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どこへ行くかは猫に聞いて

作者: 八潮

可愛くて、頭が良くて、でも気取ってなくて、みんなに優しい。

それが他人からの藤堂彩乃の評価である。―――まあ、私なんだけど。


「彩乃、部活先生こないってー。」

「わー、まじか。私今日遅れるんだよなぁ。」

「用事?」

「そー。生徒会に今度の演奏会についての話しなきゃいけないんだー。」

「じゃあ、副部長の出番ですね!」

「頼んだ真希!」

「おう!じゃあ行ってきな!」

「はーい!よろしくね!」


真希に手を振って、話しかけてくるだれかを交わしながら生徒会室へ急ぐ。

約束の時間までもう三分もない。

なるべく遅れたくないんだ。

だって、生徒会には、

私の天敵がいるから、ね。



「おそかったね、藤堂さん。」

ドアを開けて飛んできた第一声がそれ。

声の主は、私を呼び出した張本人。

ドアの前に立つ私の向かい側、生徒会長、と書かれた席に座りなんとも素敵な微笑みを浮かべる神山伊吹生徒会長である。

「すみません、会長。部活の連絡をしてたら遅れてしまいました。」

遅れたって言っても一分も経ってないんだけど。

「そう。いつもはちゃんと時間前に来てたからね。心配したよ。でもまあ…今日も素晴らしい猫をかぶっているようだから。心配なんて、いらなかったかな。」


効果音をつけるなら、まるでふわり、と。

そんな優しい笑みを浮かべ、爆弾を投げる。それがこいつ。だから、天敵。

そしてこの学校で唯一、私の素を知ってる男。ちなみに家がとなりの幼馴染。


「そう?お褒めいただきありがとう。そういうあんたこそ、今日の猫かぶりも完璧ね。」

にやり、と笑ってみせて、私は猫を剥がして素に戻る。

そうすれば、伊吹が本性をみせるから。


「あたりまえだろ?俺がミスするとでも思ってんの?馬鹿じゃない?」


ほら。

「私は心配してあげてるんだけど?あんたのその胡散臭い笑顔じゃあいつバレるかわからないからねえ。」

「は、そういうお前こそ。今日三年の男子に話しかけられてるときイラついてたろ。目が笑ってないのバレバレだっつの。」

「しょうがないじゃない。名前も知らないやつに話しかけられて、手も握られたのよ?」

「それでも笑ってかわすのがお前のキャラだろ?」

「私が作ってるのはあなたみたいな八方美人キャラじゃないから大丈夫よ。それにちゃんと顔は笑ってたもの。」


そう返せば、ふ、と鼻で笑われる。

ああ、ホントに。

その意地の悪い顔をみんなに見せてやりたい。

ちょっとすれ違えばかっこいいだのなんだのキャーキャーキャーキャーうるさいったら。

目があったら笑いかけてくれた、とか。

怪我したときに心配してくれた、とか。

全部計算だって知ってるから、聞いてて笑っちゃいそうで。

我慢して話を合わせる私の身にもなって欲しい。


「伊吹こそ。昼休みに三年生から告白されてたじゃない?さすが才色兼備の会長様。性格悪いのにね。騙されちゃって可哀想。」

「そんなの騙されるほうが悪いんだろ?てかあいつどうせ顔目当てだろ。うざ。」

「大体そんなのばっかでしょ?女なんて。付き合えばいいのに。あの先輩人気なのよ?」

「やだよめんどい。…ああ、でも付き合っても良かったかもな。顔は良かったし。」


「…は?どうしたの?熱でもあるの?大丈夫?」

「なんだよ、おまえが付き合えって言ったんじゃん。」


いや、たしかに言ったけど、でも、伊吹が付き合うとか言ったの初めてで、

「まあ冗談だけど。」

「…だよね。」

「焦ったでしょ。」

「は!?」

「だって泣きそうだったし。」

「そんなわけ無いでしょ?バカじゃないの!?」

「へーえ?無理しちゃって。」

「無理なんてしてないってば!あーもうニヤニヤすんな!」


「そんな怒んなよ。せっかく可愛いのに。」

「っな、」

「ニコニコ笑って愛想振りまいてる彩乃も可愛いけど、猫かぶってない毒吐く彩乃のが好きだよ、俺。」


言葉の意味を理解すると、一気に体温が上がった気がして。

急に優しい顔になって、そんなことを言うんだから。

ああもう、計算だってわかってるのに!落ち着け私の心臓!

嬉しいとか、違う。伊吹の顔が無駄に綺麗だからいけないんだ。


きっと真っ赤になっているであろう顔を隠すように下を向く。

必死に暴れる心臓を落ち着けさせていたら近づく気配とすぐそばに落ちる影。

咄嗟に顔を上げると、すぐ近くに伊吹の顔があって。


「でも、一番はさ。俺のことが好きな彩乃が好きだよ。」


「っ、調子にのるな!アホ!」


目の前の顔を思いっきり殴って、部屋を飛び出す。

だけど足に力が入らなくて、ドアにもたれかかることしかできなくて。


部屋の中で笑っているだろうあいつを思って、よけいに腹が立つ。


だから、しばらくは。

伊吹が好きだなんて、認めてあげないんだから。


深呼吸をひとつ、それから猫をかぶり直して、あいつの好きな私を隠した。






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