魔王が料理を作るまで
「ふはははははは!」
高笑いとともに扉が開け放たれた瞬間。
イヌイさんは文字通り高々と飛び跳ね起きて、必死で部屋の隅まで逃げ出した。
「イヌイさんは……そ~こ~かぁぁ~?」
きゅぅぅ、きゅぅぅ! と哀れな泣き声をあげる子猫ちゃん。
だが、巨大怪獣は止まらない。
人さえ丸呑みにする巨大な口を開き、足音を響かせながら一歩ずつ近寄る。
近寄るにつれ―――ではなく。
扉を開いた瞬間から部屋の中を隈なく蹂躙した匂いに、イヌイさんがふらりと倒れそうになった。
「さあ、ご飯だよぉぉ?
我が愛情の手料理、心ゆくまで喰らうがよいわ!」
雷鳴の如き大音響。
徐々に強まる悪臭。
地を踏み揺らし、迫る巨躯。
物理的な、心理的な、ありとあらゆる責め苦が迫る中。
一嗅ぎで天に召されるほどの悪臭の中で、
『今ここで意識を失えば、死ぬ』
それを本能で理解したのか、イヌイさんの失われたはずの野生が遂に覚醒する―――!
部屋の隅から、あちこちのタワーを足場に宙を駆け、必殺の猫パンチが魔王の鼻面に炸裂!
思わぬ反撃にまじでびびった魔王の顔を踏み台に、一軒家に匹敵する巨躯を飛び越えると、風より速く広い部屋を駆け抜けて廊下へ逃げ出した。
「お……おお……お……?」
後に残された魔王は、数秒ほど何が起きたか理解できずに呻くと
「うおおおおおぉぉぉんっ」
拒絶された。
その事実に、手と膝を付き泣き声を挙げるのだった……
「いや、それがイヌイさんの食事だとか、逃げるに決まってるじゃないですか!」
「なぜだ!?
我が愛情の限界値に、なぜ逃げるというのだ!?」
傍らのモザイク品を泣きながら見下ろした魔王様は
「―――はっ。
まさかこれが、俗にいう『愛が重い』というやつなのか!?」
「ちげーよ、いいから自分で味見してみろよ!」
いやしかしこれはイヌイさんにとぶつぶつ呟く、まるっきり理解していない魔王様。
無理やり口に突っ込んでやりたいが、サイズが違い過ぎてオレでは料理を持ち上げることもできない。というか近づくと臭いで死ぬ。
なんとか説き伏せ、自分で味見させると―――
ぱたーん。
意外と軽い音を立て、魔王が倒れた。
魔王 カバ=モスラ。
自分の作った料理の奥深い味わいに、散る。
「ふっ、かぁぁぁぁっつ!
我は!
大魔王殺しの称号を得たぞぉぉっ!」
「それはただの自殺だっ!」
魔王様は、死んでも魔王様でしたとさ。
なお、逃げ出したイヌイさんだが。
いつの間にかサイさんの部屋に辿り着き、一緒になってオレの手料理を食べたらしい。
収まるべく所に、ちゃんと収まりました。
魔王城は、今日も平和です。
イヌイさん、ついに野生が覚醒。
そして魔王様、この年になって新たな称号をゲットです。おめでとう!
すでに休止状態だったので、とても今更ですが。
七話が終わり、この作品もエンディングまで、残すところあと二話。
こんなタイミングで、ひっそりと休止のお知らせでございます。
ダイジェスト化してのエンディングは無し!
残り二話、いつかきっと書く! 要望があれば、是非! きっと!
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さて、一時休止にあわせて新作のCMをば。
『鋼の借金術師 ~借金取りから逃れるための、異世界転生家族計画~』
http://ncode.syosetu.com/n8121dm/
借金生活の果てに死んだ青年が、異世界に転移し借金取りから逃れてのびのびと生きる。
その中で、やりたいことや生き方を探して生きていくストーリー。
……のはずが、やっぱり借金まみれで変わらず苦労する貧乏話になります。
まだまだ手さぐりな状態ですが、本日第一部完結。宜しければ是非。
ちなみに、四足ねこは出ませんが、二足歩行のうさねこ族なら二人ほど。にゃんにゃんにゃ!
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次回『第八話 ~ 勇者が魔王を倒すまで』
魔王の影があるところ、必ずそこに勇者の光あり。
その時、猫と猫オタクは―――!?
と言ったところで、本編はすこーし更新停止。
詳細と今後の予定は、よろしければ活動報告をどうぞです。
本日第一部が終了した、新作の『鋼の借金術師』も。
旧作(こちらは休止しません)の『三日で終わらす異世界転移』も。
お気に召しましたら、どうぞよろしくお願いします☆