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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第六十話 状況

大規模な花見を開催することで、全国の諸大名を秀吉は京に集めた。

大坂でも良いかとも考えたが、公家衆や帝を含めて、参加を呼び掛けた為、断念した。

開催場所には、桜の木を移植し、新種の桜の研究も併せて行っている場所で開催することになった。


鶴松もつれてこようかと考えていたが、周囲の者から今しばらく育つまではと止められ、これも断念した。

贅を尽くしたとは思われないように、配慮した花見を計画を三成達に命じた。

清正や正則も警護の役目を命じられ、奔走していた。

顔色替えず、激務をこなす三成を見て、清正と正則は、大規模な計画の運営は、前線とは違う激務であると感じていた。

大丈夫かと声をかけても、三成はお役目故、問題ないと小憎らしい返事をして、正則が怒りだし、清正が宥めることもあった。

それを聞いた秀吉は大声で笑って、三人にねぎらいの言葉をかけながらも、発破をかけた。

国内から戦がなくなり、戦になれた者たちがたむろするかと心配した。一部は荒廃した地域に土地を与え慰撫し、鶴松が進める農作業に従事させた。帰農する気のない者たちも、大陸や北方、南方への進出に従事させることにより、胡乱なものが減り、治安も落ち着いている。

大名たちも、他方へ人を送ることにより、家中の統制も行いやすく、家臣や領民の不満のはけ口にもなった。


今回の花見は、地震の被害の支援がひと段落し、花見のご相伴として、震災の地域への施しを行う予定であった。

衣食住の支援は目途が付き、更に施しを与えて地震の不安を払しょくする狙いもあった。

地震対策により、被害も多少抑えられたことにより、民衆の秀吉に対する信頼と、帝の信頼も増した。

鶴松が提案した事であったが、半信半疑で対策を行った秀吉にとっては、良い方向に進んでご満悦だった。




「小十郎よ、この規模で花見とは……負けれぬな」

「何をですか」

「俺も、花見を行うぜ」

「駄目です」

「何故だ」


即座に、政宗の企画を、投げ捨てた景綱にかみついた。

主君の言葉を流して、いつもの病気が出たかと肩をすくめた。


「我々に、そのような余裕もなければ、場所もありません。桜はありますが、数本の桜の下で数十人の家臣を集めて花見ですか。今までと変わりありませんよ」

「いや、移植すればよいではないか」

「どこからですか」

「あるところからだ」

「どこからですか」

「だから、あるところからだ」

「で、どこですか」

「お、お前な」

「そんなお金の係ることを、皆が許すわけないでしょう。それに、そんなことに金を使うなら、大陸や北方にもっとお金を使えと言われますよ。やられるのならば、殿自ら説得してください。私は無理です」

「くっ」


いつも、大ぼら吹いて、後始末をさせられる景綱の言葉のそっけなさらに、政宗は歯をかみしめた。

正論で言い返せないからでは、決してないと自らに言い聞かせた。


「家臣や領民を慰撫するのは良いことです」

「であろう」


景綱の誉め言葉に、政宗は胸を張った。


「しかし、今は、外にいる者たちの事を考えて、落ち着くまでは見送るべきです」

「むぅ」

「今から桜以外の木々を植え、落ち着いた時には、季節ごとに花見をできる環境にすれば良いでないですか。その方が、移植よりお金がかかりません」

「まあ、そうか、そうだなぁ」


政宗は、渋面になりながらも景綱の意見に賛同した。


「外からも珍しい木々の苗を植えれば、日本でも唯一の庭園が出来ます」

「唯一か、日本で」

「はい」


景綱の説明に清くして、大きく頷いた。


「よし、任せた」

「はい」


既に、秀吉から花見の参加を言われた時に、政宗が考えそうなことを予測して、周囲に庭園の相談を行っており、既に、手配が始まっていた。

政宗だけが楽しむのではなく、家臣、領民が楽しむ庭園として、計画を進めた。


「ところで、大陸に行った者たちは、どうなっている」

「活躍されているということです」

「小次郎の様子はどうだ」




かつて、秀吉に降伏することを、家中で大反対された。

伊達家だけではないが、周囲の状況だけしか見えず、大局から物事を見れる家臣は希少であった。まして、情報伝達が未熟な状況では、上方の強さを見定めることは難しかった。

勢いのあった家臣にしてみれば、強大な葦名を打ち破り、周囲を圧する状況での降伏は許しがたい事であった。

戦国大名とは言え、専制が許されるほど、強大な力があるわけではなかった。

独立意識の高く、帰属意識の低い家臣を統制するのは難しく、大反対にあった時も降伏の決断を下せなかった。

家臣を抑える為、母の義姫が政宗に毒を盛って、弟の小次郎を当主に入れ替えようとした。

盛られた毒は致死性の高いものではなかったが、しばらくは起き上がることもできなくなるものだった。


義姫と家臣の動きに危機感を持ち、神輿になる小次郎を呼び出し殺害した。

それを知った義姫は、兄義光の元に逃げ、家臣は誅殺も辞さない政宗の意思を知り、降伏を了承した。


小次郎は何も知らされておらず、義姫は、政宗も小次郎も生かす道を考えて、行動したようだが、結果、小次郎が責任を取るこちになった。

ただ、表向き殺害したと告げたが、実際は、腕利きの忍びをつけて政宗は逃がした。

髪を剃り、雲水の姿で旅立つ姿を見送った日を政宗は今でも覚えている。


その後、京にて修行をしていたが、大陸の北への出兵を知り、名代となりうると思い政宗がひそかに大坂の屋敷に呼び出した。

還俗するか確認すると、断って来た。

まだ修行の身であり、未熟なまま還俗は出来ないと。

だが、どこで聞きつけたのか、義姫が伊達屋敷に乗り込んで来て、小次郎をみるなり抱き着き泣き出し謝りだした。


還俗の話を聞き、義姫は喜び必死に説得。

大陸の北の寒さは想像を絶する厳しさであり、命の危険もある事を知り、義姫は小次郎の出兵については渋った。

名代として、伊達一族のものが行った方が、利権も取りやすいと政宗は義姫を説得する。

本当は、自ら行きたいが家臣が止めるのでしたかがないと、愚痴りながらの説得であった。その姿を後ろで控えていた景綱が何度も頷いている姿を見て、義姫も小次郎も苦笑した。


説得が功をそうし、小次郎は還俗して、大陸へ出兵することになった。

だがそこで問題が起きた。義姫が私もついていくと、無理やり同行すると言い出したのだ。それを聞いた義光が政宗の処に怒鳴り込んできた。

可愛い妹を、何故、そんな危険な場所にいく事になったんだと。

さすがの政宗も辟易したが、義姫が義光をなだめすかして、納得させた。納得はしたが、己の息子を同行させると、義光が言い出し、義康を屋敷に連れて来た。

大陸への出兵を聞いて、酷く嫌そうな表情をしていたが、義姫に一喝され、しぶしぶ同行することになった。


「叔父上、後継ぎを行かせて良いのですか」


さすがの政宗も巻き込まれた義康に同情の念を感じ聞いてみた。


「構わん、義の為に、死んで来い」


その言葉に、義康は絶望の表情を浮かべた。

小次郎はどうしたらよいのかと、おろおろしていた。


「すまん、義康殿」

「いや、ははは」


政宗の慰めの言葉を、乾いた笑いで返していた。




「活躍されております、戦の方は義康様が主体になり、後方や交渉を一手に行っているとか」

「そうか、計らずも伊達と最上の連合となったが、悪いことではないな」

「はい、ただ……」

「ん、どうした。うまく行っているのだろう」

「いってはいますが、義康様が軍を率い、政道様が後方、内向きをしますが、それを差配しているのが義姫様で……」

「……うん、問題ない」


景綱の言葉を聞き、視線をそらし遠くを見ながら、問題ないと言い切った。

還俗して政道に戻った弟は良いが、義康に謝りながら。


「伊達の名は大陸にも伝わったか、うれしい限りだ。俺が出来なかったのが心残りだが」

「あきらめてください。それに蝦夷地やそれより先の調査もあります」

「分かっている。他の連中に先んじる必要があるからな」

「ええ、ただ、領民を勝手に送り込み、土地を占有するのは禁止されていますからね。隠れてしないようにお願いします」

「……分かっている」

「もし、発覚すれば、お取りつぶしになり、関係者は根切にするとの通達を忘れていませんか」

「分かっている、まだしていない」

「する気満々じゃないですか」

「ばれなければ良いではないか」

「ばれますって、やりかけていた者たちが呼び出されて注意を受けていますよ」

「まことか」

「はい」


眉間にしわを寄せながら、政宗はうなった。

土地がもらえなければ、家臣たちに分け与えられず、不満がたまる恐れがある。だから、少しでも土地が欲しい。


「それに、北は農作業は厳しく、食糧支援は必須です。不用意にもらえば、負担は大きすぎます」

「確かに」


寒冷地で育つ作物の数は多くなく、牧畜などを行う必要があるが、その技術は手元にない。大陸に行った政道が情報を送って来たり、人を寄越したりして、目途が立ってきたところだ。

漁場ば良いが、運版が厳しく、真冬は船の往来も厳しい。

確かに悩みどころだと思っていた。


「今は、商売と漁で利益が出ています。まずは、基盤を固めるべきです」

「そうだな」

「殿下が言われる通り、現地の者たちの知恵を貸してもらい、浸透していく事が一番だと思います」

「分かった分かった。領地の者たちも戦乱で少なくなったから、空いている土地で耕作を始めている。もう少しすれば、人も余るだろうから、その時だな」

「はい、殿下から寒冷地でも育つ作物も頂いております。順調に育っているので、食糧も安定してきています。ため池も作っていますし、当分は身動きが取れません」

「戦がなくなったら、暇になるかと思ったら、忙しい事には変わらないな」

「はい」


二人は顔を見合わせ、笑いあった。





「義弘、取引の方はどうだ」

「順調だ」

「殿下に、琉球の支配を認められなかったのは、痛かったが、目算していた以上の利益を上げている。それに、薩摩や大隅の土地で育つものや加工品のやり方まで提供されれば、琉球に手を出さなくてよかったと思うわ」


悲願の九州制覇をぶち壊したのは、秀吉であり、兄弟の歳久、家久も失った。失うものが多く、実りのないものと家臣も含め憤慨していたが、農作物の提供と育て方、鰹などの加工の仕方など、実り多いものが多かった。

不満は今でもあるが、受け取った恩恵を考えると、感謝の気持ちの方が大きくなっていた。

飢えるものが減り、身売りもしなくなり、生活も少し良くなった。戦も減った為、死ぬものも減った。農民は喜んでいるのが、視察をしたときに感じていた。

戦こそ、武士の本懐と思っていたが、農民の笑顔を見ると、そうでもないと実感することが出来た。


「琉球を中継に、高山国やそれより南の島々にも進出することが出来た。勝手に居住することや支配は無理だが、土地が分け与えられない者たちの行き場になっている。こういうやり方もあるのだな」


義久の言葉に、義弘は顔を左右に振った。


「それは、今だから分かることだ。南に行く事なんて、あの頃は想像は出来なかったよ。まして、相良、伊東、その先には龍造寺に大友だ。南に人を送り出す余裕なぞ、なかっただろう」

「確かに」

「南の島々も無人ではないし、国もある。国がある地域は交渉すればよいが、南蛮の者が邪魔だな」

「ああ、殿下からは、やつらの本拠地は遠く離れているから、そうそう援軍はないとは言ってはいるが、油断は出来まい」

「そうだ、此処の大名の水軍が当たっても負ける。だから、ひとつの水軍として、組織的に動かすために提供しろと言われた時には、流石に反発したが」

「海に出る手足を取り上げるのか、ほかの連中も怒ってはいたが、南に出れば出るほど、その意味が分かったわ」

「ひとつの家が相手をするには、南蛮は強大だ。ましてや、倭寇もいる」

「その通り。豊久を水軍に付けて、送り出したの正しかったようだ」

「活躍しているそうじゃないか」

「ああ、ひとつの部隊を率いているそうだ」


シビル・ハン国の後方支援に置いて、大陸の北の内地や沿岸部に拠点をいくつか作っていた。

それと同じように、高山国の北部に西国の諸大名が拠点を作り、そこからほかの島にも活動の場を広げていった。

スペイン、ポルトガルの両国が、その動きを警戒して、警告をするようになったり、時には武力によって脅してきた。そこに、九鬼家を中心とした豊臣水軍が相対し、撃退し続けていた。

いつの間にか、南蛮船と同等か、それ以上の船が配備され、鉄砲、大筒の性能も上回ったものが配備されていた。

まだまだ、配備は進んで居ないが、こと海戦は優位に進められ、制海権は優勢だった。

陸での戦いは、鉄砲の数は多いが、性能で負けており、正攻法での戦いでは分が悪かったが、そこは奇襲や接近戦で五分以上の戦いを行っていた。


「不満を持っている奴らを外に出せば、不満の解消と家中の安定につながる」

「そうだな。今更、九州に眼を向けても金にはならん」

「確かにな」


二人は、今後送り出す兵の打ち合わせのため、夜遅くまで話し込んだ。


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