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オレは料理を企んだ

新章スタートです☆

 魔王様と交代しつつ、およそ1時間。

 今日も今日とて、イヌイさんと楽しいねこじゃらしタイムである。

 イヌイさんもオレ達と遊ぶことにすっかり慣れてくれて、至福のひとときだ。


 魔王様の距離は、現在約16m。

 部屋の端から4mぐらい近くなったというだけで、実際の具体的な長さは適当なんだけど。そのくらいは近付けるようになった。

 最初の頃の、イヌイさんが毛布に潜って震えていた頃からすれば目覚ましい進歩である。

 あの怯える姿が見れなくなったことは、ちょっぴり残念なんだけど。イヌイさんが安心できるのは良い事だよな。

 でも一瞬一瞬を大事にしたいから、今度魔王様にビデオカメラとか相談してみよう。

 覗きの魔王的な魔道具で、すでに持ってるかもしれないし。


 順調に距離を縮める魔王様と同様、オレの方も現在2m近く。

 イヌイさんとの距離は縮まってきたんだが……アレルギーの問題が、そろそろ大きくなってきたんだよな。

 触れるわけじゃないから倒れたりしないし、万一倒れても魔王様や他の人が連れ出して助けてくれるんだけど。

 くしゃみや酷い顔でイヌイさんが怯えたり、せっかく近づけたのに逃げられたり。

 とても悔しいんだ。

 魔王様に相談するべきか、自力で出来る限り頑張るか。

 どうするのがいいか、少し悩んでいる。


 魔王様は、まだまだ気長に。

 オレの方は、そろそろ、次のステップかな。といった感じだ。

 具体的にどうすればいいか、まだ分からないんだけどね。



 そんなこんなで、オレがこの世界に来てからもうすぐ一ヶ月。

 今は遊び疲れて眠ったイヌイさんを見つめながら、魔王様と廊下でお茶会中であった。


「イヌイさんとの距離も一歩ずつ縮まり、我が毎日はバラ色であるぞ。

 それもこれも、全てお主のおかげであるな」

「そんなことないですよ。

 魔王様が頑張っているからです」


 メイドさんが淹れてくれた紅茶を、綺麗なカップから一口飲む。すごくおいしいし、華やかな香りだ。

 同じ紅茶が、魔王様の方はバスタブサイズのカップで出されていた。

 魔王様からすればカップごと丸のみできる大きさなんだけど、オレからすればリアル目玉○おやじの茶碗風呂ができそうだ。

 いずれにせよ縮尺が違い過ぎである。


……人間になるとか、せめて人間サイズになる魔術とかないのかな?

 サイズが違い過ぎて、色々不便だしメイドさんも大変だと思うんだけど。


 そんな疑問を、茶飲みがてらそのままぶつけてみた。


「出来るだけ、自分の事は全て自分でしておるぞ。掃除はさせてもらえぬが、身支度も料理も自分でやることが多い。

 娘にはメイドをつけておるけれど、我は一人だけ巨大過ぎるからな」


 笑いながら魔王様はそう言った。

 現代地球の若いもんに聞かせてやりたいセリフです。最高権力者、自分で料理を作る。自分の事を自分でやる。


 ちなみに魔王様の食事は、人間の食事に換算すると何人前だろうって量である。

 例えば牛の丸焼きとか、オレにとっては自分と同じくらいの大きさだけど、魔王様からすれば手のひらサイズだもんなぁ……

 あれを人間サイズのメイドさんが作るというのは、確かに色々大変そうだよな。


「でも、不便じゃないんですか?

 あるいは、王様なのにそれでいいんですか?」

「周りからは、良くない、私たちの仕事を取るなと言われるのだがな。

 好きでこの大きさでおるのだし、食材の用意など手伝いはしてもらっている。十分であるぞ」

「はー。

 オレも一人暮らしが長かったから大抵のことは出来ますけど、魔王様は偉いのに多芸で働き者ですよねぇ……」


 オレだって、一応家事全般は人並みにはできる、つもりだ。

 というか家事が出来ないと生活出来なかったんで、生きるために必要だったからな。

 貧乏だったし。


 でも、この世界では全然家事をしていない。魔王様のおかげで最上のお客様待遇、とてもいい想いをさせてもらっています。

 メイドさんに世話されるって、なんていうか浪漫だし嬉しいんだよなぁ。

 料理とかすごい美味しいし。美少女に甲斐甲斐しく世話されるとか、極上です。


 そう思いながら隣で控えるメイドさんを見ると、なぜか胸元のリボンを引っ張って色っぽい笑みを浮かべられてしまった。

 さらに、どこかで響くカメラのシャッター音。


『懲役、七日間です』


 唇の動きだけで、言いたい事が分かってしまった。

……うん、見るだけで罠だ。魔王様に集中しよう。


「なぁに、我が変わっているだけであるぞ。

 気にすることはない、お主はイヌイさんに全力を傾けてくれれば良いのだ」


 豪快に笑いながら、ふーふーして恐る恐る紅茶を飲む魔王様。

 猫好きだけに猫舌らしい。いや、猫好き関係ないけど。


 でも、そうだな。たまにはオレも、料理とかしてみようかな。

 そうだ、何でも食べられるイヌイさんだから、今度オレの手料理とか振る舞ってみようか。

 そうすれば今よりもっと喜んでくれるかもしれない。

 いつも缶詰や乾きものではなく、新鮮な魚とかを用意して。


「お、おお……いける、いけるぞ!」

「ど、どうしたのだ?」


 迸る情熱が、収まりきらずに鼻から垂れる。

 だがそんなものに構いはしない!

 オレは付近で鼻を拭うと、魔王様にオレの計画を話そうと



「いっっっ、かーーん!」


 話そうとして、突然の突風と一喝に言葉を遮られたのだった。


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