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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第八十一話 黒田

清正は大筒を一門だけ持ってきていた。

どこかに籠ったりした場合に使用しようとしていたが、平地でも運用は可能と考えていた。

ただ、数門持ってきたかったが、島原城と岡城に分けて配置した。

島津の事を考えると、籠城ではなく野戦で決着をつけると想定し、また、援軍が期待できない籠城は意味がないことを義弘が理解しているだろうと考えていた。

南蛮が早期に来ればよいが、豊臣の水軍を被害無く撃破することは不可能と義弘は読んでいると思っていた。

楽観的に目算を立てるほど、義弘は衰えているとは思っていない。

島原城や岡城に籠った連中のように神頼みや、自らの妄想に酔っている者とは違うはずと考えていた。


「放て!」


清正の指示に従い、大筒を放った。

しかし、清正が指示した時に、進軍していた島津軍の後方が密集から散開し始めた。


「……」


その動きを見ながら、今更ながら義弘の戦の勘の鋭さに舌を巻いた。


「まさか、大筒を使う事、読んだのか……しかし、乱戦に入る前しか放つことは出来ん、次も用意出来次第は放て」

「はっ」


島津軍の動きを清正は注視していた。




「者ども、ひとりひとり距離を取りながら広がって突撃せよ。お主たちは、左右に分かれ、食い破ってこい」

「はっ」


義弘は、清正の本陣近くから嫌な気配がした為、兵たちをひとりひとりの距離を取らせ散会させた。

嫌な予感が大筒だった場合、密集していては被害が広がるばかりと考えた。

それと、左右に展開している黒田の兵を押しとどめる為、家臣たちを分け、突貫させた。

兵数的に劣勢の為、死ぬ確率が高いのが分かっていても、義弘は家臣に命じ、家臣も受け入れ離れていった。

散会が完了したころに、大筒から離れた鉄の玉が、島津軍に落ちて来た。

直撃はしなかったが、大筒の落ちた時に巻き上がった砂塵や小石に巻き込まれ何名かが倒れたが、かすり傷程度で済んでおり、再び立ち上がって走り始めた。

島津の兵に動揺はないが、うろんなもの達の中でどうようするものが出ていた。

大筒は昔に比べて、珍しいものではないが、日本内で使われることが少ないため、その轟音と玉の落下音に肝を冷やすものが出た。

義弘は、そんなもの達を見ながら声を発した。


「皆の者、うろたえるな!」


合戦の雑音の中、声は聴きとりにくいにも関わらず、声が周囲に響いた。

物頭も義弘の声を聴き、兵たちも発破をかける。


「豊臣の世では、お主ら素破、乱破の居場所はない。狩られる未来しかない。此処でやつらを食い破らない限り生き残ることは出来ぬ!」


秀永により、素破、乱破の取り締まりが強化された。

忍びとして諜報機関に入るもの達は受け入れたが、周囲を荒らすもの達は諜報機関や直属の討伐隊によって取り締まられた。

悪質なものは処刑されたが、罪が軽いものは罰金や国外での労働、鉱山での労働の罰に処せられた。

酷いところは村自体が強盗活動をしているところもあり、村自体が取り潰されたところもあった。

秀永の政策が知られると、今まで勝手にしていた者たちは、諜報機関に入るか、田畑・狩猟で生計を立てるようにするか、徒党を組んで暴れまわるかに分かれた。

村で追いはぎなどをしていた処は、処罰を受けるも大半は元々の農業で生きることを選択した。土地が与えられない次男以下は国外への移住を選択するものもいた。

残りは、諜報機関移入るものは一部の者達で、大半の者は、強盗や盗賊になって治安を乱した。

畿内から徐々に進めていった為、関東東北や九州などは対処が遅れていた。

義弘は挙兵する際、田畑や漁業をすることを拒否したうろんなものを、不安を煽りつつ取りこんだ。

それによって、義弘の軍は増えた。本家からの支援がない為、うろんなものたちを活用するしかなかったのだが。


「死ね、生きることを望むな!生きても、死ぬしかないぞ!死中に活を求めよ!」


義弘の激が戦場に響き、島津軍は喚声をあげる。




「流石だな、義弘殿。圧されている」


清正は眉間にしわを寄せ戦場を見ていた。


「焙烙玉を、島津軍に放て!」


大筒を使って、島津軍を委縮させるも、義弘の激で立ち直ってしまい、大筒を再度放つも、動揺もなく、勢いも落ちなかった。

焙烙玉を乱戦している場所の後方に投げ込むように命じた。


「間を置かず、投げ込め!敵がひるんだ時に一度押し込み、後方に引かせろ、引いたと同時に鉄砲を釣瓶打ちを始めろ!」


数十の焙烙玉が島津軍に投げ込まれた。

爆音と破裂した破片で島津軍は少しひるんだ時に、加藤軍が勢いを増して押し込んだ為、島津軍は少し引いた。

その隙に、加藤軍は素早く引いた。

島津軍は立て直し、加藤軍を追撃するも鉄砲の釣瓶打ちと長弓による攻撃により、島津軍の動きは鈍くなった。

加藤軍は前線の兵を後方に下げ休ませ、新手を前線に出した為、疲労の溜まっていた島津軍の前線にほころびが出始めた。




「兵の中央を開けさせろ、突撃するぞ、竹の盾を前に掲げよ」

「応!」


義弘は、前線がほころび始めていると感じ、前線についたと同時に、加藤軍に突撃を始めた。

義弘の馬印を見て、味方は奮い立ち、敵は気を引き締めた。

優勢になり始めたはずの加藤軍の勢いも止まり、膠着状態の乱戦が再開された。




「殿、島津の兵が待ち構えております」

「足止めしている間に、清正の首を取る気か……死兵相手になるか」

「島津の者しかおらぬようです」

「百程度しかおらぬが、刻は稼げるか」

「竹の盾など、鉄砲対策もしているようで」

「時間をかける気はない、鉄砲で攻撃を仕掛けよ、それと同時に、盾の後方に弓で攻撃を始めよ」

「はっ」


孝高は、百程度の兵とはいえ、死兵とかしている島津軍に油断する気はなかった。

他家の兵でも死兵は恐ろしい、それが剽悍な島津兵のあればなおさら危険だ。

近づいて戦ってしまえば、相当な被害が出る恐れがある。


「それと、周囲に物見を、伏兵がいる」

「数が少ないのに、更に兵を分けて伏兵ですか」

「そうだ、百程度の兵が死んでも、わしひとりの首が取れれば十分だろう」


兵を命を軽視する気はないが、大将首一つで戦の流れが変わる可能性はある。

全権を任されている孝高が亡くなれば、島津を勢いづかせ、味方の士気が落ちるのは自明。

島原城も岡城も士気が上がり、他の場所で叛乱が起きないとは言えない。


島津軍に鉄砲と弓で攻撃するも、じりじりと島津軍は近づいてきた。

傷ついているもの多いようだが、死者は出ていないようだった。


「盾での防御はなかなかのものか、無傷ではないはずなのだが……」

「殿」

「どうした」

「殿のお考えした通り、伏兵が居たようです」

「そうか、それで」

「見つけたもの達はすべて討ち取ったようです」

「……油断するなよ」

「はっ」


孝高は、伏兵が討たれたことを島津兵に対して、野次るように指示した。

士気が落ちるとは思っていなかったが、試してみたが、結果はやはり島津兵の士気は落ちず、近づく速度は速くなった。

間隔も短く打ち込んでいるにも関わらず、眼に見える被害もなく、動きも止まらない島津兵に黒田の兵たちが怖気だした。


「これはいかんな、やはり島津が利高なら大丈夫だろうが、焙烙玉を投げ入れろ、竹の盾でも被害がでるだろう」


焙烙玉の投擲の指示により、竹を使った投擲機を使い島津兵に投げ込まれた。

流石に、竹の盾では受けきれずに、なぎ倒される兵が見えた。

それでも怯むことなく、島津兵は速度を速めて、黒田軍に突撃を始めた。

島津兵の竹の隙間から鉄砲が突き出され、走りながら放ってきた。

前線の兵はまさか、鉄砲で撃たれるとは思っていなかった為に、撃たれた事に動揺した。


「島津の鉄砲は少ない、落ち着かせろ」


孝高の指示により、兵が落ち着き始めたころ、島津兵から竹の筒のようなものが、投げ込まれてきた。

前線には届くことはなかったが、竹の筒は、空中や地面で爆発した。


「竹の中に、火薬を入れたか……どれだけ持っているか、近づけさすな」


竹の筒を焙烙玉のように使っていると推測し、乱戦になった場合、被害が大きくなると考えて、孝高は鉄砲と弓による殲滅を命じた。

しかし、数多くの竹の筒による爆発により、砂ぼこりが巻き上がり、島津兵が一瞬見えなくなり、どこまで近づいたか分かりにくくなった。


「島津の者たちが見えなくても、撃ち込め近づけさせるな!それと周囲に物見を放て、近づかれるとやっかいだ」


そう命じた時、周囲で声がした。


「何者だ!何をしている、殿に近づけさせるな!」


そう言いながら、近づいてくるものに斬りつけていった。

数人程度であった為、人数的には優位であったが、一人が切りつけようとした時、竹の筒が孝高目がけて投げられた。


「皆の者はなれよ!」


寒気がした孝高はそう命じ、己も全速力でその場を離れた。

斬りつけようとしたものの大半はその場から離れたが、すでに斬りつけていたものは離れるのが遅れた。

轟音と共に、孝高に投げられた竹の筒が爆発すると同時に、島津兵たちも爆発した。

その爆発の直撃を受け、斬りつけた者も命を落とすことになった。


「やっかいな、戦人ならば何としても生き残ることを考えるはずが……一向門徒のように」


そう距離を取って、振り返った孝高はつぶやいた。


「耶蘇教では自害を禁じられている、ならば、やつらは一向門徒か」


怖気ながら爆発の地を見返していた。

御仏は殺生を禁じている、なのに御仏を唱える僧は信者に死ねと命じる。

耶蘇教とも、信者以外を人として認めず、他教を信じる者は悪魔を信じる邪教と批判する。

宗教というものの恐ろしさと、それを唱える者の愚かさを感じざるえなかった。


「島津の兵も潰せたか、わしは健在だと伝え、負傷者などを調べよ」


本陣の爆発と同じころに島津兵が壊滅した。

前線に到達した者がと同じく自爆したものがいた。

被害は出ているが、軽微だった。

負傷兵や後始末をする者を分け、義弘の兵の側面を攻撃する準備をする。




利高も孝高と同じ攻撃を受けていた。

自爆攻撃により利高は左腕を骨折していたが、動くことが出来た為、義弘の側面の攻撃に動いていた。

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