8.今日も私は…
私が目を覚ましたのは翌日、そこは病院のベッドだった。
カラダには至る箇所に無数のチューブが通されていて、朧げながらだが覚えているが、気分は良いものではなかった。
3日間のICUを経て一般病棟、面会謝絶が解かれたのは更にその10日後だった。
そこからは良い事も悪い事も、様々に有り過ぎてそれらは私を取り囲んでいく。
先ずは怒られた 笑。
いや、笑い事ではない。
怒られた、とゆうより叱られた。今までの人生で誰よりも何よりも、真剣に。
私のカラダは本当にヤバかったらしく、下手すればそのまま死んでしまってもおかしくなかった、とか。
高熱の先に手の平の紫の斑点がいつもより濃く大きく見えた、視界が黄色く見える時点で既に死にかけているらしく、それはそれは耳が痛くなるほど永遠に聞かされた。
両親にも怒られたし泣かれたし、来る人会う人に頭を下げてる姿はさすがに私も反省せざるを得なかった。
当然ガッコにも迷惑を掛けてしまった。
でも楽しい事もあった。
チームメイトがとにかく会いに来てくれた事。
色々話しを聞かせてもらった。
私が倒れてから今日までの事。
聖エルモア高校に勝ち、連戦となった決勝戦も勝利してリーグ戦に進出した事。
リーグ戦も順調に初戦を勝った事。
サトちゃんやミワちゃんは勿論、他の3年のメンバーも後輩達も珍しく代わる代わるやって来た。
実はエルモア高校の外国人留学生、エリ・ランドルフさんもわざわざ尋ねに来てくれた。
私はカタコトの英語(彼女はフランス人だけど)
彼女はカタコトの日本語。
お互い変な会話の世界だが、かえってそれが楽しくなり私と彼女はすぐに友達になれた。
メールも交換してそこでも色々楽しんでる。
人望のない私の周りに、人が集まる光景。最初は圧倒されたが徐々に慣れていく。そして徐々に病室も寂しくなった。
それは当然で気にはならない。
夏の大会は続くし、それが終われば三年生は本格的な受験。二年生以下も新人戦に向かい新たな日が始まる。
私はそんな風景を頭に描きながら、病室で通信教材やら参考書やらを読み漁っていた。
私は一学期が終わっても、夏休みが終わっても病院で暮らし、ガッコに顔を出せたのは九月も中頃を過ぎた辺りだった。
でも十月の中間テストが終わるとまたすぐに入院した。
私が思ってるよりも私のカラダは良くはないみたいだった。
そんな誰も病室に来なかった日。
カトちゃんが前触れなくやって来た。
「なんだ、今日は1人か」
「…珍しい。どうしたんです?花束まで持ってきて」
「部活が休みだから来てやったんだ。たまには顔見せなきゃお前はギャーギャーうるせえからな」
「…ウソばっかり」
「あ?」
「看護師のお姉さんから私、毎日話しを聞いて知ってんだから。いつも病室まで来てるけど中に人が居るとすぐ帰るって」
「…」
「…ありがと」
「フン」
「ごめんね」
「何が」
「色々迷惑掛けたし、約束も出来てないし」
「…?」
「約束!したじゃん、デートするって」
「デートだ?」
「…」
忘れてんじゃねーよ、クソじじー。
私は睨みつける。
「…あぁ、あれか」
「うん。がんばったら井上さんのお墓参りして……だけど頑張れなかった。全然ダメだった。沢山ウソついたし、カラダも動かなかったし、迷惑もかけた」
「お前は全力でやらなかったのか」
「やったよ。全力出した、私の全部を…出したよ。でも私の全力なんて遠く及ばなかった。あんなんじゃ頑張ったなんて言えないよね…」
「…頑張ったよ」
「カトちゃん」
「お前が試合に出て、ウチは勝った。これが事実だ。お前があの時根性見せて体を張ったから、試合が終わっても病室にもお前を訪ねて人が集まるんだろ。違うか、頑張ったんじゃねぇのか」
「ありがと。嬉しいけど、ちょっと残念」
「なにが」
「せっかく頑張ったって言ってもらったのに私はこんなだから…デート出来ないもん…がんばってないって言ってくれた方が良かった、かも」
「…治せばいいだろ。ちゃんと治ればいつでも連れて行ってやるよ。お前が退院するまで待っててやるから、今度は嘘をつかずしっかり治せ」
「…」
「なんだ、じろじろ見やがって」
「え?なんでもない。うん!治す!私、ちゃんと、今度こそ本当に治す。ちゃんと治すから!病気も怪我も治すから!」
「うるせえ!」
「笑」
アラフォーのオヤジのくせにかっこいいこと言いやがって。
でもさ、デートするために病気治すってゆうのも悪くないかも。なんだかその先の未来が楽しみになった。
でも私の体調が好転する事は無く、結局私は二学期が終わっても退院することは出来ませんでした。
そして決断をしました。
あれから月日は流れて春へ。
「あー!センパイやっと見つけた、そんなとこ居たんすか。今日こそは体育館来て下さいよ」
桜の面影なんていつの話し。
「先輩が来るのみんな楽しみにしてますよ」
春というより今日の陽気はもう初夏。
「私はとっくに引退してんだから。受験生だよ」
「またまたぁ、中間楽勝でクラス1位じゃないっすか、センパイ」
ウルサイ後輩。
今は同級生 笑。
「先輩はやめてよ。お前達のおかげでダブったの速攻バレてさぁ」
「先輩はダブりじゃなくて休学じゃないですか」
「変わんないよ。恥ずかしいんだから」
私は去年思い切って半年間の休学を決めました。
一月の始めには退院したが正直、思うほど体調は優れなかったし、足は補助杖が無ければ歩けなかったから。
スポーツ推薦で入学した私だが、スポーツが出来なくなってもガッコは私を留めてくれました。
そのせいか、肩の力も抜けて休学中は家でのんびり過ごせました。
卒業式だけは顔を見せた。
在校生としてみんなを見送った。みんな、笑顔でした。
本当なら春休みの間に私とミワちゃん、サトちゃんの三人で卒業旅行に行く予定だったが、それは延期に。
二人で行っても全く構わないのに私の卒業まで待ってくれるって。
私が復学したのは五月。
ゴールデンウイークが終わってやっと顔を出せました。
補助杖もなくなり、ぎこちなくではあるけど普通に生活出来てます。
カラダも軽いです。
「まさか、わんこと同じクラスになるとはなぁ」
「嫌ですか」
「嫌じゃないよ。でもなんか変なカンジ」
「私は嬉しかったですよ。先輩は結構謎多いし、同クラでやっと少し近付けたかなって。それにバスケの事もこれからはもっと聞けるし」
「センパイ!あたしもめっちゃテンション上がってますからね」
「ザキナベはうるせーからマジキライ」
「またまたぁ、かんべんしてくださいよぉ」
こいつ、ほんとウザい 笑。
だから鍋崎じゃなくてザキナベって呼ばれるんだよ。
「お前、ちゃんと自主練やってんの?デブのままじゃん」
「デブ⁉︎ひどいっす。ちゃんとやってますって部活終わりに走って、朝練もやってんすよ」
「ナベはこれでもがんばってますよ。先輩に怒られた日からいつもランニング追加して、ベンチ入りも出来たし」
「へぇ」
「わんこぉ」
「んー…じゃ、今日は行ってあげるよ。でも私は何もやれないからいつもみたいにギャラリーから見てるだけだけど」
「ほんとですか!」
「いいよ。いいけど…」
「?」
「先輩ってゆうのは禁止。今は同級生だからさ。ミハルでいいから」
「呼び捨てなんて無理ですよ」
「あ!じゃぁじゃぁ、名字じゃなくて名前で呼ぶのはどうでしょう。“アキラちゃん”でいきましょ。ね、アキラちゃん」
「…うん。まぁ、それでいいけど」
いいけど…こいつにいわれるとなんかイラっとくるんだよな 笑。
「アキラちゃんかぁ。すごくいいですよ!私もそう呼びます」
「それに…」
「?」
ザキナベがなんかニヤニヤしながら口を濁すから嫌な予感が走った。
「早く行ってあげないと、カントク寂しがってますよぉ」
「!」
そうか!
こいつら結局あれを聞きたがってるんだ。
私が復学する手前のゴールデンウイーク。
このゴールデンウイークに私はカトちゃんに井上さんのお墓参りへ連れて行ってもらった。
その際、私がカトちゃんの車に同乗していたのをどうやらバスケ部の部員に目撃されたようで、一日も経たないうちにラインやらつぶやきやらで拡散されまくり熱愛スクープとして全校に知れ渡る事態になった。
だから私が顔を見せた時は、留年した三年生というより、禁断の恋で謹慎した奴みたいな変なザワザワが教室を色めき立たせていた。
復学早々、別室に呼び出しくらって根掘り葉ほり尋問されるは、カトちゃんにも火の粉は降りかかってすげー変な空気で、校内で偶然彼と会って目が合うのさえ気まずいし…
「あのねぇ。私はお墓参り行っただけなんだよ。話すと長くなるから今度ちゃんと教えてあげるけど、カトちゃんの知り合いのお墓なの。私が無理言って連れてってもらっただけ」
「へぇ。そおっすかぁ」
「……やっぱり今日は行かない!」
「先輩、じゃなくてアキラちゃん!もう!ナベが変なこと言うから」
「えー?わんこも気になるって言ったじゃん」
「ナベ!」
「ごめん。センパイ、すんません」
「…」
どこまで反省したかはわかんないけど、あまり怒りたくもないので私はふぅと、一息。
ま、いいんだけど。確かにお墓参り以外にも買い物付き合ってもらったり、お茶したりもしたからそんな噂が立っても仕方がないんだけども…笑。
「余計な事とか言わないで練習にちゃんと集中するなら行ってあげてもいいけど」
「本当に⁉︎」
「…いいよ」
「やったー。約束ですよー!」
「別にやましい事とかはないから変な噂になっても気にしないけどさ、カトちゃんに色々メーワクかけてるから、そこはちゃんと、ね」
「イエス、フォーリンラブ♡」
「いつのだよ 笑」
二回目の高校三年生もなんかドタバタしてるけど……
私は高校生活、楽しんでます。
三原晶はこのガッコが大好きです。