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事件

野次馬

作者: 奥野鷹弘

 銃口を向けられたこの身体は、何かを恐れるようにして小刻みに震えた。


 「うるせぇ!だまって、云うことを聴きやがれ!」


 銃を構えた一人の小柄な男が、銃口を突きつけられた女性に怒鳴った。女性は、必死に震える脚や身体を沈めようとして息を殺した。しかしそれが悪循環となって、さらに震えが止まらない。


 「そんなに死ぬのが怖いか?そんなにこの世界で生きて行きたいか?世の中には、そう願っていても叶わないやつがいる。そんな人間がいる中でも、自分が優先なのか、貴様は!」


 銃を手にする男の怒鳴り声は、地域住民に響き渡り、それを見に来た野次馬が、一定の距離を保ちながら円を描き始め、ひそひそと囁き始めた。男は、女性のまわりをぐるりと回りながら、野次馬どもを睨んでいった。一瞬落ち着いたと思われた野次馬だったが、自分のことを警戒しなくなったと思い込んだのか、またひそひそと喋り始めた。そのうちに賑わいが増してカメラを取り出す住民や、携帯で面白そうにネタにし始める人まで表れた。


 男は、今度は女性ではなく野次馬のほうに銃口を向け始め、顔を引き攣らしながら呟いた。

 「お前らだって、一概ではないっ」


 ようやく警察が駆けつけて、男から危害を受けない程度のところにに規制線が張られ防具服を着た特攻隊が囲みだした。男は恐れることを知らず、空に向かって打ち出した。女性はその隙に、特攻隊からの小さな指示で難を逃れ保護された。そして、特攻隊の円は少し小さくなり男を追い詰めた。


 男は笑いながら、急に打つむいて咳き込んだ。べチャッと奇妙な音が微かに聴こえたあと、真っ赤な何かが撒き散った。男は軽く心臓あたりを押さえるように、もがき息を途絶えた。


 野次馬や警察がその異変に気づいたのは、男が動かなくなって一分ほどだった。誰もが緊迫した状況だったとはいえ、気付かないものなのか?それとも、その男の工作だと思われたのか…。



 身柄が助かった女性は、少し安心したような顔で

 現場を見つめていた。


 

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