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第六話 変調


「おはよう、秀勝、今日も元気そうですね、母はうれしいですよ。何をしているの、こちらに来てくれないの。いつも良い笑顔ですね。あなたが来てくれて私は本当にうれしいですよ。ふふふ」




孝蔵主は、最近の寧々の様子がおかしく、そのことを相談すべき相手も居らず、思案していたが、大坂城の警備を任された岩覚という僧が、寧々とも顔見知りで、親しい間柄であることが分かり、相談できないか接触を試みていた。あまり、奥付のものが、表に出ることに問題がある気がしていたが、寧々の様子が日に日に激しくなることを危惧して、意を決し、面談を申し込んだ。


「岩覚様、お時間を取って頂きありがとうございます」

「いえ、孝蔵主様、寧々様の事についての相談との事、何をおいてもお聞きする必要があります。どうなされましたか」

「これからの話は、他言無用にお願いします」

「はい」

「実は、最近、寧々様の奇怪な行動を取っているのです」

「奇怪とは」

「あらぬ方向を見ながら、秀勝様の名前を出しながら、話しかけられているのです」

「小吉様ですか」

「いいえ、小吉様ならば、小田原へ行っているとはいえ、会うことも出来ます。名前を呼ぶときの寧々様の表情は、我が子の名前を呼ぶようでした」

「それでしたら、石松丸様か於次丸様でしょうか」

「違うと思います」

「違うと?」

「はい、あの寧々様の眼は、自分自身が産み落とした我が子を見るようでした」

「我が子を」

「そうです。ただし、その際の表情が恍惚としており、行動を制止すると、発狂したような行動を取り暴れるのです」

「……」


(確か、殿下と寧々様の間には、子供が出来たことがあると話を聞いたことがある。貧しく、衛生状況も悪い状況の為か、何度か流産した後に産まれた男児が居たと。しかし、産まれて数日でなくなってしまい寧々様は寝込み、数カ月間寝たきりになり、それ以後、子供が出来なかくなったとか。そして、殿下は女性と見れば見境がなくなったと……子供の名前を秀勝と決めていたと、養子に入った際、寧々様も言われていたな)


一般に、子供が産めない石女と言われ、一時期、周囲からの蔑みの眼で見られていた寧々。しかし、実際には、貧しく、衛生環境が悪い状況で、身重でも家の事や農作業などもしなくてはない状況のうえ、秀吉は家にいることも少なく、心細い状況で精神も追い詰められ、子をなしても流産を繰り返していた。寧々本人は、明るく振舞い、周りは強い人として認識されていた為、破たんするまで、気が付くのが遅れていた。

母親は秀吉との結婚に反対しており一切手助けがなく、隣に住んでいた、前田利家の妻まつのみは、気が付いて助けていたが、心の負担軽減は追いつけなかった。周囲からは、がんばれや、まだまだ未熟など、発破をかける言葉はあったが、慰めの言葉も、話を聞いてくれる人もほとんどいない状況で、追い詰められていった上の流産だった。


岩覚は、昔聞いた話を思い出しながら、今回の事について、最初心の病かと疑いを持った。しかし、ここ最近の寧々様に変調はなく、寝込まれた以降は、吹っ切って生活していたと聞いていた為、そのことが原因とは考えにくかった。

心の傷は、吹っ切れたとしても、何かの切っ掛けで蘇ってくるので、鶴松が産まれたことが切っ掛けとも考えられる。秀吉、寧々の関係は昔通りで気になる点はなく、寧々と淀の関係も淀が一方的に敵視しているだけで、寧々は相手にしていなかった為、原因とは考えにくい。

ただ、岩覚が寧々と会った際、気になったのが、香の匂いだった。養子で入った際、寧々が周囲に感じられるような香を使っていた記憶もなく、孝蔵主からも最近まで使っていなかったと話していた。最近の変化としては、その点が気になった。それに、あの香の匂いは嫌悪感が湧くような感じがあり、引っ掛かりを覚えていた。


「孝蔵主様、寧々様が使われている香について、何処で手に入れられたものですか」

「あの香ですか……最近、仕えるようになった侍女が持ってきました」

「侍女ですか」

「ええ、堺の商家の娘らしく、南蛮渡来の珍しいものとして、親から献上するようにと持参してきたようです」

「その商家は、どのような品をあつかっているのでしょうか」

「南蛮渡来の品物を扱っているそうです」

「香も取引で手に入ったものですか」

「そう聞いております」

「その香を少し持ってくることは出来ますか」

「香ですか」

「ええ、今までは数度程度でしたが、ここ最近は、ほぼ毎日焚かれています。香を焚くなど贅沢だとして、今まで使用されていなかったのですが、鶴松様がお生まれになってから、気分がすぐれないという話を聞き、持参したようです」

「分かりました、少し、周辺を調べてみます。それと、殿下にも書状で伝えておきますので、安心しておいてください」

「ありがとうございます」


孝蔵主は、しばし席からはずし香を取りに向かった。

その後姿を見ながら、岩覚は、薬草の組み合わせによっては、人に幻覚を与え、精神を狂わす作用のある処方が載っていなかったか、思い出していた。

その後、孝蔵主を運んできて、岩覚に手渡し話し合いを終えた。


「岩覚様、何卒よろしくお願い致します」

「及ばずながら手だてを考えます」




孝蔵主と岩覚が話し合った数日後、警邏をしている兵の詰所で兵たちが屯っている。

夕刻の警邏の兵と、夜の警邏の兵との引継ぎを行う。兵の警邏は1日中絶え間なく行っており、それぞれの兵の引継ぎを行い問題がないか確認を行う。


「では、引継ぎを行うぞ」

「はい」

「問題はなかった。少し、広間の廊下が痛んでいるようで、踏ん張ると床が抜ける可能性があるので注意するように。後、天井にシミがあったので、どこかで雨が漏れたかもしれないので報告しておく。その他、問題や気が付いたことがあれば、報告するように、以上。ああ、そうだ、噂として幽霊が出るとの噂が出ているが、もし見かけたとしても、その幽霊が不審な行動を取らないのならば放っておいても問題はない」


そう話して、組頭は詰所を出て行った。

その場に残った兵たちは、幽霊と言う言葉を聞いて、ざわついていた。


「なあ、おい」

「なんだ?」

「今の組頭の幽霊の話だが、お前見たか」

「おう、見たぞ」

「見たのか!?」

「そうだ、目の前にな」


問われた兵は、ニヤニヤしながら返事をした。

その返事を聞いた兵は、顔をこわばらせていた後、顔を真っ赤にして、怒りだした。


「お前、ふざけるな!誰が幽霊だ!」

「すまん、鬼だった」

「鬼じゃねぇ!」

「悪い、悪い、冗談だ、わはははっ」

「お、お前、冗談と馬鹿にしているのと同じと思ってないだろうな!」

「思ってない、思ってないって」


怒りを若干緩めた兵は、胡乱な眼つきで相手を見た。


「幽霊だろ、確かに見たけどな……」

「……おちょくっているじゃないだろうな?」

「本当だよ、ただ、幽霊と言われるとなぁ」

「ん?どういうことだ?」


答えた兵が、幽霊について、言葉を濁している事に興味を持ったが、返事をしてくれる雰囲気ではなかった為、首をかしげる。

何かを振り払うように、左右に首を振った兵が、諦めたように答える。


「とりあえず、組頭が言っている幽霊が、俺の見たのと同じなら、何も答えられないし、組頭が言ったことに従えば良いとしか言えないな」

「答えられない?」

「ああ、他言無用とのお達しだ。もし言えば……」


そう言いながら、首に手を当てた姿を見て、眼を見開いた。


「どういうことだ」

「まあ、見ればわかるよ。今のところは、何も危ないことはないさ。ただ、見たら、組頭に報告だけはしておけよ」


言葉を投げかけて、兵は出て行った。


「なんだ、何があるんだ……」

「幽霊かぁ」

「はぁ?何処に出るんだよ、噂だろ、噂」

「いや、見たやつが居るらしいんだよ」

「なんだそれ、噂じゃないじゃないか、誰が見たんだ」

「目の前にいる奴だよ、目の前の」

「……殴るぞ」

「ま、まてよ、拳を握るなぁ!」

「ったく、そんな冗談に付き合ってられるかよ」

「見たのは本当だよ。ただ、幽霊じゃないけどな」

「どうゆうことだ」

「まあ、見たらわかるけど、見ても、驚くなよ、そして、攻撃をするなよ」

「訳のわからないことを言うなよ」

「見てる連中には、緘口令が引かれているから聞いたことはないだろうけど。初めての奴には注意をする事とのお達しだからな」

「本当に、よく分からんが、忠告は聞いておくよ」

「おお、気を付けろよ」


たわいのない話をして、兵たちは各組に分かれ、警邏へと向かって行った。



月が薄れ始め、夜が明ける頃、警邏をしている兵たちはあくびを噛みしめながら歩いていた。


「幽霊が出るとか訳の分からない事を言われたが、結局、幽霊なんていないじゃないか」

「幽霊いなかったな」

「ああ、引継ぎの時に、幽霊が出ると脅かした奴がいるんだよ」

「その噂か、俺も聞いたけど、幽霊ではないと言っていたな」

「幽霊じゃない?」

「そうだ、幽霊ではないが、不審に思っても手を出すなと言われたな」

「組頭が言っていたな」

「殿下の女癖が悪いから祟られたんじゃないのか」

「滅多な事を言うなよ、首が飛ぶぞ」

「ああ、怖い怖い」


兵達が話しながら歩いていると、何処からか女性の声が聞こえていた。

兵達は顔を見合わせ、声がする方へと足音を立てないように移動していった。




移動した先で、人影を見かけた兵達は慌てて、駆け寄って行った。


「まさか、本当だったのか」

「馬鹿野郎、忍び込んだ不届きものかもしれん」


兵の一人は、幽霊と思い心が震えながらも、勇気を出して、先行している兵の後ろを追った。

近づいていくと、しっかりと輪郭も見えてきて、顔も見えてきた。

その顔を見た瞬間、兵は驚愕しながら一瞬硬直した。


「ね、寧々様、何をされているのですか」

「……」


声をかけられた寧々は反応せず、上を見ながらフラフラとして歩いていた。


「秀勝、秀勝……」


ブツブツと呟きながら、兵の問いかけにも気が付かず、歩き回る。

兵たちは、その只ならぬ雰囲気に、恐怖を感じ、腰が引けてしまった。


「おい、組頭を呼んで来い」

「あ、ああ、し、しかし、このままで良いのか」

「馬鹿か、このまま下手に制止したりしたら、俺らの首が飛ばされるわ」

「そ、そういえば、組頭はそのままにしておけと言っていたではないか、このまま立ち去ればよいではないか」

「確かに……不審な行動を取らなければって……思いっきり不審な行動じゃないか……」


そう兵達が話し合っていると、後ろから足音が聞こえてきた。

兵達は、今度は、不届きものかと思いつつ、幽霊じゃなく妖怪かもと、不謹慎な事を考えながら振り返った。


「どうされましたか」


そう声をかけてきたのは、大坂城の警備の責任者の岩覚だった。

その姿を見た兵達は、胸をなでおろした。


「実は、この先に寧々様が、何事かを呟きながら歩いておられるのです」

「寧々様が?」

「はい、眼も虚ろで、こちらの呼びかけにも気が付いているようには思えませぬ」

「あの姿は、戦で心を壊した連中を見ているようでした」

「そうですか……わかりました、私が向かいますので、お勤めに戻ってください」

「し、しかし……」

「おい、巡回に戻るぞ。岩覚様、失礼いたします」


そう兵士は、狼狽えている兵を引きずるようにしてその場を離れて行った。

岩覚はその姿を見ながらため息を一つ吐き出し、寧々の居る場所へと向かった。


「おい、何故、岩覚様に付き添わなかったんだよ。何かあったら罰せられるじゃないか」

「何を言っているんだお前は……」

「何!」

「あのな、寧々様が関わっている以上、外部に知られたら拙いことかもしれないだろう。そんなことを知ったら人知れず始末されるかもしれないじゃないか」

「あ!そ、そうだな」

「分かったら残りの箇所を回るぞ」

「お、おお」




岩覚は、寧々の元に向かっている間、あの香の匂いがしていることに疑問を感じた。香を焚き続けて、匂いをしみつかせない限り、匂いは持続しないはず。しかし、寧々の歩いている経路には、匂いが濃厚に残っていた。

あれから幻覚・幻聴を起こさせる薬草の処方について考えてみたが、心当たりのあるものはなかった。もしかすると、忍びの秘伝であるかもしれないと考えたが、今のところ伝手もなく、伝手があったとしても、すべての忍びの秘伝を知ることは難しい。南蛮渡来とも考えられるが、今、博多の商人に問い合わせているところで、回答は来ていない。香を持参した娘が、堺の商人の娘と言うことを信じることは難しいが、堺の商人に相談しては、尻尾をつかむことも出来ないかもしれない為、あえて問い合わせを外した。

うつらうつらと考えていると、岩覚の見る景色が霞んだり、歪んだりしてきた。しばらくしたら戻るが、今までにない事で、疲れが溜まっているのかと思った。

しばし、歩いていると、視線の先に寧々の姿が見受けられた。兵達の話し通り、顔をあらぬ方向へ向けながら、何かを呟いているようで、常に見る聡明な姿とは似ても似つかなかった。

頭を振り、寧々に声をかけようとした瞬間、岩覚の視界が揺らいぎ、眩暈を起こし、膝をついた。急な事に、慌てたが、心を落ち着け、深呼吸を何度かし、立ち上がって眼を開いた。


「な!ち、父上!?」


岩覚の目の前には、秀吉ではなく、実の父である死んだはずの織田信長が立っていた。岩覚はあり得ない事に動転して、見えたものを否定しようとするが、何か、抗しがたい力を感じ、受け入れてしまいそうになる。

目の前に居る信長の姿は、峻烈な表情ではなく、秀吉に養子に行く際に見せた優しげな表情をしていた。父である信長と顔を合わせる事も多くはなく、思い出も少なかった。その為、峻烈な姿は、実際に見るのではなく聞いたことでしかなかった。養子後も、書状も何通かやり取りして、父の優しさを感じていたこともあり、信長への尊敬はあっても、恐れはなかった。

目の前に居る信長が現実の存在であると、認識し受け入れようとしている自分自身に、岩覚は恐怖を感じ声をあげる。


「喝!」


力が抜け四つん這いになり、乱れた呼吸のまま顔を見上げ、改めて目の前を見直す。すると、そこには信長の姿はなく、朝日が差し込んでいる通路が見えた。


「はあはあはあ・・・ごほごほ。あ、あれは何だったんだ」


先ほど見えた信長の姿は、幻でも、幽霊でもなく、実際にそこに存在しているという感覚が残っている。そこに存在しており、実際に会った時のそのものの姿であった。しかし、信長は本能寺の変で死んだとされており、また、生存は確認されていない。白昼夢でもない、何が一体起きたのか理解できない感覚だった。


「面妖な……」


呼吸が整い、額から流れてきた汗をぬぐい、ゆっくりと立ち上がった岩覚は周りを見渡す。何も変わっていない通路が見える。其処には寧々の姿はなく、信長の姿も当然なかった。

息を大きく吸い込み、一気に息を吐いた後、頭を振り、寧々の部屋へと向かった。

道すがら先ほどの奇怪な情景を道すがら考えていた。


(酒は飲んでおらず、食事も不審なものを食べた記憶がない、毒を盛られた記憶もない。そういえば、兵士たちは”幽霊”を見たと話していたが、それを”寧々様”と思い込んでいたが……)


警邏で巡回していた兵達が幽霊を見たとの報告が上がってきた。その際に、寧々様の姿を見たとの報告も同時にあり、深夜に寧々様の姿を見た兵が幽霊と勘違いしたのだろうと判断していた。しかし、今回自分に起きたことをふまえた場合、薄明りの中で見た寧々様を幽霊だと勘違いしたのではない、幻覚を見た可能性があると思わざるを得ない。ただの勘違いや飲酒による誤認では済まされず、何かしらの問題や謀略が潜んでいる可能性があり、軽々に判断することが出来ないと思い悩んでいると、寧々の寝室の近くまで来ていた。


「これは、岩覚様、どうなされましたか」

「孝蔵主様、おはようございます」

「おはようございます。その汗は、何かありましたか」

「いえ、お気になさらずに。少し、話があるのですが」

「何でしょうか」

「昨夜寧々様は、寝室でお休みになられたのでしょうか」

「はい、寝るのを確認しております」

「そうですか……」

「何か問題でも?」

「いえ、早朝、寧々様が場内を歩かれているのを見ましたもので」

「……」


岩覚の話を聞き、孝蔵主は眉をひそめた。


「どうなされました」

「いえ、その噂は聞いております。寝静まる時と、起きられる時は確認しておりますが……」

「ひとつ質問はよろしいでしょうか」

「はい」

「幻を見られることはありませぬか。そう、亡くなられた方などの姿を」

「!?」


問いかけられた孝蔵主は、眼を開き、岩覚を凝視する。その表情から、孝蔵主が自分と同じ体験をしていると理解した。


(孝蔵主様が見たということは、私だけが見たと言う事ではない。食事も違う状況で、兵達と同様にみると言うことは、何か共通点はないだろうか)


「幻を見たことがあるのですね」

「……はい」

「どのような幻を見たとは聞きませぬ。ただ、見た時期やどのような場所で見たかをお聞きしたい」

「……幻を見る時期は、必ず同じ時です」

「同じ?」

「はい」

「それは何時なのですか」

「それは……」


そう言い孝蔵主は目を伏せた。その様子に疑問を感じるが、話しかけることなく、岩覚は話し出すことを待っていた。


「……見る時期は、寧々様が香を焚かれた後、しばし経ってからです」

「……」


その言葉に、幻を見る前の行動を振り替えってみると、確かに、寧々が歩いたと思われる場所では、香のかおりが強く残っていた記憶があった。香りを感じた際は、特に何も感じなかった為、気にしなかったが、後になって考えれば、それ以降、視野が狭くなった記憶があった。


「香を嗅いだ際、寧々様に変化はありましたか」

「特には感じられず、そのまま、嗅がれた後、お休みなられています」

「そうですか……」

「ただ、香がなかった時には、寝付かれるまで、時間が掛かっておりましたが、香を使用してからは、寝つきは良くなりました」

「分かりました。幻に関しては、香が関係ある可能性があります。これからはなるべく香を控えるように、また、孝蔵主様も嗅がれないようにお気を付けください」

「はい」

「では、これで失礼いたします」


挨拶をした後、その場を後にした。


(施薬院全宗様をお呼びしたいところだが、殿下に付き従い小田原に居られるから、曲直瀬道三様に来ていただくか)




「おお!女子が泳いでおるぞ!健康的な身体をしておる!良い尻だ!丈夫な子を産んでくれそうだな!」

「殿下……」

「何だ、佐吉!その顔は……この伊豆の綺麗な海を見ろ!何もかも開放的にしてくれるではないか!」

「佐吉」

「何だ、市松」

「お前の事は嫌いだが……」


正則はそう言いながら、三成の肩をパンパンと叩き、ため息をついた。

その正則の姿に一瞬眉をひそめるが、ただ、顔を横に振った。


「紀之介、あいつらの態度は何だ、わしを何だと思っているんだ?」

「……殿下、私からは何も言うことはございません」

「虎之助!」

「……殿下、すみません」

「おおおおぉぉぉぉ、何故、何故、わしの味方が居らぬのだ!官兵衛!ニヤニヤするな!」

「いや、殿下もお若いですなぁ。寧々様の顔が目に浮かびますぞ!」

「ぬわ!要らぬことを言うでないわ!ったく……この開放的な風景をぶち壊しおってぇ!」




「叔父上、鶴松様は、何か不思議な感じがしますね」

「そうだな」


(兵助が言う通り、この人を見透かしたような、奥まで読んでいる眼をしている。いったい何者なのだ?)


「ふわぁ~」


(夜が怖い、夜が怖い……最近、足音が近くなっている気がする。護衛がいるから近づいてこないだけなのか、でも、足音はひしひしと……助けて、怖くて漏らしそうだよ!あ……出ちゃった……)


「おぎゃー、おぎゃー」


「あらあら襁褓を替えましょうね、鶴松様」



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