表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

オレが魔王と歩むまで

「好きならば、死ぬ気で挑め!」



 突如鳴り響いた、雷鳴の如き声にびくりと身をすくませる。


「好きなのであろう?

 撫でたいのであろう?」


「好きです、撫でたいですよ!

 でも―――」


「そんなこと、知るかぁぁっ!」


 魔王様が、無茶苦茶なことを無茶苦茶な感じで叫んだ。


「好きならば、頑張れ!

 お主は我と同じよ、やりもせずうじうじと考えるのはもう十分であろう!」

「でも―――」


「死んだら、我が何度でも生き返らせてやる!

 呼吸ができずとも、肌が痛くとも、命が焼けただれようとも!」


「……」


「我と、同じく!


 猫が、好きならば!」



 猫が好きならば。


―――ああ、そうだよ。

 猫が好きだよ、


「猫が好きなんだよ!」



「ならば、己に立ち向かえ、我と共に!」




 これまで、もうずっと、頑張ることから逃げてきた。


 頑張っても、人に、敵わなかったから。

 頑張っても、何も、叶わなかったから。


 両親は、離婚した。

 母とオレは、家を追い出され実家に帰った。

 その後、父だったものと妹がどうなったか知らない。


 何を得ることもできなかった。

 目指したものには、いつも届かなかった。


 母は、死んだ。

 祖父母もやがて亡くなり、孤独かどうかもよく分からぬまま、一人で生きた。


 頑張っても掴めない。

 手を伸ばしても届かない。そんな日々に。


 疲れてしまった。

 心が折れることに、もう疲れてしまった。


 ただ、その場その場を、時が過ぎるために、じっと過ごして。



 ふと目を向けた、街角。

 塀の上からじっとオレを見る野良猫に、訳も分からず、涙を流した。


 それは、ただのアレルギー反応だったのかもしれないけれど。

 怯えることも、呆れることもなく。あの猫は、ただそこに、じっと居てくれた。

 孤独になった世界でただ一人、オレのことを見つめてくれた。


 寄り添う事もなく。

 近寄ることも、近寄られることもなく。

 1.5mほどの距離をおいて、オレの気が済むまで、ただそこに居てくれた。




 猫に、触れたい。

 猫を、愛でたい。


 これまで、もうずっと、頑張ることから逃げてきた。だけど。


 猫と、生きたい。


 暮らしたい。



 オレの前に示された、生きる道。

 それは、先が見えず、茨に覆われた、恐ろしい道で。


 だけど―――この上なく、輝かしい、オレの進みたい道だった。



「……オレは、猫と、生きられますか?」


 根性なし、と言われるかもしれない。だけどオレは、聞かずにはいられなかった。

 頑張ることが怖い。頑張って、届かなくて、心が折れることが怖い。


 そんなオレを、真っ直ぐに見つめて


「生きられる!

 我がついておる!」


 魔王様は、オレを見つめて、言い切ってくれた。

 涙があふれた。


 だから、オレは



「我とて、猫と生きられるか、また失敗してしまうのではないか、不安だ!」


「―――大丈夫です!

 魔王様には、オレが、ついてます!」


 きっと、オレと同じ目をした魔王様を。

 涙に覆われて顔が見えない魔王様を、必死に見つめて。言葉を返す。


 腹をくくって、叫び返す!


「オレ達は、一人じゃないから!」

「―――うむ。

 我ら、力をあわせて共に歩もうぞ!」





 魔王様が、歓喜と共に立ち上がり。

 オレもまた、立ち上がって魔王様を見上げて。


 きっと、握手するつもりで大きな手を突き出し―――

 寸止めされた手、その拳圧だけでオレは吹き飛ばされて壁の染みになった。


……色々台無しである。




 さらに復活後にも、今度は魔王様の感激の涙で再度死んだのだが―――まぁ、そんなオレの死亡(よくあること)はどうでもいいか。




「「我ら/オレ達は、猫を撫でるんだ!!」」




 こうしてオレは、『覗きの魔王』の協力者として。


 異世界に転移して、猫の面倒を見て暮らすという、一風変わった生活を手に入れたのだった。


 改めましてこんにちは、初めましてが大多数。


 邪悪なワニ顔魔王様と小汚い主人公のお話、いかがでしょうか。

 これにてプロローグは終了、話の全てを握る猫の登場ももう間もなくとなります。

 引き続き、どうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ