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じじいはオレを攻めたてた

 9月24日 晴れ


 休日のため、ターゲットは昼頃まで寝ていた。

 起き出した後は、レトルトのカレーを温めながらパソコンへ。

 WEBで日課の『今日の猫めくり』をニヤニヤしながらするが、猫ではなく猫缶が出て頭を抱えて落ち込む。

 ざまあみろと思いながら、ターゲットの茫然とした顔を境界越しに撮影した。

 気持ち悪い顔だったので、即座にデータを削除した。


 白いご飯の上に、カレーを猫型に盛り付けようとした……らしい。

 猫というよりは謎の物体という感じだが、本人は満足したようだ。

 鼻歌まじりでソーセージを切り分けてヒゲをつけると、自分のスマホで写真を撮影した。

 見せる相手なんかいないのに。

 見せる相手なんかいないのに。


 パソコンに向かい、食べながら猫動画を漁る。

 この日は『煮干しで吊られて二本足』という動画を見ている時が一番気持ち悪い顔だった。

 あまりの気持ち悪さに、その顔を撮影して落書きしてから削除した。

 不幸になりますように。


 カレーを食べ終わってからは、ゲームを始めた。

 自由にキャラクターを作成できるゲームで、ターゲットのプレイキャラクターは猫耳の頭飾りをつけた人間である。

 仲間は全員、猫耳の獣人、しかも女。つまりは猫耳パーティ、あるいは猫耳ハーレムである。

 仲間を見る目が血走っており、あまりの気色悪さに思わず境界を閉ざしそうになった。

 いっぱい飲んで落ち着く。日本酒うめぇ、日本最高。



 いっぱい飲んでいる間に、気づけばターゲットは別のゲームを始めていた。

 タイトルは『耳としっぽのにゃんにゃん☆タイム』

 箱には銀色の丸いシールが貼ってあった。

 これ以上は姫の教育に良くないから、記録は残さない。

 おっと手が滑った。



 映し出されるのは、あられもない姿で微笑む猫耳の少女と、その画面の前で




「ああああああああああ!!」


 オレは大声でじじいを妨げると、ようやく届いた手で全力で画面を叩き割った。

 画面から流れていたじじいの日記を読み上げる声と、聞きたくないオレの声と見たくない姿を振り払うように、掴んだ画面を振りかぶっては全力で何度も叩き壊す。


「ところがどっこい、こちらにも」

「ああああああ!」


 にやにや笑いながらもう一枚画面を取り出したじじいに、オレは近くにあった如意棒を振り下ろした。

 じじいには避けられたが、画面を叩き割ることに成功し肩で荒い息をつく。


「ぜ、ぜえ、ぜえ……」

「おんやぁ?

 魔王様の作られた魔導具を破壊するとは、なんたる協・力・者!」

「うるせぇじじい、ぶっ殺す!」


 如意棒を全力で突き出し―――


「ぐふっ……」

「―――え?」


 オレの突き出した如意棒が、ほとんど抵抗なくローブの隙間からじじいの腹に突き刺さった。


 よろよろと後ずさり、倒れるじいい。

 腹の辺りから、赤い液体が、広がる。


「きゃああ。わし様があ」


 メイドさんが、口元に両手を当てて悲鳴を……棒読みした。


「おおじいよ、なんということだ。じいが、じいがあ」


 魔王様が両手を振り上げて嘆きの声を……やっぱり棒読みした。


「……えーっと、これは?」


 悲鳴と言うよりぶりっ子にしか見えないメイドさん(しかも可愛い)と、悲嘆というよりガッツポーズにしか見えない魔王様(でかすぎ)と。

 地面に倒れてぴくりともしないじじいを見比べて。


「あー、なんか、取り込み中みたいでごめん。

 オレ、イヌイさんの寝姿でも見てこよっと」


 うん、忘れよう。

 オレはじじいも大根演技も全部忘れて、イヌイさんの寝姿を間近で見守るという至福のひと時を過ごすことにした。




「かぁぁぁーーーっつ!」

「うわっ、うるせ」


 見守る事、多分1時間ぐらい。

 戻ってみると、すでに魔王様やメイドさんの姿はなく、なぜかじじいが床で一升瓶抱えて飲んだくれていた。


「なんじゃなんじゃ、わしがせっかくお茶目なじょーくでふれんどりーに接しているというのに!」

「あぁ、おはようくそじじい」


 でろでろになっていた顔を拭いつつ、ひらひらと手を振る。

 オレの日常を暴露された時は怒り心頭であったが、イヌイぱわーで癒されたオレは大らかに対処できる。


「うむ、おはよう」


 そんなオレを飛び出し気味の目でぎょろりと睨むと、じじいは鼻を鳴らしつつ挨拶を返した。


「貴様の気持ち悪く淫らな日常は、後日しっかりばっちりツバメと姫に見せちゃうんじゃからな!」

「それはまじやめろ」


 如意棒でぶん殴りたい気もするんだけど、会話だけしている間は実力行使に走ったら駄目だよな。

 オレは一升瓶を奪うと、杯を空けさせて注いでやった。


「変態に酌されるとはな」

「オレも、一緒に飲むならメイドさんの方が良かったよ」


 ためいきをつきつつ、じじいにあわせて床に腰を下ろす。


 顔を背けたまま盃を差し出されたので、ありがたく受け取った。


「我が国の発展と、薄汚いゴミ人間が早く出て行きますように」

「魔王様の幸せと、陰険なくそじじいが往生できますように」

「ふんっ、口の減らん虫め」


 杯も目も、言葉も呼吸も。

 何一つあわせずに、オレ達は酒を酌み交わした。




 そして、オレは、死んだ。

 毒だかなんだか分からないが、酒を飲んだら苦しむ暇もなくころっと死んだ。




「く、ぷ、ぷはははは!

 ひっかかったひっかかった、ゴミ虫の分際でわしと酒を酌み交わそうなぞ百万億年早いのじゃ!

 もっと魔力を高め己を磨いて出直してこい、このごーみむしー!」



 ぐあああ、なんだこのじじい、まじむかつくーっ!


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