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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第五十七話 忠興

※二千十九年三月六日、誤字、文章修正

京の外れにある猟師小屋と思われる場所に、一人で忠興は来ていた。

忍び働きをする家臣から話を聞いて、渡りをつけ話をする為に、供もつけずにやってきていた。


「誰かいるか」


戸の前で呼びかけた。

下手に戸に手をかけたり、不意に中に入れば、何が起こるか予測が出来できなかった。

相手は、下賤の者、秀吉に眼をつけられない為、後腐れなく殺害するかもしれない。

敵の領域である以上、油断は出来ぬと、周囲の気配を伺いながら返事を待っていた。


しばらく待ったが、反応がなく、いらつき始め、柄に手を持っていきながらも待っていたが、四半刻も経つと限界が来た。

下賤の者が俺を待たせるとは、何事か。もしや、俺を見下しているのかと、怒りが込み上げて来た。


もう一度大きな声で、問いかけたが反応がなかった事に、我慢の限界に達し、屋内に戸を蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされた戸は、部屋の中に飛んでいき、埃を巻き上げながら転がっていった。

それを気にすることなく、外から屋内が見える事が出来た。

日の光が壁の板の隙間から入ってきているが、薄暗くはっきりと見えないが、中に人が居なかった。

謀られたと、忠興は激昂して、入口の柱を殴りつけた。

その際、入り口の内側に紙のようなものが、ゆらりゆらりと落ちてくるのが見えた。

不思議に思い、忠興はその紙を拾ってみてみると、そこには、忠興がつけられている事、ここで会うのは危険な為、夜屋敷に忍び込むことが書かれていた。

忠興は、眼を見開き、驚きの表情を浮かべた。

三成から疑われている事を理解しており、探りを入れられている事は理解しており、家臣に周囲を調べさせ、自らもつけられていないか気配を探りながら来ていた。

まさか、つけられていたと思わず、下賤の者に指摘されたと考え怒りが込み上げて来た。それならばそうと、進言すれば良いものと再度、柱を殴りつけた。


手にした紙を乱暴に懐に押し込め、向きを変えて屋敷に戻っていった。






その様子を、三人の風魔の忍びが見つめていたが、忠興が屋敷に戻る事に合わせて、ひとりが忠興の監視にその場を離れた。


「どう思う」

「誰かと会うようだったが、相手がいなかったようだな」

「手にした紙に何が書かれていたか」

「紙があった以上、誰かいたはずだが、気配がなかったな」

「隠形に優れたものがいたのか、さて」

「もしくは、紙だけ事前に置いていただけかもしれん」

「確かに」


二人は、小屋に眼を向けた。


「しかし、あそこは、地元の漁師や農民が休憩に使うだけで、怪しいところはなかったがな」

「そのように思わされているだけか、無断で使っているかわからん」

「此処に人を張り付けておけば、分かるかもしれんが、手が足らぬ」

「そうだな、それに、相手もこちらを察知しているようだから、無駄足になるだろう」

「このことは、鶴松様に知らせる」

「頼んだ」


そう言い合って、二人はその場を後にした。






少し離れた山の木の上で、男が筒のようなもので忠興や周囲を見ていた。


「南蛮から手に入れたこの筒、なかなか使えるな。流石に手練れの忍びでも此処まで離れていては気が付くまい」


手にした筒で肩を軽くたたきながら、男はつぶやいた。


「しかし、関白から監視されるあいつは何を依頼しに来たいんだ。めんどうなことだな」






部屋の隅に気配を感じて、忠興は手元に刀を引き寄せ、刀を一閃した。


「何者だ」


手ごたえがなく、気配が残っている事を感じ、警戒しながら声を発した。

物音と声を発しても宿直の反応がない。

秀吉か、藤孝か、誰かの刺客かと考え集中力を高めた。


「会いに来ると手紙には書いていたが、用がなければ去るが」


その言葉に、眉を顰めながら昼の出来事を思い出した。


「姿ぐらい見せたらどうだ」

「見せる必要があるのか」

「ふん、まあ良い、で、依頼を受けるのか」

「あん、何を言ってるんだ、内容も報酬もなく受けるわけがないだろうが」

「私の依頼を受ける気がないのか」

「いやいや、内容を聞かせろよ」


暗闇から呆れの声が聞こえて来た。

忠興は、敬わない口調に苛立ちを覚えたが、抑え込んだ。


「依頼を話して寝返ったら目も当てられん、金をはずむ」

「命あってのものだねだ、金は幾らでも稼げる」

「ちっ」


舌打ちをしながら忠興は顔を歪めた。

失敗しても切りすれるものを使おうとしたが、上手くいかない。

だが、下手を打ちたくはない。


「内容を言えないなら、話はこれで終わりだ」


忍びの監視のある屋敷に危険を冒して、実りのないことに無駄足だったと思った。

ただ、危険性が高い依頼だったので、良かったかもしれないと考え直し、立ち去ろうとした。


「まて」

「なんだ」

「始末してほしい者がいる」


忠興の言葉に、やっぱり厄介ごとだったかと肩を落とした。


「説明はした、依頼を受けてもらう」

「何を言ってるんだ、受けるとは言っていないぞ」

「依頼を聞いておいて、逃げる気か」

「あのな、俺たちはそっちの依頼は、よっぽどの理由がない限り受けない事にしている。繋ぎのやつは説明していなかったのか」


繋ぎの者からは聞いていたが、金さえ積めば卑しい身分の者は受けると忠興は考えていた。

報酬をはずめば、依頼を受けると考えていた。

忠興自身、報酬をけちるような事はないと考えていたが、その事は本人以外だれも認識してないし、知れ渡っては居なかった。

忠興の態度に、軽薄さといざとなったら簡単に切り捨てられると感じてしまった。


「依頼は、受けない」

「何だと」


返答を聞いた瞬間、忠興は、怒りが爆発した。


「貴様」


刀を気配のする方向を袈裟斬りしたが、手答えがなかった為、部屋中を斬りまくり、天井にも突き刺した。


「出てこい下郎」


忠興の怒鳴り声に、家臣たちが駆け寄ってきた。


「殿、何かありましたか」

「何でもない、下がっていろ」


家臣を怒鳴りつけ、下がらせた。

既に気配は消えていて、逃げられたと感じた。


「ふん、やはり、卑しい者どもは信用できん」


そう言いながら、刀を畳に突き立てた。

秀吉か鶴松を始末させようとしたが、無理だった。


「誰も彼も使い物にならん」


そう言いながら、布団に勢いよく腰を下ろし、手立てがないか思案し始めた。


「三河の田舎者を動かせないものか」






「怖い怖い、癇癪持ちとは付き合いきれん。ただ、家康の名前を出すとは、厄介な依頼だったようだ」

「頭」

「おう、無事に戻って来たぞ」

「どうでした」

「断った、危険だけ高くて、実りが少なそうだったわ。ってか、繋ぎのやつは俺たちが殺しはしない事を伝えたのか」

「へい、したそうですが、相手が聞いてなかったようです」

「話にならんな。こっちは、盗み専門だぞ。荒事もあるが……まったく」

「天下の大泥棒ですかい」

「くくく、天下って、どの天下なんだ」


そう言い合い、含み笑いをした。


「ひと稼ぎするか」

「大坂の城にでも行きますか」

「おもしろそうだな」


にやりと笑い二人は闇夜に消えていった。

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