プロローグ
なろうでは消すに消せないので諦めていますが、このプロローグは読まずに一話へとお進み下さい。
俺たちは名もない平地に来ていた。
一人の少年を鍛えるためにである。
適当な敵を見繕って戦わせるのが早いと仲間が言うので来てみたものの、平地なんてそうそう敵に上手く出会える場所ではない。
なので俺たち三人は平地の先、タピオの森へと入っていった。
するとすぐに敵とエンカウントする。
草木と同化しているゲル状のモンスター、スライムだ。
これくらいなら少年にも倒せるだろう、と剣を持たせて挑ませる。
しかし、
「ゴボッ、ガボゴボッ……た、たすけっ、ゴボボッ……」
まんまとスライムに取り込まれてしまった。
そりゃそうだ。大して重くもない剣を振りかぶってえっちらおっちら近づき、ゆっくりゆっくり振り下ろそうとしたところでスライムからパックンチョ。当然である。
「どうしよう」
スライムは確かに雑魚だ。炎系の魔法を放てば軽々と倒せる。
しかし、その身に少年を取り込んでいるためおいそれと攻撃するわけにもいかない。
スライムは倒せてもその後に丸焦げになった少年が一つ転がることになる。
しかししかし、倒さないというわけにもいかない。
魔法の威力を身を以て知ってもらおうか、いや助けたいのに巻き添えにするのもどうだろうか。
いやいやはてさてどうしましょう、と思案しているうちに少年の息が吐き出され動かなくなってしまった。本当どうしよう。
「……なにやってんの、もういい」
いつまでも悩んでいるふりをしていたら、女子の仲間が戦闘態勢に入った。
浅い呼吸を繰り返し、彼女はスケッチブックを広げてなにやら描き込んでいく。
真剣な表情で一心不乱に、されど焦るような様子はなく、描き上げたるは一丁の小型銃。
絵が完成した後に浅く息を吐き、彼女が指で触れた途端絵の中の小型銃が外の世界に召喚され彼女の手中に収まった。
二次元に描き上げた世界を三次元に再現する彼女特有の魔法『リプロダクション』。
彼女は自ら創造した小型銃をスライムに向けて引き金を三度引いた。
弾薬はなにを使ったのだろうと目を凝らすと、銃弾が凍っているのが見えた。おそらく氷の魔法『ユミル』を使ったのだろう。
やがて飛来する弾丸がスライムの体を貫き、そのうちの一つがスライムの核を穿った。
核を貫かれたスライムは少年を吐き出し、みるみるうちに萎んで一〇分の一ほどになった。
「お見事」
「……別にこれくらい普通」
素直に感想を述べたのだが照れ臭いらしくそっけない態度でそっぽを向かれる。
「ううっ、お腹が痛いです……」
声がした方を見れば、助けられたはずの少年がスライムまみれになりながら脇腹を抑えて悶えていた。
軟体生物であるスライムが打撃を行うはずがないのにどうして腹を抱えているんだろう?
「すみません、肩貸してもらっていいですか……」
「悪い。スライムまみれになんのはごめんだわ」
「そ、そんな〜……」
少年を鍛えるために来たというのにその少年はダメージを受けてうずくまるだけ。
反対に、仲間の彼女はわずかながらドヤ顔を浮かべていた。
あれ、俺たちここになにしに来たんだっけ?