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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第七十一話 政宗

「秀永様」

「小太郎さん、どうしました」

「忠興様が動いています」

「それは、茶道で交流を持ちかけているんですね」

「その通りです」


小太郎の話を聞きながら、あからさまではないが、確実に連携を深めるために、動いてると考えられた。


「家康さんはどうですか」

「家康様ご自身は動いておりません。正信様が秀康様と交流を深めていますが、秀康様は家康様に近づこうとはしていません。直政様は忠興様と茶室で話し合うこともあるようですが、忠興様の思う通りに言っていないようで、帰宅後、不機嫌な表情です。他にも動いている家臣もいますが、諸大名の感触を見ているようです」

「伊賀や甲賀の人たちはどうですか」

「それぞれ、下人などに入り込み、動きを正信様に伝えています」

「誘導的な動きはありませんか」

「ありません。こちらが監視していることを理解しているようで、分かり易い動きはありません」

「諸大名への繋がりを持つための婚姻の話は、忠興さんが、家康さんに持ちかけていることぐらいですか。岩覚さん、動き出すと思いますか」


小太郎の話を聞いて、岩覚に秀永は聞いた。


「忠興殿が、清正殿を含め、武断派の者たちに声をかけて、茶を振舞っていると、各人から話がありました。内容としては、雑談がほとんどらしいですが、三成殿に対する反感を煽っている感じがあったと。まあ、正則殿は同調していたらしいですが、清正殿に叱られたと、泣きそうな表情で話していました」


相変わらずの正則の反応に、秀永は笑みをこぼした。


「完全に、三成さんとの仲が修復したわけではありませんが、不用意な行動はしないでしょう」

「はい」

「あとは、どうですか」


小太郎は、頷いて話し始めた。


「あとは、義弘様が九州、四国の諸大名、琉球に声をかけているようです。九州に関しては島津は恨まれている事が多く、誰も関わり合いを持たないようですが、琉球では興味を持って話をしているようです。他は国内で不満を持っている大名もいますが、立ち上がるほどの不満でもないようです」

「琉球は不満がありますか」

「そうでしょう。他国との貿易は自由にできない状況は不満でしょう」

「ですよね。監視を続けてください。ただし、島津では言葉に気をつけない駄目なので、内部に潜り込むよりも、商人として接触していく方が良いと思います」

「わかりました」

「しかし、思ったほど、炙り出しは出来ていないですね」

「慎重居士の家康さんが動かないのが、分かりにくくなっていますね」

「南蛮船が昨年来、来る数が増えているようです」

「そのことで、ひとつ」

「小太郎さん何かありましたか」

「南蛮船が来る度に、人売りが増えたり、行方不明が出ています」

「まさか、売られているのですか」

「可能性があるかと。五右衛門殿かららも市井の話として入ってきています」

「至急調べてください」

「わかりました。ひとつ、五右衛門殿から人が消える際に、細川家の者を見かけることが多いとも聞いています」

「……細川家の領民がどうなっているか、調べてください」

「はい」

「きな臭いですね」


忠興が、日本の民を売りさばいて、資金を得ている、南蛮との関係を築いていると考えているとみるべきか、秀永は悩んでいる。


「南蛮に日本の民を売っているのは、一か所だけではなく、複数いるかもしれません」

「父上が、九州などで処罰しているにも関わらず、同じことを繰り返しているということですか」


秀永の言葉に、岩覚は顔を左右に振った。


「いえ、外に行くにも、内を納めるにも資金は必要です。簡単に資金を手に入れるのは、南蛮に人を売ることです。まして、領民であっても借金のかたに、河原者を売るのにも躊躇はあるとは思いません」

「しかし、人が居なければ、領地を発展させることは出来ませんよ」

「人は目先に生きるものです。まして、余裕のない大名はなおさらでしょう」

「世も末です。まだ、戦乱の気風が残っているんでしょうね」

「それを我々が正すしかないです」

「道は長いですね」


秀永は長い溜息をついた。




「面を上げてください」

「はっ」

「私に会いたかったとのこと、うれしい事です」

「はっ、殿下の尊顔を拝見させていただき、ありがたき幸せ」


三成は、政宗の言葉に表情を浮かべ、孝高はにやけながら二人を見比べ、岩覚は観察するように政宗を見る。


「私に会って、何かありますか」

「はっ、殿下が、この先、何を見ているか知りたいと思います」

「この先ですか」

「その通りです。殿下の考え、発想、今までの武士の考えと違っています。土地に縛られ、土地から逃れられない今までの武士とは違い、土地に縛られることなく、外に目を向けています。まして、相手が何を望み、何を考えているかも示しています。日本の狭い土地ではなく、外の広大な土地を目指す。そのような発想をする武士が居るとは思えませんでした」

「そうですか」

「血筋、血のつながりが少ないからか、名門の者達にはない発想です」


政宗の言葉に、三成は眉を上げた。


「政宗殿、それはどういうことかな」


名門という言葉に、成り上がりに対する嫌味の言葉に感じ、三成は咎める言葉を発した。


「いやいや、三成殿、そうではありません」

「では、どういう意味ですか」

「奥州は、皆さまが考える以上に、因果因習に縛られ、血縁で結びつきがあり、身動きが取れなかったのです。そう、古き名門、古き血筋という鎖に縛られていたのです。身動きが取れず、苦しんでいた私に、殿下は希望の光をともしてくれたのです」

「ふむ」


三成は、政宗の話を聞いて、険をといた。


「ならばこそ、殿下がこの先、何を考え、何を進むのか、教えていただければと思います」

「くくく」

「孝高殿、何を笑われます」

「いやさ、言葉は本当だろう。しかし、その先にあるのはお主の欲を満たすためだろう」


孝高の言葉に、政宗は表情を変えず、口の端を上げた。


「それは、その通りです。私にも家臣、領民がおりますれば」

「違うだろう」


政宗は眉を顰め、孝高の言葉を受けた。


「領土、女、未知の土地への進出。それは、全てお主の欲で、家臣、領民の為ではあるまい、後付けだろう」


眼を見開いて、孝高を見た後、政宗は笑いだした。


「その通りです、間違いありません。しかし、私の欲が満たされたら、家臣、領民にとって、喜ばしいことにつながるのは間違いありますまい」

「女以外はな」

「ははは、まことに」

「まあ、殿下を裏切らなければ、それでよい」

「分かっております」


にやりと笑い、秀永に顔を向ける。


「政宗さんの考えは分かりましたが、さて、この先ですか」

「はい」

「……どこに行きたいですか」

「この世の果てに」


秀永と政宗は眼を合わせる。


「この世の果ては、この国ですけどね」

「……は」


秀永の言葉に、政宗は呆けた表情をした。


三成はその姿をにやりとして見つめ、孝高と岩覚はにやにやとして見ていた。


「それは、どういうことですか」

「この世は、丸いのです。というか、地球儀は見た事ありますよね」

「はい」

「なので、この国を起点にすると、前人未到の地はありますが、最後はこの国に戻ってきますよ」

「……ははは、それは確かにそうです」

「今世では無理でしょうが、この国を出て、この世を一周することが、問題なくできるようになれば良いとは思っています」

「……」


その言葉に、政宗は眼を細めて、秀永を見た。

南蛮には無数の国があり、日本を超えるような強国もあると聞く。明のように広大な土地を支配する国もある。秀永の言葉は、本当に困難な話だと理解できた。


「国内でも人が治め、刻が過ぎれば、世は乱れます。起源はこの国でも、外に土地を持てば、国を建て離反する可能性もあるでしょう。古代の大陸を見れば、自明かと」

「ふむ」

「しかし、今、外に出なければ、南蛮によって、世界の各地が植民地となります。それを防がなければ、将来、この国の禍根になります」

「……」

「支配するには、圧政ではなく、融和・融合を、徳をもって接することです。治めることを間違えれば、これも禍根になします。難しいですがやらなければなりません」

「……」

「政宗さんには、東に進んでほしいです。ただし、その先の大陸にいる人たちを治めるのは徳をもって行ってください」

「して、どのようなもの達なんですか」

「部族単位で生活し、誇りを大事にしています。近い印象は、大陸の遊牧民たちでしょうか」

「なるほど」

「うまく治めてください」


にやりと政宗は笑った。


「分かりました」

「殿下、私はどうしましょうか」

「孝高さんも、外に興味ありますか」

「興味はあります。耶蘇教のゼウスを信仰している国は、どのようなものか見てみたくはありますね」

「幻滅するだけだと思いますけどね」

「一向宗と同じですか」

「似たり寄ったりですね。まあ、この話はまたの機会にですね」


「くくく、ならば、分断する手立てはあるんですね」

「あります。でも、遠すぎます」

「それは残念ですね」

「ただ」

「ただ?」

「嫌がらせは出来ますよ」


呆けた表情をしたのち、孝高は爆笑した。


「なるほど、それは面白い。明と同じような強国相手に嫌がらせとは、腕がなり、楽しみですな」

「それがしも、便乗させていただきましょう」

「それも良かろう」


政宗と孝高は顔を合わせ爆笑した。

岩覚は微笑んでいた、三成は深い溜息をしていた。


その状況を見ながら、秀永はまずは国内をまとめなければと考えていた。


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