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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
閑話「空から何かがやってきた!」
110/228

「小さな恋のメロディ」 その1

 ルイくん視点のお話デス。

 ――小さいころから、違和感があった。


 自分が、本当は自分ではないのではないか、という不思議な違和感。

 微妙に説明しづらいのだけれど、正確に言うなら、本来の自分は、今の自分とは違っていたのではないかという感覚。

 その違和感は大きくなるにつれてだんだん大きくなって。

 初潮を迎えるにあたって、絶望的に私を打ちのめすことになった。

 十四年、一応、女の子として生きてきた、けれど。

 本当の私は、男の子だったんじゃないかって。

 そう思ったのです。

 ……あるいは、単なる中二病というやつなのかもしれなかったけれど。



 そんな不思議な違和感は、それから二年後、思わぬことで証明されることになった。

 ネットで見つけて、βテストにも参加したLROというネットゲーム。

 その正式サービスが稼働した日のこと。

「……え? それ、どういうことですか?」

 思わず問い返した私の前には、空中に浮かぶ小さな女の子の姿。髪の色は緑色、現実にはとてもいそうにない、不思議な姿。

 そんなかわいらしいLROのシステムコンパニオンオペレータ、通称シス子ちゃんのNo6、フェリシアちゃんは、ちょっと首を斜めにしてもう一度先ほどの言葉を繰り返した。

「ですから、正式サービスから始まったシステムで、性同一性障害の方は、プレイするアバターの性別を心の性に合わせることができるのですが、男性でアバターを作成しますか? とお尋ねしたのですけれど」

「……それって、つまり、私は本来、男性だったってことなんでしょうか?」

「あら、自覚なしとは珍しいですね。LROは別に医学的に判断をしているわけではないので、リアルでどう診断されるかはわかりませんが、こちらの規格ではあなたの魂は男性の物と判定されています。まあ、そんな可愛らしい姿で、男だーなんて自覚はなかなか芽生えないかもしれませんけどね。別に男性アバターも選択できる、というだけで女性アバターでも問題ありませんが、どうされます?」

「……」

 私は少し悩んだ。

 正直、葛藤はある。

 初潮により、自分が女だと強烈に自覚させられて、諦め、認めてしまっていた事実を。

 LROという架空のセカイの中では、もしかしたら忘れることが出来るのかもしれない。

 そう思うと同時に、所詮は架空のセカイでのことだとも思う。現実に戻ったときに、今以上に事実に押しつぶされることになるのかもしれないと思った。

 けれど。

 本当の自分になれるかもしれないという想像は、とても魅力的なものだった。

 だから、私は。


「――男性アバターでお願いします」


 そうフェリシアちゃんにお願いした。

 ……もっとも、お願いしてすぐに後悔することになったのだけれど。




「……外見そのまんまって、詐欺じゃないですかぁー! 嘘つきぃ!」

「えー、仕様です。悪しからずご了承ください。一応、骨格とか筋肉の付き方もちゃんと男性になってるんですけどね、あははー。ってゆーかあなた元が美少女過ぎなんですよ」

「あははー、じゃないですよ!? ううー!」

 ごまかすように笑うフェリシアちゃんを睨み付けて

 別に、カッコイ男の子の姿になることを夢見てたわけじゃないけれど。

 自分で言うのもなんだけれど、私の元の姿がかなりの美少女なものだから、男性アバターだというのにどう見ても女の子にしか見えなかった。

 リアルの服装がそのままLROでも反映されるので、まんま女の子の格好というのも追い打ちをかけていた。本当は私はズボンとか穿きたいのだけれど、私を着せ替え人形のように溺愛してくれる母は、スカート以外を許してくれないから、私は見るからに女の子という服しか持っていないのだ。

 これで男の子だって言っても、誰も信じてくれそうにない。

 ……こんななりでも、しっかりツイているのだけれど。

 これまで、どこか、何か足りないと感じていたそのあやふやな感覚に、明確に身体の中心に一本筋が通ったような安心感は悪くなかったけれど。

「だいじょーぶ。きっとどこかに需要はありますよ!」

「なんの需要なんですかぁ! 男の娘とか、誰得ですって。ううー。この格好じゃ結局、誰も私の事、男の子だって、思ってくれませんよねぇっ!?」

 案の定、フィールドに出た私の初期パーティの皆は、私を女の子として扱った。

 別に、せっかく男になったのだから女の子を口説いてみようとか思っていたわけではないけれど。身体が男になると、男にベタベタされるのが気持ち悪かった。

 ……正直、これなら女性アバターで始めた方がまだましだったかもしれないと思った。



 ファーストエリアが大森林エリアという特殊な場所だったこともあって、初期パーティの皆とはすぐに時間が合わず、別行動になった。セーブポイントがほとんどなく、ポータルも無いとあって、みんなβエリアに移動してしまったからだった。

 LROにおけるパーティというのは、ギルドやクランといったプレイヤーの集団に近い意味合いがあるので、時間や場所が合わなくてもそのままパーティを組んだままでいてもよかったのだけれど。

 ……パーティは私の方から抜けた。

 というか、あまりに自分の扱いがアレなので、パーティ会話で「私、男なんです!」とカミングアウトしたら、ものすごくパーティが微妙な雰囲気になってしまったのだった。

 それからは、ひとりで大森林エリアを歩いて回った。

 大森林エリアは、迷いの森エリアともいわれる幻想的な森で、とてもメルヘンな感じの場所だった。フィールドをうろつく敵対的なMOBもほとんどいないので、毎日ぶらぶらと散策して歩いた。綺麗で不思議で、ファンタジーな風景の中を歩くだけで楽しかった。

 ……プレイヤーにも滅多に会わないのだけは、MMOなのに少し寂しいとは思ったけれど。



 β特典で引いたカードは★2の魔法使いのジョブカードだったけれど、まったく使う機会もなく。

 LROってカードを集めていろいろやるゲームなのに全然ゲームしてないなぁって思いながら、森を散策するうちに。キノコからカードが出ることに気が付いた。

 これだけリアルな世界なんだから、お料理とか出来ないかなって思って色々森の恵みを採集したのがきっかけだった。確率はそれほど高くないけれど、キノコを取ったり、木の実を採ったりするとたまにLROのカードが出て来たのだった。

 涙族(ティア)のカードも、そんな風にして手に入れた。

 掲示板やwikiを見ても、まだあまり情報の出ていないカードだった。種族カードはそもそもレアだけれど、その中でもさらにレアなカードらしく。

 効果は以下の様なものだった。

 

 宝石体質:身体の一部が身体から離れると貴金属や宝石となる。

 神の愛せし姿:男女問わず美少女的な容姿になる。

 宝石の知識:貴金属や宝石の知識を得る。

 涙目美人:泣き顔がナチュラルに他人を引きつける。

 宝石魔法:宝石や貴金属を利用した独自の魔法を使用できる。


 二番目の効果が、見た目と性別が異なる言い訳にはちょうどいいかなって。

 私は涙族のカードをメインにすることにした。

 ……もちろん、容姿にさらに磨きがかかったことは言うまでも無かったりする。

 ううー。



 それは森の中で、不意に催したときのことだった。

 そんなところまでリアルにしなくていいと想うんだけど、このLROというゲーム、ゲームの癖に、ご飯食べたりお風呂に入ったり、おトイレにいったり普通にできるのだ。いつもなら、慌ててログアウトしてリアルでトイレに入るのだけれど。

 その日はなんとなく。

 かなりなんでも出来るけれど、このアバターってどこまで男の子なんだろうなーって、ちょっと思って。

 私は憧れの立ちションというやつをやってみることにしたのだ。

 本当はリアルで漏らしちゃったらどうしようかと、これまでLRO内で用を足したことはなかったのだけれど、その日はたまたま、そんな気分だったのだ。

 女の子だと、ティッシュとか持っていかないと後始末に困るし、流石に森の中でしゃがみ込んで用を足すというのは、周りに誰もいない状態であっても流石にちょっと、やりたくないのだけれど。

 男の子だと、ごそごそってちょっとぱんつをずらして引っ張り出すだけでおトイレ出来てしまう。いいよね、簡単で。

 さっそく、スカートをめくり上げて、ぱんつをずらす。

 スカートを穿いて立ちションというのもなんだかすごく倒錯的な気はしたけれど。

 しゃーとやり始めたとたんに、そんなことはどうでもよくなった。

 立ったまま、出来るって素晴らしい。思わず、ほーってため息を吐いちゃったくらい。

 なにより、森の中の解放感がすごすぎだった。

 すっきりした気分で、出したものをしまおうとして、ぷるんと揺すったら。

 私のそこを見つめる小さな視線があるのに気が付いた。

「って、よ、よ、よ、妖精っ!?」

 幻想的な森のなかで、そういうのが居そうだなーって雰囲気はあったけれど、これまで一度も見たことのなかった人型の生物。

 シス子ちゃんと同じか、ちょっと小さいくらい。三十センチくらいの翅の生えた裸の女の子が、ひよひよと空中を漂いながら、じーっと私のそこを見つめていたのだった。

「……え、あの、ちょっと。あわわ」

  いくら本当の人間と同じように受け答えするNPCだと言っても。結局のところはただのAIなんだろうと思っても。

 流石にそんなところをじっと見つめられるのは恥ずかしいのでそそくさとしまったのだけれど。

「ぴかぴか、もらっていい?」

 妖精さんは、そんなことを言った。

「……ぴかぴか?」

 言われて初めて気が付いた。

 私が初めての立ちションで森に振りまいたモノは、涙族のカードの宝石体質の効果で、宝石になって地面に転がっていたのだった。

「え。あの、えっと。……そんなのでよかったら、どうぞ」

 思わず頬をひきつらせて答えると。

 妖精さんは、にっこりと笑って「うひゃっほぅ!」って変な声を上げながら宝石をかき集め始めた。


 ……それ、私のおしっこなんだけどなー。

 ちょっと濃かったので黄色いトパーズ。

 複雑な気分だった。

 美少女と見せかけて実は男の娘! かと思いきやリアルは美少女っ!? とか自分で書いてて何を言ってるんだって感じですね……。その2に続きます。

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