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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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ぷろろーぐ

「……やっぱ、すっごく胡散臭いよね、これ。ほんとに送られて来るとか」

 ボクは宅配で送られてきたダンボール箱を前に、どうしたものかと腕組みしながら考えた。

「”あなたを異世界に誘うただひとつの機械”って、まさか、でも。ねえ……?」

 つん、と恐る恐る箱をつついてみるが、当然ただのダンボール箱はなんの反応も返しはしなかった。



 これまで研究機関や大型のアミューズメント施設のような場所でしか体験することができなかった、バーチャル・(リアリティ)。それがようやく市販のゲーム機でも体験できるようになったのはまだつい最近のことだ。

 ――とはいえ。

 市販されたVRゲームマシンなんて、せいぜいがゴーグル型のヘッドマウントディスプレイによる3D映像の立体視とヘッドフォンによる立体音響によるものであり、アニメやマンガ、小説などのように全身の感覚を置き換えるようなSFチックなシロモノなどではなく、そういうものはいずれ実現可能になるのだとしても、少なくともあと数十年、あるいは数百年は技術革新を進めなければ実現しないシロモノだろうということは、科学の知識などほとんど持っていないボクにだってわかっていた。

 ……わかっていたのだけれど。

 とあるネットの掲示板で見た、とある信じがたい書き込み。

 昨今売り出された、現在のコンピュータゲームの延長上に位置するVRゲームマシンとは一線を画した、まるで本当に異世界を訪れたような体験が出来るフルダイブ型のVRマシンがあるのだという。


 ――その名を、LROという、らしい。


 それはゲーム機の名前であると同時に、専用で遊べる「ホンモノのVRMMORPG」のタイトル「ルラレラ女神オンライン」の略称でもあった。

 そのゲームのうたい文句は”夢の異世界へようこそ!”。

 システム的にはいわゆる剣と魔法のファンタジー系のオンラインRPGに近い、らしい。らしい、と微妙な表現なのは、どうもウワサによるとそのLROにはゲーム的なシステムがほとんどないために、単純にオンラインRPGと呼んでもいいものかちょっと悩むところがあるからだ。

 なんでも女神ルラレラが創った異世界、という設定で、仮想世界にゲームとしてログインする、というより、現実世界の本人が、異世界にそのまま転送されるようなイメージなのだという。

 少しネットで調べただけで、βテストに参加したというその信じがたい体験をいくらでも目にすることができた。

 曰く、フルダイブ型VRゲームで、実際の身体を動かす感覚でアバターを操作できる。

 曰く、映像と音だけでなく、触感や匂い、味覚までもが再現されている。

 曰く、ここはもう事実上の異世界だ。

 曰く、ひゃっはー! ねこみみなでまくりだぜー!

 などなど。……最後のは置いとくとして。

 あくまでも体験できるものであって、証拠となるスクリーンショットのような画像は一切出てこないのだが、それでもこれだけの書き込みがあると流石に単なるネット上のウワサだとも思えなかった。

 なにしろβテスターが作った攻略wikiなんてものまでがいくつも乱立しているのだ。

 そのどれもが同じゲームについて記述されているのは間違いないようだったし、これだけの設定やデータをひとり、あるいは数人レベルで作れるものとも思えなかった。


 ――しかし。


 どれだけ調べても、ネットの検索で引っかかるのは基本的に掲示板の書き込みかブログの類であって、大手のゲームサイトやニュースサイトではまったくそのVRマシンの存在は引っかからなかった。それどころか、その編集者たちによるLROの存在を疑う記事が多々見られた。

 いくら調べても、LROの技術的な側面を肯定できる情報など見つかりはしなかった。

 だが、デマにしてはあまりにもその存在を肯定する書き込みは膨大で、仕掛けるにしても数千人単位でウソを書き込むというのはそれはそれで信じがたく、そちらのほうがむしろ現実的ではないと思えた。

 あるいは、単純にボクがその存在を信じたかっただけなのかもしれないが。

 半信半疑とはいえ、もし本当にこんなものが現実に存在しているのであれば、これはぜひとも試してみる価値はあるだろうと思った。

 ……そして。

 やっぱり、詐欺かなぁ?と思いつつも、あっさりたどり着いたそのVRマシンの公式の申し込みサイトで手続きを行い。

 通販でしか扱ってないってところがさらに怪しいよなぁと思つつも、クレジットカードによる入金を行い。

 思ったより高くないその値段に、だまされてもいいかなって思える程度の値段なところがまた微妙に怪しいよねぇと思いつつ、三日が過ぎ。

「どもー、お届けものでーっす」

 と軽い口調で変な制服を着た女性がダンボール箱を置いていったのが、つい2分ほど前のことなのだった。

 事前の情報で、この中に入っているのはゴーグル型のヘッドマウントディスプレイとヘッドフォンが一体化したような、市販のVRゴーグルと似たようなものであることはわかっていたが。

 しかし。……これ、ほんとに大丈夫なんだろうか。

 いまいち箱を開ける踏ん切りがつかずに、ボクは腕組みしたまま、送られてきたダンボール箱を眺めつづけていた。

 あれだけの人間が騒いでいるところを見ると、確かに何らかの強烈な体験をさせてくれるのは確かなのだと思うけれど。

 機械をつかった音や光による刺激によるコンピュータドラッグとか。異世界だって騒いでるのって、ドラッグで幻覚を見せる様なヤバゲなものだったりしないよね……?

 ダンボール箱には、シンプルにLROとプリントされているだけだった。

 LROはゲーム機の名前でもあり、遊べるVRMMORPGのタイトルでもあるので、ゲーム機自体を差す場合にはマシンのMを加えてLROMとして”エルロム”、単純にゲームタイトルを差す場合にはそのまま”エルアールオー”と呼ぶのが一般的らしい。

 そんなどうでもいいことを考えながら、ようやく意を決してダンボールにカッターの刃を入れる。

 なんにせよ、体験してみなければ始まらない。

 βテスターによると、ゲームというよりはVR技術を使って異世界を体験する、ということに重きを置いているらしく、あまりゲームっぽくはないという話だったけれど。どんな感じなんだろう。

 一度深呼吸をして。

 えいや、と意を決して、ダンボール箱を開ける。

 すると、むき出しのまま梱包財で包まれたヘッドマウントディスプレイが出てきた。

 製品用の箱とかに入っておらず、むき出しってところがまた胡散臭い。中国とかで作ってそうだよね……。爆発したりしないだろうなー?

 同封されていたのはコピー機で印刷されたと思われる、紙一枚のぺらぺらな取り扱い説明書。

 ……ええっと、時計の時刻あわせの仕方とサイズ調整の仕方みたいなのしか書いてないな。

 あとは家電につき物の注意書きの類が細かい字で書かれているだけのようだった。

 VRゴーグルから直接ACアダプターのコードが延びており、たぶんこれをコンセントに差すんだろうけど……ほかにネットにつなぐ回線とかついてないんだけど大丈夫なんだろうか。

 穴が開くほど説明書を見てみるが、他にはどうやって使えばいいのかすら書いていない。

 ゴーグルにスイッチらしきものはついているから、まあたぶん、電源にコンセントを差し、頭に装着し、ベッド等に横になり、スイッチを入れるって感じでよいと思われるんだけど。

「……そういや、LROMを解体したとかいう否定派のブログには、ゲーム機能すらついてない、ただの目覚まし時計のついたゴーグルだとか書いてあったような」

 ……まあ。だまされたならだまされたでいいか。

 試してみるだけならただだしね。VRマシンはただじゃなかったけどっ!

 細かな注意書きにまで目を通すと、始める前にトイレ等は済ませておいた方がいいようだったので、トイレに行って用を足し、枕を整えて抱きつきうつ伏せになる。

 ごっついゴーグルつけたまま寝っころがると、起きたときあちこち痛くなりそうだが仕方ない。

 まあ、気を取り直して。

 さあ、れっつ、ぷれい!

 ぽちっ、とゴーグル横のスイッチを入れる。

 とたんに、ブーンという低い機械音がヘッドフォンから流れてきた。

 チカチカ、っと短く光が明滅して、そういえば起動直後は目をつむってた方が良いって書いてたなと思い出して強く目を閉じる。しかし、強い光はまぶたを通してチクチクと網膜に突き刺さってくる。


 ――目を閉じているのに。まるで、夏の夜空でも見上げているような気分だ。


 キラキラとまたたく、満天の星空のような。

 ボー、ボー、っと船の汽笛のような低い音が数回ヘッドフォンから聞こえて来て。

 次の瞬間。


 ――ぶつん、とブレーカーでも落ちたかのように真っ暗になった。




「……ん」

 いつのまにか、眠ってしまっていたのだろうか。気が付くとふかふかと何か、暖かくてやわらかい物に包まれているような、とてもよい感触を全身に感じていた。

 なんだか、お風呂でぷかぷか浮かんでるみたいだ。

「あれ……?」

 だんだんと、意識がはっきりしてきて。

「ゴーグル、被ってない?」

 顔に手を当て、寝る前に装着したはずのVRゴーグルがどこにもないことに気が付いた。

 それに、このやわらかいのは。ボクのお気に入りの低反発素材を使った抱き枕とは違う。

「うえっ!?」

 思わず起き上がろうとして、伸ばした手が柔らかいものにずぶりと沈み込む。

「なにこれ」

 気が付くと体半分、ぶよぶよとした白い半透明なゼリーっぽいものの中に沈み込んでいた。

「うわ」

 なんだこれ。表面はしっかりとしてるのに、柔らかくってどこまでもへこむ感じ。

 うまく起き上がれない。つるんと滑って踏ん張りがきかない。

 なんとか寝返りを打って仰向けになる。身体をくの字に曲げておしりをうーんと突き出すと、ようやく上半身を半分ほど起こすことができた。

「よいしょー」

 そのまま胡坐をかくように足を組んで重心を変えると、起き上がりこぼしのようにふわふわの上で起き上がることができた。どうやら、バランスボール的な丸いボール状の物体にボクはとらわれているようだった。

 柔らかくも弾力のある謎の物体は、強く推すと柔らかくへこむくせに、不思議なことにあまり力を入れないでゆっくり押すと、逆に硬く反発するようだ。ゆっくりと手をついて、えい、と謎ボールの上から降りる。

 すると。僕が降りた瞬間に、しゅるん、と謎ボールは床にすいこまれるようにして消えた。

「……いったい、なんだったんだろう」

 なんか、ゲームで出てくるスライムみたいな感じだったけど。

 白い床に立ち、ぐるりとまわりを見回す。

「……って、え?」

 床も、壁も、真っ白だった。六畳間くらいの大きさだろうか。

 ボクは、真っ白で殺風景な部屋にいた。

 ……ここ、どこなんだろう。

 ボクは、途方に暮れた。

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[気になる点] >「どもー、お届けものでーっす」と軽い口調で変な制服を着た女性がダンボール箱を置いていった 今読み始めていきなりながら「?これ女神だよね?」と思ったけどどうなんだろう(笑) 正直、後々…
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