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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第八十五話 家康

家康の目線の先には、かつて、三河で嫌というほど見た一向門徒の幟がひしめきあったっていた。

何かしらの目印になるようなもんはないが、引きちぎれた衣服や、坊主どもが寺に置いてある生地などを竹竿や木の棒などに縛り付けて掲げていた。

参加した者達は、継ぎはぎだらけの衣服を着て、坊主は真新しい僧衣を着て、地侍はみすぼらしい鎧兜をまとっている。

もう、数十年も昔に見た光景が、今また、見ることになるとは、家康も嫌な気分だった。

各大名に格差はあれど、伏して従っている者達は、最低限食事に困ることなく、衣服も着替える為に、数着を所持できるまでにはなっていた。

それなのに目の前に向かってくる敵の姿は、数十年前に戻ったかのように錯覚してしまう。

秀永から支給された遠眼鏡と言われる筒を傍らに控える正信に渡した。


「見てみろ、弥八郎、数十年前の亡霊どもが沸き上がってきているぞ」


家康に渡された遠眼鏡の筒を目に当て、向かい来る敵を正信は見た。

かつて、己が信じ、信仰の為に主君家康を裏切り、苦しめることになる一揆に参加したかつてを思い出した。

若かったのか、それとも、信仰というものに妄信したのか。坊主どもの堕落ぶりを見て、仏への信仰や親鸞の教えを信じ、坊主どもを信じる心を捨てた。

そうなって改めて、敵の一行門徒を見ると憐れむ気持ちが湧いてきた。


「かわいそうなものですな」

「坊主どもに踊らされてる姿は、滑稽でもあり、哀れでもあるな。殿下と話すことなくば、気を使っていただろうな。確かに、殿下が言われるように、やつらの言葉は神仏の言葉ではなく、坊主どもの欲望の言葉。信仰は否定しない、されど、それを語る者どもは信用しないか」

「真に、そう思います。かつては、坊主どもの言葉は、神仏のお言葉。それを否定するのは地獄へ落ち、苦界から逃れることは出来ぬと思うておりました。坊主どもの説法が、いかほど滑稽であったか。すべての坊主がそうではありませんが、加賀の坊主、大坂本願寺の坊主たちは、綺麗な法衣をまとって、我らを虫けらの如くみておりました」

「確かに、末寺の中には、民を思い、親鸞の教えを守っている者もいたが、それとて僅か。寺が大きくなれば、寺領が大きくなればなるほど、堕落していく。それは、他の宗門でも同じこと。何故、坊主が銭を貸し、返せなくば子どもを奪っていくのか。それはいったいどこの神仏の言葉か、聞いてみたいものだな」

「福島様が相対している耶蘇教とも同じこと。純粋に信仰している者達を利用しているだけのこと。ただ、殿下が言われる南蛮や紅毛のもの達のいる欧州と言う処の国主たちも苦労しているとか」

「支配に利用しているが、法王という者がやっかいだと言っておったな。神の代理とか。しかし選ばれるのに必要なものが、権力、金、地位が必要だとか」

「聖地と言われる地を取り戻すという名目で、聖地と言われる都市を攻めとるとき、その地に居た回教徒を皆殺しにして、踵がつかるほどの血が流れたとか。この国でも根切はありますが、行うのは武士であって、坊主どもではありませんが。聞いた時に、どれほどのものが犠牲になったのかと……」

「信仰に狂えば、理性無く獣のとなるか。福島殿の処も、此処も無意味で無駄な血が流れるな」

「このような事は今回だけで、終わらせたいです」

「そうだな」


家康はそう言いながら、向かってくる軍勢に眼を向けた。


「この戦が終われば、わしは隠居することにする」

「……では、私も隠居することにしましょう」


左の眉をあげて、口角をあげて家康は正信を見た。


「お主は、隠居できるのか」

「倅は心配ですが、何とかなるでしょう」

「殿下に、さんざん言われましたからな。秀忠も絞られた姿は笑ったが」


そう言って、家康は笑い、正信はにやついた。


「倅は、頭でっかちで、正論が過ぎると。三成殿と同じことをしている。そうなると家中が割れ、最後は良くないぞと」


正信は含み笑いをした。


「正純は理解していなかったようだが、大丈夫だったのか」

「反発しておりましたな。童ごときがと、世を知らぬものがと、騒いでおりましたわ」

「やはりな」


大きな声で家康は笑い出した。


「殿笑い過ぎです」

「予想でき過ぎて、おかしくてな。確かに、殿下が言われるように、正純は三成殿に似ている。だから終わりもどうなるか、分かっていたのだろう。幸い、三成殿は殿下が仲裁した為、武断派の者達と反目しなかったがな。おしかったものだが」

「先手を打たれましたな。あれで、手が一つ潰れました。しかし、忠義、無私であっても感情を知らぬものは、反感を買われます」

「お主も変わらぬだろう」

「私の場合は、一度、殿の元を離れたにもかかわらず、常に傍らにいることに忠勝殿などは気に食わないのでしょう」


苦笑を正信は浮かべた。


「数正が逐電した後は、謀略や政略で話を出来る者がいなかったから致し方あるまい。戦だけで物事が決まるわけではない、やつらも知っておるだろうが」

「嫉妬の心は、致し方ありません」

「ふふふ、確かに。で、正純は納得できたのか」

「なかなか。しかし、殿下の言っていた高師直や梶原景時の話について、再度、聞かせました。忠義があろうと、無私で仕えようが、嫉妬や憎悪におって、すべてが潰されると」

「そうだな」

「両名とも無私というわけではありませんが、主君の身近に使え、意図を掴み、言動をするものは、主君亡きあと始末されると。ああ、楚の呉起や秦の商鞅の亡くなり方も殿下が言っておりましたな。それでも、しっくり来ないようで、呆れましたが」

「ふむ」

「私は、殿にも秀忠様にも忠実に仕えております。何の問題もありませんと、言い出した時には、手が出て殴り飛ばしました」


正信の言葉に、家康は口を大きく上げ驚いた表情を浮かべた。


「いい歳のお前の拳ぐらい正純であれば避けれるであろう」


家康の言葉に、ふっと正信は笑った。


「鍛錬を怠っている正純如き、まだまだ、私の敵ではございませんよ」


三河一向一揆の後、各地を流浪し、極限の状態にまで陥ったことがある正信にしてみれば、正純は今でもはなたれ小僧でしかなかった。


「お主は引退するほど、衰えておらぬではないか」

「何をおっしゃる、殿も秀忠殿であれば、組み伏せることが出来るでしょう」


そう言い合って二人は笑いあった。


「殿であれば、正純の融通の無さもうまく使う事が出来るでしょう。しかし、秀忠様や周囲のもの達は、それほどの度量はありません。三河者は忠義一徹と言えば聞こえがいいですが、偏屈物で融通の利かぬものばかり。苦労を知らぬ正純では、調整は無理でしょう。加増を言われたら喜んで受け入れるかもしれません。周囲がどう受け取るか理解せずに」

「やつの視線はわしや、秀忠にしか向いておらぬからな。秀忠では扱いきれぬし、使いきれぬだろう。何故、わしの子達は何かが足りぬのだろうな」

「それは、親であれば皆思う事ではないでしょうか」

「お前の推す、秀康は当主には出来んぞ」

「致し方ありませんな。家中にも秀康様を支持するものもいますが、有力なものたちではいません。それに、秀康様は殿のせいでひねくれてしまいましたからな」

「ふん、不平不満を飲み込むことが出来ぬなら当主には出来ん。秀忠は飲み込むことが出来るだけ、秀康より優秀よ。それに、奴は国外でやってもらわなければならん。徳川家の当主の器ではないが、大将の器としては十分だ。国外についてはやつであれば問題はない」

「それで、松平の姓を与え、一門筆頭としたのですか」

「そうだ。徳川としても、元は松平の姓。父、祖父の姓を残すには、分家や他の一門ではなく、我が血筋をあて、他のもの達は屋号の姓にさせた。秀忠以降は、直系のみ徳川の姓とし、分家は松平とし、父、祖父の兄弟は、すべて姓を変えさせたことで支配はしやすくなったな」

「三河以来の家格も変わりましたからな」

「そうだ、譜代など、家格で婚姻がとか言っておって、面倒なことだ。いや、そうではなく、正純のことだ」

「そうですな。殴り飛ばした後、私がどれだけ嫉妬され、恨まれているかを話し、私の死後、そのすべてが正純に逝く事を言いましたよ」

「弥八郎が受ける怨念と、正純個人が受ける怨念か……、酷いことになりそうだな」

「まったくもって、その通りで。夜を明かしながら、こんこんと言いかせて、何とか、理解させました」

「大丈夫か」

「これでも駄目ならば、我が家も終わるだけです」

「あっさり言うな」

「あやつらのように狂っていた後に、この世の儚さと虚しさを実感しましたので」


正信は、向かう一向宗の幟を見ながら言った。


「して、秀忠様はどうですか」

「あやつの性根も歪んでいるが、基本的には善人だ。だから、周囲の側近どもを怒鳴りつけた」

「効果がありますかな」

「わしが生きている間はな、しかし、死ねば効果ないだろうな。だから、秀康に監視させる」

「……それは」

「秀康が排除されかねないか」

「ええ」

「それは無理だ」

「何故ですか」

「殿下がいるからだ」


家康の言葉に正信は眉をひそめた。


「徳川家に殿下が干渉すると、家中の者たちが反発すると思いますが」

「ふん、馬鹿者どもが騒いだところで、今の豊臣に勝てるものか、まして、殿下が存命の間はな」

「痴れ者は何をしだすか分かりませんぞ」

「そうだとしても、殿下は穏便にすますだろう。秀康が存命であれば、秀忠もおいそれと馬鹿なことはしないだろう。忠隣もいるだろうから大丈夫だろう」

「そうですか」

「お主は、秀康を当主に押しておったから不満か」

「世が治まらないのであれば、秀康様が当主としてふさわしいと思ってはいますが、今の世であれば、内と外を考えれば、内を秀忠様が、外を秀康様とした方がおさまりは良い気がします。まあ、殿は秀康様を嫌っておられますが」


皮肉気に正信は家康に言った。


「ふん、秀康の才は知っておる。だが、やつは大将であっても当主の才はない」

「当主の才がないと」

「秀康は少々堪える事が苦手だ。忠吉も同じだな。泥水を啜っても、唾を吐きかけられても、耐えて頭を下げることはやつらには出来まい」

「秀忠様なら出来ると」

「ああ、出来る。信康と比べられ、秀康と忠吉と競い合ってはいたが、秀忠は家中の者の蔑みにも耐えていた。他の大名たちからの侮蔑の視線も耐えていた。決断する時は己で責を負う事も理解している」

「軽率な処もあるかと思いますが」

「秀康と忠吉と比較されるのだから焦る部分もあるだろうからな。致命的な失敗さえしなれば問題はない」

「耐えれば耐えるほど、心に澱が溜まりますが」

「当主となれば、それもいったんある程度消えるだろう。だが、それによって暴走しないように秀康を置く。一門衆の筆頭であっても別家だから嫉妬もしないだろう。秀康も不満があっても、活躍の場があれば爆発することはあるまい」


そう言いながら、先陣の方に目を向ける。


「急遽、秀康様を呼び戻して、先陣に配したのはそのためですか」

「あやつには、家督についての話は伝えている。殿下にも許可をもらい、徳川家の一門でありながら、豊臣家の一門として両属的な立場になる。外の戦いにおいては、総大将の立場になると殿下は言っておられた」

「ほう、そうなると徳川の権勢が大きくなると思いますが」

「ならん」

「なりませんか」

「そうだ、秀康の心は、わしではなく大殿に向いておるし、殿下の事も実の弟のように思っている。殿下も秀康の事を頼りにしていると常に言っているらしい。それに、秀康の子と秀次様の娘との婚約も決まったから身内のようなものだろう」

「秀康様は一本気な処もありますから、殿下を裏切ることはないでしょう」

「そうだ……が、殿下から外で女子を買わないようにと、何度も言われて困ったと言っておったがな」


秀康が秀永から遊女を抱かないようにと、直接何度も言われ、ことある事に手紙にも書かれていて、そんなに信用されてないのかと、家康に愚痴を言ったことを思い出し笑った。


「殿下は、遊女などを見知らぬ女子を抱かないようにと、注意喚起されてましたな」

「そうだ、清正殿や幸長殿なども叱られているらしいな。古血が怖いと言っておられたな」

「医術や薬師を教育し、発症を防いでいると来ていますが」

「そうらしいな。しかし、あちらの連中はそうでもないようだと聞いているが」


秀永によって、梅毒や感染症や疫病について、注意喚起と医師の派遣により、衛生や治療の改善は行われて続けている。

しかし、高槻に集まったもの達は、着の身着のままや盗賊のようなもの、衛生管理も出来ていないと忍びによって報告があがっており、戦の後始末についての対策も伝えられていた。


前線から伝令が家康に向かって、馬を走らせてきた。


「戦場の事、下馬は良い。どうした」


正信が伝令に気が付き、下馬しようとしたの止め問いかけた。


「敵と接触、鉄砲隊による攻撃の後、突撃を行うと秀康様からのお言葉です」

「ふむ、斬りあう前になるべく削れと伝えよ。敵は死兵が多い、無理に切り結んでも無駄に被害が出るだけだ。やつらを人と思うな、獣か人形と思って戦えと。倒れても決して近づくな、やつらは死ぬ寸前まで、こちらを殺しに来ると、再度、秀康に伝えよ」

「はっ」

「それと、鉄砲の音が聞こえたら、こちらから敵の後方に大筒を放つと合わせて伝えよ」

「はっ」


伝令は、家康の言葉を聞き秀康の元に戻っていった。


「さて、最後の戦を始めるか」

「はい」


そう言った家康に、竹の筒に入ったお茶を正信は渡し、二人はお茶をゆっくりと飲んだ。






進軍する門徒たちを見て、教如は勝てるか不安になっていた。

兵数的には劣るが、門徒の意気込みも、死兵としても互角には戦えると思っていた。

しかし、鉄砲や大筒を見ると、豊臣に比べ劣り、遠方からの攻撃に耐えうるか不安になっていた。

前方には、徳川の馬印や幟が見え、かつての三河での恨みをはらせと声を張り上げて鼓舞していた。

実際には、三河での一向一揆に参加した者は皆無で、教如から発破をかけられても、実感は皆なかった。

あったのは、三河での門徒が排除されたことに対する怒りだけだった。


「浄土真宗の本流は我、准如ごときにくれてやることは出来ぬ。父も老いて、本道を忘れた。この我こそが仏法を守護するのだ」


そう教如はつぶやく声が、自らに言い聞かせているようでもあった。周囲にはかつていた有力な坊官である下間の一族は、頼龍のみが側にいるだけだった。

その頼龍の子も、教如と合わず出奔していた。


頼龍は、この度の戦は敗れると考えており、敗れれば身命を賭して、教如を逃そうと考えていた。

また、頼龍は顕如とも話をしており、この度の戦で狂信的なもの達を排除する事を画策していた。

この先、どう考えても本願寺が往年の力を取り戻すことは無理と考え、顕如や准如、頼簾とも交渉し、岩覚を通して、秀永とも意見を合わせていた。

ただ、このことは教如には伝えておらず、頼龍の独断で行われていた。


「教如様」

「何でもない。仏敵、秀永、家康に天罰を与えるのだ」


頼龍の問いに、そう教如は答えた。


「頼龍、撃ち手は配置しているか」

「はっ」


万が一にも、秀永や家康など、有力なもの達を討ち取った場合、教如の助命は不可能になるのは、頼龍としても分かっていた。

しかし、頼龍にも豊臣のかつての主君、織田信長に対する恨みを完全に消すことは不可能だった。

どこかの山に逃げ込み、山の民に最悪の場合は、匿ってもらえれば良いと頼龍は思っていた。

教如の助命、本願寺の存続、己の恨み、色々な感情を心に閉じ込め、頼龍は教如に従っていた。


「井伊様、高山様に手配した者達以外に、十名ほどの撃ち手を用意しております。そのうち、3名は大陸から入手した鳥銃を使います」


頼龍の言葉に教如は喜色を浮かべた。


「そうか、それならば、豊臣に媚び諂う徳川のもの達を始末できるな」

「はい、そうなれば指揮もおろそかになり、敗走する事でしょう」


満足げに頷く教如を見ながら、頼龍は徳川の忍びに見つからぬようにと祈った。


「皆の者、進めば極楽、引けば地獄、極楽浄土へ逝くには、仏敵豊臣とその眷属徳川のもの達を討ち取るのだ!南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


教如が題目を唱えると、伝播していくように兵たちが題目を唱え始め、戦場には南無阿弥陀仏を唱える声が支配した。

その声に呼応するかのように、耶蘇教徒からハレルヤという大合唱がこちらにも聞こえ始めた。

それと同時に歌声も聞こえて来た。


「南蛮の者たちの教えに堕ちた者達の声など、我々の正しき力により打ち払うのだ!」


教如はそう言いながら、念仏を唱え始め、周囲にいた者達で心得のあるもの達も同調して発し始めた。






中央の陣で、敵の左右から聞こえてくる題目と、歌声、読経を聞いていた。


「どうなされました」


岩覚が、大いにため息をつく秀永に問いかけた。


「神仏への信仰を利用して、世を乱し、命をもて遊ぶ悪魔や悪鬼羅刹の声を聴いているようで、ため息が出ました。本来人を導くもの達が、地獄や黄泉へ信者を誘っているのは、滑稽でもありますが」

「仏法を学んでいる者としては、身を恥じております」

「生きていくためには、お金も食べ物も必要。でも、それを得るために、他者を踏みにじり、虐げ、搾取するのは(まつりごと)としては問題です。まして、人を導く、心や死後の安寧をつかさどるべき立場の人たちが、踏みにじっては駄目でしょう。耶蘇教は少々血なまぐさいこともありますが、それとて、人が歪めたことかもしれません。また、御仏の考えに人を殺める法はないはずです」


そう言いながら、自軍に向かってくる井伊家の幟を秀永は見た。


「直政さんは、己の意地か、徳川家の武勇を見せる為か、その行為は、あまり理解できません。勝てるとは思っていないはずですし、勝っても先がないことも理解しているはずですが。生きて、家康さんや徳川の家を盛り立てようと思って欲しかったです」

「武士としての意地、井伊家としての家名の意地、徳川の家臣としての意地。豊臣に決して負けるものではないと、天下に見せつけたいのかもしれません」

「それが、無駄死にでも」

「はい。今後の伝わるものですから」

「直政さんの行動で、井伊家や徳川家が破滅になるかもしれないのに」

「そうです、武士として後世に名を遺すことも、武士としての在り方です」


秀永は顔を左右に振り、ため息をついた。


「そういえば、忠興さんはどうなっています」

「京へ向けて進んで居るようですが、吉継殿が既に捕捉しているようです。これもしばらく前の話なので、今はもう終わっているかもしれません」


岩覚の話を聞き、京の方に秀永は顔を向けた。


「国内での争いはもうこりごりです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 念仏 = 南無阿弥陀仏
[一言] だいもく 【題目】 1. 書物・文章などの題。研究の主題。 2. 日蓮(にちれん)宗で唱える「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」の七字のこと。
[良い点] この現状認識と割り切りの良さ。さすがは徳川家康
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