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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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 8、「砂の民」

 現れた小さなちびねこ勇者ちゃんは、両手を上に伸ばしたまま腰を振って、うーうーうにゃうにゃー、とひとしきり踊ったあと。

「ふー。いい汗かいたのです」

 と満足そうに額の汗をぬぐった。

「うーん、”踊る仔猫”って感じ?」

 その様子に思わずつぶやくと。

「あ、こいつ西の街のお遊びダンジョンのNMじゃねーか」

 とレッドがつぶやいた。

「ほんまや、運営側のキャラだったんか?」

 バーンもちびねこちゃんを指さして声を上げる。

 どうやらちびねこちゃん、比較的有名なNPCだった模様。

「あ、ハナちゃんやっほ!なのです」

 ちびねこ勇者ちゃんは、そんな二人に目もくれず、ファナちゃんに向かって突進すると、ぎゅぐーと抱きついた。

「もう、ティア・ローちゃんってば」

 小さく笑ってファナちゃんがちびねこ勇者ちゃんを抱きしめる。

 美少女が仲良くしてるのってイイネ! ボクも混ざりたい。

「ん、ファナちゃんってこのちびねこちゃんと知り合いなの?」

「……え、うん。ちょっとね」

 ファナちゃんはちょっと口ごもりながらもうなずいた。なんか事情があるっぽい?

「うにゃうにゃ」

 ちびねこちゃんはファナちゃんに抱きついて頬ずり。

 ……なんか汗ふいてるだけの様にも見えるね。

「ま、人数そろったんならいこか。ってか、そんなちびっこで役に立つんかね?」

「お遊びダンジョンはなんか魔法的な補助があるからそんなナリでもやれたんだろうが」

 バーンとレッドがちびねこちゃんをなんだか妙な目つきでじろじろとねめつけている。

「むー。わたしはちっちゃくても勇者なのです!」

 ぴこん、とおみみとしっぽを立てて、ちびねこちゃんがどこからともなく丸めた新聞紙のようなものを取り出した。青いスモックブラウスの裾がしっぽでめくれてカボチャぱんつが見えた。かわいい。

「とーう、なのです!」

 地面を蹴って、いや、一瞬、足の下に何か板みたいなのが見えた気がするけど、とにかくいきなりちびねこちゃんが空中に飛び上がった。

 ねこみみの種族は身体能力に優れているのだろうか、小さな手足にはとてもそんな力があるとは見えないのに、ぴょーん、と身長の数倍の高さにまで飛び上がったちびねこちゃんが。

「にゃばん・すとらーっしゅ! なのです!」

 叫びながら手にした新聞紙を、逆手で横になぎ払うように振る。

 すると。

 少し離れた箇所の砂が、ずざざざ、と音を立ててなぎ払われた。

 剣の風圧だけでこんなって、すっごい。ふぁんたじーっぽいネ!

「わお、ちびねこちゃんすごいね」

「むふー。もっと褒めてもいいのですよ?」

 くるんと空中で一回転して、すちゃ、と地面に降り立ったちびねこちゃんが胸を張る。

 あんまりかわいいので思わず頭をなでてしまった。

 ……あ、お耳とかさわったらだめなんだっけ?

「にぅにぅ。なでるのがうまいのです」

 ちびねこちゃんが満足してるっぽいから大丈夫っぽい。おみみぺったーんてして、ごろごろ喉をならしてる。かわいい。すべすべなお耳のさわり心地もとってもいい。この子うちに持って帰りたいなぁ。

「……ていくあうとは可能ですか?」

 思わず抱きしめようとしたら、するりと手の中から逃げ出された。

「おもちかえりは不可なのです!」

 ちょっと残念。

「意外にやるなー、ちびねこ。戦力として期待していいんかね」

「にゃー、まかせるのです!」

 バーンに答えてちびねこちゃんが大きく両手を上げた。

「じゃ、いくぜー。時間がもったいねーし」

 レッドが言いながら、歩き始めた。

 いちいちリーダー気取りというか、仕切りたい感じの人だよね。

「あ、待って。最初にパーティ登録しておこうよ」

 ファナちゃんがレッドを引き留めて、シスタブを振って見せる。

「あん? βの時はパーティ登録とかそんなんなかったろ?」

 バーンが首を傾げる。

「シスタブでパーティ登録しておくと、離れた場所にいてもこのシスタブを通して通信できるんだよ。パーティ会話ってやつ」

「はー、新規機能なんか」

 ファナちゃんに言われるまま、全員がシスタブをくっつける。なんでか、ちびねこちゃんもシスタブを持っていた。NPCも全員こういうの持ってるのかな。

「リーダーはオレな!」

 やたらアピールするレッドが、ファナちゃんの指示にしたがってパーティ編成をした。

「じゃ、みんなよろしくね」

「おう、れっつごーだぜー!」

「みんなよろしくなー」

「頑張りましょうね」

「にゃーなのです!」

 そんな感じで、冒険が始まった。




「……で、どこに向かってるの? 道に迷ってない?」

 先頭を歩くレッドに尋ねる。

 あれから三十分くらいは歩いたけれど、周りは砂と岩ばっかりで何も目印になるようなものは無い。レッドは迷いなく歩いてるように見えるけれど。βの知識は当てにならないはずだし、どうやって進む方向を決めてるんだろう。

「しらん。適当にあるいてりゃどっかつくだろ? 迷うもなにもそもそも道がねーじゃん」

「えー、そんないい加減なー」

 ってゆーか三十分も移動してどこにもつかないって、ゲームなのにこの砂漠広すぎだよね。

「βんときは情報で回るまで最初5日ばかり草原をさまよったからなー。街道見つかるまでは何度も死に戻りしてなー、大変だったんよ?」

 バーンが、このくらいでへばってたらLROなんて出来んで?と苦笑するように笑う。

「……マジで?」

「マジやで」

 わお。街に移動するだけで何日もかかるとか、ふざけてるね!

「……ボク、ログアウト時間16時だから、そんな何日もとかできないよ」

「このゲーム、よくある小説とかみたいに加速時間とかないからなー。現実世界と基本的におんなじやから、ログアウト時間は最大の24時間に設定が基本やで? つかお前、いったんログアウトして設定し直して来れば?」

「その思考、廃人だと思う」

 四時間って、自分ではけっこうがっつりだと思ってたんだけどなぁ。

「あ、ログアウト時間の変更ならシスタブからできるよ」

 ファナちゃんが自分のシスタブをいじりながら言った。

「ここを、こう」

「ふむふむ」

 ファナちゃんも初期設定時間が短かったらしく、お手本として時間を変更して見せてくれた。

 ボクも自分のシスタブでもう少し時間を延長しておく。晩御飯は19時くらいでいいかな。

「……ファナちゃんってさ、妙にシステムに詳しいよね?」

 βの時にはシスタブとかってなかったみたいだし、βの知識ってわけではないっぽいけど。

「ん? え、ちゃんとゲームの取扱い説明書読み込んできたし、グレイスちゃんにもいろいろ説明受けて来たから」

 何でもなさそうにファナちゃんが答えたけれど。その中にちょっと聞き捨てならない言葉が。

「……取説って、そんなのあったかな?」

 ボクのLROの段ボール箱には、薄っぺらいコピー紙一枚しか入ってなかったんだけど。

「あん? あの電話帳みたいなの全部読んできたんか。ファナっちはすごいな」

「オレ、あの厚さみて読むの放棄したぜ? あれで殴ったら人殺せるだろ、って厚さだし。チュートリアルなんかどうせゲーム内でやるだろって」

 バーンとレッドの口調からして、彼らのセットにも取説はついてたっぽい。

「えー。ボクのには薄っぺらいコピー紙一枚しか入ってなかったよ?」

「……え?」

「にゃ?」

 なぜか、ファナちゃんとちびねこちゃんが顔を見合わせた。

「……それ、関係者向けの簡易セットだよ、たぶん。なにかの手違いかな?」

「そうなんだー」

 ってゆーか、なんでファナちゃんはそういうこと知ってるんだろう。NPCのちびねこちゃんと親しい所からみて、もしかして開発とか運営に近い立場の子だったりするんだろうか。

 例えば、開発者の人の家族だったりとか。

「グレイスちゃんにお願いすれば、たぶん取説だけでも送ってもらえると思う」

「ありがと、じゃ、今日ログアウトするときにグレちゃんに言ってみる」

「忘れないうちに、いまシスタブでお願いしておいた方がいいよ」

「うん」

 言われるがままにシスタブを見ると、画面端から警戒するようにこちらを見ていたミニグレちゃんが、「え?」という顔をしていた。どうやらこっちの会話もモニターしてるらしい。


≪大変申し訳ありませんでした。ただいま再送の手続きを行いました≫


 そんなメッセージが表示されて、ミニグレちゃんがぺこりと頭を下げた。

 かわいいのでミニグレちゃんの頭を指でなでなでしながら、ありがとねーとお礼を言う。




「しっかし、砂漠はきついな。ゲームだから現実より多少はマシなんかもしれんけど水筒とか持ち込めるわけじゃないしな」

 バーンが少し荒い息を吐きながら額の汗をぬぐった。

「βの時の草原は蒸し蒸ししてたけど、街道は普通に歩けたし、何より途中には川とかあったしな。はぁ、そろそろ休憩するか」

 レッドも流石に疲れてきたらしく、きょろきょろと周りを見回して大きな岩を見つけると、あの影に行こうぜと指さした。

 ファナちゃんは平気な顔をしていたけれど、飛沫族っていう人魚の特性を持っているせいか、大分つらそうに見えたので丁度よかった。

 あるいは影族の特徴だったのかもしれないけど、ボク自身は意外に暑いのが平気だった。フードも被ってたしね。

 みんなして岩陰に入ろうしたら。

「――そこを動くな」

 いきなり知らない、女の子の声がした。

「え」

 声の方を振り返ると、大きな弓を構えた裸の女の子が居た。黒い長い髪がさきっちょをうまく隠しているけれど上半身には何も身に着けておらず、そしてその下半身は。

「……蛇?」

 砂に半分埋もれるようにして、長い長い蛇のしっぽのようになっている。腰回りをわずかにふんどしみたいな布が隠しているけど、ほとんど裸みたいなものだ。

「蛇女? ラミアってやつか? こんなんいるんやな」

「ってか、おっぱいまるみえじゃん!」

 バーンとレッドが、木の棒を構える。

「――ナィアーツェは動くなと言った。聞こえなかったか?」

 切れ長の赤い目はこちらを威圧するようにじろりとねめつけて。ぎりぎりと手にした大きな弓がさらに引き絞られる。

「このひとって、モンスターなの?」

 攻略wikiに乗ってた種族に、蛇女とか居なかった気がする。

 あ、そういえばwikiには9種族しか乗ってなかったっけ? グレちゃんは12種族を元にしてシス子シリーズは12人いる、みたいなこと言ってたから残りの3種族のうちのひとつなのかな。

「ラミアみたいな種族とか聞いたことねーからモンスターだろ? 絡んで来たなら迎え撃つのが当然だろ」

 レッドが、適当に痛めつけて揉みまくるぜ、と不穏なセリフを言い放って木の棒を振り上げる。

「ほな、先手必勝や!」

 バーンが指を蛇女さんに向けて。これは魔法を撃つ仕草?

「めーなのです!」

 その手をちびねこちゃんに止められる。

「なんや、邪魔すんなよ」

「会話のできる相手は、人間と同じなのです!」

 抗議をするバーンに、ちびねこちゃんが怒ったように叫ぶ。

 レッドの方は、ファナちゃんが手首を押さえていた。

「絡んで来たら倒すのがセオリーだろ? なんで邪魔すんだよ」

 レッドも抗議をするが、ファナちゃんはがんとして譲らない。意外に力もちっぽい?

「ティア・ローちゃんの言うとおりですよ。こちらが勝手に彼女のテリトリーに入ってしまったのかもしれませんし。向こうが警戒するのも当然でしょう?」

 ファナちゃんもちょっと頬を膨らませて、蛇女さんに向かって両手を上げ、敵意がないことを示す。

「……」

 しかし蛇女さんは無言で弓を引き絞り。


 ――そして、矢が放たれた。

 ファナちゃんに向かって。

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