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魔王が一歩を歩むまで

「システィアシリーズ 八〇六〇三『ねこじゃらえんちょうさん』起動!」


 魔王様の手の上にあるのは、一本の棒である。

 中央に青い宝珠を埋めこんだ、真っ赤な棒。


 その、1mくらいの棒を指でつまむと、魔王様は廊下に向けて叫んだ。


「伸びろ、にょ(ぼう)!」

「そのセリフは駄目だ!」


 大声で突っ込むが、魔王様はのりのりで如意ぼ……ごほん。ねこじゃらえんちょうさんを伸ばした。

 脳裏で懐かしい曲が流れるオレの前で、魔王様は前後に足を開き、両手で握った赤い棒をするすると伸ばしていく。

 オレが作った物干し竿の長いねこじゃらしと同じ、20mくらいまで伸びると如意……じゃなくて、ねこじゃらえんちょうさんは止まった。


「ふはははは、我が創りしシスティアシリーズは完・璧!」


 魔王様は満面の笑みで頷くと、ねこじゃら……じゃない、如意棒は元の長さに戻った。


「ちなみにこの『ねこじゃらえんちょうさん』であるが、物事が延びる『延長』と学園などの『園長』を掛けている点がポイントである!

 我がネーミングセンスは隔絶した新次元へと到達し、その類まれなる性能に相応しき在り様を全ての者に余すところなく証しているのだ。

 しかも今回は―――」


 さくっと魔王様の演説を無視して、オレは思ったままを呟いた。


「30分で作り上げるとか、一応、すごいんですね魔王様(あと名前の説明とか痛いです)」

「一応すごいとは何事か!

 我は魔王であるぞ、そして魔導具作りは我が趣味である!」


 ※ 猫は趣味に入りません


「おお、そう言えばお主にはシスティアシリーズの永久利用権をプレゼントする約束であったな。

 すっかり忘れて遅れてしまった、許せよ」


 魔王様はそう言うと、いきなりずぶりと爪でオレを突き刺した。


 えっ、と問う間もなくオレは死んだ。


「我が眷属に、我が加護を与えようぞ。システィアの権能を汝に!」


 青い光に包まれて、オレの身体に魔導具を使う権限?が与えられた。

 それ、死体なんですけどね。




 死亡なんてよくあることだ。痛みを感じなかったし、特に問題ない。

 復活したオレは、何事もなかったように如意棒の先端にお手製ねこじゃらしをくっつけた。


「おお、ありがとう!」

「お礼はこの作戦が成功してからです、魔王様」

「うむ、心得た!」


 如意棒を握ったまま、ガッツポーズで喜び叫ぶ。

 こんなにも喜びはしゃいでいるのに、外見はワニが怒りの雄叫びをあげてるようにしか見えないから不思議だ。


 ちなみに、服装はいつぞやと同じ胴巻き……もとい、ミニスカートである。吐き気を抑えて、念のため記載しておこう。


「では行ってくるぞ!」

「ご武運を」


 魔王様はオレ達二人の合作武器を手に、意気揚々とイヌイルームへの扉をくぐっていった。




 魔王様の侵入に、イヌイさんはいつものように飛び跳ねて逃げた。

 だが、広い広い部屋の対角線上、入口で佇む魔王様に対し、一番遠い部屋の隅で魔王様の方を向いてじっと身構える。

 耳を下げ姿勢も低くし、尻尾も下げて足の間に隠して。

 それでも、毛布の中には逃げ込まず、魔王様の方をじっと見ていた。


「第一関門突破だ」


 オレは小声で呟いた。

 もし毛布の中に潜られたら為す術なしだったが、イヌイさんは魔王様を見ている。

 怯えていても、離れていても、今の距離は向き合える距離なんだ。

 これならば勝機はある!


「伸びろ、如意棒!」

「伏字にもなってないです、魔王様」


 部屋の中で呟く魔王様に思わず突っ込む。まあ聞こえないんですけどね。


 するすると、ゆっくり伸びていく如意棒。じゃなくて、ねこじゃらえんちょうさん。

 イヌイさんは一瞬びくっとしてその棒を凝視し―――


 しっぽの先を、ぴくりと反応させた。



 ゆっくりと自分に迫ってくるねこじゃらし。

 小さく揺らされるそれに、イヌイさんの目と顔がつられて動く。


 ゆらーり。ふらーり。

 ゆらゆら。ふらふら。


 低くなっていた姿勢が少しだけ高くなり。

 右足に掛かっていた体重が、徐々に軽くなり。


 ゆっくり迫ってくるねこじゃらし。

 そのねこじゃらしが1mをきったところで、ふいに横に振られてイヌイさんから逃げ


「!」


 その逃げる動きに我慢できずに、イヌイさんが飛びついた!


 魔王様、にんまりと邪悪が満載な笑み。オレも小さくガッツポーズだ。

 そんなオレ達の様子に気づかずに、イヌイさんはくいくいと揺れるねこじゃらしに手を出し始めた。



 オレが扱った時と同じように、揺れ、逃げ、振られるねこじゃらしにイヌイさんが振り回される。


 ふりふり、くいくい。

 ゆらゆら、くいっ、がばぁ、ごろごろ。

 ふりふりふり。


 いつの間にかイヌイさんの顔や態度から恐怖は消え、それから束の間、ワニと猫のじゃれ合いは続くのであった。




「う、うおおおおおお!」


 廊下に戻った魔王様の咆哮が轟く。


「我は、我は―――」


 辺りの灯りは弾け飛び、廊下はひび割れ瓦礫が落ち。


「しーあーわーせーだーーーーっ!」


 魔王様の口から放たれた怪光線が、天井を貫き天をも貫き一条の光の柱となり。

 魔王様の歓喜は、三日三晩留まるところを知らなかった。




「……あれ?」


 そうして魔王様が気が付いた時には、魔王城の上階の一部が吹き飛んでいた。

 いつも儚い、オレの命とともに―――




 よくある死亡はどうでもいい。

 ただ、頑張ってきた魔王様が、イヌイさんと遊ぶことができた。


 ものすごく嬉しそうに喜ぶ姿。

 頑張って報われた魔王様のことが、嬉しくて。

 オレは、天に召される星になりながら、いつまでも魔王様とイヌイさんの幸せな日々を祈り続けるのでした。




 おしまい。




―――あ、ちゃんと復活してもらいました。

 かなりやばかったらしいけどね。


 魔王様、大 歓 喜 !


 そんなわけで、ようやく魔王様とイヌイさんの仲が一歩進展しました。

 距離にして、およそ1m。

 頑張れぼくらの魔王様、この20倍頑張ればきっと手が届くはずだ!



 ここら辺までが、心の中の第二部になります。

 次回はまた新キャラ登場回。

 ついに待望の、男キャラ登場です!


『第六話 ~ 爺がオレを阻むまで』



 新キャラ、どんな子かなー。

 可愛い幼子かな、それともかっこいい勇者とかかな?


 乞う、ご期待!



 あわせて、第二部終了記念かどうか、活動報告にだらりと日記も掲載。

 よろしければどーぞ。


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