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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
閑話「空から何かがやってきた!」
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「小さな恋のメロディ」 その2

 ――涙族の種族カード。


 これまでは私の見た目と性別が乖離していることを誰かに指摘されたときに、「これは涙族のカードの特性なんですからっ!」って、そうごまかすための手段に過ぎなかったんだけど。

 妖精さんに私のアレを嬉々として求められて、少しばかり考えを改めることになった。

 何がどう宝石になるのか、把握しておこかなって。そう思ったのだ。私にとっては単なる排泄物だったりするんだけど。いまさらだけど、よく考えたら宝石をいくらでも生成出来るとかけっこうとんでもない気がする。

 ……そういえば、涙族には他に宝石魔法なんていうのもあったっけ。材料を自分で生産できるなら使い道はあるのかもしれない。

 うーん。まあ、やってみるしかないよね。

 いろいろ、実験してみることにした。



 とはいえ、出来ることはそれほどない。

 長い金髪は、ハサミで切ったらそのまま金糸になった。ただ、フェリシアちゃん曰く「アバターの髪型変更は課金アイテムになる予定なので、切り過ぎには注意ね。切っても生えないし伸びないから」とのこと。同様に爪なんかも伸びないらしい。ちなみに爪はちょっと先っちょを削ったら雲母になった。

 宝石魔法的には、金は導線。導火線みたく宝石と金糸をつないで、遠く離れたところからえいって発動させたりできるみたい。頭ハゲちゃいそうだから絶対やらなさそう。うん。

 雲母は魔法を貯めたりできるみたいだけど……これも爪剥いでまでやりたくはない。

 宝石魔法、自分の身体を切り売りするかんじなのかなー。ううー。役立たず?



 森で拾ってきたワサビみたいにツンとする草を目元にあてると、ぽろぽろ涙がこぼれてダイヤになった。女の涙はダイヤモンドなんていうけれど、男の子でもダイヤになるんだねってちょっと苦笑した。

 身体から離れたら宝石化するっていうのは、身体から排出されたら、でなくて物理的に一度、私の身体から離れる必要があるらしくって、頬を伝うだけでは宝石にならなかったのがちょっと面白かった。

 あと、泣いた時の感情によって色が変わるみたい。

 何の感情もなくワサビで流した涙は普通の透明なダイヤになったけれど、ちょっと悲しい涙はブルーダイヤに。嬉しい涙はピンクダイヤになった。

 ダイヤは、宝石魔法的には手りゅう弾みたく投げつけると爆発するシロモノだった。

 ナミダの破壊力はバツギュン! メインの攻撃手段になりそうだった。涙なだけに小粒のものがちょこっとしか取れないんだけど、なるだけ日頃からため込んでおこうと思った。



 汗をかくのには意外と苦労した。森の中は結構ひんやりとしているし、汗をかくまでランニングとかするのもちょっと面倒。さらには涙と同じように、身体から離れないと宝石にならない。まあ、蒸発してくれないと汗の意味ないしね。ハンカチとかでぬぐった場合もなぜか宝石にならないんだよね。

 困ってフェリシアちゃんに相談したらプライベートルームの拡張機能のことを教えてくれたので、サウナとトイレを設置することにした。

 森で冷えた身体をサウナで温めるのは気持ちがいい。サウナでたっぷり汗をかいて、水風呂にじゃぽんと浸かると、汗は水中で青いサファイアになった。

 試せなかったけど、涙みたいにいろんな汗で違うサファイヤになるのかも。冷や汗とか脂汗とか。

 宝石魔法的には、護りの効果があるみたいだった。複数配置すると結界みたいなのが出来るみたい。これも日頃からため込んでおこうと思う。



 面白かったのはオシッコ。いっぱい汗をかいて、濃くなると黄色いトパーズ。お水をごくごく飲んで透明なのだと水晶になった。汗や涙と違って、色だけじゃなくって宝石そのものが別物になっちゃう。比較的簡単に、大量に作れるのもいい感じ。

 さらに。

 固まって宝石になるのには少しタイムラグがあるので、容器に花びらとかを入れておいてそこにしゃーってやると、花びら入りの水晶とかトパーズが出来てしまう。中に色々入ってる宝石って、なんかすっごく珍しい感じ。

「これ、意外にいいお値段で売れたりしないかなー」

 まあ、私のオシッコなんだけどね……。

 宝石魔法的には、強化の効果があるみたいだった。LROにはいわゆるステータスというものがないので具体的に何が上がってるのかよくわからないんだけど。カードの魔法とか使うと効果が上がってる気がする。気のせいかもしれないけど。



 多少身構えることになったのが、血。森で見つけたバラのトゲをえいって指先に突き刺してぷっくらと浮き上がった血は、赤いルビーになった。LROというゲームは普通に痛みを感じるので、かなりきつかった。女の子アバターだったら、月一回取り放題だったのかなぁとかバカなことを考えた。まあ、変態的 (褒め言葉)なLROのことだから、きっと生理も再現してるハズ。

 宝石魔法的には、回復効果があるらしい。自分の血を使って自分を回復とか、むむむな感じがするけれど。ケガとかした時に流した血を元に回復できるのはいいのかもしれない。



「んー。基本的に、色と見た目が重要なのかなー」

 涙族の身体から生み出せる宝石の種類がそもそも多くないので、全部を網羅したとは言わないけれど、宝石魔法は回復から補助に攻撃までと意外に活躍範囲が広いみたい。

 指をちょん切ったりとか、身体そのものを切り裂くのは止めた。

 最悪、死ねば元通りになるとはいえ、流石にちょっとした実験で自分の身体を切り刻むようなマッドなことはしたくないしね。

 大も論外。オシッコくらいまでは何とか触れても、流石におっきい方は無理だし。

 そうなると、残るは……。あと、手軽に試せるのって。

 そう考えて、ごくりと唾を飲んだ。

 男性アバター、なのだけれど。

 いったい、どこまで、可能なんだろうって。




 自分が本当の自分でない、という違和感が常にあったせいか、私は自分というものがどこかあいまいで、だからこれまで誰かを好きになるということがなかった。

 恋物語を楽しむことはあっても、実体験として自分が誰かを恋焦がれるということはなかったし、想像すらも出来なかった。

 だって、私は自分を男だと思っているけれど、身体は女の子の物だったから。


 ――男の子? 女の子? ……私は、いったい、どっちを好きになればいいというのだろう?


 小さいころはよく男の子と遊んでいたけれど、友達以上の感情を抱くことはなかったし、大きくなって女の子と一緒に行動するようになってからも、ドキドキするような女の子はいなかった。自分で言うのもなんだけれど、困ったことに私自身がかなりな美少女だったし、心は男だと思っていても自分の身体で女の身体も見慣れている。

 自分を女だと思いたくなかったので、知識は持っていたけれど、女の子として気持ちよくなったこともない。どちらかと言えばそういう欲求は薄い方だった。

 ……だから、実験することにした。

 私は、男の子をちゃんとやれるのかどうかを。




 あの日、森の中で出会ってから。妖精さんは私がログインするたびに寄ってきて、肩に乗るようになっていた。

 私が出現する場所は前回ログアウトした場所と同じなので、迷うことはないんだろうけど。ログインするとまったくタイムラグなしにやってくるというのは、もしかして私がログインするまで、じーっとその場で私のことを待ってたりするんだろうかとか想像すると、ちょっとだけ怖い気がする……。

 LROってネットゲームだから、私がログインしていなくても時間はどんどん進むはずなんだけど。NPCだし、そういうものなんだろうか。ううー。

 妖精さんはトンボの様な翅を広げて今日もふわふわ宙を舞う。

「ねーね。ーきょうは、ぴかぴかある? でる?」

 いつものようにおねだり。かわいい。

 けど、宝石魔法用にため込んでおきたいし、あまり上げるわけにもいかない。

 ……でも。

「あー、うん。あのね、ちょっとお願いがあるんだけど、私の事、手伝ってくれる?」

 まあ、NPCだしいいよね。ってゆーか、この子ってモザイクかかってないけど大丈夫なのかなー、って思いながら。

 全裸の妖精さんにちょっとえっちなポーズを取ってもらった。

 リアルな私の身体を見慣れているはずなのに。そういう対象としてみると。

 ……私のオトコノコは、思った以上にちゃんと反応して、ドキドキして。

 その日、私は自分が男の子であるって、激しく実感することになった。


 ちなみに、私の出したアレは真珠になった。

 宝石魔法的には、増強。他の宝石と組み合わせて使うとその効果が何倍にもなる、ブースター効果だった。

 使い道、大杉。これも、日頃からため込んどかないと、だめなのかなぁ、って苦笑いした。




 自分の出したアレをちっちゃい妖精さんが頬ずりしながら「うっきゃー!」と大喜びする様子に、ちょっと倒錯的な興奮を覚えて「だめだ私」と自分で自分にツッコミ。

 あと、男の子って出すとなんかすっごく虚無感を感じる……。

 もしかして、これがうわさに聞く賢者モードってやつなのだろうか。

 冷静になると、すごくバカなことをしたって自覚があった。

「ねーねー。これ、もっといっぱいほしー」

 海なんてない森の中だと、真珠というのはとっても珍しいらしく。妖精さんは大興奮してびゅんびゅんと飛び回っていた。

「えーっと。ごめんね、それはもう、ちょっと、あんまりあげたくないかな」

 いくらなんでも。思わずやってしまったけど。とっても恥ずかしいし。

「いっぱいくれたら、もりのちゅうおうあんないするよ?」

「あれ、妖精さんが増えた?」

 気が付いたら、ぷりちーな妖精さんだけでなくって、ちょっとツリ目気味なクールっぽい妖精さんが増えていた。

「このぴかぴか、みんなほしがる。だから、やくそくしてくれたら、ちゅうおうにあんないする」

「……中央?」

 詳しく話を聞いたら。

 なんと妖精さん達が眩惑の魔法をかけて、プレイヤーを森の中央に近づけないようにしてるんだとか。一ヶ月もずっと私が森の中をさまよい続けたのは、どうやらこの子たちのせいだったらしい。

「森の中央かー。妖精さんいっぱいいるのかな」

「いるよー! なかまいっぱい」

「せーれーもいる」

「そーなんだぁ。んー。じゃあ、案内お願いしちゃおうかな」

 軽い気持ちで、そう妖精さんに答えて。


 ……ものすごく、後悔することになった。

 ノクタ案件は回避できてるよねっ!? どこまで詳しくやるか迷ってさらっと書いちゃいましたけど。

 でもってルイくんの話その3あたりで終わるつもりでしたけど、微妙に長引きそうな気配……。

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