表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
12/228

 9、「蛇女の恐怖!?」

「……!」

 間に合うか!?

 影渡りと影移動をほとんど同時に起動して、ファナちゃんの影に移動して、ファナちゃんを影に中に引っ張り込もうと。


 ――しかし。


 こんな近距離で放たれた矢よりも、ボクが素早く動けるなんてことは当然なくって。

 放たれた矢は。

「ギューッ!?」

 ファナちゃんの脇を通り過ぎ。ボクたちの背後、岩陰に潜んでいた何かに突き刺さった。

 ……って、あれ? どういうこと?

「ナィアーツェは何度も動くなと言った。貴様らには言葉が通じないのか?」

 新たな矢をつがえたままの弓を下に向けて、あきれたような顔で蛇女さんがため息を吐いた。

「砂ウサギは足音に反応して襲ってくる。そんな常識もしらずに砂漠に分け入るとは、死にたいのか? 望むなら、今この場でナィアーツェが介錯してやるぞ」

 長いしっぽをくねらせて、蛇女さんがこちらへ近づいてくる。

「……えっと、もしかして助けてくれたのかな?」

 ばいんばいーん! と揺れるお胸に目を奪われながら、蛇女さんに尋ねる。

「ナィアーツェは狩りをしていただけだ。貴様らを助けたつもりなどない」

 蛇女さんは砂の上をするすると滑るように近づいてきて、ボクたちの横を通り過ぎ、岩陰から矢の突き立った獲物を拾いあげた。

 矢は砂と同じ色をしたウサギの眉間を見事に貫いていた。近距離とはいえ、すごい腕前だ。

「その見慣れない格好……もしかして、貴様らは異邦人か?」

「異邦人?」

 まあ、よそから来ているわけだから異邦人って言い方で間違いないと思うけど。

「はい、そうです。わたしたちは異邦人です。助けてくれてありがとうございました」

 ファナちゃんがぺこりと頭を下げた。至近距離で矢を放たれたのがショックだったらしく、顔はすこし青ざめていたけれど、きちんとお礼のできるファナちゃんかっこいい。

「近いうちに現れるとは聞いていたが……」

 少し考えるようにしていた蛇女さんが、不意にやさしい笑みを浮かべた。

「よし、ナィアーツェが近くの街まで連れて行ってやろう。砂ウサギの習性も知らない貴様らだけではすぐに死ぬからな」

「え、ありがとう、ございます?」

 あれ? これってもしかして仲間イベントってやつだったの?

 仲間イベントが発生しないから、ちびねこちゃんが来てくれたんじゃなかったの?

「確か、異邦人はぱーてぃとやらを組むのだろう?」

 蛇女さんが、腰の後ろに着けていたポーチのようなものから、その格好に不似合いなスマホのようなものを取り出した。

 ちびねこちゃんも持っていたけど、やっぱりみんな持ってるの?

 グレちゃんはちょっぴりSFちっくなところって言ってたけど、ファンタジーな住人がスマホっぽいの持ってるとなんだかすっごい違和感。

「え、はい。レッドさん、パーティ加入してもらえます?」

 ファナちゃんが蛇女さんのスマホ受け取って、レッドのシスタブにくっつけた。

「ちょ、なんかオレらのシスタブより機能充実してね? まんまスマホみてぇ」

 レッドがちょっと驚いた顔で、ぶつぶつ言いながらファナちゃんの指示に従って蛇女さんをパーティに加えた。

「我が名はナィアーツェ。見ての通り蛇女(ラミア)種だ」

 蛇女さんはそう言って、またやさしげな笑みを浮かべた。

「最近読んだ本で勇者や女神が住んでいるという異世界のことを知り、非常に興味を持っていた。街に着くまででかまわない。お前たちの住む世界のことを教えてほしい」

 ……どうやら、ボクたちの現実世界のことをゲームの中の人たちも知っているらしい。

 そういやちびねこちゃんも、どこぞの少年漫画で見たような必殺技してたし、そういう設定ってことなんだろうか。




 簡単に自己紹介をしたあと、しばらく岩陰で休憩。たくさんは無いけれど、蛇女さんからお水とか分けてもらって少し人心地着いた。

 しかし。

「やばくね?」

「マジやべぇ」

 ばいんばいーんと揺れるお胸に、男二人とボクは釘づけだった。くねくねと動くしっぽの動きもなんだか艶めかしくてドキドキする。

「……あの、お胸かくしたりしないんですか?」

 男どもぷらすボクの視線が気になったようで、ファナちゃんが恐る恐る蛇女さんに尋ねてみるものの。

「隠すほど貧相なモノのつもりはない」

 ばっさり切り捨てられた。

 確かに隠すのがもったいない美乳だとおもいます。けど。

 ファナちゃんは見た目幼女だし。ボクだって男の子にしかみえないぺったんなので、すこしばかり精神にダメージをくらったのはしょうがないとおもう。

 ちくしょう、むにむにってもみほぐしてやりたい!

 髪もこんな暑くてお日様カンカンで乾いた空気の砂漠なのに、しっとりとしていてお手入ればっちり。たぶん何か香油みたいなので固めてるっぽい? 左右の肩から伸ばされた房の先は銀色の装飾品でまとめられて、ちょっとオシャレ。女子力たかいよね。

 全体的な印象としてはかなり若くみえるんだけど、美少女、というよりは美女って感じがする。お胸のせいか。お胸のせいなんだな、きっと。うん……。

 切れ長の赤い目と、紅でも引いたような赤い唇。アラバスターのように白い肌。蛇のような下半身は漆黒の鱗に覆われている。爬虫類とかあんまり好きじゃないボクの目で見ても、美しいと思える。

 さわってみたいなぁ、ウロコ。すべすべなのかな、ざらってしてるのかな。

「……さわってもいい?」

 手をわきわきさせながら尋ねたら、蛇女さんがすこしばかり面食らったような顔をした。

「え、アユム?」

 ファナちゃんがびっくりした顔でボクを見つめる。

「……勇者だな。俺にはまねできんわ」

「こいつやべぇ」

 バーンとレッドもなぜか驚いた顔でボクを見つめる。

 そんなに変だろうか? 確かに人間サイズの巨大ヘビに触るって、普通に考えたら抵抗あることかもしれないけどさ、蛇女さん、こんなに綺麗なのに。

「……まあ、よかろう」

 少しばかり躊躇していたようだけれど、蛇女さんが小さくうなずいた。やっぱり他人が体に触れるって抵抗あるよね。

 わきわきさせていた手を、そっとつかまれた。あんな弓を引いているのに、細く、長い指はまるでピアノ奏者のように繊細に見えた。ファンタジーって素敵。

 そのままボクの手を誘導するように。

「……あれ?」

 ふにょんと柔らかいものに押しつけられた。

「ふん、どうだ、立派なモノだろう? だから隠す必要などないのだ」

 もにゅもにゅと感覚を確かめながら、なんでこうなったのか思い返してみると。

 ……会話だけつなぐとボクのセリフ、おっぱい触らせろって意味になっちゃってたよ。

 なんで蛇女さん、あっさり了承してるのさ。

「……結構な物をお持ちで」

 やらわかくって、すばらしかったです。

 けど、触りたかったのはウロコのほうなんだけどな。

 ひとしきりもみもみしたあと、お礼を言って離れた。今さらウロコまで触らせろなんていくらボクでもそこまでずうずうしいことは言えない。

「オイ、どうだったよ」

「てめえだけずりぃぞ!」

 野郎二人がヒジでつついてくる

「……ばいん、ばいーん!」

 とりあえず擬音で答えておいた。

「……バカ」

 なぜか、ファナちゃんに脇腹をおもいっきりつねられた。




「……ああそうだ、獲物を処理するのを忘れていたな」

 蛇女さんがそう言って、腰の後ろに差していた短刀をいきなり抜き放ち。

 うさぎさんの喉をざっくりと切り裂いた。

「な」

「うお」

「不快なら、しばし目をそらしていてくれ」

 すでにウサギの心臓は止まっているのだろう。だらだらとしか流れてこないそれを。

 蛇女さんは、ウサギの足をつかんで持ち上げ大きな口を開けて。

 ごくり、と飲み干した。

「うえ、マジもんすたーじゃね?」

「グロ注意!」

 男二人がうえ、と吐くそぶりをして蛇女さんに背を向けた。

「……おいしいのかな?」

 蛇女さんの種族って、動物の生き血をすする習性とかあるんだろうか。

「……蛇女(へびめ)は、人間とは味覚も食性も違う。腹を壊すかもしれんから、やめておけ」

 ひとしきり流れ出る血を飲み干したあと、蛇女さんは切り裂いた喉に口をつけて吸血鬼の様にすすり始めた。

 獲物の処理って言ってたし、血抜きってやつなんだろう、きっと。

 血を吸った後はざくざくと短刀でウサギの毛皮を切り開き、手早く解体してゆく。

 ウサギは光の粒子になって消えたりなんかせず、ばらばらの肉片になって細い紐で縛られた。

「……アユムは、一度も目をそらさなかったな。街の人間は、あまりこういう作業を好まないようだが」

「え? うん。グロいのは好きじゃないけれど、生きるってそういうことだし」

 口の端が血みどろの蛇女さんは正直ちょっと、怖いけど。

 野生のライオンが、獲物を喰らって口の周りを赤く染めているような。

 ――生きている感じがした。

 ゲームの中のはずなのに。生きていると感じられた。




 血の匂いで吐き気がとまらなくなったらしい男二人のために、さらに十分ほど休憩した後、蛇女ナィアーツェさんの後に続いて街に向かって出発した。

 意外なことに、レッドが適当に進んでいた方向で概ね合っていたらしい。さらには何日もかかるような距離ではなく、3、4時間ほどで一番近い街に到着するとのこと。

 さっきまでばいんばいーんを邪な目で眺めていた男二人は、血をすする蛇女さんの姿にすっかり萎縮してしまったらしく、少し離れてあとをついてくるようになっていた。

 ばいんばいんと揺れるおっぱいを眺めたいボクは自然と蛇女さんの隣を歩くことになって、いろいろ話しかけられることになった。

 現実世界のことを本で読んだって言ってたけど、どうやら東方見聞録じみたトンデモ本らしいものだったららしく、ナィアさんの質問はかなりぶっ飛んだものばかりだった。

 モンスター娘、モン娘というのが人気だそうだが、ナィアーツェのことをどう思うか、だとか。モン娘ってジャンルはたしかに一部で人気かもしれないけど。正直かなりニッチだと思う。

 ねこみみちゃんはモン娘かどうか、という話題にはちびねこちゃんも加わって「ねこみみはすてーたすなのです!」とか力説していた。わけわかめ。

「……アユムって、ほんと変な人だね」

「え、そう?」

 ファナちゃんに微妙な眼差しで見つめられて、首を傾げる。

 ボク、なんか変なことしたかな。

「こっちのセカイのひとと、こんなにすぐに打ち解けられるって、すごいと思う」

「そう? ファナちゃんだってちびねこちゃんと仲良しじゃない」

「ハナちゃんとはらぶらぶなのです!」

 両手をあげてあぴーるするちびねこちゃん。かわいい。

「ティア・ローちゃんは……まあ、確かにそうなんだけど」

 口ごもるファナちゃん。やっぱりなんか事情ありっぽいね。

「そういえば、ファナちゃんがさっき異邦人って答えてたけど、どういう意味?」

 話題を変えて、さっき気になったことを聞いてみる。

「あら、グレイスちゃんに言われなかった? わたしたちみたいに向こうからこっちにくる人のことは異邦人っていうんだよ」

「冒険者とか、じゃだめなの?」

「……現地で冒険者ってゴロツキとかと同義だから。まちがっても名乗っちゃだめだよ?」

「冒険者ディスられてるっ……!?」

 なにがあったんだろー。



 そんな感じで和気あいあいと雑談をしながら。途中で二度ほどナィアさんが獲物をしとめたりしながら。三時間は歩いて。

「あれが街? なんか崩れかけの遺跡っぽいね!」

 遠くに街が見えてきた。

「あれが、一獲千金を狙う盗人どもの住まう街、グレイブホールだ」

 ナィアさんが、苦笑気味に頬の端を吊り上げながら言った。

「もっとも住人どもは冒険者の街と自称しているがな、はは」

 つまり冒険者イコール盗人って認識ですか、やだー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ