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届け、私の60秒!  作者: kiko // (詞..若月夢)
7/8

7.この時のための今だから


「センセ、すいませんでした」

「随分長い便所だったな。やる気ないなら帰っていいぞ」

「コーチ、ミハルを止めていたのは私です。自分でテーピングしたみたいなんですが、少し違和感があったみたいなので、私がもう一度処置し直したんです。すみませんでした」

「…痛むのか?」

「大丈夫です。マネージャーのおかげで楽になりました」

「…」

「…」

私はビクビクしながら次を待つ。

「さっさと座れ。試合の流れだけは見ておけ」

「はい」

私はホッと撫で下ろした。


自分のガッコの試合に遅刻してしまったが、サトちゃんのおかげでどうにか事なきを得た。

2年生達が“こっちこっち”と手招きしてるのに気付き、私はそっちへ。

気を遣ってくれたのか、敢えてカトちゃんと距離をとって私の席を作ってくれていた。


「悪いね、ありがと」

「先輩、ハチマキなんてどうしたんですか?めちゃ気合い入ってんじゃないっすか」

「コレで試合出れなかったら恥ずかしいけどね 笑」

「大丈夫ですよ。ミワ先輩達が絶対作ってくれますから待ちましょう」

「そうだね。で、どうなの、展開…うわぁ。何あれ、デカくない⁉︎ホントに女の子なの⁉︎」

「先輩、それは結構ひどい」

「笑」


私がベンチに座った時には既に第1ピリオド6分が経過していた。


エルモアは噂の外国人留学生を最初から投入していた。

背番号22。

アニエ・キータ。

セネガル出身。

身長188cm…デカすぎる!2m超えて見えるのは気のせいだろうか。

男子並みの高さとパワーが売りで、聖エルモア高校の100点ゲームの正体が正に彼女と言っても過言ではない。


これは荒れたゲームになる予感がしたが。


15 ー 7


得点は予想に反してロースコアな展開。

しかも桜杏リード。


「すごいんですよ。今日はミワ先輩が鬼のディフェンスであのガイジンを抑えてるんですよ。徹底マンマークで凄すぎです」


あまりにデカい彼女にだけ集中してしまったが、圧倒的な攻撃力を得たエルモアをこのスコアで足止めする、本当に凄い選手はミワちゃんなのかもしれない。


まだ第1ピリオドだけど、きっと相手は困惑している。

エルモアも私達桜杏も普段は攻撃型のチームで、早ければもうこの時間で20点を越える事もあるからだ。

外国人を入れた段階で一方的な展開もあったはずだが、両チーム、この得点。

しかもエルモアは10点にも届いてない。


実は私が数日前に提案したのだ。

得点重視のRUN AND GUNを捨ててディフェンス中心でいこうと。

この試合、私を出す為にきっと無理していつも以上に飛ばしまくる可能性があったから、敢えて抑えていこうと。

いくら今までの試合で全勝してるとはいえ、留学生が来た後は試合もしていないからだ。

甘い相手じゃない。

私を試合に出すという目的が、留学生の脅威によって、どこかで仇になる可能性もある。

だからロー勝負でじっくりいこうと。


その結果が早くも第1ピリオドで発揮されて20ー9という形で終えた。


第2ピリオドが開始されても、ミワちゃんを始めコートの皆は集中を切らさずディフェンスに力を注いだ。


点差は徐々に開いていく。

でも会場は、私達も含めて点差は有って無いものと踏んでいた。

試合の鍵は…

ミワちゃん対アニエ・キータ。

この対決の均衡が破れた時が、チームが崩壊する時と睨んでいた。


桜杏でこの留学生を他に抑え込める選手はいない。

ミワちゃんがこのままイケば桜杏勝利。

でも反対に何かしらのアクシデントがミワちゃんを襲えばエルモア勝利の図式だろうか。


だからこそエルモアはミワちゃんを削るべく、執拗にマークをし始める。

ボールを持てば必ず二人で厳しくチェックし、なかにはシュートの時でも関係ないくらい激しく押されたりして、明らかな嫌がらせ紛いなファールもあった。

これには会場中からブーイングがこだまして一時騒然になった。

「ガイジンのくせにせこいファールしてんじゃねーぞー」

「バカヤロー」

とか、下品な野次も飛んだが、当のミワちゃんは笑顔でコートやベンチの興奮を抑える。

「大丈夫、大丈夫♪全然ラッキーっしょ」

手をパンパンと叩き“はいはい、シュートいくよー”と審判からボールを貰い、フリースローラインに立つ。

彼女は全く動じずに、アンスポーツマンファールの特別フリースローも何なく2本とも決めてしまった。


このプレーを観て盛り上がらない訳がない。


桜杏ベンチはキャーキャー騒いでこれでもかと大ミワコール。

勿論私もその中に加わっていた。


ただ、それとは別に私の体調は悪くなっていく一方だった。

みんなと一緒に騒いでいないと、自分でも自分をゴマかせないくらい気持ち悪くなっていた。

コートで必死に頑張っているのは、チームメイトなのに、私を試合に出す為に頑張ってくれているのに、なんで私は勝手に疲れているんだ。

ベンチ座ってるだけでお疲れなんてありえないのに、へばってる自分に腹が立つ。


笑顔で迎えてあげなきゃ!

みんなを迎えてあげなきゃ!


しっかりしろ、私。

苦しいのはコートのみんな!

私は気持ち悪くないし、痛くないし、いつでもヤレる!

私はヤレる!


自分を鼓舞して、この興奮に乗じて私は皆を応援し続けた。


そんな中、第2ピリオド残り30秒を切ってミワちゃんは一度ベンチへ戻って来た。


第2ピリオドと第3ピリオドの間には15分の休憩タイムがあるので、このまま出ずっぱりでも良いのだが、やはり相手は外国人だけあってこの30秒があるだけでも随分違う筈。


交代を終えカトちゃんに何やら一言、二言の後で肩をポンポンと叩かれ、ミワちゃんはすぐに私の所へ来た。

察するに、よくやった、おつかれ、といったとこだと思う。


「ただいま」

「おつかれさま」


私がタオル渡す前に既に後輩らからタオルもドリンクも受け取っていて、何か言わずも彼女が私の隣に来ればベンチに座ってた後輩はすっと席を開ける。

女王様の待遇だ、当然だけど。


「大丈夫?さっきのファール。見てるこっちがヒヤヒヤしたよ、かなりエグかったから」

「あぁ、あんなのカトちゃんの方が100倍DVだろ?」

“ぷっ”

けろっと答えるミワちゃんに吹いてしまった。

「昔誰かがあたしに言った台詞だけど」

「…あ!」


カトーのじじーに比べたらこんなのハナクソ。


思い出した。私の方がお下劣だけど。


「一年前、上級生ぐいぐいリードして、相手が潰しにかかっても何食わぬ顔でそう言ってさ、すげー奴だなって素直に感じたよ。そうゆうのも含めてミハルからは随分習ったよ」

「そっか。よかった」

私の下品なぼやきもたまには役に立つんだな…

「お⁉︎終わった。やっと半分か」

結局ミワちゃんと話してる間に第2ピリオドは終了した。

当然試合はしっかり見ていた。


30ー15


15点の差。

エルモアは若干縮めたといったとこか。

その差額は3点。厳しく見ればうちは3点縮まるどころか、もう3点広げられる場面もあったけど、そこだけが少し気になる。


「ー以上だ。いいな、あっちの4、5、12が次ファールした時点でフォーメーションを変えて一気に流れを掴め」

“ハイっ”

「他、何かあるか」

「はい。私からいいですか」

カトちゃんは無言だが、うなづいた。

「みんな、おつかれさま。あっちもファールゲームしてるからってのもあるけど、熱くなりすぎないで丁寧にいこう。無駄な体力を使うだけでプレーも雑になるから、ね。あとはミワちゃんが狙われてる分、わんこがもっと指示してあげなきゃだめ。ガードから崩していかないと」

「はい」

「あたしだったら大丈夫。あんなファール、いつものカトちゃんよりかわいいからさー」

この一言に全員ドッと湧いた。

やっぱりあるあるなんだ 笑。

「おいっ、なんだそりゃ」

更にドッと湧く。

「もういい!しっかり休め。それと轟、お前試合終わったら腕立て100回な」

「え⁉︎ウソでしょー!」

二人のやりとりが夫婦漫才みたいで、チームの中にあった殺伐としたものはいつの間にか溶けていた。


がっくりと肩を落としたミワちゃん。

だが瞳は真剣な眼差し、ポツリと呟いた。


後半はもっと引き締めなきゃ


と、聞こえた。


「やっぱり強い?」

「…強い。外国人入っただけで別のチームとやってるみたいだよ。最初ハナから息巻いて点取り合ってたらバテバテになったかも。ミハルがディフェンス勧めたおかげだわ、サンキュー」

「どうしたの、柄にもない」

「ミハル」

「うん?」

「試合は勿論うちらが勝つけど、正直20点は…わかんない。もしそうだったらホントごめんな」

「それでいいの。今はそれ、忘れて。私は“結果”でいいの、ね。集中しないと」

「…だな!おしっ、じゃちょっとミハル」

「なに」

「次のパワー注入よろしく」

するとミワちゃんは私の顔を押さえて、おでことおでこを合わせる。

「え、あ!ちょ…」

マズイ、今額に合わせられたら…


⁉︎


ハチマキ越しだが私とデコぴたしたミワちゃんはすぐ気付いてしまった。


「…」


おでこから離れ言葉を失う二人。


ミワちゃんは素知らぬ素振りで辺りに目をやり、私達に誰も向いてないのを確認してから、コートの端まで私を連れ出した。



「ハチマキの下、何仕込んでんの」

「…」

何も答えずハチマキだけを解いた。

「熱、あんの?」

「9℃超えて、頓服飲んだけど8℃までしか下がらなくて」

「…足は⁉︎」

「コート練習やった時、痛くなった。トイレでなんとかしたかったけどサトちゃんに見つかってすごい怒られて、でも全部やってくれて」

「サトに?そうか!だから第1ピリオド、ミハル見なかったのか」

「怒ってるよね」

「怒ってるとかじゃなくて心配なんだよ」

「ごめん」

「あやまんなって。そんなんじゃなくてさ、あたしにはなんとなくだけど…分かる気、するから」

「…」

「サトならすごい怒るよな。あいつ優しいもん。今日休んだとしてもうちらがミハルの出番作ってくれるって言ったんじゃねーのか。目に浮かぶよ、サトの真剣な顔。でもさ、違うんだろ?ミハルにとって…今日が全てなんだろ」

「…」

「…」

「なんで分かるの?」

「お前があたしだったら、朝、同じメール送ったんじゃないの?あたしがお前だったら…今日が全てなら休めと言われても休まない」

「…」

「たとえ足が千切れても、無理し過ぎて死んでも。そうなんだろ?」

「…うん」

「泣くな」

「泣いてない」

「嘘つくな」

「ごめん」

「あやまんな」

「うん」

「よかった」

「え」

「これでミハルに全力パスを投げる覚悟が出来た。迷ってたんだ。無理させたくなかったし」

「私、ちゃんと取るから。私がミスしても全力で投げて。絶対応えるから。ありがと」

「分かったよ。今日はマジでしんどくなるから余裕なしでいくよ」

「うん」

「おそらく残り1分でもあいつら、多分ミハルを狙い撃ちしてくる。ディフェンスもオフェンスも。ホントはミハルは立ってるだけで充分だけどきっとうちら、自然にミハルに頼るかも知れない。足も体調もヤバイの分かってる。それも承知で1分…よろしく」

「ミワちゃん」


私はホントに友人に恵まれてる。

サトちゃんもミワちゃんも絶対私を試合に出したくないはずなんだ。でもそれを押し殺して私のわがままを聞いてくれる。

他人から見ればそんなのホントの友情じゃないって思われるだろう、私もそう思う。大事な友達を危険に晒したくない。

コートの上で死んでいいなんて嘘!

足ダメにして歩けなくなっていいなんて嘘!

そんなのは、途中で逃げ出してホッと胸を撫で下ろした時に、抗う後悔の為の言い訳なんだ。そんなの分かってる。ミワちゃんもサトちゃんも分かってる。私も分かってる。

分かった上で、その全てがあって今日なんだ。

今日が全ての私を送ってくれた。


自分を押し殺して笑顔を見せる友達が好きでたまらない。


「ミワちゃん。キャッチ、少しだけ付き合って」

「いいけど、大丈夫なん?」

「足は痛いし、なんもやってないのにもう疲れてる」

「無理すんのはここじゃないだろ」

「でも試合はもっとヤバイじゃん。安全にハイなんてボールはこないもん。今のうちにミワちゃんのパスを覚えるんだ」

「じゃ、一本やる都度、あたしにどんな感じか教えて」

「うん。よろしくお願いします」

「よろしく」


距離を開けると途端に早速容赦無しの全力パス。


…じんじんした。

キャッチ出来たけど、手ぇ痛っ。


「どう?今の」

「ごめん。ちょっと反応遅れたけど、もっと速くても大丈夫」

「足は?」

「取るだけならいいけど、そこからまた何かすると厳しいかも。一歩遅れるのがバレバレ」

「リターンは出来る?うーんと、トップからあたし、あたしからミハルでまたあたしにリターン。トップがブロック掛ける間にポジションチェンジ。ミハルはトップからシュート打つのはどう?」

「やってみる」


次はパスを受け取ったらすぐにミワちゃんへ返す。その反動でミワちゃんのとこまで走ろうとしたが、


痛っ


三歩目に足を運ぶと回り出す膝の内と外の痛み。

足は止めずに行けたが顔が歪んでしまう。


「ミハル!」

「…大丈夫」

「教えて」

「…伸びたような、回るような」

「…」

「大丈夫。速くは動けないけどパスは返せたでしょ。これだけならやれるかも知れない。もう一度いい?ちょっとスピード落とすけど」

「分かった」

次はもっとイメージを高めて…

ミワちゃんへ返す。

トップが来る、ギリギリまで引きつけながらクロスの瞬間、ギアを入れる。


くそっ、やっぱり痛い。


でも、遅れたけど我慢は、出来る。


「どう?」

「痛いけど、一発二発なら、うん」

「分かった、もう一本やろう。これ最後ね、無理させてマジで悪いけど」

「そんなことないよ。よろしくお願いします」

「ああ」

私は息を吐いて集中する。


痛みなんかに負けないように。




どうせ黒が勝つに決まってる

あきらめたんでしょ、私が生きた姿さえ

最後の勝負なんて名ばかりの聖域無き盤上は

私を取り囲んであとは鬼の首を残すだけ?

ha-ah

あゝ嗚呼!

だからキミは蟻も殺せない

笑う先のちっちゃなしじまに

見えないロープでちょこんと転がせば

ほらっ

たまには白がキテも悪くないでしょ





第3ピリオドが開始された。

後半は流れが加速していく。

第1、第2ピリオドはディフェンスに重視した分、今度は攻めに転換し点の取り合いに応じたからだ。

その中でもミワちゃんは22番のディフェンスに力を注ぐ。

今日のミワちゃんの集中力は半端ないものがあった。それが最高の結果を発揮する。


第3ピリオド終了

52ー22

差は30点まで開いた。


こうなると応援も一層盛り上がり第4ピリオドもおせおせコールでレギュラーを送り出す。

早くも浮かれたのかベンチでは私も送り出そうとする勢いで、場違いなミハルコールまで飛び交っている。


…うるせー。


音がズンズン来るから、頭痛い。

視界もボヤけてなんか黄色く見えるし、手のひらの紫の斑点もいつもより濃く見えるし、なんだよ、これ!


でも、こんなアホな声援聞いたら、気持ち悪いとか言ってらんないな。

恥ずかしいな、バカやろう。

これで出れなかったら笑い者だよ。

バカな奴ら。


ちょっとだけ感謝。


「このままならセンパイ、いけますよね」

「…」

「センパイ?」

「ん?ぁぁ、うん」

「大丈夫っすか、顔色悪いように見えますけど」

「お前らの声援がうざいだけ」

「またまたぁ、センパイ。ツンデレなんだからぁ」

「…」

苦笑。

ザキヤマか、お前は!

「喜ぶのはまだ早いよ。エルモアはあいつがいるから」

「あのデカいのならミワセンパイがバッチリじゃないっすか。今日のミワセンパイはもう鬼ですよー」

「じゃなくて」

「え」

「もう1人」

「あ!」


聖エルモア高校の躍進となる源。

二人の外国人留学生。


外国人がいるのはエルモア高校に限らず、珍しいことでない。

強豪校のほとんどは外国人がレギュラー入りしてるし、ここ数年のインターハイ優勝校には必ず留学生の活躍がある。

勿論制約もある。外国人留学生をベンチに登録出来るのは二人まで。コートには一人のみ。二人同時にプレイすることはないので、基本的には背の高い選手をセンターに据えて、ゴール下での得点を荒稼ぎするのが常套手段。

全国大会なら当たり前の光景なので、むしろ外国人ライバル対決で熱く盛り上がるなんてのもあるけど…

これが地区予選なら泣けてくるもんだ。


地区予選に出場するガッコのほとんどは、外国人留学生なんて居ないから、外国人1人に一方的な試合をさせてしまうのが現状。


日本の女の子とは異次元のデカさ、高さ、パワー、男性ホルモン丸出しの顔や身体の違い。

技術なんて二の次でいい。ゴール下に張り付いていれば手を伸ばすだけで、シュートもリバウンドも全てが独壇場。

こんなガッコと当たる日には敵前逃亡しても誰も笑いやしない。

それだけ脅威なのだ。


でもそんな留学生にも立場はある。

わざわざ勝つために来日したのに、足を少しでも引っ張れば、あいつ、ガイジンのくせに、すげーへたくそじゃん。


と、後ろ指さされて笑い者。


日本に来て全く違う文化の生活で、苦労したこともあるだろうし、留学生部員は決して1人、2人ではない。他にも何人もいて途中でリタイアした同士も居たと思う。その思いも背負って孤軍奮闘でコートに立つのだから、時には尊敬だってする。


22番、セネガルのアニエ・キータ。

凄い選手だと思う。

デカいし早いし、根性もある。

でも応援はしない。

その凄い選手を完全に抑えるミワちゃんがもっと凄くて尊敬してるから。


今までの試合ならエルモアはこの第4ピリオドで、既に70点から80点は上げているのに、未だ22点。

これだけの時間、この留学生を1人で抑え込める日本人は全国で見てもそうそう居ない。

ホントにミワちゃんは強い選手になったんだ。

この対決だけなら最後まで見てもきっと大丈夫。

この対決だけなら…


私にはもう1人、気になる人物がいた。

ベンチにいる9番。偶然にも私と同じ番号。


エリ・ランドルフ。

フランス出身。

身長はさほど大きくはない。スコアブックを見る限り出場時間も少ないが、目を疑うような記録がある。

彼女が出る時間帯、相手校の得点が急激に落ちている。得点0の試合もあった。

22番が機能しない以上、このままで終わる訳がない。

きっと必ず彼女が来るはずだ。


そして案の定、その時は来た。


第4ピリオド、2分。

58ー34

点の取り合いの応酬であったが、アニエ・キータ、交代。

エリ・ランドルフ、IN。


どんなプレーするんだろ。


わざわざデカいの下げて、何があるんだって空気ですぐに起きた。


“!”


一瞬だった。


サイドラインから桜杏ボールで始まったスローインをあっさりカットして、そのまま自分でゴールまで運び決めてしまった。


“ドクン”

私の胸が高鳴る。


更に彼女はエンドラインからのスローインもカットしてゴールも決めた。

10秒経たない内にエルモアは4点追加してしまった。


上手い。

そして確信した。

もうエルモアは22番との交代は無い、9番は引っ込めない。

私が試合に出れば、きっと私の相手は9番だ。

本能的にそう感じた。


「え⁉︎なんなの、あれ。デカい奴より全然上手いじゃん!」

「いや、22番も凄く上手いんだよ。でもミワちゃんが頑張ってくれたからその良さが消されただけで。9番のマッチアップはわんこでしょ、マジで踏ん張らないとヤバイよ」

「あの9番、なんかミハルセンパイみたいですね」

「あの子が?」

「シュート決めても何の表情もないし、サイボーグみたいなとことか」

「殴んぞ」

「すいません!でも…ホントにミハルセンパイの現役時代を見てるような感覚なんです。どうなんですか、ミハルセンパイから見て」

「…強いよ。わんこの体力が持つのか心配」

「え⁉︎だってウチは先輩除いたらわんこが一番ボール運び上手いのに」

と、言ってる間にまたエルモアの得点。


スコアブックの正体がこれだったのかと、私はコートを睨みつける。

彼女がコートに入り2分で62-44。差はどんどん埋まっていく。

なんといっても3本に1本はハーフコートを越えず、カットされては逆に得点されるといった状況。

うちはゴールどころかシュートもまともに打てていない。

執拗なマークが怖くて焦ってシュートを早打ちして、結果ミワちゃんもリバウンドのタイミングを失ってしまう。

焦りは疲れをより早く呼び込み、足が止まり出すと相手について行けず、手だけが伸びて要らないファールを連発する。

まるで第3ピリオドまでの流れが嘘の様だった。


ただ、このままではない。

タイムアウトを立て続けに使い、カトちゃんは冷静にその都度作戦を修正した。

二回立て続けにタイムを使ったおかげなのか、怒る事なく指示を伝えたカトちゃんの効果か、ここから息を整えることが出来て再び試合に臨む。


どうにか本来の自分を取り戻し試合は進んでいくのだが、しかし、それでも9番の力は凄い。

時折、桜杏は2人でマークに当たってもそれを振り切っていけるテクニック。


私、この人相手に何秒もつんだ。

このカラダさえ自由なら今すぐ私が行くのに…

手のひらの濃い斑点が憎かった。

でも、行けたとしても彼女は凄い。仮に私が現役でも多分、敵わないかも知れない。


そんなことより今はみんなだ。

私が出る出ない以前に、この試合はウチらが勝つか負けるかまで迫っていた。


6分経過…


7分経過…


時間だけは静かに過ぎ去っていく。


8分。


72ー57

その差は15点。

カトちゃんとの約束は残り2分で20点差をつける、これが条件。

残念だけど私の出番はない。でもこれでいい。これだったらギリギリ逃げ切れる。

確かに9番は厄介だけど、ウチだってみんな強い。エルモアの残りのメンバーだってここまでウチを追ってるってことは絶対体力も限界が来てる筈。

もう少しだから、みんな、がんばって…


そんな時だった。


「コラー!しっかり・しろー!オーキョー!」


「…ナベ?」


「わんこぉー、ふんばれー!レミさんにナナオさんもー!」


「じゅん?」


「時間無いんでしょ!ミハルセンパイをコートにだすんでしょー!」

「あれはクチだけなんですかー!」

「しっかりしろー、オーキョー!ミハルセンパイが待ってますよー!」


「…みんな?」

何言ってんの、私が待ってるって。だって時間もスコアも…


「1人や2人ガイジン来たからってなにさ!負けるなー!」

「ミワセンパイ!何やってんの!わんこが抜かれてもミワセンパイがいるでしょ!9番なんかよりミハルセンパイの方が強いんだから止めてくださいよー!」


「みんな…」


「みんな!声、行くぞー!」


オーキョー!!


“ダン・ダン・ダン”


ミハル!!


“ダン・ダン”


オーキョー!!


“ダン・ダン・ダン”


ミハル!!


“ダン・ダン”


一度は消えたミハルコール。それがペットボトルを激しく叩く音で、また蘇る。

もう私の出番はないのに、なんでそこまでして私なんだよ。


頭が痛い!

響く!


なのに嬉しい。

…!

そうだよ、私は出ないけど私の魂はコートにいるんだ!


がんばれ。


がんばれ。


がんばれ、桜杏‼︎



残り時間1分。

わんこ、ファール4つ目の笛。

痛すぎるファールだが、運が良い事にエルモアも最後のタイムアウト。


でもベンチに戻るみんなはさすがにしんどそうで、特にファール4つのわんこは肩で息をしていた。


「すんません、肝心なとこでミスって…」

「ドンマイ。まだウチが勝ってるから」

「そうだ、いいか。落ち着け、これからあと1分、よく聞け」

「その前にいいですか?」

「わんこ?」

「カントク、交代お願いします」

「どうした」

「足、イっちゃって。多分残りもちそうもないです。あの9番、私1人じゃもう、押さえらんない」

「…」

「ミハル先輩。お願いします」

「⁉︎」


わんこが直接私を指名した。


ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ……………………


「そうか!そうだよミハル先輩なら」


「うん!ここだよ」


「ミハル先輩お願いします!」


「先生!ミハル先輩を」


「お願いします」


「お願いします」


「先生!」


「お願いします」



「……沢田、用意しろ」

「え?私ですか?」

「先生!」

「聞こえなかったのか!早くしろ!」

「先生、なんで!」

「条件忘れたか、20点」

「…」

「でも私じゃ…」


「沢田。落ち着いて、ね。今までやってきた事思い出しな?私が保証する、沢田がいっぱいがんばった事」

「ミハル先輩…でも、私」

「やばくなったら私を見て、ちゃんと指示するから、それに…」

「え?」

「(9番の弱点教えてあげる)」

私はこっそり耳打ち。

「え⁉︎」

「ーがんばれ」

「ミハル先輩」

「…沢田には悪いけど、無理だね。押さえらんない」

「⁉︎」

「なんだと?」

「ミワちゃん?」

「先生だって分かるでしょ。9番がどんだけの奴か。あいつの動き、まるでミハルの生き写しかと思ったよ。沢田は下手じゃないけど、たとえ残り1分でもついていけないよ」

「なら三原なら押さえれると言うのか、お前は」

「そんなの無理に決まってるでしょ。正直あたしが付いてもどうだか…でも。あたしとミハル。2人でならイケる!」


「!」

ミワちゃん…



「ミハル、今、沢田に耳打ちしただろ、あいつの弱点」

「なに⁉︎」

「ミハルの勘はミハルにしか動けない。そしてあたしの力。2人でなら9番は止めれる。レミとナナオ、スノちんの三人はトライアングルで。4対3だけど9番さえ止めれば1分くらい訳ないよ。それに…もうミハルをご褒美に試合出させてあげたいってレベルの話しじゃなくて、ホント必要なんすよ、先生、ミハルの力が。動けないのは分かってる、でも0じゃない。体力もないけど0じゃない。ミハルがどうしても必要なんです」

「…」

「…三原」

「はい」

「お前、9番の弱点が分かったって言ったな?」

「まぁ、弱点ってゆうか、癖ってゆうか。彼女、サウスポーだけど右利きです」

「なんだそりゃ!」

「確かに主体は左なんだけど、ドライブの切れ込み方とか、足の運びとか、なんか怪しくて、ロングシュートは右に持ち返したし、両手で打つから分かり辛いんですが」

「先輩、なんで分かるんです」

「だって私、同じようなことしたことあるし」

“!”

「同じガードだからってのもあるし、それに…あんなに実力あるのに出てる時間が短過ぎる、何か事情あるのかな」


“⁈”


「…」

「…」

「三原」

「はい」

「やれるのか」


胸、ドクドク言ってる。

頭も痛いし、足も痛い。


「…」


無理って言えばそれで良かったんだ。

だから沢田にがんばれって言ったのに。

だけど口を突いた言葉は…


「やれます」


沢田、ホントにごめん。

私、なんて奴だ!

でも…


「行け」


最後の最後で欲が出てしまったんだ。

ホントにごめん。


「はい!」


やるしか…ない!






いつも静かに波打つ左の胸音は

ボクに与えてくれた勇気の足跡

歩いて、歩いて、時には走って

紡いで、繋いで、流れた血液。

ボクの生きてる罪と証

短い時間が白く包む、紙飛行機通り抜けてく

届いてよ、ボクの形はすぐそこに

60秒のちっぽけな飛行機







“ドクンっ”


静かだ。

ペットボトルがガンガンぶっ叩かれる音が、ベンチではあんなに耳障りだったのに。


「…」


ぁぁ。

聞こえる、私を応援してくれている声。

“ドクンっ”

心臓の声も大きい。

私は目を閉じて笑った。


懐かしい。またこの感覚味わえたんだ。

ホントはもっと鑑賞気分に浸りたいけど、それは無理か。

だって開けた視線のその先で9番と目が合っちゃったもん。

ケンカ売った訳じゃないが目を反らせなかった。


頼むぞ、私のカラダ。

1分だけ、私に時間をください。


「よし、いっちょやるか、ミハル」

「うん」


エルモアのフリースローからゲームは始まる。

72ー59

9番はきっちり2本決めた。


私はエンドラインまで行ってスローインに向かう。

エルモアはこれまでのディフェンスをチェンジ、オールコートマンツーで勝負を挑んできた。

私のマッチアップは…9番!

普通ならきっとパニクる。勝つか負けるかの場面で自分にエースが張り付いたら…

この試合、何度もカットして流れを自分達へ変えた9番、絶対嫌なのに。

私、とても胸が熱い。

興奮してる。

最後の試合で故障してる私に最高の選手が相手してくれる…こんなに燃えるゲーム、今日しか味わえない!


いくぞ!


「スノちゃん!」

前線に居たスノちゃんをあえて呼び出しそこにスポットを作ると、それをエサに逆サイドに居たナナオにパス。

投げると同時に“投げろ”のサイン。


ワンタッチでロングパスを出した場所にはミワちゃんが走り込んでいて、期待通りにミワちゃんは鮮やかにディフェンスをかわしゴールゲット。


74ー59

再びリードを15点。

私達も今までのディフェンスをチェンジ。ミワちゃんが9番をマーク。

会場からは“おおぉぉ”とどよめきが湧き上がる。エルモアの22番を完璧に押さえた桜杏4番が次は9番もやるか、みたいな盛り上がり。

エンドラインから動かなかった私はそのまま自陣でゾーンに参加する。


9番を二人で押さえる作戦だが、たとえ二人でもフルコートのマンツーマンは私には負担が大きい。ハーフコートまではミワちゃんに任せて私の役目はそこからだ。


エルモアも負けていない。というより9番はやっぱりすごい。

ゴール前でポイントガードとはいえ、執拗に1人マンマークされたら普通はそこは外して他のメンバーでボール運びしてもいいくらいだが、9番は敢えて自分にパスを要求しそれに応えると自ら切り込んで行く。挑発を挑発で返すように。

惚れ惚れするほど見とれてしまう。

必死で食い下がるミワちゃんに“私はまだ行けるよ”と言わんばかりに、ハーフコートを超えると更にスピードが乗る。


これを狙ってた!


“動け、私のカラダ”


大きく息を吐き終えた瞬間、私は一気にゾーンを解いて9番へ向かって走り出す。

私の勘が正しければ…



ーマジかよ。

ー間違いない。右から左へは多彩なのに、左から右はフロントチェンジしかやってない。だからマークしたら死ぬ気で左に追い込んで。私が行けばそこで切り返すから、そこを二人で挟めば必ずカット出来る。

ーだったら任せてよ。




私が向かったのを察知して左手から右へ切り返す…予想通りのフロントチェンジ。

私の手がより早く伸びた。

手応え有り!


「ナイスカットー!ミハルー!」

「上がって!」

ルーズになったボールもしっかりキープした私は今度は自らドリブルに移る。


「行けー!センパーイ!」


動け、私のカラダ


行くぞ!


だが…


“!”

ドリブルで駆け出したその時、左膝の内側に激痛が回りそれと共に足がもつれ転倒してしまった。

私の手にあったボールはコロコロと離れ、ルーズになったボールは9番が楽々ゲット。体勢を失ったうちのゾーンはあっさり崩されてしまった。


74ー61


「ミハル!」

「大丈夫だから。ごめんね、ミスった」

「…やれる?」

「うん」


震えるくらい痛かった。

私はゴマかしつつ前線に移動する。平静を装っているが…ちくしょう、なんか足がガクガクしてるみたいな。見抜かれない内にどうにかしないと。

それを知ってか知らずか9番はじっと私を見つめながら淡々とマークについてる。


ハーフコートを越えたボールは相手のプレッシャーをかわしてセンターのミワちゃんへ。

シュートと見せかけた時、私も動き出す。

本当ならここでパスを貰う筈だった。


でも…


私はまた足がもつれて転倒した。

せっかくのパスはまた9番に奪われてしまう。私は立ち上がり追ったのだが、それは全く話しにならなかった。

私の前を走る9番が遠く霞む。ずっと黄色く見えて景色が更に濃くなる、途方もない息苦しさも出た。


74ー63

ゴールが決まるとエルモアサイドから野次が飛ぶ。


「エリー!行ける!9番狙ってけー」

「9番!ザルだよー狙え狙え!」


くっそ、苦しい。なにやってんだ、くそ。

桜杏ベンチからだって私の応援たくさんもらってんのに、こうゆう時に限って野次ばかりが重なって耳を突く。


“9番、9番!狙え、狙え!”

野次の大合唱でも私は笑ってうなづき、大丈夫、ごめんとジェスチャー。


私は再び相手コートまで走り出す。走ってはいたがびっこを引いてるのはバレバレだった。

そんな私を見るや否や、野次は加速する。


分かってるよ、うるせーな。

でも私に9番がマークしてる限り私にパスをよこさなければ、他のメンバーで勝負は出来る。

でもミワちゃん達4人はそんな事しなかった。

時間が無いのにまた私にチャンスを作り、パスを渡す。


嘘つき!


さっきミワちゃんはベンチで私を試合に出させるのは、プレゼントなんかじゃないって言ったくせに。

本来ならそのまま自分でゴール決めれる筈なのに。レナもナナオもスノちゃんも、嘘つき!

嘘つきだ。

みんな、優しい嘘つきじゃんか!


私はその期待をまた裏切ってせっかくのチャンスを潰してしまう。

狙え狙えの大合唱は大盛り上がり。


くそ

くそぉ


時間が無い

点差も消えてく


苦しい

ちきしょう


なんで

なんで動かないんだよ

少しだけ

1回でいいんだ、1回だけでも苦しいのや黄色いのなければ


そんな中、再び9番と目が合った。


“ドクン”


相変わらず淡々と無表情だけど、ほんの僅かだけど彼女は微笑んだように見えた。


“ドクン”



その顔を見たとき、私のココロの中の何かが弾いた。



“ドクン”


こいつ、今笑った。

私を見て笑った。

間違い無く笑った…


今振り返って思い出せば笑ってなかったかも知れない。でもその表情が何か昔の私を見てるようで、私が昔の自分に笑われてるような錯覚だった。

今の私が昔の私に負ける。

それが、とてつもなく嫌だった。

色々な意味で嫌だった。

病気に負けるの?

怪我に負けるの?

こんな野次に負けるの?

こんな優しい友達がいるのに負けるの?


……


いやだ!

負けたくない!

こんな病気なんか、こんな怪我なんか、こんな汚い野次なんかに!

そして私は自分の為に負けたくない!


“ドクン”


動け、私のカラダ


私がずっと言い続けた言葉。

ふと軽くなったような気がした。

私の思いが形になる。


すると…


私の足が動き出す。

痛みを乗せて動き出す。

痛みを燃やして足が動く。

私が45°の位置からトップに走るとミワちゃんが9番をブロックしてマークを外してくれた。


トップのレナも私とポジションをチェンジして入れ替わり私はノーマークでボールを受け取った。


もうここしかない。

ここしかない!

ココロの中で私は呟いた。



神様…



私はトップから自らドライブを仕掛ける。



神様…

あと少し、ちょっとだけ…

あと半分だけでいいんです



何度も夢を見たんだ。

私がこうやって走り抜ける夢を。

足が痛くても、苦しくても、こんなの全然大丈夫。

だって、だってさ。



“この時のための今だから”



私の今までやってきたバスケは、今、今、ここにあるから!



“この時のための一瞬だから”



私の為にみんながくれたこの一瞬を。

ほんの少しでいいから。



“私のカラダ、蘇れ”



動け、動け、私は忘れない。だから動け!

本能のまま、右手にあったボールは股を透かしレッグスルー、左手にキラーチェンジ。

ディフェンスを1人抜いた先に再び9番が。



“動け、私のカラダ”



エリ・ランドルフ!

私は止まらない。

たとえあなたが相手でももう絶対このボールは離さない!

手から手にしっかり伝わる感覚。

足がちゃんと地面を捉える感覚。

絶対ボールは渡さない!



“届け!私の想い!”



カットに来た瞬間、反転しバックターン。

そのままレイアップシュートに私は飛んだ。

でも9番もギリギリまで食いつき飛び上がる。


その交差で私は見た。


ここだ…


私の全て。

このシュートが私の答え。私のバスケ人生を込めた最後の答え。

だからこそ…


私は空中でミワちゃんにパスを流した。


‼︎


ミハル…!


おねがい…




届け!私の想い


届け!私の60秒!!!




パスを流した瞬間私のカラダは硬直したようになり、そのまま無防備に床に私は落ちた。

痛みも何も無い。

カラダも全く反応しない。

でも私は見ていた。へばりついた地べたでもミワちゃんのジャンプショットを。


高く、高く、美しい、それはまた彼女の三年間のシュートであり、私の60秒。


シュッ…


私がずっとこのコートで聞きたかった音。

ずっと待ち焦がれたゴールの音。

恋い焦がれた60秒。

確かにこの目で見た。

ありがと…


私の60秒は…確かに届いた。





私は気を失い、既に意識は遠くへ堕ちていた。




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