1.いつもよりちょっとだけいいこと
神様…
神様…
あと少し…
ちょっとだけ…
あと半分だけでいいんです。
この時のための今だから
この時のための一瞬だから
私のカラダ、蘇れ。
動け、私のカラダ。
届け!私の想い
届け!私の60秒!!!
♪
傷ついて ボロボロで それでも走り続けるんだ
君だけに 降り注ぐ 叫びを痛みに燃やして
…まだまだ閉じた眼の中であったがしっかりと耳から伝わるBGM。
♪
振り向いた
泣いた時間は過去だから
夢を見た。
試合で活躍する夢。
ストバスみたいな会場で、大好きなアラシの曲がガンガン鳴って、その中で私が放つ3Pシュートは面白いようにフープに吸い込まれる。
♪
君の背中に羽を
あの夜空まで 月を穿て!
金色に輝く 月を穿て!
ー私、めちゃかっこいいじゃん
ほわんとした空気で目が覚めた。
♪
君の背中に羽を
あの夜空まで 月を穿て!
金色に輝く 月を穿て!
布団から手を伸ばしてまだ鳴ってるスマホを取る。せっかくなので曲が終わるまで聴いていた。
いい夢だった。
夢なのは夢の中でも分かっていた。
夢でも充分だった。
まだしっかり憶えてるよ。
スリーポイントラインからシュートを打っていた私を。かっこよかった。
うふっ、ふふふっ
夢っていえば、昨日のは忘れたけど一昨日のは憶えてる。あの夢は強烈だった。
私の大好きな亀梨くんに壁ドンされて、オラオラになる空気なのに、玉森くんが止めに来て私を二人が取り合ってる贅沢な夢。
うへ、うへへー
やべぇ、まだ起きたくない、二度寝したらまた見れるのかな。
だらしなく目尻は垂れて、口元も緩む。よだれもこぼれそうになってようやく我に返る。
また布団から手を伸ばしてティッシュを一枚、口内に溜まったスケベな唾をぺっと吐き出しむくりと起きた。
辺りを見回して朝だと確認した。
やっぱり夢だったと納得。夢で逆によかった、少し前まではこんな夢見た時ほどムカついた朝はないって位イライラしたし、なんか悲しかった。
でも今は違う。いい夢程笑顔の朝になれる。
一昨日のスケベな夢もいいが、やっぱりバスケの夢がいい。あんなにコートで動ける私はいつの日ぶりだろう。なんか素敵な事起きたりして…
例えば足が自由に動いたりして…とか。
うん。
動かなかった 笑。
いや、動くのだけど、いつも通り。
がっかりもしないし、驚かないし、いつもの通りだった。
いつも通りの私は、頭を肩につけるような感じで、首をコキコキ。ゆっくり深呼吸、数回繰り返すと腕もそこから徐々に回したりして胸を開いていく。背筋も伸ばし静かに、全身を取り込むように。
これを10分、日によっては15分。 内蔵の準備運動みたいなやつ。
口内に溜まった唾をまた、ぺっとティッシュに吐き出してから、次は左足を両手に挟み、手のひらで回す様に揉み込む。
あせらず、やさしく
おはよう、私の足。今日も動かすよ。なるべく無理させないようにするから一日よろしくね、みたいな感じで伝えながらのマッサージ。
左足15分、右足5分。それやったらストレッチ、これも軽く流しながら床には下りず全部ベッドの上でやり切る。
次は体温計ってノートに記入。
6月○日 am6:02 晴れ☀︎
36.8℃ カラダ、軽い
気分上々↑
左足、昨日よりニブい。付け根からヒザにかけて少々違和感あり。痛み無し。
これでやっと洗面所に行ける。
はぁ……
「おはよー、ママ」
「あら、おはよう。どう?」
「うん。足は少しだけど、カラダは軽いよ」
「そう。ごはん出来てるから、先食べちゃいなさい」
「うん」
洗面所でさっぱり出来た私は、既に朝ご飯が並べられたテーブルに席に着く。
水、最初に一杯飲んで、ヨーグルトとドライフルーツ。私の好きなぶどうパンをもぐもぐかじり始める。
fu…だるい。
カラダは軽いけど、食べるのは別だ。それが例え私の好きなぶどうパンであっても。
かじっては休み。もぐもぐしては休み。
結局ヨーグルトとレーズンロール1個食べるのに30分以上も掛かった。一緒にあったサラダとオムレツは残してしまったが、母はそんな私を何を言う訳でもなく笑顔で見守ってくれて、食べ終わる頃にいつも熱くて甘いカフェオレ出してくれる。
ha…好き、これ。
ママが出してくれる熱いカフェオレ。夏でも冬でもこの朝の一杯が私の小さな幸せ。
そんな幸せを感じる頃、父は降りて来る。
父は毎朝私を学校まで送ってくれる。帰宅する時も連絡入れればどんな時でも迎えに来る。元々口数少ない人だし、母と違い二人の時に話す事は特にない。毎日送ってくれる車の中でも、何が、どうとでもない。でもガッコの行事には必ず来てくれる。参観日、文化祭、体育祭、部活の大会にも来てた(私、出番なんて全くないのに…笑)。私の誕生日も、入院して足を手術した時も…無口で不器用な人だけど、私は父にいつでも感謝してるし、父が好き。
AM7:00少し前。
“ライン”で部活のマネージャー、サトちゃんに伝える。
》》
今日はカラダ、軽いから朝行けます✌️
見学させてくらはい( ´ ▽ ` )ノ✨》》
《《
はーい。うぇるかむー。待ってるよ✌️《《
間髪入れずの返信。私の胸は高まった。
何日ぶりだ?朝練行けるのは。放課後だって顔を見せれない日が続いていたから、とてもハッピーになれる。
待ちきれなくなり貯めてある動画を観てしまった。携帯にはサトちゃんから部活の練習等を撮影した動画が毎日の様に送られてくるため、私が参加出来なくても私は自分の家でチェックできる訳。チェックといってもコーチじゃないから大したアドバイスはしてあげられないが、皆と一緒に居れる空気だけは味わえる。
このプレー、イイね! とか
ここの位置ならもう一歩あがってもいいかなー☻ とか
あ、こいつ、今サボってたー
(((;゜Д゜)))))))笑 とか
こんな感じで私も返信したりする。カラダは鈍いままだが、まだまだココロまでは枯渇していない。
だからいつかまた自由に走り回れる時が来た日に部活の練習動画はずっとまぶたに焼き付けているつもり。いつでもまた練習に飛び込んでいけるため。
そして思う。
バスケ、やりたいなぁ
カラダ…動くのかなぁ…
カラダが動いてもまたダメになったりして…
考えるだけで怖いし、痛い。
痛いのは厭だよ。痛い思いはまっぴらだ。痛いからカラダは動かない。ビビって固まってしまうんだ。動いてくれないから怖い。怖くて仕方がない。怖いからココロまで痛くなってくる。ココロの痛みは止まらない。痛み止めを飲んでも止まらない。安定剤を飲んでも夢から覚めれば現実だ。現実の私は今の私で皮肉にもこのザラザラとした厭なものこそが必ず私の胸の左に覆い被さっている。
この痛み《ワタシ》=《コソガ》私だ《オマエ》ーと。
そして立て続けにこのザラザラとしたものは私にずっと囁いてくる。厭な時程、辛い時程、骨にまで囁いてくる。
辛いでしょ?
怖いでしょ?
痛いでしょ?
厭でしょ?
ついつい答えてしまう。
yes、と。
解放されたいでしょ?
yes
こんなみじめな自分は厭でしょ?
yes
もうずっとyesでいい。ココロの囁きに流されていたいって任せるようになる頃、ザラザラしたものは最後にこう呟いてくる。
死んじゃう?
って。
流される私はここでいつも我に返る。
NOだわ
無理でしょ、そんなの。
私は生きてるし、痛いのも不自由なのも私が生きてる証だ。痛いのは嫌だし、怖いし、泣く時だってある。ザラザラしたものは弱くなる私なのだけど私はこのザラザラしたものと向き合わなければいけない。流されてもいいけどちゃんと向き合わなければいけない。向き合ってずっと聞いてみればこんなことも言う。
治れ《タエロ》、自分。回復させてやるから《カルクナルカラ》。
ーと。
今を受け入れた私は、最近少しだけ、カルイ。ココロが少しだけ軽くなった。
私の夢の一部はチームメイトに託した。いや、一旦預かって貰った、勝手にだけど 笑。
痛いのもイヤなのも動かないのも怖いのも、とりあえず受け入れて私は預けた夢の続きを一緒に歩かせてもらってる途中なのだ。
ずっとこのまま
ずっとダメでも
いつかのキミがボクの羽で
いつかのキミが一緒に居て
泣いてるボクに笑ってくれた
流れ星は消えていく、涙は落ちた
夏には遠い、夜明けはまだ先
たゆたう泡沫にキミは居ない
ボクの羽、歩いて行った
…消えたんだ
AM7:20
父に見送られてガッコに着いた。
個人タクシーをやってる父は私を見送りこれから仕事って訳。私はパパの車に軽く手を振って“いってきます”。道路から消えて行くまでその影を見てた。
「おいっすぅ。お嬢様ぁ」
校舎に着くまで長いピロティをてくてく歩いてる私、そこへ狙いすましたかの様なタイミング。
「ミワちゃん!サトちゃん!」
「おはよっ」
「迎えに来てやったぜ、お嬢様。今日も優雅だな」
「私だって足動いてりゃ、ジャージでダッシュの5分だよ?」
「早く走れる様になれればいいけどね」
「そこが辛いんだ。明日あたり突然変異で全部完治しないかなーって毎朝ひしひし思うよ」
「笑」
「あ!言っとくけど私、まだ全然諦めてないから」
「お⁈」
「いや、その為に毎日サトちゃんからの動画送って貰って全部目通してるしさ、もう毎晩脳みそフル回転だよ。万が一足が自由になって試合出れるとしても今の私じゃ5分ももたないし、せいぜい3分かなぁ。で、その3分でやれる事何かなぁとか、あの新しく練習してた速攻のパターンとか、どうにかどっかでやってやりたいとかさ、でもウチが負けてる時に投入された時の方が重要だよね。んー、3分で結果。結果だよ、流れ変えなきゃいけないからさ、3P打つフリしてディフェンス広げたらミワちゃんにボンボン集めるでしょ?でもそっからまたリターンくれれば相手はもうズブズブになる、と。で、やっぱりミワちゃんに固めるんならホントに打ってやる、と。でも3P打てっかなー?イメージはあるよ?ちゃんとあるし忘れてないけど、今の私のシュートじゃなぁ。まず無理っぽいじゃん。ヘボシューターってバレたら更にヤバくなるだけだもん。だって私ならそんなガード、マークする必要ないから、セカンドとのパスコースだけ切っちゃえば1人浮いたようなもんじゃん?そしたら浮いた1人ミワちゃんにもう一枚足してフェースで二枚切りオッケー、みたいなね。あーっ、くっそー、ドリブル使えたらなー、そこから“なめんな”ってカンジで一気に斬り込んでぶっちぎってやんのに。一発、一発でイイからなぁ、パスもドリブルもシュートも、一本あればみんなを楽にしてあげられんのに。参ったなー。私程のスーパープレーヤーになると悩みが湧いて湧いて仕方ないさねーーーって?」
「…」
「…」
おいっ。つっこんでくれよ、と笑って逆につっこむつもりだったが、私が長い事しょうもない事おしゃべりしたばかりに二人は黙りこくってしまっていた。
「あ…いや、その…ごめんね。妄想ばっかで何言ってんだ私」
急に込み上げる恥ずかしさ。
これじゃただの、おしゃべりクソ野郎じゃん。シナガワかっ!
馬鹿みたい。べちゃくちゃ有りもしないこと高らかに声張っちゃってさ。
「ーほら、乗れよ。お嬢様」
「ミワちゃん」
ミワちゃんはいつもの様に背を向けて腰を下ろす。
「ほーらっ」
「うん」
「じゃ、サト。あたし、お嬢様担いでちっと上がってくから先よろしく」
「ほーい。じゃ、ハイ」
サトちゃんはポッケに入れてたトランプで一枚。
「4かぁ。OK、行くぞ、お嬢様」
「お嬢様落としたらもう1往復追加ねー」
「お嬢様はスーパープレーヤーだからな。スーパープレーヤーは大事な宝でありやす」
「ミワちゃん」
「ん?」
「とりあえずさぶいからお嬢様はやめて」
「笑 バーカ」
サトちゃんの引いたカードは♡4。
階段4往復。校舎は4階建てなので朝からかなりハード。
ミワちゃんは文句ひとつ言わず私をおんぶして階段を昇り始めた。
カードは5枚。1から5の中で出た数だけ階段を往復。私が居ない朝はサトちゃんを担いでる。毎日、毎日、コツコツそれを続けてやり終えると、平気な顔して体育館に合流する。
そんな彼女だからこそチームは全幅の信頼を寄せている。私だってただただ尊敬の一点、ってゆうか、ミワちゃんが大好き。
ただし、大好きなのと同じに彼女は私の最大のライバルでもある。
ポジションこそ違うけど、彼女には負けたくないし、常に彼女よりも良いプレーをしたい。ライバルだから。
そして時には嫉妬する。
ほんのちょっとだけ。
彼女の高さやパワー、技術、私にないものが全て輝いてみえる。
至ってしょうもない嫉妬なんだけど、やっぱり羨ましい。
そして時には、焦る。
バスケ出来なくなってもうどんだけの月日が流れたか。
私と彼女の“差”はもうどんだけなんだ。
彼女の背中から伝わる彼女の息遣い。 既に3往復目に突入してるのに全く乱れず、ずっと同じリズム ー。
美しい鼓動…
ずっと、ずっとこのまま耳をその背中につけて聴いていたい。このままずっと聴いて背中の中で眠りに堕ちたい…
そして、その美しい鼓動こそが私を気付かせてしまう。
コレこそが、今の私と彼女の“差”なんだ、と。
今の私は歩くのも歩くのも必死だ。ガッコのピロティから校舎にただ歩くだけでも疲れてしまう。
私は、私を担ぐ彼女に何歩歩めば近づけるのだろう。仮に追いついたとしても、そこから私は彼女の歩む何歩目までついて行けるのだろう。
三歩…は無理か。でも二歩くらいなら行けるだろうか。二歩までついて行ければ、合格、かな…
今は無理でいい。仲間に夢、託したのだから。仲間を頼るのは悪くない。私だって頼られたら引き受ける、多分。
でもやっぱり、仲間に夢、託すのは……ツライな。
「…で、ミハル」
「…ん?」
「メシ食えてんの?」
「え?」
「明らかに体重軽くなってる。病気、そんなマズイの?」
「ん、マズイ事は無いけど最近あんまり食欲湧かない」
「…」
「今日は朝からホント、カラダも軽いし気分もいいけど、ごはんだけは別で難しいってゆうか、疲れるってゆうか、例えばおにぎり一個食べるのも子供みたいに時間かかるんだよ」
「以前のミハルからは考えらんないな。ラーメン恋しくなんない?」
「食べたいって、思わなくもなっちゃった」
「マジで大丈夫なん?治るんかよ?」
「普通にしてる分には命がどうって訳じゃないけど、特効薬とか治療法がないからとにかく安静なんだよね。せめて足だけでもなぁー」
「そっちは?」
「だめ」
「…」
「言うこと聞いてくんない。リハビリも行くし整体も通ってるよ。でもリハビリやっても病気のせいでロクにできないし、整体してもすぐ熱出るし、熱出たらしばらく引かないから動けないし、休んじゃうし発熱すんのはしょうがないし、悪い訳じゃないんだけどね」
「そりゃ体重も落ちるわけだわ」
「そんなに軽く感じた?」
「…あたしの背中に当たるミハルの貧乳が更に小さくなってた」
「へ?……え?え⁉︎」
「お前、おっぱい小さいくせにそれ以上しぼんだら笑えねーべ? 笑」
「笑ってるし!し、しぼんでなんか、なな、ないよ!」
お、お、おっぱい⁉︎
ウソでしょ⁈ 考えてもみなかった。小さいのは気にしなかったけど(むしろ体育会系にとっては有利、笑)、でも、だけどもまさか、しぼんでるだなんて……ぁあ、ぁあ…ウソだろー‼︎
「冗談だよ。バーカ」
「え?」
「お前の乳なんか興味ねーよ、この貧乳女」
ー冗談…ってことは胸はしぼんでないのよね?だよね? 笑
良かったぁ、と、顔には出さずにココロの中でだけ泣き叫んだ後、ムカムカと怒りの炎が燃え上がる。
貧乳…貧乳女、貧乳女、怒!
「うっせー!デカ乳デカ女!復活したら真っ先にお前から一発ゴール奪うからね!ズタズタのボロボロに何本でも何度も私が勝つんだから!今から私もリハビリする!ミワちゃんと同じ階段往復するんだ!」
「うわっ、おい。暴れんな、落ちるって」
「うっさーい!おろせ。おろせ、おろせー」
「…」
ミワちゃんは4往復目、最後の階段一段前でピタッととまった。
「…?」
「嫌いじゃないよ、ミハルのおっぱい」
「ん?え」
ピタッと止まったミワちゃんは再び動き出し4往復を終えてそのまま私を担いだまま体育館へ向かう。
「ミハルおぶってると聞こえるんだよ、お前の呼吸とか、胸の鼓動とか。で、なんか安心すんのよ。変わってないよ。あん時のまま、うん」
「…」
「初対面の時、憶えてる?入部の時勝負してさ」
「…」
「何本やっても平気なツラしてあたしをブチ抜いていってさぁ。ムカついた。こっちが必死にやっと一本決めても何もなかったみたいに次の一本あっという間にやられて、あの呼吸、今でも忘れない。お前に勝ちたくて、認めてもらいたくて、どーすりゃミハルのシュート全部叩き落とせるかとか、どーすりゃドリブルで勝てるかとかずっと考えて、つまんねー練習ばっかしてるうちに同じポジションの仲間とか先輩とか他のガッコの奴とかも、なんかもう、気付いたらガンチューに無いでやんの 笑」
「ミワちゃんは強かったよ。そしてもっと強くなった」
ミワちゃんのポジションはセンターです。
センターはゴール前に張り付いて、攻撃や守りの起点となり、ゴール下でのシュートやリバウンドが主な仕事なので、背が高い人が有利です。
彼女の身長は177cm、体重もしっかり骨に筋肉が乗っています。背が高いだけでなくスピードもあります。特に瞬発力は段違いです。
ボールをもらい振り向いてからの反転ショットは部内では誰も止められないし、何より凄いのが基礎体力。リバウンドは何回でも同じジャンプ、何回でも同じ高さで跳び続けます。気を抜けば全部、シュートもリバウンドも何から何までもっていかれてしまう。
個人技や戦術はある程度のセンス、理解出来る知識も必要だけども、体力は100%毎日の努力でしか身につかない。そしてその努力の証明を彼女は私に見せてくれる。
バスケが出来なくなった私を今でも敵だと言ってくれる。
「あたしはまだ強くないさ。ミハルの呼吸聴く度にゾッとするもん。カラダ動けやしないくせに胸の鼓動はあん時の鬼のままじゃんさ」
「鬼?」
「そうだよ」
「…」
「鬼だよ、バスケの鬼。だから安心する。あぁ、やっぱりこいつ、バスケは好きなんだなって。忘れてないんだなって。だからさ…負けらんないっしょ、ミハルだけには。だってさ、あたしの方がデカイし、ずっと練習やってんのにお前がポッと復活して一発かまされたらあたしの“日々”はどうなるんだよ」
こんな私に今でも負けたくないと言ってくれる。
「復帰したミハルをグーの音も出ないくらい叩き潰して、いつまでも天才ヅラしてんじゃねーぞ、1から出直せって言ってやる為にあたしはがんばってんのさ。あたしのライバルはずっと、これからもミハルだから」
こんな私を今でもライバルと言ってくれる。
「さっきの、忘れんなよ」
「?」
「あたしを倒すんだろ?復活したら真っ先に、ズタボロに」
「…」
売り言葉に買い言葉で出てしまった事だったので、恥ずかしいにも程がある。全く敵うはずもないのに。
「ミハル、怪我なんかに負けるな。病気にも負けるな。一歩づつちゃんと打ち勝って、そして治ったら1番にあたしと勝負。必ず最初だぜ?全力でぶっ潰すから。そしたら、全力で抱きしめてあげる。おかえりって、さ」
「ミワちゃん」
私はミワちゃんの背中にカラダを押し付ける。ギューっと抱きつき目からずっと溢れる涙をごまかしたくても息の震えは止まらない。
喜びに震えた。
私のライバルがミワちゃんで良かった。
こんなにも今の自分がもどかしいと感じるのも含めて、早く…バスケがしたい。
いつ病気が治るかも分からないし、足だってホントに自由が効くのか保証もない。たった一度の怪我と病気で途方もないトンネルの中だけど、私はこの時ほど自分のカラダが元に戻って欲しいと願ったことはない。
ひとつ夢が増えた。いつか私が治って彼女に挑戦する。そして完膚なきまでに負けて彼女におかえりって抱きしめられた時に私は、ただいまって答えるという事。
だめだ、涙、止まんない。
私はずっと泣いて、彼女は一言も茶化さず体育館に二人はどんどん近づいて行く。
それはいつもよりちょっとだけいいこと。
ささやかな朝のデート。