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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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 7、「ちいさな勇者」

 青い空には雲一つなく、空気は熱く乾燥してチリリとボクの肌を焼く。

 見渡す限りの砂。あと時々大きな岩がゴロゴロ。完全な砂漠、というよりは石ころ砂漠って感じ。

「ほえー」

 寒いかな、と思って一応パーカーを羽織ってきたんだけどお日様を避けるのにフードが役に立ちそう。

 よいしょ、とフードを被ってまわりをぐるりと見渡す。

 背後を見るも、ボクが出てきたはずのドアは跡形もなく。

 ……いきなり、こんなとこに一人でほおりだされてもなー。

 んー、グレちゃんの意地悪だったりするんだろうか。セクハラしすぎのせい?

 ぼんやり考えていると、だんだん暑くなってきた。馬鹿みたいに直射日光浴びてる場合じゃないよね。あちこちおっきな岩があるしとりあえず影にでも。

 と、近くの岩陰を目指そうとしたら。

「――おーい、お前が三人目か?」

「え」

 不意に呼びかけられてちょっとびっくりした。よく見ると、ボクが向かおうとした岩陰にはすでに先客が居て、小さく手を振っていた。お日様がまぶしすぎて、よく見えてなかったみたい。

 なんかミリタリー風の緑色の服に身を包んだ男性と、ファンタジー系のコスプレのような安っぽい鎧を身に着けた男性。ふたりとも二十歳前後だろうか。明らかに浮いた格好をしてるところをみると、彼らもプレイヤーなのだろう。

「あー、どもー?」

 とりあえず呼びかけに応えて、ボクは岩陰に入った。まだお昼を少し過ぎたばかりでお日様は中天にあり、大きな岩だけれど影になる部分はあまり多くない。岩を背にして砂の上に座り込んでいた二人は、ボクの顔を見てなんだか残念そうにため息を吐いた。

「……遠目だとかわいい女の子っぽくみえたけど、男かよ」

「ち、残念なヤツ」

 しつれーな。そう扱ってほしいわけじゃないけどさ、いちおうボク、生物学上はおにゃのこなんだけど。間近で見てなんだ男か、はないよね。オトコノコみたいに見えることは否定しないけど。髪だってのばしたのに。むー。

「もー。初対面でいきなり変なこといわないでほしいなー」

 思わず文句を言うと、悪びれもせずに男二人はニカッとそろって笑った。

「ばっかおめぇ、冒険にヒロインを期待して何が悪いよ?」

「あーあー、お前が超絶美少女だったらなー」

「……にゃるほど。期待にそえなくてごめんねー」

 うん、確かにそれはボクも同意だね。むさくるしい男どもと冒険するよりはかわいい姫ちゃんと一緒に冒険したい。そもそも、運の悪さ?で影族なんて盗賊っぽいスタイルになっちゃってるけど、ほんとはボク、騎士みたいな恰好で魔法使いとか僧侶の女の子を守って戦うプレイをしたかったんだよね。騎士・姫プレイってゆーか。

「ところでボクのこと三人目とかいってたけど、どういうこと? 二人してボクを待ってたってこと?」

 尋ねると、男二人は首を斜めにした。

「あれ、お前、βテスターじゃないのか?」

 ミリタリー風の男がボクを上から下までじろじろ見ながらそう言った。

「ちがうよ」

 首を横に振ると、男二人はそろって顔を見合わせた。

「んじゃー、説明してやっか。流石にひとりっきりでこんな場所ほおりだされてもなんもできんだろ? たぶんβとか今日みたいな初日だけだと思うけどな、システム側で適当にパーティ組ませる仕組みがあるんだわ。だいたい4~6人くらいな」

 コスプレ男が偉そうに腕組みしながら言った。先輩風を吹かせたいらしい。

「ふーん。そうすると、最低あと一人は近くに現れるのかな?」

「たぶんなー」

「かわええおにゃのこ来ますよーに」

「がっつくとモテないよー?」

 ぐふぐふとキモチワルイ笑みを浮かべている男二人にアドバイス。

 ボクも人のこと言えないけどねー。




 ――それから数分。

「お、来たかな」

 ミリタリ男がつぶやいて指さした。

 見ると、先ほどボクが現れたあたりに小さな人影があった。

「……小さすぎない?」

 少し離れているけど、明らかに小さい。ボクだってあんまり背が高い方じゃないけれど、現れたのは小学生くらいの子供のようにしか見えなかった。

 そして、着ているのが白いワンピース。女の子っぽい。

「幼女キター?」

「ウハウハ」

「……このゲームっていちおうR15だったはずなんだけど」

 馬鹿みたいに興奮している男どもには付き合っていられない。

 ボクはその子を迎えに行こうと岩陰を出た。たちまち強い日差しに照らされてチリリと肌が焼ける。日焼け止めが欲しいな。

「ねえ、きみー」

 手を振りながら小さな人影に向かう。

「……?」

 こちらに気が付いたワンピースの少女が。

 ボクを見て、ニコっと微笑んだ。


 ――その微笑に、こころを奪われた。


 身長は120センチくらいだろうか。小学校の低学年くらいにしかみえない。

 髪は濃い緑色で、膝の裏あたりまで伸びている。瞳はなぜか虹色に輝いていて、くるくるとその色彩を変えている。整った顔立ちは、精緻な人形のようで。

「こんにちわ」

 その声は、天上に鳴り響く鐘の様に澄んでいた。

「――お願いします。ボクと」

 思わず少女の前に跪く。

 こんなに心惹かれる女の子が、現実に存在するだなんて思いもしなかった。いやここゲームの中だけど。

 だけど、もう、この子しか考えられなかった。

 影族として契約をするのは。

「ボクと、結婚してください!」

「ん、いいよ」

「やったー!」

 あれ、何か言い間違えた気がするけど。

 ボクは少女の背中にそっと手を回して。そのちいさなおとがいに手を添えて。

 そっと、その唇に口づけをした。

「……ん」

 契約の仕方って、初めてだしよくわからなかったけれど。確かに何かがつながった気がした。

「――いきなりだなんて、積極的なんだ」

 少し頬を染めた少女が、ぱちくりと瞬きを繰り返した。虹色に輝いていた瞳が、紅になる。

 人差し指を唇に当てて、そっと撫でる。

「……あ、しまった」

「どしたの?」

「ボクと契約して、魔法幼女になってよ。ってネタ考えてたのに。言うの忘れてた」

「あはは、面白いねアユムって」

 少女はおかしそうに、お腹を押さえて笑った。

「あれ? なんでボクの名前知ってるの?」

「グレイスちゃんが、要注意人物って、事前に教えてくれたよ?」

「グレちゃんめー!」

 プライベートルームに戻ったら抗議しないといけないね。

「オイお前、いきなりなにしとんの?」

「幼女独り占めとか、何してんだよ」

 いつのまにかミリタリ男とコスプレ男もやって来ていたようだ。

「あ、こんにちわ。えっと、バーンさんに、レッドさんですね。わたしはファナトリーアです」

 ファナトリーアと名乗ったワンピースの少女は、スカートの裾を持ち上げて二人に挨拶した。

「あれ? なんで俺らの名前しっとるん?」

 ミリタリ男が首を傾げる。

「グレイスちゃんに聞きました。四人パーティでわたしが最後です」

「そうなんだ?」

 んー? というかボクゲーム内でなんて名前にするかなんてグレちゃんに言ってないから、アユムのままで伝わっちゃってるのかな。むー。今さら別の名前も名乗りにくいなー。

「いやま、とりあえず自己紹介しとこか。俺はバーン。趣味は見ての通りサバゲーな。LROにはなんでか知らんけど射撃スキルがないんで魔法で遠隔攻撃する感じや」

 ミリタリ男がそう言って魔法の矢を撃って見せた。

「オレはレッド。鎧はコスプレ衣装だけど、ガチャで戦士当ったんでそれなりにいろいろやれるぜ」

 コスプレ男はダンボールで出来た鎧の胸を叩いて格好つけた。

 ふーん、職業のカードとかもあるのかー。

 詳しく聞きたかったけれど、たぶん順番的にはボクの番だよね。

「ボクはアユム。βテスターじゃないけど、お詫びってガチャ引かせてもらって影族(シエラ)やってます。強いて言うなら盗賊系なかんじ?」

「あん? その褐色のって色変えただけじゃなくて、影族のせいか。って、種族カードとかあんのかっ!? βじゃ人間しかやれんかったのに」

 バーンがボクをじろじろと見つめてきた。

「そんなにみつめないでー」

 男に見つめられてもうれしくないしー。

「さっきβテスターじゃないっていってたのに、なんでお前ガチャひいてんの? お詫びって何の話?」

 レッドがなんだか嫌な目つきでじろじろと見てきた。

「え、正式サービス前にLROに閉じ込められたことがあって。そのお詫びって」

「あー! お前スレで話題になってた迷子の子猫か!」

 レッドが腑におちた、とばかりに胸の前で手を打った。

「うん、その子猫です」

「子猫とか名乗るから幼女かともってたのに、男かよ。まあ、けっこうカワイイ面してるけどな」

 レッドが馴れ馴れしくボクの肩に手を乗せてこようとしたのを、すっと後ずさってかわす。

「……なんかお尻がきゅってするから、そんな目で見ないで―」

 うるうるモードで頬に拳をあててふるふるとかぶりを振る。

「オレはホモちゃうわー!」

「今のはお前がわるいやろ」

 バーンが裏拳でレッドにツッコミを入れた。




「あ、最後は改めて。わたしはファナトリーアです。飛沫族(スプラッシュ)とあと、癒しの光をセットしてきたので回復は任せてくださいね」

 飛沫族って、人魚みたいな種族だったっけ? ガチャ引いてるってことはファナちゃんもβやってたのかな。

「ところでファナちゃんいくつ? 小学生ってこのゲーム出来るんだっけ?」

 思わずファナちゃんの頭をなでなでしながら尋ねたら。

 ファナちゃんはぷうと頬を膨らませた。

「冗談でわたしに結婚を申し込んだんですか? わたしは十六歳です。現実でも結婚できる年齢ですっ!」

「マジで?」

 同い年だとは思わなかったよ。あ、でもボク早生まれだからこの時期に16歳だと学年はファナちゃんのが一個下かな?

「まーじーですっ!」

「いや、それ無理があるやろ」

 バーンがファナちゃんを見つめて言った。

「ほんとだもん」

 ぷうってふくれるファナちゃんカワイイ。さっきまで大人っぽい口調だったのにいきなり子供っぽくなってるし。

「まあいんじゃね? それより街目指して移動しようぜ」

 そう言って先頭に立って歩き出そうとしたレッドを、ファナちゃんが引き留めた。

「あ、レッドさん、ちょっと待って」

 シスタブを片手に、何か操作をしてる。

「どうかしたの?」

「ヘルプ条件を満たしてるから、お助けキャラが来るって」

「お助けキャラ?」

 ナニソレ。

「あー、砂漠じゃ仲間イベント発生しそうにないからか?」

「だよなー」

「そんな感じみたいです」

 β組はなんだかわかってるみたいでなんだか疎外感。

 仲間イベントって、そういえばwikiで見た気がする。最初の地点の近くで困ってるNPC助けたら仲間になるかも?ってやつだっけ。砂漠だとそういうNPCが近くに居そうにないからどこからかお助けNPCがやってくるってことかな。

「あ、なんか出たで」

 バーンさんが指差した先に、ドアが現れていた。ファナちゃんが現れたときは、ドアとか現れてなかったし、デイジーちゃんが現れたときに似てる。っていうことは、運営側のNPCがやってくるってことなんだろうか。

 がちゃり、とドアが開いてでてきたのは。

 ひょこん、と頭に生えた三角のおみみ。

 ちょこん、とお尻から伸びたしっぽ。

「ねこみみちゃん、キター」

 ボクがプライベートルームに閉じ込められた時に会った、ねこみみの子とは違うけれど。

「よばれて、とびでて、にゃにゃにゃ、にゃーん! なのです!」

 ドアから飛び出てきたねこみみの小さな女の子は。両手をバンザイするように上げて、ぎゅぐーっと横に身体を倒した。

「ちびねこ勇者、ティア・ロー! けんざん! なのです!」

 何か変身でもしそうな謎のポーズを決めて。

 ちいさな勇者が、むふーと息を吐いた。


 なにこれカワイイ。

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