ゴブリンに泣かされるとはなさけない!
初投稿作品です。何卒ご容赦を。
2話で女神が、5話で2人目の転生者が登場予定です。
町から外れたところにある名前もない平地に今、一人の男と数匹のゴブリンが戯れていた。
「ごぶー!」「ゴブー!」「GOBU−!」
「ぎゃあああ‼︎ 痛い痛い痛い‼︎ やめて‼︎ 誰かたすけて‼︎」
いや、正確には一方的に男が痛めつけられている。
ゴブリン数匹に囲まれた男は地に転がり、頭を守るように手をやり、身を丸めてされるがままの状態になっている。
その光景を俺ともう一人の仲間は助けにも入らず、ただただ見守り続けていた。
男とは見知らぬ仲というわけでもない。もとより、誰であろうと助ける道徳心は持ち合わせているつもりだ。だが俺たちは助けない。
なぜ助けない? と問われるのは至極当然だが、助けない答えも至って簡単だ。
男をタコ殴りにしているゴブリンたちがあまりに小さいからだ。棍棒の扱いにようやく慣れたぐらいのまだまだ幼き子ゴブリンたち。この平地を含めたこの町ーーバーミンフォードーーに住む普通の冒険者ならばいちいち狩ろうとも思わない雑魚共に、一人の男がボコボコにされる様はなんともシュールである。
しかし、飽きずに見ていられるかというとそうでもない。次第に、男のみならず俺たち人類がバカにされているような気がしてきた。ゴブリンたちからしてみれば「なんだ、人間とはこんなものか」と思っているかもしれない。
そう思い始めると、喜色満面で棍棒を振るう彼らが俺にはまるで世間知らずのガキ共に見えてくる。
俺はガキが嫌いだしゴブリンも嫌いだ。その2つが合わさったガキに見えるゴブリンなら答えは1つ。
「メギド」
ゴブリンたちに向けた俺の手から小火球が生み出され、全てのゴブリンに飛来した。
「ぎゃぁ⁉︎」「ギャァ⁉︎」「GYAA⁉︎」
第三者からの突然の攻撃に防御も回避もできなかったガキゴブリンたちは、喚きながら燃えて灰になった。男にはどうやら燃え移っていない。
つーか、普通に悲鳴とか上げんのね。最後までゴブゴブ言えよ。どうでもいいけど。
「うう、痛い。痛いよぉ……」
ゴブリン退治が終わり、体の怪我はどうかと男の方を見れば、未だにうずくまって痛い痛いと泣いていた。
この男と以前話した時に歳は17だと聞いていたが、今の戦闘を見た限りでは疑わしいものがある。
ゴブリンにやられて全身はボロボロ、服もズタズタ。終いには涙もぽろぽろ流す始末。これで17なら笑いなんか通り越して本気で将来を心配されるレベルだ。
「大丈夫かよ、ほら」
歩み寄り手を貸してやると、泣き止みかけていた男が俺の手をとりよろよろと立ち上がった。
「あ、ありがとう。すっごく怖かった……」
そしてすぐにまた泣き始めてしまう。仕方なくおーよしよし、と背中をさすってやっているともう一人の仲間の顔が不機嫌なものに変わっているのが見えた。
「……これが噂に聞いた『転生者』? 弱すぎて話にもならないんだけど」
ウィスパーボイスで遠慮も配慮も含まない感想を口にする彼女。
ーーシアンのチュニックから覗かせる肌は色白く、可憐な印象を抱かせる少女だが、ベルトに携えた鈍く光るダガーナイフと銀髪の下に見える深い碧の瞳が鋭く、ただ可憐なだけではない戦士を思わせるーー
その銀髪の隙間から覗く碧の双眸が針のように鋭く男を射抜いていた。
「まあ、そう言ってやるなよシャル。ほら、転生者さん泣いちゃうから」
せっかく止まりかけていた涙がシャルの一言で溢れ出してきてしまい、わんわんと泣くようになってしまう。
いつまでも泣かれるとさすがの俺も困る。男の涙なんぞ誰がみたいものか。
まったく、ゴブリンに泣かされるとは情けない! と叱ってやっても良かったが、余計に泣かれてもアレなので背中をさすりさすりしながら話を変える。
「記念すべき転生者第一号なんだからもう少し優しくしてやってもさぁ」
「……それが無能で無様で無価値でも?」
「そうそう、無能で無様で無価値でもって……あっ」
「うわあぁぁーーー‼︎」
フォローするつもりが口がすべり、転生者さんは大号泣してしまった。
いわゆるなろう系のような異世界転生モノを否定したいのではなく、肯定派です。そこのところよろしくどうぞ。