
「とりあえず。……10秒で出来ることをしちゃおう」
シェラちゃんぎゅーってして、お耳はむはむしちゃった。うふふ。
さあ、スーパー幼女大戦はっじまっるよー!




