表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/147

第七十三話 準備


「宣教師の話を聞いたか」

「ああ」


月も出てない深夜に、物陰に隠れて、男たちが話していた。


「神の声だと言っていたが……」

「眉唾だろう、聞こえるなら何故今まで何も示してくれなかったんだ。神に祈り続けたが、親父は病でなくなったんだぞ。祈りも通じず、神の国の為に、神の敵、豊臣と戦えだと」

「それは、お前の信仰心が足りないからだ」

「なんだと!」


言われた男は、相手につかみかかろうとしたが、他の者たちが止めた。


「やめろ、争っても仕方ないだろう」

「ふん、信仰心のかけらもない愚か者がくだらんことをいうからだ」

「なにを!」

「だから、やめろと言っている。お前も煽るな」

「もういい、俺は抜ける。このばかと同じ場所にいると、吐き気がするわ」


そう言って、男は、去っていった。


「あいつ、裏切るんじゃないか」

「そうなったら、お前のせいだな」

「ああ」

「お前のような短慮なものが、輪を乱し、離れる者が増えるんだ」

「てめぇ」

「だから、やめろと」


周囲が止めようとするが、掴みかかろうとした男は、逆に殴られて膝をついた。


「おまえ、何しやがる」

「ほれ、右を殴られたんだ、左の頬を出せよ」


そう言って、男を蹴り上げた。


「もうやめろ、仲間で争っても意味がないだろう」

「そうだが、こいつが仲間か、仲間なら相手を蔑むことはないだろう」

「なら、お前は、どうなんだ」

「こんな、思慮の足りない者を仲間とは思っていないよ」

「もう一度行ってみやがれ」


倒れていた男は、起き上がって男を睨みつけた。


「今は、団結しなければいけないのに、わざわざ、亀裂を作って、離反者を出すなんて、ばかのやることだ。それを理解できないなら、こいつは始末した方が良い」

「お前こそ、同じじゃないか、その物言いは」

「まあ、そうかもしれないが、こいつより、現状は理解している」

「なに」

「黙れ」


起き上がった男が、声を上げたが、男が言葉と共に、殺気をぶつけると硬直し、口から泡を吹いて倒れた。


「はぁ」

「ふん、甘い考えのがきが知ったかぶりで、言いやがる」

「本願寺から宗旨替えしたお主だから、分かるが……」

「一人でも裏切り者が出たら、最後は崩壊して根切が待っている」

「だからと言って、もめる必要はるまい」

「ふん、もういい、それよりも宣教師が言っていたことだが、動きがあるのか」

「はぁ、そうだ。どうも、九州及び山陰の大名が支援があるようだ」

「どいつだ」

「わからん。そこまでは言われていない」

「こちらを利用して、切り捨てるつもりか」

「宣教師は、大丈夫だと言っていたがな」

「ふん、使い捨てにする気だろう、やつらはそんな連中だ」

「だが、信仰は許されるようだぞ」

「それもわからんがな。まあ、神が言うならば、そうなんだろう」


そう言い、皮肉を込めて笑った。

男は、伊勢長島に籠り、織田勢に根切にされる際に、なんとか逃げ出したが、深い傷を負って、山中で倒れていた。そこに、宣教師が通りがかり治療を行ってもらって処一命をとりとめた。

宣教師の話では、同じような境遇の者が何人かいたようで、全員が、耶蘇教に宗旨替えをした。


「一揆を起こすなら、指示するものを選んで、戦をするための体制を作らないとだめだ」

「分かってる。周囲と連絡を取っているが、まだまだ、戦働きをしたものも多い。何とかなりそうだ」

「それと、逃げ方も考えておけよ」

「戦う前から逃げることを」

「そうだ、死ななければ、何度でも立ち上がれる」

「……なるほど、そう伝えておこう」


九州、中国、畿内における耶蘇教徒の動きが活発化することになる。






「動きはどうですか」

「忠興様が、耶蘇教徒を煽っているようです」

「ああ、奥方は教徒でしたね。奥方が協力しているのですか」

「いいえ、奥方付きの侍女のつながりの様で、奥方は知らないようです」

「侍女が勝手にですか」

「はい、奥方は本能寺で信長公がお倒れになってから、屋敷に閉じ込められたり、不遇な状況です。その状況を変えたいようで、忠興様の話に乗ったようです。ただ、失敗した際、責を奥方に負わさないために、何も言わず動いたようです」

「侍女にすべてを押し付けて、発覚したら逃げるつもりですね」

「はい」


目先の事に囚われて、同じ失敗を繰り返したいのかと、秀永は忠興に対してあきれていた。


「法華経の宗門を利用し、本願寺を利用し、その結果が京の荒廃と、幕府の凋落、畿内の騒乱。忠興殿は、抑えれると考えているのでしょうか。手に余る力を暴走させた先に何かあるのか」

「岩覚殿、細川の倅では無理だな。藤孝殿でも無理だ。己の才で、己の頭の中で神にでもなったつもりになっているかもしれん。挫折もなかったかもしれんな」

「孝高殿、同じ信徒が……」

「致し方ありませんな。本願寺、法華の者たちの愚かな行動が、無辜の信徒を死へと追いやった。信仰の意味を問うと思っていた処、無私の施しをする宣教師を見た。赤貧で、己を犠牲にして活動するもの達に、今の腐りきった坊主たちとの違いを感じた。はるか昔、仏の道を目指したもの達も同じだったろうが、堕落した坊主を信じることは出来なくなっていた」

「……」

「これこそ、我が信仰の対象と思っていたんだが……、秀永様の話を聞いて、欲にまみれているのは同じかと、絶望しかなかったわ」

「十字軍、魔女狩り、神の名を使った所業ですね」

「ああ、神を信じても、それを語る人は信じることはできない。まあ、一揆を起こすもの達も、信仰があるだろう、哀れではあるがわしから施しをする気はない」


ロザリオを手にしながら、孝高は岩覚に話した。


「小太郎さん、監視を続けてください」

「はっ」

「こちらの手としては、米などを配布しましょうか。貧しさが幾分和らげば、不満も少しは減るでしょう」

「まとめて潰すのも手だと思いますが」

「確かに、孝高さんの言われる通りですが、人が居なければ田畑も朽ち果てるだけですからね。減らせる犠牲は減らした方が良いでしょう」

「そうですな。一揆が起きれば、素早くせん滅するべきですが、配置はどうしますか」

「あまり、目立つことなく、配置する必要がありますが……諸大名に協力は仰げないでしょうが、三成さんたちに、協力してもらいましょう。兵は、数十人単位で、寺社の警備や治安維持を目的として、配置しましょう」

「警戒されませんか」

「警戒はされるでしょうが、信仰という名の麻薬で寄っている人たちには、怖いとは思わず、戦意をあおる結果になるかもしれませんね」

「まったく、坊主が……世も末ですな」

「殺生を禁じているわけではありませんからね。耶蘇教を信じない者達は悪魔ですからね」

「笑うしかないですな」


孝高の言葉に、秀永は苦笑した。


「小太郎殿、九州はどうですが」

「島津の動きが活発化してます」

「前の話では、義弘殿が動いていると聞いていましたが」

「はい、義久様、家中も反対の様です」

「何故、そこまで強固な意志をもっているのでしょうか」

「歳久殿、家久殿、ご兄弟の死を悔やんでいるのかもしれません。豊臣家との戦を反対した歳久殿を結果的に、死に追いやったと苦しんでいるのかもしれません。可愛がっていた家久殿の死は、豊臣家によって仕組まれたものと疑っている可能性もあります。理性ではなく、感情で動いているのかもしれませんね。それに、勝てば良い、強さを見せつけて、こちらから琉球を含めた南方について、譲歩させようと考えているのか。それでも、忠興さんと手を結んでも勝てる見込みはないでしょう」

「忠興様は、家康様を巻き込もうと、徳川家家中の者を罠にはめようとしています」

「罠ですか」

「はい、豊臣家に無許可の南蛮や明との取引、無断での領地確保など、徳川家家中の者が行ったことを集めて、追いつめているようです」

「家康殿であれば、鼻で笑って無視するだろうが……小物では生きた心地はしまい」

「直政さんを煽っていたはずですが」

「直政様は、忠興様の言葉を聞き流しているようで、忠興様がじれたようで、最近は接触がないようです」

「……直政殿は、おちつかれたましたか」

「いいえ、井伊家ではいつでも動けるような体制です。ただ、それは国外への備えとして周囲には説明しているようです」

「何かを起こす気か、まあ、気の短い奴が、急に気が長くなることはない、何かを待っているかもしれんな。ただ、井伊家単独では無理だろうから、準備を怠ることはないといったところか」

「そうかもしれません」

「あとは、氏政様から、忠興様から書状があったと聞いていますが」

「ええ、氏政さんに、関東の所領を与えるので手を貸せと、何故か、上から目線の書状でしたね。伊勢家より、細川家の方が家格が上だとでも言いたいのでしょうかね」

「才あれど、もう少し経験が足りないな」

「九州の抑えを孝高さんに頼みたいのですが……」

「倅は、細川の小僧と同じで、まだまだ未熟。家康殿や忠興に声をかけられているようです。こちらには何も言ってこないですが、あやつも鍛え足りない。家中のものをうまく扱いきれていないようで、申し訳ない」

「……では、清正さんと宗茂さんに協力してもらいましょう」

「宗茂殿とは、立花の」

「そうです。こちらから頼めば、一本気な方のようなので、協力してくれるでしょう」

「ふむ、それは……」

「本当は、孝高さんに行ってもらいたいのですが、こちらが手薄になるのが心配で……」

「それなら、信繁と吉継を側に置けば良いでしょう」

「……分かりました。役職は、おいおい考えていきますが、旧に復し九州探題として、向かってください。清正さんや宗茂さんを補佐として配置します」

「分かりました。中国探題として、毛利か宇喜多ですか」

「毛利としてたいですが、広家さんが信用できるかどうか。秀家兄上は、信用できるのですが、家中に耶蘇教徒もいますし、家中分裂は防げましたが……」

「どちらともと言ったところですか」

「はい」

「関東はどうです」

「信繁さんと吉継さんが抑えてくれていますので、二人をこちらに呼ぶとなると……」

「派遣、抑えの者たちについて、もう少し考える必要がありますな」

「はい」


関東は、西国に比べ、キリスト教徒の数が多くはなく、抑えきれる気が秀永はしていた。

しかし、豊臣家に不満を持つもの達は居るはずなので、油断できないと考えている。


「呼応するように、南蛮も動きがあります。秀永様が言われた印度と言われるところと連絡を取り合って、戦船を増やしているようです」

「……どれぐらいかかりそうですか」

「来年には船も兵も印度に集められると思われます」

「ならば、そこからの移動を考えれば、再来年以降に動きがありそうですね」

「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここ最近膠着状態的に動きがあまり見えなかったけれどじわじわ進み始めたのかな。 ここのところ政治というか謀略のお話メインすぎて内政なり軍備なりもうちょっと混ぜていただけると気分変わっていいの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ