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オレは紅茶を奪われた

「お久しぶりですのじゃ、陛下」

「おお、じいではないか!」


 魔王様に向かって頭を下げる、ねずみ色のローブ姿の人物。


「よいよい、我とじいの仲である。楽にするがよいぞ」

「ははぁ」


 あげられたフードの中身は、血の気の通わぬ青白い顔であった。

 ワニだったり、角や耳が生えてたりはしない。顔色が非常に悪いのを除けば、メイドさんと同じく普通に人間と言えそうな範囲である。


 ただ、超絶美幼女のメイドさんと違って、こちらは深い皺の刻まれたご老人。

 なるほど、まさしく『じい』っぽい感じである。


「あー助かる助かる、まじ敬語とかだるかったのじゃ」

「……え?」


 突然、先ほどの態度をかなぐり捨てて勝手に隣に座ると、オレの紅茶を奪って飲み始めるじいさん。

 全然じいっぽくない。なんだこの態度のでかさは。


「かー、なんじゃこりゃぁ!

 わしのための茶なのに、なんじゃこりゃ!」

「ちげーよ、オレのためにメイドさんが淹れてくれたんだよ!」


 初対面だが、我慢できずに突っ込む。偉いんだろうけど、失礼なじいさんだなぁ。


「あぁん?

 こいつが陛下の喚んだ人間じゃな」


 片目をくわっと開き、飛び出しそうな目玉でぎょろりとオレを睨んで


「かーっつ!」

「うおっ」


 突然耳元で大声を出されて、オレは倒れそうになるのを踏みとどまった。座ったままだけど。


「やはり、紅茶にはブランデーじゃな。

 おいツバメ、ブランデー足してこい。紅茶の5倍くらいな」

「かしこまりました、わし様の分もただいまご用意いたします」

「うむ、いってこい」


 じいさんに顎で使われ、メイドさんが茶器とオレのカップを持って立ち去る。

 メイドさんの名前、ツバメさんって言うんだ。全然知らなかった。


 っていうかじじい、オレの話じゃなかったのかよ!

 一喝するだけして、ほっといてんじゃねーよ!


「はっはっは、じいは相変わらず酒好きだ」

「それが若さの秘訣ですじゃ、陛下。

 このじいや、まだまだ陛下のお役に立たねばならんのですじゃ!」


 都合よく言うと、じいさんは魔王様とともに笑い声をあげた。

 いや、本当になんだこのじいさん。執事的なもんなのか?


「それに、わしがおらぬ間にこのようなゴミ虫が魔王様に取り入ろうと寄生するとは……」


 ぎょろりとオレを睨むじいさん。

 死にそうな顔色に飛び出た目玉が怖い顔だが、悲しいかな、しょせんはお化け屋敷レベルの怖さだ。

 本物な魔王様の怖さやサイさんの醜悪さと比べれば、アリと宇宙戦艦ぐらい差がある。


「……ひょっとして、ゴミ虫というのは、オレの事を言ってるんですか?」

「おおお!

 ゴミ虫がしゃべった! ゴミ虫がしゃべった!」

「くっ」

「大事なことなので2回言いましたのじゃ。えっへん」


 くああ、なんだこのむかつく奴は!

 オレの問いかけや怒りを無視して魔王様に胸を張るじじいを、殺意を込めて睨み付ける。


「くちゃいくちゃーい。

 ゴミ虫人間、ゴミ箱にポイして魔王城から出てけー」


 顔をわざわざオレの方に寄せて、鼻をつまんで手で扇いでみせるじじい。

 煽り方が小学生レベルだ……でもむかつく!


「……魔王様、なんなんですかこの皺々で枯れ果てた脳みそ腐ってる灰色は」

「おお陛下、なぜこのような、おならぷーなゴミ虫がうわ汚い!」


 横から漂う腐敗臭に鼻をつまみながら魔王様に顔を向けて問う。

 すぐ真横で、腐敗臭を発するじじいも魔王様に顔を向けて問う。真似すんな!


 だが、必死で訴えるオレと汚いじじいを前に、魔王様は笑顔で頷いた。


「ふはは、流石は我が腹心と協力者よ。仲良しであるな!」

「「この節穴魔王、お前の目は覗き穴か!」」

「ぬ、ぬおお、ダブルで覗きって言われた……」


 ぐあああ、じじいと同じ事を叫んでしまった!

 オレが悶絶していると、横でじじいも悶絶していた。


「くさいよう、おならゴミ虫がくさいよう」

「臭いのはお前だこのしわがれ灰色じじい!」


 いや、ほんと臭いんだこのじじい。さっきから鼻をつまんでるけど、それでも臭い。

 臭さと怒りとむかつきとで、流石にオレも我慢できなくて言い返す。


「ほほう、わしにそのような口を聞くかこのにんげ―――ゴミ虫が」

「言い返してんじゃねーよこの臭いじじいが!」


 オレの暴言に、なぜかにやりと笑うじじい。


 ぞくりと。

 魔王様を初めて見た時とも、サイさんを初めて見た時とも違う、嫌な予感が背筋を過ぎる。


「ん? 謝るなら今のうちじゃぞ?

 うんこゴミむしぃぃ」

「誰が謝るかよこの腐れ粗大ごみじじい!」

「ふーんだ、ごみって単語はもうわしが使ったもんねーこの独創性のないダサごみ虫」

「黙れハゲ!」


 言い返したオレの言葉に、びくんっと身体を震わすと。


「き、さ、ま……

 言うては、ならんことを、言うた……な?」


 先程以上の、圧倒的な悪寒が駆け抜ける。

 例えるなら、こえだめの縁で、ゴミ収集車がこちらに向けてゴミを流し込んでくるような、そんな悪寒。汚物感。


「わしは……貴様の秘密を、知っておるのじゃぞ。

 今ここで暴露し、魔王様の目を覚まさせてくれるのじゃ!」


 そうしてクソじじいは、にやりと口元を歪め。


 耐え難い臭気とともに、下劣な言葉を吐きだしたのだった。


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