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爺がオレを阻むまで

「やれやれ、じいも戯れはほどほどにせよ」

「わしの目の黒いうちは、陛下にゴミ虫なぞ寄りつかせませんぞ!」


 胸を張るじじいに、いらっとするが我慢する。

 ちなみに右手にはがっちりと如意棒を握ってある。いつでも振り回せるように。


「で、魔王様。

 これ、なに?」

「じいは、我が片腕であるぞ。この城の、いわゆるナンバーツーというやつだ」

「わし、偉いのじゃ」


 ますます調子に乗るじじい。

 ナンバーツー……うーん?


「でも、オレがこの城に来てからほぼ一ヶ月、今まで一度も見ませんでしたけど?」

「うむ、そうであったな。

 じいよ、もう復帰して大丈夫なのか?」

「大丈夫ですじゃ。

 西の鬼の国を攻め滅ぼし、我が軍が東西を制しましたぞ!」


 魔王様の言葉に、なんだか物騒なことを答えるじじい。


「攻め滅ぼすとかって……?」

「攻撃して相手を滅ぼすという意味じゃ。

 そんなこともわからぷはははは」


 うわむかつく、言葉の意味じゃねーよ。


「さらに、城壁の補強工事と軍備増強、治水工事から畑の拡大整備と新たな鉱脈の確保、植林も滞りなく」

「素晴らしい手際であるな、さすがじいだ」


 なんか、大々的な内政がぽんぽんと語られる。

 というか、攻め滅ぼすのと同時進行でこれだけの内政を並行してたってことか。すげえ。


「つまり、ここ一ヶ月は城に来る余裕もなく働いていたって感じなんだな」

「わしはどっかの寄生ゴミ虫とは違うんじゃよ。

 有能で働き者で権力者で右腕でスーパーじゃからな!」


 ちょっと感心したオレの呟きに対して、ここぞとばかり嬉しそうに言うじじい。

 見下したドヤ顔がうざい。非常にうざい。


 まあ、さっきの話が本当なら、確かに有能なんだろうけど。むかつくもんはむかつく。


「では、これから当分は我が下に戻れそうであるな」

「そのことですが陛下」


 くいっと杯を干して、じじいが魔王様に向き直る。


「南部に不穏な動きがありましての、このまま放置してはまずいことになりそうですじゃ。

 つきましては、追加の予算をいただきたいのじゃ!」


 態度はむかつくが、顔は真剣そのもの。

 そんなじじいを見下ろすと、魔王様は


「……またか」


 深い溜息をついた。

 それだけ、国内の状態も安定せず敵が多いってことなんだろう。


「今がチャンスなのですじゃ!

 今ここで、完膚なきまでに敵を叩き、我が軍による統一を果たすことこそが大事!」

「しかしな」

「今でしょ!

 今ここが決断すべき時、今ここが歴史を決める転換点なのですじゃ!」


 どっかで聞いたセリフに、ちょっと力が抜ける。

 いや、こっちの世界では『どっかで聞いたセリフ』ではないのかもしれないけど。


 とりあえず、必死で必要性を訴えるじじいに、あまり乗り気ではなさそうな魔王様。


「猫に全てを捧げるような魔王様だし、軍備増強による統一とか好きじゃなさそうですよねぇ」

「いや、そういうことではなくてだな」


 ん? 軍備とかいやなんじゃないの?


「さあ魔王様、わしにさらなる資金を!

 今こそ我らの手に全てを!」

「やれやれ、じいは仕方ないやつであるなぁ」


 どうやら、魔王稟議が承認されたらしい。

 苦笑気味の魔王様に向け、じじいが枯れ木のような腕を突き上げてガッツポーズをした。


「ぃいよっしゃぁぁ!

 これで南部のギルドの奴らに、目にもの見せてくれるのじゃ!」

「ギルド?」

「我らが魔王軍の財力にものを言わせて、いざ引かんレジェンダリィプレミアムガチャ!」


「……ガチャ?」


 ガチャって、あの……ガチャ?


 首を捻ると、苦笑する魔王様と目があった。


「左様!

 今(レジェンダリィ)(プレミアム)ガチャを連続10回引けば、必ずレジェンダリィユニットが当たるのじゃ!」

「……」

「さらに!

 イベント期間中に引いたガチャについてくるポイントを集めたランキングによって、ここだけ限定のユニットへぐぶふぅっ」


 熱くガチャの特典を語るじじいに向けて、オレは思わず如意棒を振り下ろしていた。

 舌を噛んだのか知らないが、悶絶するじじいを冷たい目で見下ろす。


「……魔王様。なんでこのじじいは、ガチャとかユニットとか言ってるんですか?」

「うむ。

 軍事行動の練習や行政のシミュレーション、発生する災害の対策や住民の生活の向上に必ず役に立つと何時間にも渡って力説されてな」


 すげー嫌な予感がする。


 だが、聞かないわけにはいかない。じじいが悶えている今こそ、魔王様をお救いするチャンスなのだから。

 オレはつばを飲み込むと、じっと魔王様を見つめて続きを問う。


「―――力説されて?」

「地球のネットゲームを納得いくまでやり込むための資金提供を約束したのだ」


「ただの課金豚じゃねーかよ!」


 魔王様、それはだめだ、こういう奴は際限がないんだ!

 異世界の魔王城さえ傾かせるネットゲーのガチャ。責任ある立場でありながら、魔王の資産を貢いで食いつぶすじじい。

 もう、まるっきり駄目過ぎる!


 そんな感じで必死に力説した。

 途中で復活したじじいと力説合戦になったが、大義は我にある!

 いつの間にか隣にいたメイドさんからお茶を受け取りつつ、必死で魔王様を説得するために頑張った。




「確かに我がじいを甘やかしすぎたのだ、あまり地球に干渉すべきではなかったな」

「そんなことありませんぞ、陛下!

 陛下は偉大なる大魔王、陛下の行いは全てに優先され肯定されるべきもので、自重や遠慮など必要ないのですぞ!」


 必死な表情で訴えるじじい。

 その濁った眼に、魔王様が問う。


「本音は?」

「わしネットゲー好きなんだもん、課金したいんだもん!」

「だめだ、本当にこいつだめだ!」


 こうして、じじいとオレの長時間にわたるバトルの結果、魔王様からじじいへの資金提供はストップされたのでした。


……こんなのがナンバーツーって、魔王様も人材苦労してそうだな。

 ていうかオレ、この城でまだ4人しか会ったことないし。

 イヌイさんが居れば幸せなんだけど、ここで生活する以上はもう少し色々興味を持って覚えないと駄目だよな。



 そんな風に、日常を振り返るオレの横で。


「貴様を呪う、呪うてやるぞ……

 子々孫々、いや祖へ遡りて貴様の血族を魂までも滅し尽くしてくれようぞ!」


 じじいはいつまでも口から呪いを吐いていましたとさ。


「このお写真、ご主人様はおいくらで買って下さるでしょうか?

 熱のこもった眼差しのわし様が、ご主人様の股間をまさぐっている写真が撮れたのですが……」

「捏造反対!」


「熱のこもった捏造写真……ふ、ふおおおお!

 おーもーしーろーいーぞーー!」



 次回『第七話 ~ 魔王が料理を作るまで』

 イヌイさんの身に、真なる危機が迫る……!



「ぽこぺんぽこぺんだーれがつついた ぽこぺんぽこぺんだーれがつついた……」


「あたしの出番がないとか、おかしいと思うんだからね!」


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