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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
閑話「空から何かがやってきた!」
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「新装開店まおちゃんダンジョン!」 その4

「……いろいろあったらしいけど、最近はどうだい?」

 話しかけてきた太郎さん。ちみっこが周りに多い割には、ボクくらいの年齢の子がいないのだろうか。あまり付き合いのない女の子に聞く様な内容ではないと思う。

 そういうのは久しぶりに会った友人とかに聞くもんじゃないかなー。

 たぶん、いろいろって、こないだの魂の煉獄エリアのことだろうけれど。開発の人だし、やっぱり関わりがあるんだろうね。

「……ええ、まあ、おかげさまで」

 しょうがないので無難に返しておく。

 いや、確かに自称神様のおかげで助かりはしたけれど、原因も自称神様のせいな気がするからあんまり感謝の念は湧いてこないんだよね。

「そうかい。ウチのハナカとも仲良くしてくれているみたいだね。たびたび話題に出るよ」

「はい。ええ、ハナちゃんかわいいので」

 というか、なんで親戚のオジサンとの世間話みたいになっちゃってるんだか。

「あの、ところで太郎さん?」

「ん、なんだい?」

「……本来ありえない通路にいきなり飛ばされた現状についてはどうお考えで?」

 真面目に聞いたのに。

 なぜか太郎さんは、黙ってボクの顔を見つめたあと、こらえきれないように吹きだした。

「あの、何がおかしいんですか」

「い、いや、笑ってしまってすまない。寧子さんが言ってた”自覚のない勇者”ってこういうことかと」

「……自覚のない勇者?」

 何のことだろう。

「いや、そうではなくてね、キノサキさん。こういっちゃなんだけど、俺はこういった事態に巻き込まれ過ぎて、それがもう当たり前になっちゃってて、さてさてどう楽しもうかというところだったんだけど、キノサキさんがあまりに普通すぎて、初々しすぎて、ああ、自覚のない勇者って、はたから見たらこう見えるんだなってってね」

「ボクのこと、なんですか? その、自覚のない勇者って」

 なんだか馬鹿にされてるように感じて、ちょっとムッとする。

「LROの正式サービス開始からキミはどれだけのとんでもない目に遭ってきた? ハナカからも、寧子さんからも、ちびねこからもよーっく聞いているよ。それでいて、未だに自分が村人Aだと思っているところが自覚のない勇者だって話。決して馬鹿にしているわけじゃないけれど、自分が特別な存在だなんて厨二病じみた錯覚を起こせと言っているわけでもないけれど、そろそろ自分が”巻き込まれ体質である”って認識してみてはどうだい?」

「あの、長文だとあれなので三行でお願いします」

「ここ掲示板じゃないって」

 太郎さんは、再びお腹を抱えて笑うと。

 急に意識を引き締めたように真面目な顔になった。

「ん、話しこんでいたせいで時間があれだね。歩きながら行こう」

 言われてみると、通路を照らす提灯の色が、赤から青に変わりつつあった。

 以前の仕様がそのまま残っているのであれば、これは先に進めと促すなんらかの仕掛けと思われる。

 異存はないので先に立って歩く太郎さんに続いて、少し後ろをついて行った。




 少し進むと、提灯の色が戻った。代わりに、前方に黒い靄の様なものが現れた。

「たぶん、敵だな。キノサキさんはどういったスタイル?」

「短剣二刀流です」

 今日のボクは、以前の影族と盗賊ベースの探索スタイル。

 大勢集まるから当然、痴女は封印したんだよね。攻撃力としては少々物足りないけど、機動力はそこそこあるつもり。

「前衛か、じゃあ、まずは俺からいくね」

 太郎さんがどこからともなく、丸めた新聞紙を取り出した。それを両手で持って上段に構える。

 なぜに新聞紙……。

 あれ、そういやちびねこちゃんも同じようなの持ってたっけ?

「せい」

 太郎さんが意外に堂に入った様子で、すり足で前進しながら黒いモヤに新聞紙を振り下ろす。

 すると。

 ざああ、と黒いモヤが晴れて、中から巨大な。

 なめくじが。

「きゃーっ!?」

 背筋がぞくってきた。

 ボク、そこまで虫とか嫌いってわけじゃないけど、殿堂入りのG以外では足がいっぱいあるヤツとかぐちょぐちょぬめぬめ系がダメ。

 生理的に受け付けられない。

 あわわと動けないボクを尻目に。

「なんだ、意外に女の子っぽいところもあるんだな」

 太郎さんが小さく笑って、大ナメクジをあっさり切り払う。

 なぜか、とてもファンシーな、ぽかん★って感じの音がして、ナメクジなだけに断末魔の叫び声なんかも上げることなく、光の粒になって消えた。そういう武器なんだろうか。新聞紙なだけに。

「あの、ボク、いちおー女の子ですからっ!」

「はは、ハナカがさ、かっこいーかっこいーってキノサキさんのことを褒めまくるから。なんか、ちょっと気取った宝塚系みたいなイメージがあった」

 太郎さんがぶん、と新聞ソードをふるうと、かき消すように消えてなくなった。

「……ボク、そんなんじゃないです」

「まあ、気楽に行こう。あと変に気をつかった話しかたをしないで、普通にしゃべってくれ。遊びにしたってこれば冒険で、一応、しばらくの間とはいえ仲間なんだから」

「うん、わかった」

 とはいえ、太郎さんがかなり年上なのは事実だからなぁ。




「……虫まるQかいっ」

「和風ダンジョンっていうより虫虫ダンジョンだよね……」

 もう、出るわ出るわ。

 先に出た大ナメクジに巨大ムカデ、大カマキリにモ○ラモドキのでっかい蛾。わらわらと巨大アリが小部屋から出てきたときには涙出てきた(蟻酸のせいかも)。太郎さんと二人で切りまくったけど。

 前のまおちゃんダンジョンは、普通に妖怪さんが多かったのに、これでもかとばかりに虫だらけ。あと小部屋にろくなアイテムがないし、別の平行通路に移動も出来なかった。

「通路間の移動が出来ないのも気になるけど……隠し通路だから?」

「なんか条件があるんじゃないか?」

「人数が条件だったらお手上げだよね……」

「いや、そもそも隠し通路なだけにあまり大人数が入ることは想定してないんじゃないか?」

「じゃあ、何かのアイテムとか、特定の敵を倒すとか?」

「うむー」

 太郎さんが腕組みして考え中。

 ふたりでバトルを繰り返してきたせいか、多少は慣れてきた。

 最初はハナちゃんのお兄さんとはいえ、あまり知らない男の人と二人って、気がつまりそうだったけれど。ハナちゃんと結婚したら普通に太郎義兄さん、と呼んで家族づきあいできそうだな、と思えるくらいにはなった。いや、女の子同士だし、リアルで法的に結婚は無理だけどさ。

 思ったより意外だったのが、太郎さん普通に強かったこと。開発だし、仕様は押さえてるのが当然だと思うけど、実際にあれだけ身体が動くかどうかは別の話で、何か武道の心得でもあったのかもしれない。影族じゃないのにアイテムボックスみたいな機能使ってたりしたし、もしかしたら開発の人ならではの裏ワザみたいなの使ってるのかもしれないけど。

「ゴールはひとつのはずだから、このまま二人で突き進むのもありだが、アユムさんどうする?」

「時間制限もあるし、小部屋探りつつ、とにかく前進でいいかも?」

「よし、じゃあ、その方針で」

「あいあい」

 二人だけとはいえ、今のところ戦力的には不足はない。

 とはいえ、不測の事態はつきものだし、太郎さんもボクも物理攻撃に偏ってるから、物理無効とかでてきたら不安はある。

 しかし。

 虫ばっかりとはいえ、なんか思った以上に普通のダンジョンで、あんまりまおちゃんらしさが感じられないんだよね、ここって。敵と戦って、小部屋を漁ってって、なんか普通。

 その意味だと、この間の妖怪にお札渡して通してもらうとか、いろんな謎解きとかあったヤツの方がまおちゃんっぽかった。

 あと。

 こういうお遊びダンジョンに来るたびにファナちゃんと離ればなれになっちゃうのは、もう運命と思うしかないのかなぁ……。

 うーん。確かに元々、ダンジョンに入った直後の合流はしない予定だったけど。もう時間的に三分の一くらいは進んだし、影渡りで合流するのもありなんだけど。

 ……そんなことを考えながら進んでいたせいだろうか。

「なんか違うのが居るっ!?」

「赤いモヤって、なんか中ボスとかかな」

 通路を塞いでいたのはこれまでの黒いモヤと違って、まるで燃える炎の様な赤いモヤだった。

「なんにしても、先手必勝だ。いくよ、アユムさん」

「あいあい」

 太郎さんの上段からの振り下ろしに合わせて、ボクは素早く【影歩き】あーんど【空歩き】で空中を駆けぬけて天井から敵の背後に回って急襲。


「――――」


 そのボクの攻撃と、太郎さんの振り下ろしが。

 まるでビデオの一時停止でもしたかのようにピタリと止まった。

 赤いモヤが晴れたそこには。

 黒いセーラー服を着た、上から下まで真っ黒な女の子が立っていた。黒タイツに黒い手袋。背後からでは顔も見えないから、真っ黒子ちゃんだ。

「……敵、じゃない?」

 いや、赤いモヤから出てきたし。

 敵、なんだよね?

「……あー。もしかして、このダンジョン、キミが関わってたのか」

 正面から切りかかった太郎さんは、黒い女の子を知っているようで。

 ためらいがちに、新聞紙の剣を引っ込める。

「知り合いですか、太郎さん?」

「ああ、ええっと。説明が難しいんだが、この子は以前、このルラレラティアに攻めてきた魔王のひとりで……」

 魔王……?

 太郎さんの紹介の途中で、黒い女の子が来くるりと振り向いた。

 その顔には、白い狐のお面を被っていて。


『――久しぶりかな』


 なぜか首から下げたホワイトボードに、そんな言葉が書かれていた。

 狐面の黒い女の子が、とん、とホワイトボードの角を叩くとホワイトボードの文字が消えて別の言葉が現れる。


『今度は気絶せずに、最後まで付き合ってくれると嬉しい、かな?』


 くすくすと小さく笑う声を聞いてボクは。

 ごめん……無理です。

 速攻で意識を手放した。

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