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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
閑話「空から何かがやってきた!」
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「小さな恋のメロディ」 その4

 目つきの悪い女の子は、”魂の解放者”イズミさんだった。

 女の子なのに、私のことを女の子だと思っていきなり抱きついて股間に手を伸ばしてくるとんでもない変態さん。正直、近寄りたくない。想像していた以上のとんでもない人だった。

 アユムさんが間に立って紹介してくれたけど、嫌で嫌でしょうがない。

 男の子のアソコって、とっても衝撃に弱いんだから。

 ……またぎゅーって捕まれるのが怖い。



 結局、お互いに現在の状況の説明と、戦力の確認をするだけでその日は終わってしまった。

 迷宮をクリアしないとこのエリアから解放されないとはいえ、せっかくの再会だったのに殺伐とした話だけで終わっちゃったなと思っていたら、アユムさんが私の歓迎会を開いてくれることになった。

 ドキドキしながら、アユムさんのプライベートルームにお邪魔することになった。パーティを組んだ状態で部屋の主に許可をしてもらうと、シス子ちゃんがドアをつなげてくれるなんて初めて知った。やっぱりぼっちプレイは何かと情報が偏るよね。

 初めて入ったアユムさんのお部屋は、圧巻の一言。

 どこの高級ホテルですかって感じの調度品。天蓋付きのベッドとか初めて見た。

 私はLROに入り浸ってはいたけれど、プライベートルームで寝起きするようになったのはこのエリアに来てからだったから、こんなベッド持ってるなんてアユムさん、もしかして前からプライベートルームで寝起きしてるのかなって思った。思ってた以上に廃人プレイしてたみたい。バスルームもすっごく広いの完備してるし。システムキッチンとかまで据え付けられていて、完全にここで暮らしてる感じ。

「ピ」

 そのシステムキッチンで、メイドのシェラさんがお料理を始めたので私もお手伝いをする。

 ……というか、シェラさんってNPCだって話じゃなかったっけ? なんでプライベートルームに居るんだろう。

 少し不思議に思ったけど、まあ、アユムさんだからなぁ、で納得した。考えるだけ無駄な気がするし。

 シェラさんは、すっごくお料理が上手で、手際が良くって、あっという間にたくさんの料理を作ってしまった。私も何皿か作ったけれど、正直遠く及ばない。それでも、アユムさんがおいしいって食べてくれたから、嬉しくなった。……イズミさんはそれで味がわかるのか疑問なくらい適当に食い散らかしてたけど。

 イズミさんは、お酒でも飲んだみたいにひとりでなんか楽しそうにわめき散らして、食べるだけ食べたらゼノヴィアちゃんを引っ張ってお風呂に行ってしまった。

 食欲を満たしたら次は性欲だよっ、といわんばかりに。フリーダムすぎる……。

 ってゆーか、シス子ちゃんお風呂に入れられるんだね。運営に怒られたりしないんだろうか……。



 イズミさんとゼノヴィアちゃんがお風呂に入って、シェラさんも食後の片づけのために奥に引っ込んでいる今。

 食後のお茶を飲みながら、残ったアユムさんと雑談をしていて。あ、そういえばシス子ちゃんもいない今、部屋にアユムさんと二人っきりっ!? とか思ってちょっとドキドキしていたら。

「……イズミちゃんがお風呂のうちに話しとかないといけないことが」

 アユムさんが、突然そんなことを言って心臓が跳ねあがった。

 ももも、もしかして、告白、とかっ。こういうシチュエーションって、だよねっ!?

 そんなことあるわけがないのに。余計な期待に胸が高鳴る。

 そうして告げられたのは。


 ――残酷な現実、だった。


 もしかしたら、という仮定の話ではなくて。ほぼ確実にリアルの自分たちの身体に何かあったこと。

 それによりログアウトが出来なくなっているのだということ。

 淡々と語るアユムさんは、その小さな肩が、わずかに震えていて。

 自分の事より、なにより。アユムさんのことが心配で。

 私は思わず、アユムさんの手を握ってしまった。私に出来ることなんて、大したことはないけれど。アユムさんを守ってあげるとも助けてあげるとも、口にすることなんて出来ないけれど。

 せめて、震える女の子の手くらいは握っていてあげたかった。

 ……のだけれど。

「……なに?」

「……」

 黙っていたら、あっさり私の手は振り払われた。

 ちょっと、ショックだった。

 けど、よく知りもしない「男の子」に、いきなり手を握られたら、それはやっぱり、キモチワルイよね。特に、私みたいな、変なヤツには。いろいろ恥ずかしい所もアユムさんには知られちゃってるし。

 うなだれていたら、アユムさんが少し優しげに声をかけてきた。

「……大丈夫だよ。きっと、なんとかなる」

「……はい」

 私が、リアルのことについて不安に思って、アユムさんにすがった、と思われたのかもしれない。

 それは、少し違うのだけれど。いや、違わないのかも。

 でも、いきなり手を握ったりしたから、嫌われたのかな。ううー。

 うじうじ考えていたら、いつの間にか目の前に居たアユムさんの姿が消えていて。

「もー、しょうがないなぁ。ちょっとだけサービス」

 いきなり、背中から、ぎゅーっと抱きしめられた。

 あたたかさと、ふわりとした柔らかさ。そして、首筋に感じるわずかな吐息。

 ただそれだけで、心の奥底から力が湧いてきた。

「……みんなで、迷宮をクリアするよ?」

「はい!」

 私は全力で答えた。

 なんてゆーか、自分で言うのもアレだけど。男の子って、単純だよね。

 好きな女の子に、ぎゅってされて「ガンバレ!」って言われるだけで。何でも出来てしまいそうになる。

 ……その晩は、真珠作成が捗ったことをだけを追記しておきます。




 翌日から、私、アユムさん、メイドのシェラさん、イズミさんの四人で迷宮の攻略が始まった。

 イズミさんの知り合いのNPCがあと二人いるらしいのだけれど、今日は都合が悪いらしい。

 性格と言動はアレだけれど、イズミさんの実力はすさまじかった。

 迷宮一階ということもあり、比較的弱めではあるのだろうけれど、出会い頭に複数の【魔法の矢】を連打して敵をなぎ払うさまは、まさに蹂躙だった。私も宝石魔法の準備はしてきたのだけれど、出番が全然なかった。まあ、妖精さんにため込んだ宝石をぶんどられてから日が浅いので、まだ宝石に余裕がないからいいのだけれど。

 どんどん進んで、あっさり中ボス部屋についた。

 イズミさん曰く、とにかく大量の敵がわらわら出て来るところらしい。ほぼソロなので、イズミさんひとりではどうしてもクリアできなかったのだとか。

 まあ、いくらイズミさんが滅茶苦茶魔法強くっても、クールタイムってやつがあるから、ひとりで無双は難しいよね。

 簡単に打ち合わせして、突入。

 今度は私も、イズミさんの魔法に合わせて、爆発効果のあるダイヤを投げる。

 アユムさんは、その格好通りまるで忍者の様に壁を駆け上って、敵の間に飛び込んで撹乱。

 いくらカードのスキルがあるって言っても、基本的に身体能力はリアルと変わらないはずなのに。しなやかなその肢体は、まるでダンスでも踊ってるみたいにくるくる回転して、瞬く間に、確実に、敵の息の根を止めていく。

 思わず見とれてしまう。

 とても、きれいだった。

「プ」

「きゃ」

 見とれていたら、いつの間にか敵が抜けて来ていて、メイドから騎士になったシェラさんが盾で弾き返したところだった。

「あ、ありがとうございます!」

「ピ」

 シェラさんはなぜか、ピとかプとかしか言わないけれど、「アユムさま、かわいいでしょ? けどあんまりえっちな目で見ちゃだめですよ~?」って言われた気がした。

 うん、反省。戦闘中によそ見は良くないよね。



 戦闘終了後。戦闘自体は危なげなく、勝利したのだけれど。

 ……呪いの指輪でアユムさんが死にかけた。

 私のルビーを使った回復魔法はまったく効果がなくって。

 結局、指輪が原因と見破って破壊したシェラさんのおかげでアユムさんは一命を取り留めた。

 あれだけ、護りたいと思っていたのに。助けたいと思っていたのに。

 私は、全然、役立たずだった。




 死にそうな目に遭ったって言うのに、アユムさんは元気だった。行けるとこまでどんどん先に進もうって、ノリノリなイズミさんと一緒にどんどん進んでしまう。

 そうして進んでいるうちに、落とし穴に落ちて帰れなくなった。

 そんな状態になっても、それでもまだ進もうって。

 どうして、こんな状況でそんなに前向きに生きられるんだろうって。

 私は、少しばかりまぶしくて。

 アユムさんを見ていられなかった。




 そうして、激戦を潜り抜けてついにたどり着いたボス部屋。

 神様を自称する、メガネの変な女の人がボスだった。

 アユムさんはその人と知り合いみたいで、私には理解不能な会話の応酬をしていた。

「この物語はハッピーエンドですね? まあ、ボクとシェラちゃんが居る以上、そうなるに決まってるんですけど!」

 自称神様に、そう言い切ったアユムさんはとてもかっこよかった。

 そのセリフに、私が含まれていないことはちょっと残念だったけれど。



 ――自称神様はとんでもない強さだった。


 どうやらNPCとかでなく、運営のひとが直接操ってるアバターみたいで、LROのカードシステムを使用していた。そのカード構成が、とにかくえぐい。こちらのカード構成を全て把握したうえでそれに対応するための構成をしたとしか思えない。それも、レベル10スロットが10個で。

 こっそり【看破】してみたら。意外なことに、自称神様はたった2枚のカードしかセットしていなかった。


 ★5レベル10のユニークカード「創世神」

 EXレベル10の「核撃」


 あれだけ攻撃魔法とか防御魔法とか使ってたのに、それはどうやら創世神というジョブカードに含まれるものだったらしい。そこまで詳細は確認できなかったけれど、たぶん全魔法使用可能とかそんな感じのがついてそう。格闘も使ってたところを見ると、武器スキルとかも全部使えるのかもしれない。★5のカードとか初めて見たけど、流石は自称神様。チートくさい。 とにかくこちらの攻撃に的確に対応して来て、こちらが攻撃の手を緩めると反撃してくる。 私はもう宝石がないので、とにかく【癒しの光】でアユムさんやシェラさんを回復することしかできない。

 アユムさんは何度も傷ついて、それでもすぐに立ち上がって向かっていく。

 私はその背中を応援することしかできない。

 それなのに。


「――じゃあ、ここでさらなる絶望をあげようか♪」


 神様がさらなる増援を呼んだ。

 現れたのは、ちいさなねこみみの女の子と。女神装束の女の子。

 私は初対面だったけれど、アユムさんとイズミさんは知り合いだったみたいで。

 特にイズミさんは、信じられないという顔で、戦闘中なのに茫然と突っ立ったままになってしまった。

 ……それからの一連の出来事は。

 正直言って、何が起こったのか未だによく理解できない。

 イズミさんに襲いかかってきたねこみみの女の子をアユムさんが影でぺろりと飲み込んで。

 と思ったら、別のねこみみの女の子が現れて。

 某猫型ロボットが持っているようなドアを出して。

 そこから小学生くらいのちいさな女の子が飛び出してきて、アユムさんに抱きついて。

 と思ったらアユムさんがその女の子に吸い込まれるようにして消えて。

 シェラさんも吸い込まれて消えて。

 わけがわからないうちに、気が付いたら迷宮の地下でなくて大海原にぽっかり浮かぶ石舞台の上に居て。

 アユムさんを吸い込んだちっちゃな女の子がとんでもない大きさの【魔法の矢】をバカスカ撃ちまくって。

 なぜかいきなり頬にキスされて。




 ――気が付いたら、どこまでも真っ白な空間に居た。


 そして目の前には仏頂面の自称神様が居て。

「あっはは、まけちったい!」

 ため息を吐きながらそう言った。

「えっと、私たちが勝ったんですかぁ?」

 思わず首を傾げながら尋ねると、自称神様は頷いた。

「アユムちゃんは、ほんっとあたしの期待を裏切らないね。いや、あれだけ舞台を整えてさあやるぞ! って感じだったのにいきなり瞬殺とかひっどいよねっ!? ルイくんもそう思わないっ!?」

「……えっと、それに同意を求められても困るんですけどぉ」

 まあ、怪獣退治の話と言い、アユムさんがここぞという時にとんでもないことをしでかすというのには同意するけれど。

「ああ、もう! 男の子なのにかわいいなっ! キスしちゃうぞっ!?」

「え、え、きゃあー!?」

 いきなり自称神様が抱きついてきたので混乱する。

 じたばた暴れていると、なんだか、急に、お母さんにギュッと抱きしめられてるみたいな感じになって。

「……がんばったね」

「はい」

 ぽん、と背中を撫でられて。

 なぜか、ぽろぽろとこぼれた涙が。ピンクのダイヤになって床を転がった。




「あの、迷宮をクリアしたってことは、これから私、どうなるんでしょう?」

 アユムさんの話では、リアルの私はかなりやばいことになっているらしかったけれど。

「そのあたりは心配しなくていいよっ! まあ、ちゃんと丸く納まったから。というか、アユムちゃんが納めちゃったから」

「……そうなんですかぁ?」

「ルイくんもちょっと記憶が混乱するかもしれないけど、大丈夫だからね?」

「え、はい」

 よくわからないけれど。どうやら、この魂の煉獄エリアからは解放されそうな感じみたい。

「あー。あと、涙族として日頃から宝石ため込む必要はあると思うんだけどさー。アレはちょっと控えめにしてねっ!? ルイくんは魂が男の子だってこともあって、リアルの女の子の身体よりこっちの男の子の身体の方が親和性高いわけよ。アレをしまくってると、こっちのアバターに魂が定着してまーた戻れなくなるから」

「……はあ、アレ、ですか?」

 一瞬、何のことかと思ってからすぐに気が付いた。

 自称神様、そんなことまで知ってるなんてぇ~~っ!?

「あと、忠告だけど」

「はい……」

「アユムちゃんって、女の子が好きな女の子だから。思いを遂げるならリアルでアタックする方が成功率高いかもっ!? ガンバレ!」


「……は?」


 思わず言葉を失った。


「……え?」


 私の小さな恋は、まるで冗談のようなふざけたメロディを奏で出し。


「えーーーっ!?」


 混乱する私の頭は。

 相思相愛になれるならそれもありかも、と思う心と。

 私は男なんだから、って思う心と。


 ニヤニヤ笑う自称神様を殴りつけたくなるような衝動を覚えながら。


「私は、どうしたらいいんだろう……」


 ため息と共に吐き出した。


「あははっ! 汝の欲するがままをなすがよいっ!」

「……それ、どこかの邪神の言葉じゃなかったでしたっけ?」

 暗黒神とか。




 結局、どうすると決めることが出来ないまま。

 妖精さんとの約束を果たすために、アユムさんのことを考えながら森で頑張ってる真っ最中に。

「……あー。ごめん、出直すね? お仕事がんばってー?」

 アユムさんがやってきて、すぐに帰った。

 思いっきり見られた。……死にたい。

 その後、少し時間をおいてから、改めてやってきたアユムさんから、リアルでイズミさんのお見舞いに行かないかというお誘いがあったけれど。

 イズミさんに関してはへー生きてたんだーよかったね、くらいの感想しかなかったし。

 なにより。

 リアルの私でアユムさんに会う覚悟がなかったので断った。



 いつかきっと、覚悟が出来たら。

 私の胸の、小さな恋のメロディは。

 素敵なワルツを奏でるのだろうか。


 そんな日が、来ますようにと願いつつ。

 相変わらず私は、森の奥で頑張る日々を過ごすのだった……。

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