25、「日々是鍛錬!」
――翌日。
「アユム、朝ですよ」
「うん、ありがと、ゼノちゃん」
少し早起きして、カード構成を確認する。
今日は訓練場で、スロットを鍛える予定だからね。
最近はどうせスロット少ないからカード差せないし、ってカード手に入れてもろくに確認してなかったから、この機会にちゃんと確認しておくことにする。
壁の端末の前に座って、自分の持っているカードを表示させる。
えーっと。
ボクが持ってるカードは、まず初期カードの「スラッシュ Lv0」「魔法の矢 Lv0」「癒しの光 Lv0」の三枚。
これは今はシェラちゃんに差してるので使えない。
次がお詫び代わりのβガチャで手に入れた「影族 Lv5」。これもシェラちゃんが装備中。ボクがいつも使ってる「影族 Lv10」のカードは、女神ティア様からもらった「オールマイティ Lv10」を変化させたもの。
ナィアさんの迷宮をクリア?した時にちびねこちゃんからもらったのが「盗賊 Lv3」。でもってシェラちゃんをめぐるあれこれとかで称号がもらえて、グレちゃんからカードもらったんだよね。
”世界を崩壊に導かせし魔王”で「倍撃 Lv5」。これはシェラちゃんに差したまま。
”世界を崩壊から救いし勇者”で「コピースロット Lv5」。これのおかげてようやくスロットが2個使えるようになって楽になったんだよね。
”色欲の権化”は、なんかピンク色のカードで詳細不明。18禁要素があるってグレちゃんが預かるって持ってっちゃったんだよね。モザイクかかってたしね。いったいどんなカードなんだかー。
島エリアのゴッド・ジーラを倒した時の記念カードが「ゴッド・ジーラ人形」。いつの間にかゴッド・ジーラが正式名称になってたんだよね……。
でもってゴッド・ジーラのドロップ報酬が三枚。適当に放り込んでよく見てなかったけど。
今気が付いたけど、盗賊のカード、ボク2枚目もってた。しかもこっちのがレベル高いし。「盗賊 Lv5」だし。うわー。差し替えておこう。
それから「空歩き Lv5」? 名前からして空中移動系かな。
最後が「近接武器 (上級) Lv5」。近接武器のスキルがひとまとめになってるやつっぽい。
あ、そうそう。そのあとグレちゃんからゴッド・ジーラ退治の称号もらって、カードもらったんだよね。
"怪獣殺し"で「核撃 Lv5」。なんかヤバそうな感じ。使わない方がよさそうな感じするよねー。元が放射能怪獣なだけに。
リアルでの迷宮アトラクションでもらったのが「コラボ記念カード」。迷宮アトラクションでの見た目をLRO内で再現するカードらしいけど。絶対使わないからね! ボク痴女ちがうし。
……そういや、あのときのMVP報酬って何だったっけ。
あ、たぶん「魅了 Lv5」ってこれだ。
あとは島エリアのミッションとかで細々した「魔法の矢」とか「スラッシュ」なんかの★1がちらほら。合成しちゃったらからスロットに差せないのが困りものなんだけど。
ボクの今のスロットは、緑のLv10がひとつ。迷宮アトラクションの参加記念アイテムで緑のLv1が1個増えた状態。
緑のLv10をコピースロットで増やしているから、結果的に現状ボクが使えるのは緑のLv10が二つと緑のLv1がひとつ、ということになる。Lv10の方には「影族」と「盗賊」を差していて、空きは緑のLv1だけだ。
うん。バザー使えるかな。
Lv1のカードを何か手に入れないと、訓練場に行ってもやることがないよ。
とりあえず基本の「スラッシュ」「魔法の矢」「癒しの光」は入手しておきたい。島エリアのおかげで入手しやすくなってるからお値段もそこそこだと思うし。
酒場でイズミちゃんと合流して朝ごはんを食べた。イズミちゃんの話では、今日はちびねこちゃんとティアさまは来られないらしい。
「二人で迷宮に潜ってもよかったけど! 鍛えるにはちょうどいいわね!」
「……そうだねー」
なんだか嫌な予感がしたけれど、予定通り訓練場に向かうことにする。
「じゃあ、やろっか!」
「いやひとりでやるので、イズミちゃんは適当に遊んでて」
ボクはまず、とにかくスロットを鍛えないといけないのだ。
「えー。模擬戦やろうよ。いままであたし一人だったから模擬戦ってやったことないんだよね!」
「あとにしてー」
べたべたとまとわりつくイズミちゃんを振り払って、ダミー人形が設置された場所に行く。
スロットにはとりあえず「魔法の矢」をセットしてきた。細かいカスタマイズが出来るから、てっとり早くスロット経験値稼ぐにはこれが一番よさ気だったんだよね。威力は限りなくゼロに近くして、数を増やしてリキャストを短くしてあるのだ。
「まほーの、やややややややややややあー」
小さな、鉛筆の芯くらいの魔法の矢が、ぴぴゅぴゅぴゅぴゅん、と散弾のように飛び散って、ダミー人形を小さな穴だらけにした。
「うん、いい感じ♪ てーてーてー!」
続けざまに、撃ちまくる。撃って撃って撃ちまくる。リキャストを短くしたから思いっきり連打できる。ちょっとだけファナちゃんのトリガーハッピーな気持ちがわかったような気がする。
「もー。アユムったら、あたしとも遊んでよー」
「イズミちゃん邪魔。危ないから寄って来ないでー」
「そんな豆鉄砲ならあたっても痛くないしっ!」
「てい」
「あたたたたっ!? え、うそ、なんでぇ? ちょっと、どこ狙って。やん」
「全部一か所にあててるし?」
どことは言わないけどー。一か所というか正確には二か所だけど。
「いーやー! ぎゃー!」
乙女にあるまじき悲鳴を上げてイズミちゃんが倒れた。合掌。
影憑依状態でシェラちゃんやファナちゃんのカードを使うことが多いけれど、それなりに魔法の矢の使い方も慣れてるのだよー。うふふ。
半日魔法の矢を撃ちまくって、気が付いたらスロットが3レベルに上がっていた。
なんだかすごく上がりやすい気がする。それとも最初の方だけなのかな。
そう考えると、一番最初のスロットがLv10だったっていうのは、序盤は最悪だけれど結果的にラッキーだったと言えなくもない。
ファナちゃんとシェラちゃんが魔法よりだし、ボクは物理方面に寄せた方がいいんだろうけど、経験値効率的にはこのまま魔法の矢撃ちまくった方がいいのかなぁ。
でも今のままでスロットが解放されるとたぶん魔法の青スロットになっちゃうんだよね。となるとそろそろ「スラッシュ」とかに変えた方がいいのかな。うん変えてこよう。
拗ねて隅っこでいじけているイズミちゃんに声をかけて、いったんプライベートルームに戻ってカード構成を変える。スラッシュはあんまりカスタマイズできないけど、可能な限りリキャストを短くしておく。
訓練場に戻って、こんどはひたすらスラッシュ。スラッシュ。スラッシュ。
双剣のダブルスラッシュにしちゃうと影族の方になっちゃうので、片手に持って斬りまくり。
右手がだるくなったら左手に変えて切りまくる。普段はダブルスラッシュだから、両手それぞれで慣れておくといいと思う。
「はぁ、はぁ。やっぱ身体動かすと疲れるー」
魔法と違って自分の身体を動かさなきゃなので、どんどん体力が減っていく。
けど、ちょっと確認したら攻撃した回数の割にはスラッシュの経験値は多いっポイ。
物理系スキルは連打しにくいから、その分経験値が多めになってるのかもしれない。
がんばって、がんばって、とうとうその日のうちにスロットが5レベルになった。
新しいスロットは解放されなかったけど、これでまた新しい構成が試せそう。
ん? 魔法や物理スキル以外のカードだったら、どうなるんだろ。
ふと、そんなことを思ったのはプライベートルームでカード構成をやり直していたときのことだった。
確か、魔法を使うと青の経験値が入って、物理は赤の経験値が入る。その合計がスロット全体の経験としてスロットレベルが上がる、という仕組みなんだよね。
スロットの種類は赤、青、緑しかないけれど、カードには結構いろんな色がある。魔法系は青、物理スキル系は赤、補助系が緑、ジョブ系は紫、種族が金とか銀。あと、称号でもらったカードとかイベントでもらったカードは真っ白なのが多い。
「ふむー?」
残念ながらボクがもってるカードだと、種族の影族はLv10なので緑スロットLv5には差せない。
盗賊のカードには攻撃スキルがないので微妙? 紫ってことは赤と青両方に経験値入ったりするんだろうか。
そうすると……真っ白な「核撃 Lv5」くらい?
……すごくヤバそうな感じするんだけど。
お昼は魔法撃ちまくりで食べ損ねたので、晩御飯はしっかり食べた。
イズミちゃんは、夜には絶対お酒飲むマンらしく、ビールをぐびぐび飲んでた。見た目的に危ないんだけど。大丈夫なんだろうか。聞いたらヤバそうなのであえてイズミちゃんに年齢は聞かないけどね。
でもって、夜中にひとりで訓練場に行った。
それも、特別区域に。
上級のスキルや魔法を試す用に、周りに結界とか張られてる感じのところだ。
まあ。いちおう、LROのシステム上に存在するカードなわけだし。影憑依して、シェラちゃんの魔法とか使うわけでもないし。大丈夫だと思うんだけどね。
正直、嫌な予感がびんびんする。
けど、試してみたくてしょうがない。
うん。
大きく深呼吸して。
「かーくーげーきー!」
あ、これダメなやつだ。
スキル名を口にした時点で、もう、暴走といっていいぐらいの光と熱量が発生していた。
こんなの、迷宮とかじゃ、ぜったいに、使えないっ!
「わーっ!?」
ちゅどーん、って爆発音は聞こえなかったけれど。たぶんキノコ雲は上がったんじゃないかな。下手すると、いや下手しなくても訓練場は壊滅状態だと思う。街に被害が出てないといいなぁ。
灰も残さずに一瞬で燃え尽きたボクは、死に戻ったプライベートルームで深く息を吐いた。
「……ん?」
たった1回、核撃を使っただけだったのに。
ステータスを見ると、新しいスロットが拡張されていた。
それも。
「白い、スロット?」
――wikiでも掲示板でも見たことのない、真っ白なスロットが追加されていたのだった。




