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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
閑話「空から何かがやってきた!」
119/228

「新装開店まおちゃんダンジョン!」 その5

 ――おきて、おきなさい。あゆむ。きょうはあなたのじゅうろくさいのたんじょうび。おしろにいくひですよ。


 全部ひらがなで喋っているような、変な声で目が覚めた。声自体はとても可愛らしくていつまでも聞いていたくなる響きだけれど、言ってる内容が意味不明過ぎる。

「……いや、ボクとっくに十六歳だしお城ってどこのさ?」

 某国民的RPGの三作目じゃあるまいし。声にツッコミをいれながら目を開けると。

 ちょっとたれ目の女の子がさかさまにボクの顔を覗き込んでいた。

 黒くて長い髪がだらりと垂れていてちょっと不気味。

「……誰?」

 ってゆーか、ボクもしかしてこの子に膝枕されてる? わお。

「気が付いたかい?」

「太郎さん?」

 見ると近くに太郎さんも胡坐をかいていた。

「ゆーりちゃんを見るなりいきなりキミが倒れちゃったんだが。頭打ったりしてないか?」

「ゆーり?」

「わたしのこと、かな」

 たれ目の女の子が、にぱ、と微笑んだ。

 ころころと鈴が転がるような、とても可愛らしくて耳に気持ちのいい声だった。

「……んー?」

 起き上がって、向き直ると。

 たれ目の女の子は上から下まで全身真っ黒で。

 手には、狐のお面を持っていた。

「ぎゃーっ!?」

「二度も気絶するのは遠慮してほしい、かな?」

 それは物静かだけれど、有無を言わせない口調で。

 再び意識を手放しかけたボクの背筋に、ぞくりと突き刺さって覚醒を促した。

 ……って、コレ、なに?

「あー、何があったのか知らんが落ち着いてくれるかね、アユムさん」

 太郎さんがちょっと困った顔でなだめようとしてきたけれど。

「めいじょうしがたきもののそばで落ち着いていられるわけないでしょーっ!?」

 SAN値がガリガリ削られてるんですけどっ!?

「わたしの狐のお面が気に食わないみたい、かな?」

 黒い女の子が手にしていた狐面が、一瞬にしてぐにゃりと歪み、猫をかたどったお面になる。

「にゃーん」

 握った拳を招き猫の様に動かして、猫のお面を被った女の子が可愛らしく鳴く。

 普段のボクなら、よからぬ妄想をしてえへへとか笑ってるところだけど、この子に関しては絶対にそう言う気持ちになれない。

「……アユムさんのおびえ方が異常なんだが、ゆーりちゃん、何かしたの?」

「ん、前回はまおのこんせぷとがお化け屋敷だったから、だいぶさーびすした。けど、ちょっとおどかしすぎた、かな?」

「ちょっとどころじゃなかったし!」

 ってゆーか、ああ怖い夢だったなー、うんあれは夢だったんだよあははー、とか思いこんでようやく忘れかけてた頃にまたやって来るとか性質が悪すぎるでしょー。

「それはあゆむがおもしろすぎるのがいけない、かな」

 にぱ、と微笑んで。猫の手を手招きするように動かす猫面の黒い女の子。

「わたしの顔を見て、ふつうに会話できる時点で、常人じゃない、かな」

「いや普通じゃなくって、SAN値がりがり削られてるんだけど」

「……ああ、そういう意味でもアユムさんは勇者か。寧子さんにも気に入られてたし、そのうち女神コースもありえそうだなー」

 ふむー、と腕組みしてなんか生暖かい目でボクを見つめてくる太郎さん。

「いや何の話ですか」

「ん? まあ、そのうち自覚すればわかる話だよ」

 苦笑しながら太郎さんが、猫面の女の子に手を向けた。

「まあ、改めてちゃんと紹介しとこうか。彼女は十六女(いろつき)悠里(ゆうり)ちゃん。ルラレラティアとも、俺たちの現実世界ともまた別の世界で女神やってる子」

「にゃーん、気軽にゆーりって呼んで欲しい、かな」

 招き猫のマネが気に入ったらしく、にゃんにゃんと丸めた拳を揺らす猫面の女の子。

「前のときは、理解したら発狂する名前とかゆってませんでしたかねー?」

「ん、ただのえんしゅつ、かな? 本当に理解したら発狂してもおかしくないけど。あゆむは最初っからわたしとちゃんねるが合ってたから、気を付けてほしい、かな」

「……何を?」

「あまりにもかくぜつした状態なら理解しようがない。する手段がない。けど、まがりなりにも言葉を交わせる状態であれば、理解しやすくなる、かな?」

 さいですかー。

 機会があればここぞとばかりにSAN値削りにくるね、この子は。

「あはは、そういや俺もゆーりちゃんと最初に対峙したときには発狂しかけたなー」

「太郎さん、それ笑って言える話なんですかー?」

 この人も、大概おかしいよね……。

「あと、別の世界の女神って。どうゆうこと? LROみたいなゲームが他にもあるってこと?」

「おや、アユムさんはルラレラティアがうちのちみっこどもが創った異世界だって知ってるだろ? 同じように他の異世界もあるってことだよ」

「……そうなんだ?」

 まあ、魂の煉獄エリアも別の世界といえば別の世界みたいなものだったし。

 意外と異世界、いっぱいあるのかな。

「ん、わたしのセカイは、レベル制。すきるやあびりてぃもある。肉体的に変化はないけれどレベルがあがると補正が付いていろいろ強くなる、そんなセカイ、かな」

「ほえー」

 ルラレラティアはレベルってないからなー。

 ゆーりってめっちゃレベル高そう。53万とか。

「ん、億はかるく超えてる、かな?」

「こころを読まれてるっ!?」

 ってゆーか億越えとか無茶苦茶過ぎる。ああ、だから怖くてしかたがないのか。

 99レベルの勇者の前に立つスライムどころの話じゃない。

 桁が違い過ぎる。

 自称神様とかにはそんな感じは全く受けなかったけれど、

 文字通り

 桁が

 ちが が が が

 …… ……




「ほかにしつもんとか、ある?」

「……もしかして、ボク、壊れかけた?」

 気絶とかじゃなくて、精神が崩壊しかけた気がする。

 頭が真っ白になって、そのまま消し飛んでしまいそうになったところまでは覚えている。

 ゆーりは、にぱ、と笑って小さく頷いた。

「それを認識できただけあゆむはえらい、かな」

「あの、なんでそんなすごい女神様がまおちゃんのダンジョンなんかにいるんです?」

「まおとダロウカはお友達、かな。二人はいぜん、わたしのせかいに迷い込んできたことがある」

「……まおちゃんのあの迷子スキルもとんでもないんだよな」

 なぜか太郎さんが深くため息を吐いた。

 よくわからないけど、迷子で異世界にいっちゃう子なの……?

「二人にお願いされて、迷宮の設計にかかわった。今回はふつうのダンジョンなのでそれっぽいのにした、かな」

「虫虫だんじょんはゆーりの趣味かー」

「べつにしゅみじゃない。掲示板で和風ダンジョンのていばんっていったらどんなのがいる?って聞いたら、とりあえず虫おっきくすればそれっぽくなるっていわれた、かな」

「あー。言われてみればそんな感じしなくもないね」

 昔話とかでバケモノっていったら、意外に身近にいる生き物を大きくした奴が多いんだよね。

 わかりやすいし、想像もつきやすいからなんだろうけど。

「ん、でもって、そろそろタイムアップがちかい」

「あーっ!? 時間制限あるのにこんなところで長話とかしてる場合じゃなかったーっ!?」

 シスタブを見るも、特に通知は無し。

 隠し通路に入った旨は連絡しといたけど、誰からも返信なし。

 時間的にはもうボス戦やってるかもしれないね。

「……最終手段を解禁するしかないかな」

 影渡りなら今すぐファナちゃんと合流できるはず。

「もうちょっと付き合ってほしかった、かな」

「ごめん、ゆーりちゃん。悪いけどボクの方はつきあってられない。太郎さん、ボク先に行きますね」

「おう、行ってらっしゃい。俺の方も合流しなきゃなー」

 言うなり太郎さんは新聞紙の剣で何もない空間を切り裂いた。

 切り裂かれた空間がぐにゃりとゆがんで、どこかで見たようなドアの形になる。

「それちびねこちゃんのどこ○でもドア? 開発ちーと?」

「あー。俺はアバター使ってない、ってゆーか、うちのちびねこが俺のアバターなんでこの姿だとカード使えないんだよ」

「え? ちびねこちゃんの中身って、太郎さんだったんですかっ!?」

 あれ、さっきは太郎さんとちびねこちゃんって一緒に居た気がするけど。

 ってゆーか、ねこみみ幼女アバターとか業が深すぎるっ!? アウト過ぎっ!

「……その辺はややこしいから聞かないでくれ。じゃあ」

 逃げるように手を振って太郎さんがドアの向こうに消えた。

「……わけわかめ」

「おにぎりは、ツナマヨが最強だとおもう、かな」

「ああ、そんな場合じゃなかったんだった。じゃあ、ゆーりちゃん、できればもう二度と会わないことを祈ります」

「うん、じゃあ、またね?」

「もう会いたくいたくないんだってばー! じゃあねっ!」

 やけくそ気味に手を振りながら【影渡り】を発動。

 しかし結局、ゆーりちゃんって何しに出てきたんだろ……。

 中ボス扱いで倒さないと隠し通路から移動できないとかだったらバランス悪すぎっ!




「……っと」

 影渡りで現れた先は、天井がとても高い場所で。

 なんとなく見覚えがあるような。ここ、ボス部屋、だったっけ? 前はまだ出来てないとか言ってた。

「あ、アユムー、遅いよー」

「ピ?」

 ファナちゃんとシェラちゃんがボクを見てほっぺたを膨らませた。

「ごめん、ファナちゃんシェラちゃん。ちょっとトラブルに巻き込まれてたー。で、どういう状況?」

「もー。ちゃんとシスタブで連絡してくれたらよかったのに。……ぬらしぺってなんなの?」

「ぎゃーっ!?」

 ファナちゃんが差し出したシスタブには、ボクからの通知で「ぬらしぺ たぱ へぬるぷ」って意味不明の言葉の羅列がならんでいた。きっとゆーりちゃんの悪戯。悪意あるイタズラ。

「バカやってねーで、はよ準備しやがれっ! くるぞっ!?」

 なのっ子マキちゃんは止めたのか、男口調のMK2の怒鳴り声で裏返りかけた意識が戻った。

「くるって、何が」

「巨大な幼女でござる、ふひーっ!?」

 ユキノジョウが盾を構えて床にだん、と突き立てる。

 その方向の先には。

「巨大幼女? どこかで聞いたような……」



「わははははー、なのじゃー!」


 部屋にかわいらしい笑い声が響いて。

 何事かと見回したボクの目に飛び込んできたのは。


 部屋の奥で、仁王立ちする身長八メートルの幼女(笑)。巨獣エリアのモモちゃんだった。

 その肩にはちょこんとダロウカちゃんが腰かけていて。


「うむ、そろったようだな。では、ラストバトル、始めようではないだろうか!」


 高らかにダロウカちゃんが最終戦の宣言を告げた。


 ……って、モモちゃんたちがラスボスなのっ!?

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