オレは童貞捨てました
数日前のこと。
魔王様に紹介されたメイドさんは、とても可愛らしくて、誰よりも美しかった。
やや薄い金髪は、しっとりと穏やかに煌めき絹のように細く柔らかく揺らめく。
その髪を仕事の邪魔にならぬようにか、側頭部で一纏めにして高い位置から滝のように胸元まで垂らしている。
優しく細められた瞳は、真紅。宝石のように鮮やかさで、強い意志と暖かい喜びが輝いていた。
赤い唇も、優しげな微笑みも、白く滑らかな肌も、その全てが暖かく、美しく。
だけど、どこか楽しげで、心を蕩かす程に魅力的だった。
服装は、白地に赤い縁取りをした半袖のメイド服。各所のフリルと胸元のリボンが愛らしい。
身長は、とても低い。オレの胸までくらいだから、130か140くらいかな?
不釣り合いに巨大な胸がメイド服を押し広げ、胸元はボタンを留められずリボンでなんとか服が脱げないように留めてある。
そのため、リボンでは隠しきれぬ深すぎる谷間と柔肌、下着の縁までもが露わになっていた。
顔と胸、二の腕と太もも。
清楚なメイド服から覗く白い肌が、滑らかで美しく、けれど生命を感じさせる活力と色気に溢れている。
そう―――完成した芸術的な美しさというよりも、命が、心が通った生命の美しさを強く感じられた。
人形みたいなんて、とんでもない。人形で、こんな美しさを表せるわけがない。
あえて表現するなら、女神か。それとも、幼い姿は天使と呼ぶべきか。
あまりの美しさに、思わず涙が滲むまま手を緩やかに伸ばし。
「よろしくお願いしますね、ご主人様?」
甘い香りと甘い声に埋め尽くされて、心も魂も浮き上がりそうになる。
伸ばした手を優しく取られて、頬に添えられる。
すべすべで柔らかい……暖かい。
ふらふらと、引寄せられるように一歩を踏み出し。
自分の肩にも届かぬ、小さな彼女を見つめてそっと―――
かしゃっ、と。どこかで聞いたような音が傍らから響いた。
意識が横に向こうとするのを引き留めるように、彼女が顔を傾けて、小さな唇を手のひらに押し当てた。
「!?」
それはさながら、子猫がミルクを舐めるような。
そんな、小さくて、むずがゆくて、心地よいこそばゆさ。
自然と―――
ぶぱっと、飛び散る鼻水。
いや、おかしいだろ!
「きゃぁっ!」
「うわ、ごめん!」
咄嗟に謝り、慌てて手を離す。
前髪から顔から、オレに汚された彼女が呆然としたようにしゃがみこむ。
横手から先ほどの音が鳴り響くのも気になるが、まずはハンカチを取り出して拭う。
「本当にごめん」
「い、いえ……ご心配なさらないで下さい」
上目づかいで、まだ汚れたまま微笑む彼女。
その笑顔と、深い谷間、垣間見える柔肌にどきどきしまくる。
ぶっちゃけると、興奮する。
でもこんな状況だし、そもそもオレが汚したんだし、必死で我慢する。我慢できてる、はずだ。
「本当にごめんね」
猫みたいに舐められたから反応するとか、オレの猫アレルギーの適用範囲広過ぎだろう。
「大丈夫です。
ご主人様のおかげで、いい絵が取れましたから」
「……え?」
にっこり微笑む笑顔に、思わず呟くと
「疑問形の『え』と、いい『絵』をかけただとぉ!?」
今まで空気だった魔王様が、ここぞとばかりに両手を振り上げて叫ぶ。
「あ、横で慟哭してる魔王様は無視でお願いします」
「わかりました、ご主人様」
お互い、顔を向けもせずに意志の疎通を果たした。
一瞬で空気に戻る魔王様。
とりあえず、なかったことにして仕切り直す。
「こほん。
いい絵ですわ」
いつの間にか横に置かれていた、スマホのようなものを取り上げるメイドさん。
向けられた画面には、オレが笑顔でメイドさんの口元を押さえて抱えている写真や、オレの股間の前に座り込んだメイドさんが顔面を白くてぬるぬるしたもので汚されている写真が
「えええええ!?」
「おおお、しかもその絵を五連発であるだとぉぉ!?」
「この、ご主人様に良い様にされてしまった私の醜い姿―――
日本のお巡りさんにお見せしたら、どうなるのでしょうか?」
「ちょっ、待って、それは全くしゃれにならない!」
なんだ、この子突然何言い出すの!?
「大写しにして、ご主人様の地球の自宅に証拠写真として送り込むのも素敵ですわ。
そうしたら、行方不明のご主人様の捜索に、有力情報として警察内で展開されることでしょう」
「やめて!
オレが行方不明で捜索されてるとかさらっと爆弾発言だけど、ともかくやめて!」
「別に、ご友人に送り届けてもいいですわ。
きっと、犯罪に手を染めたロリコンとして、しかるべき情報公開をして下さるものと―――」
「ごめんなさい、勘弁してください!」
人生、初の土下座である。
これ以外に考えられなかった。気づけば、心と身体がメイドさんに屈していた。
オレは、異世界で超絶メイド美少女を相手に、土下座童貞を捨てることに成功しました。
「我、魔王であるのに……この城で一番偉いのに……」
「にゃぁんゅぅぅ……」
まさかの『土下座童貞』でごめんなさい。
そう簡単に、良い想いはさせんよ!
でも、このメイドさんがエロ担当でサービス担当であれやこれやと、一台五役くらいの働き者のはずです。
次回に向けて、メイドさんがアップ全開です!
「あら、私のアップを写真で撮られるのですか?
いいですよ、ご主人様。ほら、もっと私に、このはしたないメイドの肢体に、舐めるように斜め下からカメラを近づけて……?
変質者の盗撮証拠写真は、後でお住まいの地域の警察署までお送りしておきますね☆」




