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オレは魔王を斬り捨てた

 異世界に転移し、魔王様の協力者となってから二日が過ぎた。


 この二日間は、溢れる好奇心や色々を我慢し、朝から晩まで魔王様と話し合いをしていた。

 もちろん議題は、猫を召喚し一緒に暮らすことについて。

 特に、前回召喚した猫を死なせている魔王様としては、猫の安全な生活について綿密な打ち合わせを行った。



 まず、本当に当然のことだが、猫は弱い。

 人間以上に、ちょっとの力で死ぬ。

……魔王パワーからすれば人間だって笑えるほどあっけなく死ぬんだけど、そこは目をつむろう。


 この、意外とうっかりで短絡的な魔王様の周りは危険がいっぱいだ。

 また、人間のように言葉で説明したりできるわけじゃないから、入っていけない場所や健康状態についても周りが注意してあげなければならない。

 召喚時のみならず、その後の生活についても常に安全を強く意識しなければならないだろう。



 万が一に備え、オレのように眷属化するのか尋ねたところ、そんなことできるかと殺さ(たたか)れた。


 猫は猫のまま、ありのままがいいと死体を前に力説する魔王様。

 おっしゃる内容については非常に同感なのですが、まずは生き返らせて下さい。お願いします。


 けれど、魔王様の強すぎるオーラや吐息の猛毒っぷりを前には、人間のオレだって魔法陣を出た瞬間に死んだ。

 そのことを話したら、魔王様最強最大の防護魔術を使うらしい。


 魔王様の魔力の余波や息のみならず、ありとあらゆる攻撃、悪影響、害から身を護ることができる力。

 魔界最高の防御力を誇る『境界の魔王』がその身に秘める防御力を貸し与えるという、禁断の秘術なんだとか。

 これを破るには、それこそ魔王クラスの攻撃でないと無理らしい。

 城が壊れても無傷だそうなので、安心である。

 オレにも掛けて欲しかったとか、いやそんな。


 なお、眷属は眷属でメリットも色々あるらしいんだけど。

 魔力が増加してオレが強くなっても関係ないし、魔王様の一撃で即死しなくなるとかえって激痛を感じる事になるとか色々不都合が起きる。

 ころっと死んで、即復活。

 そんな役どころでいいです。この二日で『死に慣れ』しました。



 はてさて。

 次の課題は、どんな猫を呼ぶか。

 これについても、魔王様との意見は割とすんなり統一できた。


 野良猫。あるいは捨て猫。

 これまで不幸であったかどうかを知る術はないけれど。

 少しでも、今までが辛い子に、これからは安心と幸せをあげたい。

 会話中に不幸な誤解でオレがころっと三回くらい殺されたが、オレ達の気持ちは一つであった。


……オレ達の側には、愛情も、幸せにする準備も意志もある。

 オレもこの二日で、猫と暮らすために頑張る覚悟を決めた。

 ただ、超絶邪悪な魔王様のところに連れてこられた猫が、幸せを感じられるかは……


 うん。

 できるだけ、鈍感でアホな子の方がいいかもしれない。

 魔王様を怖がらないように。



 その他、猫の為の居住部屋や遊具の配置、猫とオレが安全に行動可能な範囲の検討。

 果ては初日に食べさせるキャットフードの種類選びからこたつの温度設定まで。

 まだ見ぬ愛猫のために、互いの希望と浪漫を酌みかわし、オレ達はたくさんの事を語り合った。



 そうして迎えた、今日。


「ついに、ついに―――ぅおおおお!」


 記念すべき、猫を召喚する日。

 その日を迎えた魔王様は、感極まったかの如く泣き声をあげた。

 そんな魔王様の横で、オレもまた感動の涙に溶かされて死んだ。


 何かがおかしいんだが、気にしたら負けなんだと思う。

 痛みや苦しみがないので、死ぬ事に対してちょっとつまづいたくらいの感覚しかなくなっていた。

 人としてはどうかと思うけど、魔王様の眷属としては、別にいいかな?


―――ただし。

 オレのことはいいが、猫のことは別だ。

 言うべきことは、きっちり言わなければならない。


「魔王様」

「ぅ、ううう、なんだぁ?」


 まだべしょべしょの顔の魔王様。

 邪悪ワニの泣き顔と言うのも非常にレアだとは思うが、可愛くも微笑ましくもないので子供が見たらもらい泣きすることは間違いない。恐怖的な意味で。


「猫は水気を嫌います」

「はぐうっ!?」


 オレの言葉に、びくりと大きく震えて表情を凍てつかせる魔王様。


「オレが毎回溶けて死ぬのは、いい……あんまり良くないけど、いいです。

 でも水たまりができたら猫は寄ってきませんから、泣くのも止めた方がいいと思います」

「……」


 打ちひしがれたかの如く。

 両腕をだらりとたらし、口を開けたまま俯いて。

 けれど、一滴のよだれも垂らすことなく、魔王様は沈黙した。


 ちょっと、ばっさり斬り過ぎただろうか?

 何かフォローを、なんて考えていると。


「お、おお、お……」


 まるで病気にでもかかったかのように、両腕を震わせながら徐々に高々と挙げていき―――


「おおおおお、我は感動したぞ!


 我に、そのような、直言を申してくれるとは!

 素晴らしい、お主は素晴らしいぞっ!」


 ものすごいテンションで、初めて会った時のように踊り出した。


 揺れる部屋。ひび割れる床。転ぶオレ。


「お主を我が協力者として、本当に良かった!

 ありがとう!」


 転げて吹っ飛ぶオレを追い回すように魔王様の手が迫り、叩きつぶ―――



 潰されないで、すくいあげられた。


「殺されなかった!?」


「これからもよろしく頼む。

 さあ、ともに猫を喚ぼうぞ!」


 オレの驚愕など気づきもせず、オレを手に乗せたまま高々と万歳して踊る魔王様。

 落ちないよう指に掴まったオレは、本当に嬉しげな魔王様に少しだけおかしくなって笑うと。


「―――魔王様」

「おう、なんだな?」


 見上げる魔王様に向け、笑顔のまま続けた。




「轟音と振動も猫が怖がります。足踏みも禁止で」


「ぬふぉぐばはぁっ!?」




 二の太刀で、容赦なくばっさりと魔王様を斬って捨てたオレは。

 手をついて地に崩れた魔王様に、お返しとばかりにぷちっとされた。


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