オレは兵器を生み出した
クジラの反応は、ちょっといまいちかな?
イヌイさんにとっては、魚ではなく肉扱いだったのかもしれないね。
つまり、イヌイさんの魚ブームはまだ続いていました。
そんなわけで、魔王様と共に廊下からイヌイさんの食事風景を見つめ。
片付けが終わり、イヌイさんも眠りについたので部屋に引き上げることにした。
寝顔を見てるのもいいけど、今日中に作ってしまいたいしな。
メイドさんに集めてもらったのは、鳥の羽根と、色々な棒。
それに、紐やロープや文具類など、色々な道具であった。
「一番長いのが、この物干し竿っぽいやつか」
これはこの部屋で繋げてもしょうがないよな?
先っぽは取り外し式にするとして、棒自体も廊下で繋げよう。
いつかは直接使いたいけど、気長に慌てずだ。
「よし!
簡単なもんだし、頑張って作りますか!」
翌朝。
メイドさんに起こされて、朝から懲役十五日くらい加算されつつ。
食事も済ませてイヌイルームへ行くと、今日も魔王様はイヌイさんを見ていた。
「おはようございます、魔王様」
「ぐふ、ぐふふ……はっ、おおおはよう!」
口元を手で拭いながら笑うワニ、どう見ても邪悪で獰猛な肉食獣です。
ワニって、獣に入るのかな?
「魔王様、朝から不気味です」
「くっ……そ、それはお前が人間だからだ」
「人間じゃないイヌイさんも怯えて逃げますよね?」
「ぐはぁっ!
……お、お前は、本当に容赦がないな」
手と膝をついてがっくりとうなだれる魔王様。
それでも、床に着いた時に地面が揺れないのは流石である。
「協力者、ですから。
ちゃんと、魔王様に協力しにきましたよ」
「む……?
なんだ、その棒は?」
オレが抱えていた大量の物干し竿を見て、魔王様が訝しげな顔をする。
「メイドさんに用意してもらいました。
さて、仕上げをしますか」
長い物干し竿を、ロープで結んでさらに長く伸ばしていく。
5本の物干し竿を連結することで、ほぼ十分な長さになった。
「最後に、先端に取り付けて……っと」
「お、おお……?」
「これで完成です!」
「ほほう。それは何であるか?」
全長約20mの棒。先端部に取り付けられた、羽根のついた固まり。
「魔王様のための、武器ですよ」
「武器とな!?」
笑いながら、オレは自作の武器を手にイヌイルームに入っていった。
オレが入ってきたことに気付いたイヌイさんは、ちらりとこちらを向いてから、また短い脚でクッションをふみふみし始めた。
ああ、クッションになりたい……!
にくきゅうでふみふみされたい、猫パンチされたい、噛まれたい!
あ、マゾじゃないですからね?
イヌイさん限定ですからね?
「こほん。気を取り直して」
オレの場合は、20mも必要ない。
不要な部分はドアから廊下に伸ばし、1本目の棒の連結部分を持って―――
「ほーらイヌイさん、うりうりー」
棒の先端の羽根部分を、イヌイさんのすぐそばで振り動かす!
羽根の動きにあわせて、イヌイさんが手を挙げてくいくいとちょっかいを出す。
それをかわしてまたフリフリ。
くいっ。さっ、ふりふり。
くいくい! するり、ふりふりふり。
……がばぁっ! ふりふり、じゃれじゃれふりふり!
「お、おおおおお!
なんだ、何なのだそれはぁぁぁっ!」
廊下から魔王様の絶叫が聞こえる。
多分この声はオレにしか聞こえてないんだろう、イヌイさんはオレの手にする―――
「お手製ねこじゃらしです!」
細かい羽毛を一本一本貼り付けて作った、お手製のねこじゃらしに夢中だった。
右へふりふり、左へゆらゆら。
オレが動かすたびにイヌイさんが左右に揺れ、短い手を伸ばし、しまいには飛びついて転がりじゃれる。
うおおお、可愛いいぃぃ!
時間を忘れ、夢中になってイヌイさんとじゃれる。
途中で少しずつ持ち手を短くしたのだが、それでもイヌイさんはじゃれる、じゃれる!
最終的には3m以下にまで近づいたところで、イヌイさんは思い出したようにオレの顔を見て逃げ出した。
だが、4.5mから一挙に3mである。嬉しさが最高だ!
「ねこじゃらし、大勝利!」
オレは廊下で、手製のねこじゃらしを両手で担いでガッツポーズ。
魔王様はきらきらした羨望の眼差しでオレを見下ろしていた。
「おおお、すごい、すごいぞねこじゃらし!」
「はい、これで効果は実証されました」
オレは20mの棒のついた手製のねこじゃらしを担いだまま、魔王様を見つめて叫ぶ。
「さあ、魔王様。
今度は、あなたの番です!」
「えっ」
呆然とした表情の魔王様に、べちょべちょに汚れた顔で笑いかけてさらに棒を高く掲げて示す。
「これは元々、魔王様がイヌイさんともう一歩近づくために作ったんです。
今のイヌイさんなら布団を被って隠れたりしない、必ずこのねこじゃらしを見てくれるはずです」
「……お、おおお!
かっ、貸してくれるのか、我にも貸してくれるのか!」
「もちろんです」
「ありがとう、ありがとう!」
感極まった魔王様が、オレを握りしぐちゃりっ。
「ふっかぁぁっつ!」
握りつぶされて死んで蘇ったオレは、復活効果で綺麗になった顔に笑顔を浮かべて。
「さあ魔王様、今こそこのねこじゃらしを!」
「うむ。
おぬしの真心、ありがたく借り受けようぞ!」
魔王様が満面の笑みで、オレの手からお手製のねこじゃらしを受け取り。
「―――あっ」
ぺきっ、と。
とても軽い音を立てて、物干し竿が折れたのでした。
次回予告クイズ、結果発表。
潰れるのが人。
戯れるのが猫でした。
兵器と言ってもねこじゃらしだよ!
メイドさんとかマッサージとは関係ないよ!
そんなわけで、次回。
『魔王が一歩を歩むまで』
武器を手にした魔王が、猫に挑む。
その結果は、果たして―――




