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異世界転生とチート

 「どうしてこうなった……」


 最初に浮かんできたフレーズは喜怒哀楽や感情では言い表せないそんなものだった。

 呆れて物も言えないなんてことはなく、かといって悲観にくれるようなこともなく。そんな一言だけが俺の口からこぼれた。



 というのも、二人目の転生者があまりにも規格外過ぎたからなのである。

 転生者一号、市杵島一馬を転生させる際に能力の付与を忘れる、というミスをしでかした女神様が今度こそはと迎えた二号さん。

 この二号さんに与えられた能力が規格外だった。


 何一つ与えられないまま異世界へと転生させられた一号さんは、子供のゴブリンに太刀打ち出来ないという有様だったので二人目にはそんなことはないようにとしっかり神からの授け物を付与したらしい。


 しかしそこはドジっ子として一家言ある女神、ソフィちゃんである。

 本来一つでいいはずの『チート』なるのもを片っ端からセレクトしたそうだ。


 チートとやらは一つあればそれだけで十分魔王に立ち向かえるような代物らしく、女神様曰く無限の魔力だとかガード不可の魔法だとか、とにかくすご過ぎる能力のことをそう呼ぶらしい。なにそれ、ずるい。


 そんなチートが十も二十も与えられたのだからさあ大変、かつてないほどの猛威を振るい出した。

 なんでも彼女ーー双葉二亜ふたばにあーーは生粋のゲーマーとやらで、一刻も早くチキュウへ帰りたいらしく(魔王討伐の労いとしてもう一度チキュウへ還ることができるとソフィちゃんが言った)、町のクエストなぞには目もくれず打倒魔王に向けて冒険を始めた。


 俺たちも同伴することになったが、行く先々で彼女に与えられたチートの数々を目にすることとなる。

 尽きない魔力、振るわれる豪腕、その拳は岩をも砕き、一太刀振るえば山すら割れると称えられた。

 まあ、群がる雑魚に対して(彼女曰く「全て変わりなくザコ」らしい)片っ端から魔法をぶっ放しているだけなんだけど。なんなら、一太刀も振るってないけれど。


 そんなこんなで一月も経たないうちに北の果て、魔王城まで辿り着いてしまった。

 噂では百階建てになってるだとか、魔王を守る四天王がいるだとか、まことしやかに聞いたものだがそんなことはなかった。


 人類の建てる城となんら変わりなく、ただ黒一色バージョンなだけだった。

 幾重にも縛られた鎖の門だけが異様ではある。


「ふんっ‼︎」


 しかし、その頑丈そうなつくりも彼女の放った爆発系魔法の前では灰塵と化す。


 城内へと進入するとだだっ広い部屋の奥に玉座らしきものが見える。

 その豪奢な玉座に鎮座する人物が徐に立ち上がった。


「はぁっ‼︎」

「なっ⁉︎ ちょっと待っ‼︎……」


 ように見えたのは幻だったのかもしれない。

 こういった場面では名乗りを上げるのがお約束だったのだろう。しかし、魔王が「我が名はーー」と口を開いた途端、双葉ニ亜の「待ってられない」とでも言わんばかりの雷撃による先制攻撃が遮った。魔王よ、君の名は?


 その後も続くありとあらゆる魔法は、チートの限りを尽くしたかのような大技のオンパレードのようだ。メギドやユミルなぞ比べるべくもないくらいの炎氷雷織り混ざった魔法が人類の敵を襲う。その一方的な殲滅戦は、本来魔王が行うはずのものなのだろう。立場が逆転した人類の圧倒的勝利の光景に数瞬、心がついていけなかった。


 長年の夢、魔王討伐を成し遂げたはずなのに俺とシャルはしばらく憮然として、意気揚々と帰ろうとする双葉と何故か付いて来ていた市杵島の後に従い帰宅の途についた。


 ***


「……ねえ、こんなことってある?」

 草木も眠る丑三つ刻。憂な目をしたシャルが訊いてきた。

「まあ、いいんじゃねぇの? 魔王は討伐できたんだし」

 そうだ、確かに魔王は討伐された。

 女神様に連れられ、チートなぞという恩恵を授かり、俺たち二人の、いや、人類の願いであった魔王討伐を転生者二号、双葉ニ亜がこともなげに成し遂げた。

 だというのに、シャルの表情は曇ったままだ。


「……そうじゃない。本当は分かってるでしょ?」

「……ああ、だよなぁ」

 冗談はなし、と目で語る彼女に俺も本音で返した。

 本当のところ、納得はいってない。

 いきなりやってきたチキュウのニホン人とやらが神から与えられた力で苦もなく魔王を屠るだなんて。

 これまでやってきたおれたちの努力や苦労が報われないどころかむしろ初めから必要がなかったなんて。


 初めこそ双葉ニ亜や女神様に感謝はしたものの、やはりどこか釈然としないものがある。

 魔法すら存在しない世界の者に助けられた。ポンコツ女神によってチートなるものを与えられし者に。

 その事実は胸の中にもやをつくって晴れないどころか、その翳りを増していく。


「乗り込んじまうか、チキュウとやらに」

「……なに、どういうこと?」

 突然の提案にシャルが目を丸くする。


「今度は俺たちがチキュウのニホンで好き勝手やってやるんだよ。あっちの世界には魔法は存在しないみたいだしチートと似たようなもんだろ」

「……でも、どうやって?」

「シャルの『リプロダクション』で女神が使っていた転生装置を模倣すればなんとかなる」


 やり返してやるんだ、俺たちの気が済むまで。


 その言葉を聞いてシャルがすぐさま転生装置を描き上げ、顕現させた。

 二人して光の粒子に包まれながら心の中で宣言する。


 首を洗って待ってろよ。今度は俺たち異世界人の番だ。

当初の予定とは違いますが、完結しました。

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