魔王が女装を好むまで
部屋のドアが開く音にイヌイさんが顔を向ける。
だが、開いたドアから巨大な手と爪が覗き、入ってきたのが魔王様だと気付くなり、イヌイさんは部屋の隅へダッシュで逃げ出した。
さらに、そこにあった毛布の中に飛び込んで丸くなって震えている。
すごい小さくこぢんまりなってて可愛い。
「……まあ、予想通りだよな」
魔王様の服装を見るまでもなく、イヌイさんは逃げ出した。
そこに、なんというか、工夫の余地はなかった。
「わ、我が完璧な計画が……」
膝を突き崩れ落ちる魔王様。
ちゃんと、廊下に出て、ドアを閉めてから力尽きる辺りは本当に頑張ってると思う。
頑張ってるとは思うんだけど……
「頑張る方向性が、ちょっと違いましたね」
苦笑しながら、地についた魔王様の腕をぽんぽんと叩いた。
「気長にいきましょう、魔王様。
まずは魔王様が居ても逃げ出さないところを目指しましょう」
「う、うむ……そうだ、な……」
力なく頭を振りつつ、起き上がる魔王様。
「あ、わかった」
「む? 何がわかったのだ?」
やべ、声に出しちまった。
でもわかったんだよ、魔王様やサイさんが何に似ているか。
「鳥獣戯画だ」
「ちょうじゅうぎが?」
鳥獣戯画とは、動物たちが擬人化された、日本最古のマンガみたいな作品である。
みんな教科書や何かで、一度はウサギとカエルのすもうみたいなイラストを見たことがあるだろう。
あの、カエルに魔王親娘がそっくりなのだ。
と言っても顔はワニなんだけど、手足の長さバランスとかがそっくりだ。
「いえ、なんでもないです」
魔王様の姿に、鳥獣戯画のカエルがかぶさって見える。
うん、ちょっと手足はカエルより太いけど、似ている。
これでもう魔王様の事をバ○モスそっくりだって表現しなくて済むよ!
魔王だからって、名前から何からバラ○スそっくりで、正直どう表現すればいいのか悩んでたんだよ!
短い手足を振ってどたどた踊るし。
「ああ、胸のつかえがとれた気分だ」
カエルもどきな魔王様の横で、小骨が取れたような清々しい心地を味わっていると―――
「―――ええい、なんかむかつくのだ!」
「ええええ」
べちゃっ。
理不尽にも、魔王様に叩き潰されて今日も一機減りましたとさ。
これより後、魔王様がイヌイルームに入る時は、必ずキモい女装姿になりました。
女装したことがプラスかマイナスかは、遊び疲れて幸せそうに眠るイヌイさんのみぞ知るはずである。
まさかの出オチ。入室即引きこもり、魔王の策など猫には通用しないのだ!
あまりの瞬殺さに、今話は10行ぐらいで終わりそうになりました。
鳥獣戯画、わりと大好きです。
でも鳥獣戯画展の大行列は異常だと思いました。
人気有り過ぎだろう……
そういうわけで、毎日更新はここまでになりそうです。
次回『第四話 ~ メイドがオレを落とすまで』(仮)
ようやく美少女だよ!
ちゃんと、主人公から見て美少女だよ!