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スライムスレイヤー

新しい魔法が登場します。

 女神様が「次の転生者を連れてくる」と言ってから俺たちはまたあの平地に来ていた。

 シャル曰く「……この無能を鍛えるからには1分1秒も無駄にできない」からだそうだ。

 俺としては2号さん次第で1号さんの面倒をゆっくり見れると思っていたのだが、シャルに半ば強制されて1号さんと3人でトレーニングをすることと相成った次第である。


 しかし、適当な敵を見繕って戦わせるのが早いとシャルが提案したので早速来てみたものの、平地なんてそうそう上手く敵に出会える場所じゃない。町が近いために雑魚はおおかた駆逐されてしまっている。

 どうしてもと言うならば奥へ進むしかない。俺たち3人は平地の先、タピオの森へと入って行った。


「そんで、戦わせんのはいいけどさ。まずはなにからいこうか?」


 転生者第一号ーー市杵島いちきしま一馬かずまーーを先行させながら、後ろを2人でついていきつつシャルに訊いた。


「……正直なんでもいいけど、そう、最初はあれなんかいいんじゃない?」


 興味無さそうにシャルが指さした先には緑色のゲル状の生物がいた。


 周りの色ーーこの場合は草木の緑ーーに同化し、ニュルニュルと這いながら動く気持ちの悪いモンスター。まさしくスライムだ。中央にぽっかり空いた穴が口で、その口を大きく開けて捕食しにくるがたいして速くもないため雑魚としか言いようがない。

 なるほど、これなら転生者さんでも大丈夫そうだ。まだ魔法は教えてないが(シャル曰く「……実戦で学ぶしかない」らしい)ゴブリンの時と同様に剣は持たせてある。


 前は、彼に戦う気がないままシャルが無理矢理突っ込ませたために、あの情けない結果になってしまったのだ。今回は彼自身に訓練だと言い聞かせてあるので二度もてつを踏むことはあるまい。


 そう思って自由にやらせた結果。


「ゴボッ、ガボゴボッ……た、たすっ、け、ゴボボッ……」


 まんまとスライムに取り込まれてしまった。


 そりゃそうだ。大して重くもない剣を振りかぶっておっちらえっちら近づき、ゆっくりゆっくり振り下ろそうとしたところでスライムにパックンチョ。当然である。


 スライムは確かに雑魚だ。されとてモンスターであることに変わりはない。いくら遅いとはいえスピードで劣れば先手を打たれる。今回はそれを知る良い経験になったのではなかろうか。


「つか、これどうしよう。俺のメギドで燃やしてもいいんだけど、それだと転生者さんも巻き添えになるしなぁ」


 もがもがと藻掻く転生者さんをどう助けるかで悩んでしまう。

 『メギド』とは炎とも呼べない小さい火球を生み出す魔法なのだが、このまま放てばスライムを燃やした後に焦げ焦げになった転生者さんがひとつ転がることになる。


 魔法を身を以て知ってもらおうか、とも考えたが指導する側として一撃喰らわせてしまうのもどうなんだろう。

 いやはやさてさてどうしましょう、と思案しているうちに転生者さんの最後の空気が吐き出されて動かなくなってしまった。本当どうしよう。


「……なに考え込んでるの。もういい、私がやる」


 いつまでもだらだらと悩んでる俺にしびれを切らしたか、スライムごときに歯が立たない転生者さんにイラッときたのか、シャルが一歩前へ出て戦闘態勢に入った。


「……すうー、……はあー、……」


 浅い呼吸を繰り返し、彼女は一冊のスケッチブックを広げなにやら絵を描き込んでいく。

 真剣な表情で一心不乱に、されど焦るような様子はなく、紙面いっぱいに迷いなく描き上げたるは一丁の小型銃。


 王国の衛兵がよく使うマスケット銃をイメージした、と以前に聞いたその銃はどうやら忠実に再現したわけではないらしく、けんで撃ち出すタイプのようだった。


 完成したのちに浅く息を吐き、ペンを離してシャルが指で触れた途端、二次元えのなかの小型銃は三次元こちらの世界に召喚され、シャルの右手の中に収まった。


 絵に描いたものを現実の世界に再現させる。これこそが、女神を袖にし転生者をそしった彼女の、シャルロッテ固有の魔法『リプロダクション』。


 彼女は自ら造った拳銃を右手に持ち、銃口とともに碧の鋭い眼差しをスライムに向けて二、三度引き金を引いた。


 そういえば弾薬の類は絵に描いていなかったと気付く。ならば、なにを詰めたのだろうと弾丸に目を凝らせば、氷のつぶてがスライム目がけて突き進んでいるところだった。


 おそらくは氷の魔法『ユミル』を弾薬代わりにめたのだろう。

『ユミル』とは対象の熱を奪い凍らせる魔法だが、凍らせた後で自由に動かすことはできない。それをシャルは、空気を凍らせて氷弾を作り弾薬の代わりとしたのだろう。


 やがて、飛来する礫はスライムの体を貫いていく。そのうちのひとつがスライムの核を穿うがった。


 人でいうところの心臓であるその部分は、スライムにとって変色で隠せているつもりでもこちらに隠し通せていない。少し青みがかっているから分かりやすいのだ。これもまた、スライムが雑魚と呼ばれる所以のひとつである。


 核を貫かれたスライムは転生者さんを吐き出し、みるみるうちに萎んで十分の一ほどになった。


「俺だとこうはいかないよな。お見事」


「……別にこれくらい普通」


 素直に感想を述べたのだがそれがシャルには照れくさいらしく、そっけない態度でそっぽを向いてしまい顔を見せてくれない。


 いやしかし、実際俺だと同じユミルを使っても上手く転生者さんを助けることはできないのだ。スライムごと転生者さんをもフローズンしてしまうに違いない。

 他にも様々な属性の魔法が存在するが、どれにしろ巻き添えにしてしまう結果になることに差異はない。

 剣のひとつでもあれば違ったが、それは転生者さんに渡してしまっていた。


「それで、スライムはシャルが倒したわけだけど……あれはどうするよ?」


 いつまでも褒めていてはシャルの顔がどんどん離れていく気がしたので、顔を背けたままだったシャルに転生者さんの方を指し示す。


「ううっ、お腹がものすごく、痛いです……」


 そちらを見やれば、助けられたはずの転生者さんはスライムのゲルまみれになりながら、脇腹をおさえて悶えていた。

 スライムは捕食した相手をゆっくり溶かして吸収するので直接ダメージを与える術は持たない。

 ならば、心当たりはひとつだけ。


「多分、ユミルの一発が当たったんだろうけど……」


「……うん、狙った」


 疑いの眼差しを向けると、悪びれる様子もなくシャルは平然と供述した。

 今、狙ったって言ったよなこの子。隠しもせず。

 言い間違いか、とシャルの表情を窺っても口が滑ったわけではなさそうだった。


「いやいや、なんで。助けるんじゃなかったのかよ。 」


「……助けるなんて言ってない。私がやるって言った」


「はあ、さいですか」


 俺が転生者さんを巻き添えにせずにどう助けるか悩んでいたというのに、こちらの意を斟酌することもなく掃射した彼女は心なしか「だまされたな?」とでも言いたげなドヤ顔を浮かべていた。


 加えて薄い胸を張って踏ん反り帰ろうとするシャルだったが、張るほどの胸がないことに気付いてすぐに元の姿勢に戻るその様は、もはや憎たらしさを通り越して愛おしい。


 大丈夫! まだ諦めないで! まだ可能性は残されてるよ! と励ますと、シャルはたいそうお怒りになり渾身の右ストレートを顔面にくらわせてきた。



「ぐおっ‼︎」


 会心の一撃に顔をへしゃげさせながらも今ので俺はひとつの結論に行き着いた。

 普段のシャルならば百発百中の腕があるにもかかわらず、転生者さんに銃弾を浴びせたのはやはり転生者さんに苛立ちを覚えたからなのだろう、と。


 先ほど少しからかっただけで本気のグーをお見舞いしてきたことからもこの説で間違いないと思う。

 魔王討伐の切り札として呼ばれた彼がスライムごときに躓くのはシャルにとって良い気がしなかったのかもしれない。

 それなら仕方ないな、と納得してしまうあたりシャルちゃんに甘々などうも俺です。


「バージェスさん、肩貸してもらってもいいですか……」


「悪い。スライムまみれになんのはごめんだわ」


「そ、そんなぁ〜……」


 まあ結局転生者1号、市杵島一馬の特訓にはならなかったわけだが……俺たちここになにしにきたの?


 魔王討伐どころか雑魚相手に負けちゃう転生者さんと、スパルタのくせになにひとつ教えてあげないシャルを見る限りでは、うん。やはり2号さんに期待するしかないと思いました次第ですまる。

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