魔王は娘を自慢した
イヌイさんを見守ること、数時間。
流石にそろそろトイレが限界だし、食べなくても死なない身体になったとは言え空腹感も無視しがたい。
不眠不休でストーカーの出来そうな魔王様に断りを入れ、断腸の想いでオレはトイレに向かった。
「ついでに、そろそろイヌイさんのご飯も用意するか」
魔王様の所に戻る前に、隣の部屋でイヌイさんの食事の用意をする。
仕切りで区切られた器に、5種類の食事を綺麗に盛り付ける。
内容も、肉、魚、かりかりやゼリーなど色々揃えてみた。
「おお、食事を持って来たんじゃな。良いタイミングじゃ」
用意した食事と水のボトルを持って戻る。
魔王様は、相変わらず四つん這いの状態でイヌイさんを見つめていた。
傍から見ると、本当に不気味だなぁ。ドン引き過ぎる。
「そろそろ、ぼくもご飯食べたいとこですけどね」
「なんじゃと!?
それはイヌイさんのご飯じゃ! 貴様に食わすキャットフードはないわ!」
「オレが食いたいのは人間用の食事だよ!」
言いながら、イヌイさんの部屋に入ろうとして……
「魔王様、これ何ですか?」
これまで全然気づいてなかったが、部屋の入口を塞ぐように石柱が立っていた。
形はどうやら六角形、サイズは自動車……それも座席三列のワゴン車を立てたぐらいはありそうだ。
「ん?
おお、そう言えばさっき何かした気がするな」
魔王様が軽く手を振ると、衝撃波のような風が吹き抜けて石柱が砕けた。
「……ぐす……暗いよぉ、怖いよぉ……お母様助け……て?」
砕けた石柱の中、まず見えたのは髪だった。
頭の両脇でリボンを結んだ、いわゆるツインテール。しかも、色は濃いピンク。
「え……?」
大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼし、見下ろす視線がぶつかり合う。
うるうるとした金の瞳をさらに大きく見開いて、オレを見つめる。
「ぅ……」
ヘソ出しノースリーブの白い上着に、布を破りそうな勢いで突き出した巨大な胸。
右手は無意識にか、その巨大過ぎる胸を押しつぶすようにしてオレの視線から隠し。
左手で、足を隠すように短い黒のスカートの裾をぎゅっと握りしめて。
「き、き―――」
まあ、隠し切れてなくて赤く染まった下乳がばっちり見えているし。
スカートの裾も全然長さが足りず、その内側が割としっかり見えているわけなんだが。
はっきり言って―――
「きゃぁぁぁぁっ!!」
耳をつんざく轟音に、踏み込んで突き出された拳。
―――はっきり言って、これっぽっちもらっきーすけべ感や役得気分はなく、オレは全力で被害者であることを声高に主張したい。
そう思いながら、軽々と廊下の果てまで吹き飛ばされたオレは壁の染みになって死んだ。
理不尽。ありえない。やだこれ。
「改めて、紹介しよう。
我の娘だ!」
うん、言われなくても分かります。すごくよく分かります。
「貧弱な人間なんかに名乗る名前はないんだからねっ!」
ぷいっという擬音が出そうな勢いで、斜め上を向いて言い放つ魔王様の娘。
涙の跡か、湿った肌が明かりを反射して煌めいた。
「まあそう言うでない。
そう言えば、我は協力者へ対価として、お前との仲を取り持つ約束をしておったのだった!」
「えええええええっ!?」
魔王の城に、驚愕―――いや、不満の雄叫びが響き渡った。
声の主は、もちろんオレだ。
そりゃ叫ぶに決まってるよ!
「ちょ―――ちょっと!
あんたその態度、どういう意味よ!?」
「どういうって、そのまんまだよ!
魔王様、国一番の美少女って、国一番の美少女って……!」
「うむ。
我が娘は、国一番の美少女であるぞ。輝く瞳など、我そっくりであろう?」
自分の金の瞳を指差しながら、嬉しそうに笑う魔王様。
邪悪な愉悦に場を支配され、オレの心臓が縮み上がる。
「こ、れ、が、国一番……!?
いや国一番はいいとしても、美少女……」
「くあああ、しっつれいな人間ね、ふんっ!」
魔王様の娘は、オレを威嚇するようにその口を開いた。
口内に並ぶ歯が、頭から丸かじりとばかりにぎらりと煌めく。
でも、日ごろから魔王様慣れしている今のオレはその程度で怯んだりはしない。
物理的な怖さなら、その程度はなんてことない!
「うむうむ、照れるのも分かるぞ。
娘は可愛いからな」
「やっだー、もう、魔王様ったらぁ!」
手を振り、ぺしっと魔王様の足を叩く娘。
思わず二歩後ずさったのは、巻き起こされた風圧か、その顔ゆえか……
気づけばオレは、つばを飲み、汗を拭っていた。
ヒロイン登場!
新キャラは、爆乳ツインテのツンデレ魔族プリンセスです★
お好きでしょう?