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第七話 溜息

※二千十六年四月十三日、誤記を修正。

※二千十六年十一月二日、誤字修正。

※二千十七年六月三日、誤字、文章修正。

「ええい!こんな小城落とせぬなど、佐吉に馬鹿にされるわ!攻めよ!攻めよ!」


正則に叱咤激励された兵は、槍を杖にし、韮山城の斜面を登っていく。後方からは、援護の弓が放たれているが、あまり効果がないのか、城からはこぶし大の石や弓が雨あられと降り注ぎ、被害が拡大していく。死ぬことをまぬがれた兵も、どこかしらに傷を受け、後方に送られていく。正則の兵は時が経つほどに減らされていく。


韮山城は、平山城だが堅城であり、伊勢盛時(北条早雲)が亡くなるまで居た場所で、伊豆支配の中心だけではなく、心のよりどころともなっており、城兵も意気軒昂で豊臣軍を防いでいた。守将の北条氏規も名将で、籠城用の資材や食料、水を備蓄し、大軍を防ぐ手立てを行い、楠木正成の兵法も研究し、対策を立てていた。

大軍をもって踏み潰せると楽観的に考えていた豊臣軍に冷や水を浴びせかけた。


「くそ!お主らしっかりせぬか!」


城攻めが思うように進まず苛立ちを爆発させ、怒号を発しながら正則は前に出ようとするが、尾関正勝や福島高晴に押しとどめられる。


「離せ!離さんか!このままでは、佐吉に馬鹿にされる!虎之助に負けるではないか!」

「いい加減にしなされ!このような場所で命を落とす気か!」

「馬鹿にされるぐらいなら、構わんわ!」

「命を粗末にしては、殿下や鶴松様に、悲しまれますぞ!」

「うっ」

「ましてや、かつての槍一本で活躍した時代ではありませんぞ、何かあれば、一族郎党は離散し、家臣は路頭に迷いますぞ!」

「……」


諌められた正則は、秀吉、鶴松、家臣の事を突き付けられ、水をかけられたように、激情が冷めていった。そのやり取りの間にも、こぶし大の石をぶつけられた兵は脳震盪をおこし、その場に倒れ伏し、弓に眼を射られ、その場にうずくまっていた兵が、転がり落ちた兵にぶつかり、一緒に転がり落ちていった。刻々と、兵が城に取り付けず、兵がすり減っていった。


「ふぅ、正勝、いったん兵を引き上げて、再編する。信雄様に報告を出してくれ」

「わかりました」


正勝は、前線に伝令を出し、信雄に使者を出した。


「……先ほどは、済まなかった」

「いえ、いつもの事ですな、わはははっ」

「そうだな。次だな次、雪辱を晴らす」


苦い顔を緩め、豪放に笑いながら正則は気持ちを改めた。


正則の軍以外の攻め口も苦戦し、早期に攻め落とせる見通しが立たなくなった。小田原攻めの勢いをつける為に、韮山城を簡単に落としたかったが、思いのほか苦戦してしまった為、出鼻をくじかれた状態となった。

戦功をあげる為に、正則としては落城させようと息巻いていたが、蒲生氏郷、蜂須賀家政、細川忠興、中川秀政らは、韮山城は末葉の城であり、小田原城を落とせばよく、無理をする必要はないと考えていた為、正則に同調することはなかった。

主将格の織田信雄にしても、家中の損失を考えて、積極的には動く気はなかった。


「氏規様、やはり、上方の弱兵では、早雲庵宗瑞様の霊験に韮山の城は守られておりますな。この分だと、信玄、謙信のように、尻尾を巻いて引き上げるやもしれませんな」

「泰寄、本当に思っているのか」

「そう思って、鼓舞しなければ、兵達は持ちませぬ」


そう、朝比奈泰寄は返事をして、豊臣軍を見下ろしていた。眼下に広がる平野には、人の影しか見えず。本来、青々と色付き始める平野を黒く色染めていた。

未だに兵農分離が出来ていない後北条家の意識では、冬になれば兵は引き上げ、連年の侵攻はないという固定観念にとらわれていた。氏規は、信長が今川義元を桶狭間で破ってから、注視しており、織田家が勃興して来た際、その情報を集めて分析を続けていた為、後北条家の兵制では、太刀打ちできなくなると予想し、長老であった幻庵とも相談しながら変えようとしたが、家内の反発が強く、旧態依然のままで、豊臣家の侵攻を受ける事になった。

上方の脅威に対し、恭順を家内で説いたが、受け入れられることもなく、次兄の氏照が、抗戦派に属したことに、氏規は暗澹な気持ちとなった。韮山城に向かう道中で、後北条の滅亡する未来しか予想できなかった。

家中では、恭順派であり、今川家に人質となった際に親交があった家康との文のやり取りも、疑いの眼を向けられる原因となった。上洛の際にも、その前後にも、家康からは取り成す旨の書状が来たが、氏政は拒絶し、氏直の反対も無視し、その室督姫を家康に送り帰してしまった。

氏規は、兄氏政は父氏康の後継者としては十二分に果たしていると考えていたが、それが過去の時代であればと、枕詞を付けるしかないと考えていた。既に、父氏康の時代とは違っているのに、昔のやり方にこだわった為、滅亡する。その終焉の仕方は、関東管領上杉家のようではないかと思いため息しか出なかった。


「しかし、氏規様、上方の兵の動き、鈍くなってはいませんか」

「確かにな、そもそも韮山を落とさなくても、小田原の城さえ落とせば、われらの負けだ。手こずるなら抑えの兵だけを置いて、小田原に進むだろう」

「……では、打って出てみますか」

「それこそ愚策だ、戻って来る際に、奴らも一緒に城に入ってくるだろう」

「様子を見続けるしかないですな」

「ああ、兄上達に期待するしかないが……」




「織田殿、殿下からの書状です」


韮山城攻めがうまくいかず、倦怠感が兵達に見られてきた為、氏郷たちの意見を纏め、秀吉に指示を仰ぐ書状を信雄は出していた。

その返事を受け取り、書状を読む。


「殿下は、どのようにと」

「韮山を無理に落とす必要はない、城の抑えを置いて、それ以外の兵は、小田原に進めとの事だ」

「な!何ですと!」

「福島殿、静かに」

「ぐっ!?蒲生殿、し、しかし、このような小城を落とせないなどと!」

「それは事実だ、仕方あるまい。ここで無理をしても、簡単に落とせまい。落としたとしても、少なくない傷を受ける事になるだろう」

「……」

「そういうことだ、殿下の書状に書かれている通り、小田原に向かう。蒲生殿、兵の再編をお願いする」

「はっ」


(くそっ、佐吉に馬鹿にされる……やはり、あの時、強引に攻めていくべきだったか、いや、くそぉ)


正則は、奥歯を噛みしめ、手を握り悔しさを滲ませていた。





「小田原も粘るな、まだ落ちぬなぁ」

「はっ、だれも内通する気配はありません」

「佐吉、久太郎らと共に内通を持ちかけていたが、松田親子はどうだ」

「なびきません、氏政、氏直も含め、助命が許されるならば、降伏を進言すると返事は返ってきましたが」

「ふむ、早雲宗瑞以降、歴代後北条氏の慈悲は、領民、家臣に浸透しておるのか。後北条を降した後の統治は難しいものとなるな」

「一向門徒のように、失敗すれば荒れる事になるかもしれません」


支配している大名の統治が行き届いている地域を治めるのは難しい。

民に施しを与え、慕われている領主の後に治めるものは、前の治政を越えるか、治世を保全するかのどちらかでなければ、確実に民の不満は蓄積させる。人とは、過去の記憶を美化する為、現状と過去とを比較し、少しでも納得が出来なければ、不満を爆発させ一揆を起こす。

その為、後北条亡き後の関東の支配は難しく、だれを充てるかが難しかった。

秀吉としては、難しい地の為、堀秀政に与え、その他、子飼いの武将に領地を与えようかと考えていたが、その秀政が急死し、奥州を抑える旗頭、監視役の替わりが見当たらない。孝高、蒲生氏郷は、大領を与えれば、関東以北を抑える事が出来るだろう、しかし、秀吉の死後、鶴松を滅ぼす恐れがある。かといって、吉継であれば大役を果たすことも可能かもしれないが、側に仕えてもらう必要があり手放すことが出来ない。三成、清正、正則ではまだまだ経験不足。一族の浅野長吉は一族の取りまとめと内を治めてもらう必要があるし、秀次、秀勝では問題外、秀長が健康であればと、悔やんでいた。

家康を、支持基盤である三河から引き離せば、弱体化し、領地を治めるには十数年は必要だろう。そうなれば、鶴松も元服し、三成や清正達に守られ、家康に対抗できるか。しかし、関東の支配が確立してしまえば、豊臣家の次に大領を治める大大名として、影響力が強くなるかもしれない。東日本の監視役が、東日本の旗頭となり、豊臣家を滅ぼす行動を起こす可能性が高い。

家康は律義者、そう世間では言われているが、永禄元亀天正の時代を生き抜いた数少ない古豪の古狸。今川義元に従い、織田信長と同盟し、武田信玄と戦い、秀吉と戦った歴戦の強者。忍耐と知恵を持ち、決断と胆力で行動してきたものが人の良い律義者のはずがない。織田信雄との同盟も、織田家の後継者の支援と大義名分を掲げただけで、実際は、天下人争いに名乗りを上げ、力を見せつける為の恣意的な行動であろう。黙っていれば、信濃や甲斐を取り上げられない状況を座して待つような奴でもあるまい。替わりが居ない、強兵の三河者たちから離す為とはいえ、あの家康に大領を与える危険はないだろうか。大領を与えて、忠誠を誓うようなわけがない。わしの次は、利家か家康だろう。利家では家康を抑えることは無理だろう、地力が違いすぎる状況であった。


「のぉ、佐吉よ」

「はい」

「武蔵を領地として与えようか?」

「……え?」

「ん?」

「い、いえ、殿下がまた意味が分からない事を言いだしたので、まさかと思い……」

「な!?またとは何だ!またとは!……で、どうなんだ!」

「有難い仰せですが、辞退させて頂きます」

「何故だ」

「私はまだ武功を立てておりません。まして、私が大領を得れば、虎之助は別として、市松が黙っておりません。まだ、天下が治まっていない状況で、豊臣家に内紛の火種をまき、善からぬ考えを持つ輩に付け入る隙を与えたくはありません」

「そうか、それならば、一手を率いて、支城を攻めてみろ。そこで、武功を立てれば、領地を与えやすくなるな」

「武功は欲しいですが、領地は、ご辞退させて頂きたく思います」

「わしの申し出を断るか」

「はい。市松や虎之助、紀之介たちと同時に与えて頂ければ、お受けいたしたく思います」

「お主は、気を遣いすぎだのぉ。まあ、わかった、考えておく。では、関東を誰に与えれば良いと思うか」

「北条の後ですか。私ではなく紀之介であれば治められると思うのですが」

「紀之介やお主は、わしの近くに居て助けてもらいたい」

「では、虎之助では」

「そうだな、だが、大領を与えるには、まだ力量が伴わない」

「長吉殿、秀次殿、氏郷殿、忠興殿、輝政殿……預けられる方は居ると思うのですが」

「他の子飼いの者では無理だろう。長吉は、内々の事は出来るだろうが、大領を治めるには力量が足りぬ。秀次ではまだ無理だ、与えても1万石程度か。氏郷であれば領地も関東以北も治められるだろうが、わしの死後、東を切り取って、天下を狙うだろう。忠興、輝政は本人たちが関東に行くことを納得すまい」

「……」

「どうだ、家康にでも与えるか?」

「それだけはなりませぬ」

「ほぉ、何故だ。律義者であり、実力、人望ともに飛びぬけているし、見事に治めきることが出来るだろう」

「確かに、徳川殿であれば、十全治める事は出来るでしょう。しかし、その十全は、豊臣家の存続の為ではなく、徳川殿の天下への地盤固めの為でありましょう」

「ふむ、では、関東に家康を置き、東海方面に市松など子飼いを配置し、越後の上杉、常陸の佐竹で抑えれば、身動きが出来ないのではないか」

「確かに、上杉殿、佐竹殿であれば、協力してくれるでしょう。しかし、市松を筆頭に、子飼いの連中は私を嫌っております。殿下亡き後、東海道が徳川殿の道となる危険性もあります」

「……」


(佐吉の考えは、わしの考えと同じか。市松や虎之助は裏切らないだろうが、佐吉憎さに、狸に化かされるかもしれん。しかし、秀長と秀政のどちらかさえいれば、秀長の家臣団であれば、秀長が大坂に居ても、十分治める事が出来るだろうに。何故、一族に人がいないのか……北条から奪った関東を豊臣家のみで、支配すれば外様や子飼いの者たちの不満が高まる可能性がある。又左に与えるのも良いが、かかぁが怒りそうだな。やはり、家康に関東を与えるか。かといって、大領を与えるのも問題だな。豊臣家の直轄地として、相模伊豆は押さえておけば良いか)


「佐吉、家康に関東に与えることにする」


それを聞いた三成は、眉を一瞬上げた。


「虎に翼を与えるのですか」

「与える気はないが、妥当なものたちがいない。まして、豊臣家ですべてを分配することは不可能だ」

「……」


三成としても、豊臣家の直轄地や子飼い武将に領地を分け与えれば、譜代の大名たちにも不満がたまるのは理解できる。織田家の家臣筋の武将にも領地を与える必要性もあるだろう。だが、家康に大領を与えることは、危険性が高いことを考えていた。


「足利家と鎌倉公方の争いが、再現されるやもしれません」


足利家は幕府成立後、義詮が二代将軍となり、基氏が初代鎌倉公方として、関東以北を治める体制にしていた。

その後、二代鎌倉公方となった氏満が将軍義満に対して挙兵を企てるが、関東管領上杉憲春の諌死により事なきを得たが、それ以降、満兼、持氏と対立が深まって行った。それにより、足利将軍家の関東に対する影響力が低下した事により、元々、独立精神の高い関東の武士団が個々に動くことになる。


家康が関東に封じられた場合、二代目以降の鎌倉公方のように、反抗的な行動をとる事は予測できる。まして、氏満、満兼、持氏とは違い、優秀な家臣団と豊富な戦歴を持つ家康が、その挙に出ない方がおかしい。律義者の仮面をかぶり、牙を研ぎ続ける家康に、領地替えとはいえ、大領を与えるには危険すぎると三成は考えていた。

豊臣家の盾となってくれそうな利家も高齢であり、氏郷では心を許すことが出来ない。隆景であれば助けてくれるかもしれないが、毛利第一であり、毛利家の利益に反すれば、手を切ってくるだろう事は予想できる。景勝、兼続であれば、協力してもらえるだろうが、御館の乱で上杉家が弱体化している状況では心もとない。また、三成自身、豊臣家の盾となることを心に誓っているが、若輩者であり武功のない身では、だれも従ってくれないだろうと思っている。

豊臣家の危機であれば、清正や正則は必ず助けてくれると信じているが、三成は他人の感情に疎く、期待を裏切られる事を想定していない。

三成も其処まで考えてみれば、やはり豊臣家家中や協力する織田家家臣団にも人がいない事を実感してしまう。


「関東は支配するには難しい。坂東武者は、武を貴び、貴種を大切し、余所者を嫌う。成り上がりに見られる家康に対する関東支配は直ぐには難しいだろう。その間に鶴松の成長と、豊臣家の支配を強めれば良いのではないか」

「徳川殿は、織田信長様と同盟し、武田信玄と戦い、殿下とも戦いました。関東の大名は、そのことを覚えているでしょう。北条という重石はなくなっても、京に支配されないための旗頭を関東の武士たちは必要としていると思います」

「京と坂東の確執か……」


古くは平将門に始まり、源頼朝の鎌倉幕府も、京の支配を嫌う気質がある。その為、京に対抗できる為の旗頭を潜在的に求める傾向が強い土壌がある。


「打てる手は少ない、家康を関東に移す。景勝の越後、義宣の常陸、それに氏郷を会津に移し、甲斐に長吉、幸長を置き、尾張に市松、東海に一豊、輝政を置き、家康を関東に封じ込める」

「蒲生殿を、会津へ移すのですか」

「まあ、伊達の小僧が下れば、取り上げて移す。氏郷は信長様の婿殿、畿内に置くには危険すぎるがそれ以上に、奥州と家康を抑えるだけの力量があるのはやつだけよ。ほかのものでは、抑えられん。氏郷には恨まれるかもしれんがな。隆景でもよいが、やつは毛利家から切り離されることを嫌うだろう。無理にすれば、毛利も含め離反する可能性もある。人がおらん」


秀吉は、苦笑しながら、顔を上げた。一族、子飼いにも氏郷に代わる人材はおらず、まして、一段、二段も下がってもいない。吉継はかろうじて引っかかるかもしれない。三成、清正、正則が、氏郷のように成長するには後10年かかるだろう。次世代の武将達は、今後、戦乱が収まり、戦場での成長は難しくなるだろう、内政手腕の成長がのびるだけだろう。秀吉の死後、家康が主導権を握り、清正、正則たちが家康につけば、豊臣家の戦上手がいなくなり、敗れることになるかもしれない。

鶴松の事を考えれば考えるほど、秀吉は先が暗くなっていく。奥州が片付けば、恩賞も与えられず、処罰で反抗的な大名を潰すこともできない。ならば、信長に語った妄想の大陸への道も考える必要もあるかもしれない。


「関東については、そのようにしておくか」

「はっ」

「それと、北条の遺臣たちの取り扱いについてだが、一部、鶴松に付けようと思っている」

「鶴松様にですか」

「そうだ、秀長からも進言があった。子飼いから付けることも難しいからな」

「……誰を、考えておられますか」

「氏政は詰め腹を切らせる。氏直をはじめ氏政の子達は、高野山にでも登らせる。氏照、氏邦、氏規は、鶴松に付けようと考えようと思っている。あと、風魔一党、清水康英なども取り入れる」

「そうなると、北条家に乗っ取られませんか」

「北条遺臣の上に、秀長の家臣団を置く。それ以外にも、浪人や処払いになった連中も取り入れる。それで、家康に対抗できるとは思わんが、中小大名どものが、家康に付きにくくする効果はあるだろう。北条遺臣がいれば、関東を乱し、家康の支配を揺るがすこともできるだろうしな。風魔一党がいれば、裏からも手を入れられるし、伊賀甲賀ものを抑えることもできるだろう。上杉、前田、真田の忍びを使い、家康の忍びを抑える結界を張れればよいと思っている。伊賀甲賀には、わしは恨まれておるからな」


信長の命により、その子信雄による伊賀攻めが行われ、伊賀の地は荒廃し、伊賀の忍びも離散したもの多い。織田家の重臣でもあった、秀吉も同一の存在として、恨まれていた。その為、秀吉よりも家康に協力的であった。金払いなどは秀吉の方が良く、家康の扱いが厳しいにも状況でも変わらなかった。

秀吉は、蜂須賀正勝、前野長康などの川並衆に代表される運輸に携わる集団や商人から情報を得ていたが、忍びからの情報は少なかった。今度の小田原征伐で、雇い主が居なくなる風魔一党を手に入れることが出来れば、関東に関する情報や擾乱などの配下は手に入るだろう。それを鶴松に付ければ、将来役に立つことになるだろう。


「まあ、もう少し、考えをまとめてみる」

「はっ」

「お話し中のところすみません。殿下、大坂より書状が来ました」

「入ってこい、佐吉受け取ってくれ」


受け取った書状を受け取り、秀吉は読みだす。読み進めていくにつれ、眉間にしわを寄せていく。

しばし後、読み終わってから重い溜息を吐きだした。


「返信を書くから、それを大坂に送ってくれ、早馬でな。佐吉、これで終わりだ。兵站を見ておいてくれ」

「はっ」


頭を伏せた三成に命じ、そのまま、秀吉は部屋を出ていった。


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