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オレは全力で料理した

 一品目。

 豚っぽい肉の串焼き。から串を外したもの。

 味付けは、タレ、塩、醤油と鰹節の三種類。


 二品目。

 肉のない野菜炒め。さっきの自分たち用に作った奴だ。

 味付けは、なし、ケチャップ、醤油と鰹節。


 三品目。

 ホットケーキ。

 かけるのは、バターのみ、はちみつ、いちごソース。


 四品目。

 スープ。適度に冷ましたやつ。

 コーンスープ、オニオンコンソメ、味噌汁。



「……圧巻ですね」


 並べられた皿を見つめ、なぜかメイドさんがため息をつく。

 テーブルの上に並ぶ皿数、実に12皿。量はどれも大したことないので、全部あわせても二人前の食事程度だろう。


「新たなつまみぬおっ」


 箸を伸ばそうとしたじじいは、如意棒で手を打ち払い額を突いて追い払う。


「さあイヌイさん、ご飯の時間だよー!」


 時間ぴったりに鳴り響く食事アラームを止めると、オレはお盆の代わりにテーブルを持ち上げてイヌイルームへの扉を開いた。


「わしのつまみ……うう」

「ああなってしまったご主人様は、もう駄目ですね」

「あんなゴミ虫、元から駄目じゃろうが」




 うるさい外野を背景に、イヌイルームに入る。

 食事の時間が分かっているのか、イヌイさんはこちらを振り向いてぎょっとした。


「今日はいつもより豪華なご飯だよぉ。

 頑張って作ったから、たくさん食べてね!」


 垂れる鼻水が入らないように気を付けて、テーブルに乗った皿を床に並べていく。

 イヌイさんは5mくらい離れた距離で、体勢を低くしじりじりと身構えていた。


「お腹すいたよね?

 さあ、たーんとお食べ」


 配膳を済ませたオレは、食べやすいように少し離れて見守る。

 料理に近づいたイヌイさんは鼻を寄せて匂いを嗅ぐと、首を傾げるようにこちらを向いて鳴いた。


「お、おおおお、かわえええぇぇっ!」


 鼻から飛び出すものを手で押さえ、涙を流しながら歓喜する。

 生きてて良かった、イヌイさんと会えて良かった!


 しっぽを大きく振るイヌイさんの姿を涙越しに見つつ、オレは笑顔でうなずいた。


「どうぞ、好きなだけ召し上がれ」


 オレの言葉にイヌイさんは料理を向くと、まずは肉にかぶりついた。

 がつがつと平らげていくイヌイさんにうれし涙を流しながら、オレは食事が終わるまで静かに見守った。




 結果。

 肉とホットケーキは各3種類全て完食。野菜は一口二口程度、スープも少し飲んで満足したイヌイさん。

 おなかいっぱいで丸くなった姿に、止まらない涙を拭いながらオレは皿を片付けて部屋を出た。


 いつかはあの短い足のちっちゃな肉球をぷにぷにしたいが、安眠は妨げるべきじゃない。

 今はただ、この幸せがあればいいのだ。オレは幸せなのだ!


 あの小さい身体のどこに入ったのかって?

 そんなことはどうでもいいじゃないか。

 健康や体の無事は魔王様が護ってくれるのだし、イヌイさんがお腹いっぱいで幸せならそれが全てである。

 常識とか物理法則とかは二の次だ。



 イヌイさんの残りさえ酒の肴に奪おうとするくそじじいを……


 料理を捨てるよりいいのか?

 いやいやいや、イヌイさんと間接キスとかとんでもない。

 貴様にさせるくらいならオレがする、例え悶絶死しようとも!


 くそじじいを追い払い、メイドさんに手伝ってもらってお片付け。

 ようやく鼻も涙も止まったオレは、鼻歌混じりのいい気分で午後を過ごせた。




 結局オレは、魔王様がオレのことを覗いていることには最後まで気付かなかったのだ……


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