第七十六話 九州
宗茂に率いられた討伐軍によって、肥前の耶蘇教徒の軍は壊滅した。
しかし、残ったもの達や、新たに合流したもの達が島原の城に籠城することになった。
堅牢な島原の城に籠った残党は、有馬・大村氏の家臣によって率いられ、抵抗を続けていた。
「あまり刻をかけたくはないが、強引に攻めれば犠牲がでますね」
「宗茂殿の言われるように、無理に攻めぬ方がよいでしょうな」
立花宗茂、鍋島直茂、小早川秀包が集まり、島原の城を見ていた。
「戦乱の世を知っている者達も多いだろう。簡単に落とせるような隙は見せないな」
「殿下からは、無理はせず、刻をかけても良いとは言われていますが、あまり、刻をかけたくはないですね」
「秀包殿のいう通り、刻をかければ南蛮も来るかもしれませんからな」
「嘉隆殿は何と言われてるのですか、宗茂殿」
「海上から大筒で攻撃するとは言われてます。南蛮の船がこちらに来るのはまだまだ先だろうとのことです」
「ならば兵糧攻めが出来ますかな」
「そうですね、それぐらいの刻はあるようです」
強引に攻めれば、直ぐに落ちるとは思うが、犠牲が多いと三人は考え兵糧攻めにすることにした。
他の地域に関しては、心配することはないと考えていた。他の地域が危機的な状況であれば、兵糧攻めは選択しなかった。
「では、私と秀包殿の兵は城を囲みましょう。直茂殿は、周囲を巡回していただき、刃向う者達を潰してください。ひと月後、私と役割を交替し、その次は秀包殿と順に行っていきましょう」
「そうですな。まだ、逃げ出したもの達も潜伏しているでしょうし」
「ついでに、胡乱なもの達も取り締まりましょう」
役割を割り振り、島原の城を攻め落とす算段をつけた。
「家政殿、大友の者たちは、どうですか」
「岡城に、逃げ込んだようです」
「……落としにくいですね。力攻めならば行けるでしょうが」
「広家殿の懸念されているように、犠牲は多いでしょう」
蜂須賀家政、毛利輝元、吉川広家、長宗我部盛親が集まり蜂起した大友の残党について話し合っていた。
「力攻めで落としても良いのでは、相手は小勢、甘くは見てはおりませんが、あまり刻をかけても兵糧などの負担が大きくなるだけでしょう」
盛親は、家政と広家の消極的な意見に反発していた。
相手の数倍の兵を擁して、腰が引けすぎだと見えていた。
「輝元殿はどう思われる。消極的な動きは、相手を増長させませんか」
総大将は家政ではあるが、毛利家の所領や地位を考えれば、無下にできる立場ではなかった。
本来は輝元が総大将だが、戦下手だから外されたと家中で陰口を叩かれていた。
しかし、今回の耶蘇教の蜂起は、豊臣家の手によって討伐されるべきと、秀永は考え、責任も負うべきとの考えから、豊臣系の大名を責任者として配置していた。
宗茂は、秀吉の子飼いではないが、引き抜き直臣であり、忠義を疑うべきない人物として総大将に指名された。
「広家の言う通り、無理に攻めるべきではないと思う」
輝元の言葉に、盛親は苦虫を噛み潰したよう表情になり、内心、愚か者との罵声を浴びせた。
広家は盛親を見て苦笑を浮かべた。
「盛親殿、あなたの考えは分かるが、殿下からも無理はしないようにと言われている。兵糧についても豊臣家で負担すると言われている。無理をすべきではない」
「しかし、此処は大友の支配していた国だ、家政殿。手をこまねいていたと思われると、蜂起が起き、糧秣が奪われ輸送も困難となるかもしれんぞ」
「確かに、その通りだが、それならばその者たちを潰せばよい。刃向う者達を生かす必要はない」
家政の言葉に、盛親は眼を細めた。
「それはどういうことで」
「簡単なこと、これを利用し、豊後の国から異分子を排除すればよい。それだけのことだ」
「ふん、だが胡乱なもの達を潰すのは簡単ではないぞ」
「確かに、だが、こちらも忍びたちを話している。乱波、透波の類であれば、今のうちに潰した方が良かろう。まあ、捕まえて外の国で、使いつぶすのも良いだろう。いい加減戦乱が常道であると考えるものたちの考えをただす必要があるだろう」
盛親は、口を歪めながらも矛を収めた。たとえ、九州で胡乱なものを潰しても他の地域はどうなるかと、言葉を飲み込み黙った。
「まあ、盛親殿の考えも分かる。なので、城を囲むものと、巡回するものを分ける」
「ならば、我々は巡回をする」
その言葉に家政は頷いた。
「軍規を違反した場合は、たとえ、長宗我部家の家臣であっても罰せられると理解していただきたい。兵糧や銭はこちらから渡す故、お願いします」
盛親は頷いた。
「では、輝元様には残っていただき、私が巡回の手配をしましょう」
「広家頼む」
「はっ」
「包囲側も、大筒などで、敵を疲弊させる予定です」
「孝高様、肥前と豊後は籠城しているようですな」
「ふむ、不平分子を炙り出すにはちょうど良かろう。だが、義弘殿はそのような手を打たぬであろう」
「確かに、島津家が挙兵したわけではなく、義弘殿だけですから、どこかを落としても、籠城は難しいでしょうな」
「らっぱ、すっぱを集めて、兵は増やして村々を襲っているようだが、さて、どこまで増えるかな」
「胡乱なもの達で、未だに戦乱の意識があるもの達が多くいるのも事実ですが、今のところ五千は超えていないようです」
「集めた連中をおとりにして、捨てがまりを仕掛けるだろうな」
「常道ですな。しかし、大筒と鉄砲は豊富にあります。油断はしませんが、負けることはあり得ますまい」
「死兵となり、攻めてくるだろうが……、長政に後方から攻撃させるように、船で移動させよう」
「こちらも一久を出しましょう」
「義久殿も書状を送ってきたが、まあ、義弘殿を潰した後、薩摩に行かねばならんだろうな」
「はい」
「殿下からの期待に応えねばなるまい」
孝高の言葉に、清正は笑った。
「ふん、何がおかしい」
「いえいえ、戦場の孝高様は、若返ると見えて楽しそうだと思いまして」
「これが、最後の戦になるだろうからな」
「まだ、外の国もありますが」
「もう歳だ、そこまで体は持たない。まして、船の戦は門外漢。軍だては出来るが、実際に兵を指揮しての戦としては最後だろう」
「……殿下からは、西国、四国や東も治めてくれと言われたような気がしますが」
「小競り合いはあっても、戦らしい戦はあるまい。お主は、まだ若い、がんばれ」
「某もそれなりの年なので、若いもの達に任せたいのですが」
「市松なら喜びそうだが、お主は違うな」
「やつはいつまでたっても幼子と変わりませんからな」
そう言って二人は笑いあった。
「へっくしゅん」
正則は大きなくしゃみをした。
「正則さん、風邪ですか」
「いえ、虎之助あたりが、殿下の元で戦う俺をうらやんで愚痴を言っているのでしょう」
その言葉に秀永は笑った。
「なんにせよ、体に気を付けてください。戦が近いですからね」
「はっ、ありがとうございます」
ご助言ありがとうございます。
色々忙しく対応できてないことをお詫びします。




