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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第五十六話 会議

※二千十九年三月六日、誤字、文章修正

藤孝からの報告と、今後の事について、話し合うとして、家康、利家、輝元、秀家、景勝や、三成、長政など奉行衆が集められた。

それと、藤孝と、鶴松に報告する為に岩覚が参加していた。

秀吉の入室の合図に、皆が平伏し、秀吉が座ると同時に、皆が面を上げた。


「藤孝から報告を受け、明へ攻め入ることはやめる事にする」


秀吉の言葉に、皆が安堵の表情を浮かべた。

諸将の中には、明へ攻め入ることにより、領地や財を手に入れれると、喜び期待している者たちも居たが、心あるものは声には出さないが反対していた。

家康は、無謀なことに関わって、損することは無くなったと、顔に出さず内心喜んでいた。

活躍が出来ると期待していた秀家は、がっかりした表情を浮かべた。

兵糧など物資の事を考え、困難な状況になる事を思い浮かべていた増田長盛や長束正家は安堵した表情を浮かべた。


「殿下の英断、誠素晴らしい事と思います」


家康は、そう言いながら、頭を下げた。

三成はそれを見て、心から思っていないくせにと、内心苦々しく思っていた。


「殿下、して今後の方針はどうなりますか」


利家の問いに、秀吉はにやりと笑った。それを見た、家康は悪い予感を感じた。


「今、明の北に兵を出して居るが、それをさらに推し進める。あぶれた浪人たちを追い出すのには良い手段だ」

「……」


景勝は何も言わず頷いた。


「だが、それだけでは、物足りぬ」

「それは、どういうことですか」


秀吉の言葉の意味が分からず、秀家は尋ねた。


「明の北だが西へは進んだ。ならば、北の蝦夷、東には大きな大地があるらしい、南は琉球、高山国やそれ以外にも数多くの土地が余っているようだ。取りに行かないのは愚か者よ」


別に行く必要はないだろうと、家康は心で罵倒した。


「北には、奥州と北陸の者たちの力を借りる。東は、水軍を中心に進める。南には、それ以外の諸将に力を借りる事になるだろう」


三成、岩覚以外は、秀吉の意図が分からず困惑した表情を浮かべた。


「なんじゃ、お主ら、嫌そうな顔をして」

「命じて頂けらば、行きますが、何故、そこまで外の土地に行かねばならぬのですか」


素直な気持ちで秀家は疑問を訪ねた。


「ひとつは、あぶれた浪人たちを使いたい。やつらを放置すれば、治安が悪化する恐れもあるし、誰かが利用する恐れもある。ならば、外に出せば、心配もあるまい」


誰とも言っていないが、家康は己の事ではと思った。


「ふたつは、耶蘇教徒や伴天連を外に追い出したい」

「それは」

「やつらは信仰を理由に刃向う恐れがあるし、南蛮の者とつながる恐れもある。この機会にやつらを外に移住させ、この国から追い出す。すべては無理だろうが、ある程度は、抑えれるだろう。もう、一向衆との戦いはごめんだからな」


苦い表情をしながら、家康は頷いた。三河では一向衆の力が強く、家臣にも信者も多く、かつての三河の一向一揆の記憶が家康の脳裏に蘇った。


「みっつめは、先に言った南蛮の動きだ」

「動きですか」

「やつらは、支配した地域の者たちを奴隷として売りさばき、労働力として酷使しているようだ。耶蘇教徒でなければ、人ではないようだ」

「馬鹿な」

「なんという愚かなことを」


話を聞いた者たちは眉を顰め憤った。


「愚かな話だが、まあ、寺社仏閣の連中を見れば、理解できない事ではないがな。南蛮の者どもの出鼻をくじき、やつらの居る地域を奪えば、支配もしやすいだろう。それに、南には人の住まぬ地もあり、人はいれども国がない場所もあるらしい。進出すれば、土地も手に入り、余った民を移住させることもできる」


秀家は、活躍の場が出来るのかと高揚した表情を浮かべたが、三成、岩覚以外は、先の苦労を考え表情を変えなかった。


「そこで、明の北へ人を出していない者たちも人を出してもらう。現地で戦が起きるかもしれぬが、手に入る土地は広大だ。資金はこちらが援助する。奮って、参加せよ」

「「はっ」」


秀吉の締めの言葉に、皆平伏した。

しかし、平伏した時の家康の表情は怒りに震えていた。






苛立ちを隠さず、家康は部屋をぐるぐると歩き回っていた。


「殿、少し落ち着きなされ」

「分かっておるわ」


半刻ほど動き回って、どすんという音と共に、腰を下ろした。


「何を苛立っています」

「分からぬか」

「出費は嫌ですかな」

「嫌だな」

「利はあると思いますが」

「ふん、確かに利はあるだろう。しかし、外へ家臣を出してみろ、統制が取れなくなるではないか」

「確かにそうですな」


藤孝が帰国し、秀吉の命令に対して、家康は苛立っていた。

朝鮮や明への出兵が取りやめになったことに、家康は秀吉の為に損せずに済んだと喜んだが、代わりに琉球や高山国などの話が出た時に、愚かなことをと内心で思っていた。

琉球や高山国など、内実の分からない処に兵を出したところで、容易に治められるとは思えない。

失われる兵糧と銭を考えて、怒りが込み上げていた。

日本であっても地方によっては、言葉が通じない、しきたりの違いによって、命令が行き届かず苦労することもある。

それが、外の国となると、苦労や費用は跳ね上がるだろう。まして、補給もうまくいかないのは眼に見えている。風土病なども考えれば、戦の損失より、補給不足や病による損失の方が大きいと考えた。

上手くいっても、現地で独立されたら、今までの労力と費用が無駄になる。

目の届かない処に兵を出す利が家康には分からない。

三河の支配の過程で、家臣、一族の統制に苦労した経験から、家康は家臣を信用していなかった。


「しかし、命令が出れば従わなければなりません」

「わかっておる」


不機嫌な表情で、家康は爪を噛み始めた。


「考えようによっては、使えない家臣や従わない者たちを放り出せる機会かもしれません」

「分かっておるが、それで功をあげて、褒美を与えれば、ますます調子に乗って、統制が取れないではないか」

「それならば、殿下に押し付ければよいではないですが、よりよく踊ってくれるかもしれません」

「しかしな」

「物資が必要であれば、殿下が用意するでしょうし、要請すればよいのです」

「……」

「今、現状で抵抗しても無意味です。ですので、殿下を利用し、家内統制を図るべきです」

「ふむ」


正信の言葉に、多少機嫌を直した家康は、どうすべきか思案し始めた。

確かに、懐をあまり傷めず、気に入らないものを処分するには良い理由にはなる。ただ、その者たちがうまくやり遂げれば、気に食わないが、目障りなものたちが居なくなれば良いかと思い直した。


「ならば、秀康を使うか、養子であるし、問題あるまい」

「殿」

「お主が秀康に期待しているのは分かっているが、跡取りは、秀忠だ。秀康が居れば、いらぬ混乱を招くことになる。早く追い出す方が良い」

「……」

「功があれば、あやつも独立できる。良いではないか」


正信は、秀忠よりも秀康の才能を刈っており、家康の後を継ぐべきと考えていた。三河者を抑えるには、武に優れたものでなければならないと考えからだ。

平時であれば秀忠でも良いのだが、まだまだ、戦乱の遺風を感じている現時点では無理と考えていた。


「天下が定まり戦乱の世を渡り歩いたものが減れば、秀忠様でもよろしいでしょう。しかし、未だ天下は定まっていません。秀忠様では、三河者を抑えるのは難しいでしょう」

「ならばこそ、天下取りの機会があれば、実績を積ませることができる。それに秀康は、悍馬だ。気性が激しすぎて、家臣たちが反発する恐れがある。あれは駄目だ」


吐き捨てるような、秀康に対する突き放す家康の物言いに正信は内心眉を顰めた。

忌み嫌われた双子で産まれた秀康は、家康から忌避された。双子の弟は、家臣に渡されまったく関係のないところで生活している。

秀康自身は、家康に顔合わせをすることなく、寂しい幼少期を過ごしていた。

今は亡き、長子信康により、家康との対面はなったが、一言も声をかけることなく、対面は終わった。それ以降も、家康は秀康に関わろうとせず、秀吉に降伏した時に、養子と言う人質として出された。


秀康の才を家康と重ねている正信としては、何とか、徳川家との繋がりをなくさないよう文のやり取りを続けている。

そのことを知りつつも家康は黙認しており、秀康の武の才を認めてはいた。しかし、政の才に物足りなさを感じていた為に、秀康の扱いは元服した後も変わらなかった。

それに、秀康は信康の事を慕っていた為、弁明もせず、庇いもしなかった家康を秀康は恨んた。秀康の心を家康は感じ取っており、嫌っていた。

信康と重なる秀康が、何れ、己に取って代わろうとするのではないかと、疑心を家康は持っていた。

正信が秀康を支持する姿を、かつての数正と同じように思えて気分は良くないが、数正と違い正信に従うものは居ないのは分かっていた。正信もあえて家中で、嫌われている状況を改善しようとはしなかった。それが、家康の信頼を得れる術であり、恨みを一身に受ける事で家中を分裂させない方法であると正信は考えていた。

家康も正信が裏切るとは思っておらず、唯一信頼をしている家臣であり、本音を言える存在であった。


「お主の思いも分かるが、やつが徳川で力を持たせれば、家中は割れる。それだけは避けなければならん」

「分かっております」

「天下を取れば、悪いようにはせん」

「ありがとうございます」

「送り出すのであれば、家次もつけてやればよかろう。あと、重次もつけるか、元気な連中も一緒に出せば喜ぶだろう。出した連中は、そのまま秀康に付けてやればよい」

「家中に居て、不満に感じている者たちを出しましょうか」

「そうだな」

「暴れたりない者を出せば、不満も解消され、家中も静かになるでしょう。ただ……」

「ん、なんだ」

「秀忠様が気になさらないか」

「秀康が功を上げれば、己の地位が揺らぐと」

「はい」

「ならば、わしの横で政務をさせればよい。それに、領地を回らせて、経験を積ませればよい。それでも不安になり、わしの思いが理解できなければ、後を継ぐ器ではない」


家康は、秀忠が駄目であっても、他の子どもやこれから生まれるかもしれない子供でも後を継ぐ器であれば、そちらでも良いかと考えていた。

ただ、そうなると、後継者争いの元になり、将来の禍根を残すことになりそうだと悩んでいた。


「上手くいけば良いし、行かなくても良い。しかし、あの者の考えについていけぬわ。わざわざ外に行かずとも好いものを」

「……」

「どれだけのものが必要になるのか、無駄としか思えん」


家康は、そう言いながら不満の表情を浮かべて、愚痴を正信は黙って聞き続けていた。






父藤孝が帰国したことを受け、忠興は会いに行ったが不在として会うことが叶わなかった。ならばと、弟の興元に会いに行ったが、藤孝と同じように不在として、会うことが叶わなかった。

会えなかったことは仕方ないが、わざわざ行ったのに不在だったことを詫びを入れて、会いに来るべきだろうと怒っていた。

特に、弟のくせに会いに来ない興元には、切り捨てたいほど怒っていた。


「くそ、話に来ないとは……、俺を見下しやがって……」


忠興の身勝手な逆恨みを募らせていった。

家中の者は、機嫌の悪さを知って、必要がない限り近づかないようにしていた。下手なことをして、切り捨てられてはたまらないと怯えていた。

家中のその態度に、忠興は怒りを増幅させていた。


「どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって」


怒気を込めて、言葉を吐き出し、壁を殴りつけた。


「それに、あの猿もだ。何が明を攻めるだ。信長様のお考えを盗むとは、吐き気がするわ」


明を攻めるという話は前から聞いており、藤孝が帰国してから判断をすると説明を受けていた。たまたま、運が向いて天下を取っただけで才能も枯れた老害のたわ言で、貧乏くじを引きたくはないと憤っていた。


「とっととくたばればよいものを」


寧々の騒動から、秀吉周辺や大坂城、京の館の警備が厳重になっていた為、付け入る隙が無くなっていることも苛立ちを倍増させていた。

家康を利用するために、直政に近づいているが、そちらも進展はなかった。


「このままでは、埒があかなぬ、何とかせねば……、役に立たない奴ばかりめ」


ぶつぶつと、言いながら忠興は考え続けていた。


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