第六十七話 暗躍
日本の外への進出は、国内にとって経済的にも人的にも良い方向に向かっていた。
戦が無くなり、盗賊など犯罪対策には、兵も多く必要がなくなり、徴兵も必要がなくなった。
必要な兵力は、あぶれたものたちを雇ってあてがうことが出来た為、農村から人を出す必要がなくなった。
次男以下を余剰労働力として、新田開発などにつかれていた。戦であれば、徴兵によって行かされ、新田開発では農奴のように働かされることも珍しくはなかった。
その為、国外への移住の募集に手を上げる者も多かった。
危険も多く、成功しない可能性もあったが、一生奴隷のように使われるぐらいなら、今の生活から逃れれるならばと思い立つものも多い。また、取り潰された大名の家臣たちも人旗立てようと率先して、飛び出していった。
そのかいあって、高山国の北部、ルソンの北部などに拠点を作り上げていった。
それ以外にもオーストラリア大陸にも進出し、先住民との交渉も行われていた。
ハワイの諸島にも人が入植し、先住民と小競り合いを起こしていた。協調するようにとの命令が出ていたが、身を守るために、争うこともしばしばあった。
蝦夷から千島列島、樺太には強固な拠点が作られ、シベリアにも軍事拠点を作り上げていた。
東方以外は、他国と小競り合いを繰り返していた。特にシベリアは、シビル・ハン国と協力して、ロシアの東方進出を押しとどめる戦が行われていた。
余剰兵力と武器などを大量に送り込み、火力で防いでいた。また、蒙古や女真族と交渉し、協力する部族を支援し、反抗する部族を潰していった。ロシアとの戦にも協力を要請し、明を北方から威圧し、手出しを防いでいた。
朝鮮とは依然交渉はしているが、放置状態で、商人たちには取引を行わないように命じていた。朝鮮との関わり合いの深い博多から不満が出ていたが、それならば、取引している商品を国内で作ればよいと命じて、取り組ませていた。
国内で作れるものは作ればよく、わざわざ国外から輸入するのではなく、作り出して売れば利益は上がるはずだと、商人たちを煽った。一部の商人はその話にのって、商品や農産物を作っていた。無視して密貿易を行った商人は、捕らえられ財産を没収の上、国外へ追放処分となった。
「南蛮と繋がっている者達がいるようです」
「どこですか」
「忠興殿が交渉しているようです」
「そうですか」
「国内ではなく、外で行っているようです」
「でも、あそこの持ち場所は、南蛮勢力とも接していないですし、海もなかったはずですが」
「はい、ですので隣の徳川の管理地域で行われているようです」
「それは」
「秀康様は関わっていないらしく、直政殿が勝手に領地内の移動を許可していたらしく、現地で問題となっているようです」
「家康さんから何か報告はありましたか」
「まだです。南蛮との交渉が行われていたという報告はあがっていないかもしれません」
「そうですか……」
「事を起こす際、家康殿を巻き込もうと考えているかもしれません」
「まあ、家康さんのことですから、軽々にのらないでしょうね」
「はい。大殿が亡くなり、家康殿の影響が大きくなれば話は変わるでしょうが、現状では難しいでしょう」
寵臣である直政でさえ、不利益なると思えば家康は簡単に切り捨てるだろうと、秀永も岩覚も考えていた。
「他にも、南蛮や明の商人と勝手に交渉している者がいるようです」
「どこです」
「島津です」
「どちらですか」
「義弘殿が交渉しているようです。こちらは密貿易の交渉の様です」
「まあ、商売であれば良いですが、武器はどうですか」
「煙硝なども手に入れているようです」
「不穏ですね」
「はい、あそこは言葉によって人を判別しているので、潜入も難しいです。ただ、忠棟殿がこちらに通じてくれていますので、動きはある程度把握できては居ます」
伊集院忠棟については、秀永の記憶では、義久や忠恒と対立し、殺害された人物だった。豊臣政権に近く、秀吉によって島津家にくさびを打ち込むため遊具されていたとも言われていたと記憶していた。
「身の危険はありませんか」
「今、忠棟殿を害したとしたら、我々が良い顔をしなことを理解しているでしょうから、安全だと思います。義久殿に跡継ぎが居ないので、一族でもある忠棟殿の子を跡継ぎにされるのではないかと警戒しているようではあります」
「まさか、一族とは言ってもかなり前に分かれた家の者を……それならば、木下の者を送り込む方が可能性が高いと思うのですが」
「人は、疑う心を持てば、可能性がなくても、現実にあり得ると思ってしまうものです」
「そうですか。めんどうですね」
「はい」
「島津については、監視を続けてください。商売であれば、別に気にする必要はないでしょう」
「分かりました」
「忠興さんに関しては、監視を強めてください。家格が高いから手を出せないと思っている気配あるので、証拠が固まれば処罰します」
「分かりました」
「あ、そういえば、政宗さんが、ハワイに行ったという話を聞きましたが、当主なのに問題ないのですか」
「問題はあるとは思いますが、気が付いたら潜り込んでいたとか」
「行動的ですけど、領地で問題は起きてないのですか」
「そこは、一族の者たちや老臣が中心になって治めているようで問題は起きていないようです」
「そうですか、自由ですね」
岩覚は苦笑して、頷いていた。
「なあ」
「なんだ」
「このままで良いのか」
「…殿の命だ」
「しかし、南蛮のような信のないもの達と手を握るとは、いささか問題ではないか」
「他国で言えば、他の大名たちも同じようなものではないか」
「いやしかし、この国においての他国と、外の国とは違うだろう。これでは国を売るようなものではないか」
「ならばどうする。殿の命に逆らい蓄電するか、それとも下賤の者たちに売り渡すか」
その言葉に顔を横に振った後、深い溜息をつく。
「そのようなことは出来ぬ」
「お主の気持ちはわかる。しかし、残してきた一族や妻子の事を考えれば、従うほかあるまい」
「分かっておる。どこに耳目があるかわからん。だが、お主だから愚痴が言える」
「それは」
応えようとした時、複数の者たちが近づいてくる足音がした。
それに気が付き、二人は足音の方角に体を向け、様子を見る。
しばらくすると、数人の武士がこちらに向かってくるのが分かった。
「その方ら、どこの家中のものか」
「細川家のものだ」
その返事に首をかしげながら、警戒したように目を向ける。
「細川家の者たちが、何ゆえ、徳川の担当地域におられる」
問い詰めるような語調で質問を投げかけて来た。
「いや、井伊様から移動許可は得ているが」
「井伊様だと」
「ああ」
徳川家の者たちはその返事に、刀を抜いた。
その行動に驚きの表情を浮かべて、二人は慌てだした。
「ま、まて。なぜ、許可を得ているのに、そのような態度になるのだ」
惚けているかと思いつつも、表情と態度を見て、二人に返事をした。
「……まさか、井伊様が既に戻られたことを知らぬのか」
「え、そ、それは真か。何時の事だ」
「……ひと月前だ」
驚きの表情を浮かべた後、顔を左右に振って、弁明を始めた。
「すまぬ、こちらが許可を得たのが、ふた月ほど前だ。井伊様はこの件を引継ぎされてなかったのか……」
「我々は聞いておらん。致し方ない、本陣に来て説明してもらえぬか」
「分かった、こちらも疑われたくはない」
細川家が徳川家の地域にいるという事は、探っていると思われても仕方がない。
しかし、引継ぎぐらいしておけと、二人は心の中で悪態をついた。
二人は、徳川家の本陣に連れていかれ、尋問をされるが、直政が移動についt許可をだしていた記録が見つかり事なきを得た。
船をつけれる港がない為、徳川家の港を細川家が利用する許可と、その際の移動許可を直政が許可していた。
だが、秀康は報告を受けておらず、入れ替わりに来たもの達もその件については引継ぎされていなかった。
差配を任せられているとは言え、他家の者を申請もなく自由に移動させていたことについて、秀康は怒りを覚えていた。
今回は大事にはならなかったが、最悪、細川家と徳川家との戦になれりかねない。移動地域を限定しているとはいえ、幾らでも言い訳次第、拡大解釈次第では、情報を盗み取られる可能すらあった。
報告もせず、勝手に動いたことはないか、過去の記録を皆で手分けして調査することになり、秀康たちは寝る時間が削られることになった。
「私は、帰って来た」
オアフ島に立った政宗は叫んだ。
それを後ろからハリセンで思いっきり景綱が頭を叩いた。
「ちょ、お前、主君に対してそれはどうなんだ」
政宗は景綱にどなったが、意にかいすることはなかった。
「いえ、岩覚様から秀永様考案のツッコミ道具を頂いたので、問題はないかと思います。領地をほったらかしにして、遊びに出ている主君に対しては問題ないと思います」
「……」
景綱の言葉に、政宗から目を背けた。
「関係ないね」
政宗の言葉に無言で、景綱はハリセンで頭を叩いて、政宗は砂浜に顔面から倒れこんだ。
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
忙しい日々が続き、対応できないことも多い事、お詫びします。




