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オレは頼みを断った

 腹の底から叫んで少しだけ落ち着いたオレは、根気よく魔王様の説明を聞いてみることにした。


 いや、我ながら物好きだとは思うよ?

 それでも、ここまでわけの分からない話では、何も判断がつかない。

 魔王様が納得しない事には、そもそも元の世界に帰ることができるかもわからない。

 ついつい我慢できずに叫んではいるが、機嫌を損ねていいことは何もないだろうからな。


 そんなわけで、色々聞いてみた。

 魔王様が、何に対してそんなに頑張っているのかを。


 まず、このワニ顔の魔王様は『境界の魔王』と呼ばれており、世界を隔てる壁にさえ干渉することができるらしい。

 その力でもって、異世界である地球の様子を覗き見るのが趣味なんだそうだ。


 思わず『覗きの魔王』って呟いたら一機減ら(握りつぶ)された。


 それで、覗いていた地球の様子に映った猫にハートを射抜かれてめろめろにされたらしい。

 是非、自分も猫を飼いたい!

 この手で愛でたい!


 そんな情熱が暴走し、猫を召喚して―――死なせてしまった、そうだ。

 召喚した途端に、魔王の周囲に満ちるオーラだけで、あっけなく。



 深い悲しみに暮れ、絶望し。

 何度も何度も、何年も何年も、猫を諦めようと頑張った。


 それでも、どうしても諦めきれなくて。

 あまりの心労に、何年も寝込む事となって。


 色々考えたり相談した結果、綿密な計画を立てて再度召喚を行うことに決めた。

 その計画の最終段階が、地球の人間を召喚して、詳しい情報を得ると共に魔王と共に猫を迎える協力者とすることだそうだ。


「とまぁ、そういうわけで。

 お主に、我が大望を果たすために協力して欲しいのだ!」

「……状況というか、事情は、とりあえずわかりました……」


 目元を揉み解し、頭痛を堪えながら返事を絞り出す。


 なんなんだ、これは。

 なんなんだ以外に、言葉が浮かばない。


「えっと、協力するかしないかは置いといて、オレは元の世界に帰れるんでしょうか?」

「……すまん!」


 とりあえずの確認事項を口にしたオレに、突如魔王様は地響きを立てて土下座し両手を合わせた。




 もはや、様式美の如く。

 魔王様が膝を着いた衝撃で、オレの身体が宙に跳ね上げられ。


 あるいは故意ではないか。

 宙に浮いたオレの身体は、拝むためにぱんと合わせた両手に挟まれて。



 つまりはまぁ、蚊のようにあっさりと殺されたのだった。

……何回目だっけ、これ?




 元々は、魔王の頼みを断ったら、そのまま地球に返す予定だったらしい。

 しかしオレは一度死にかけて、魔王の眷属となって復活した。

 そのせいで、生きていくためには魔力も補充しなければならない身体になってしまったそうだ。


 魔王が見る限り、地球には魔力がほぼゼロである。

 返されて即死と言う程ではないが、それでも魔力を補給できない以上、遠くない未来に命は尽きる。

 下手に怪我や病気になればさらに魔力の消耗が加速し、成仏待ったなしだ。

 だから、どうしてもと言うならば地球に返すが、送り返せば余命幾ばくかと言われた。



 じゃあ生きるためには魔王の頼みを聞き入れるしかないのか?

 そう尋ねた所、眷属と言っても魔王から離れると死ぬってわけではないらしい。

 復活するためには魔王が必要だが、命は一つが当たり前。

 ただの人間として、この世界で生きていけるように、魔族の領土と人間の領土の境目まで送るくらいならしてくれるそうだ。


 将来的には分からないけど、現時点では死ぬために地球に帰りたいとは思わない。

 だから、選択肢は二つだ。

 魔王に協力するか、一人で異世界で生きていくか。

 どちらを選ぶかなんて―――考えるまでもないんだ。



 猫と一緒。

 夢にまで見た、猫と一緒の暮らし。

 邪悪な魔王は居るけれど、猫の面倒を見て生きる悠々自適なのんびりライフ。

 なんて魅力的なんだろう。

 しかも、魔王の配下ではなく協力者として、何不自由ない生活と身の安全を保障してくれるらしい。


 でも、オレだって猫と暮らしたいが、猫はすごく愛でたいが、オレでは世話ができない。

 それを考えると、やっぱり協力は難しい……悔しいけれど、非常に厳しい。



―――うん、そうだな。

 魔王様には申し訳ないけれど、やっぱり断るしかない。


 心は、魔王様に協力して、猫と暮らしたい。

 でも、現実(呪い)が、それを許さない。だから。


「魔王様」

「なんだね」


 邪悪な顔が、真っ直ぐオレに向けられる。

 その眼光に心臓が止まりそうになるが、それでも。言わなければいけない。


「オレの持っている知識を話し、できる範囲で魔王様に協力することはできます」

「おおっ! では―――」

「だけど!」


 喜ぶ魔王様を、大声で遮る。

 恐怖も、後ろめたさも、情けなさも、全部飲みこんで続ける。


「猫の世話はできません!

 だから、オレは、魔王様の協力者にはなれません!」


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