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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第四十三話 渡海

※二千十八年二月十二日、誤字修正

博多での会談の後、九鬼嘉隆が乗って来た船が商船用であり、戦船でなかった為、神屋宗湛は所有する船を加えなかった。

船の数を増やせば、朝鮮の商人に倭寇と思われる可能性を考えた。また、船団の多さで騒ぎが大きくなれば、袖の下を通している朝鮮側の役人では誤魔化せない恐れがあった。

藤孝は説明を受け嘉隆と話をして、宗湛の指示に従い取り決められた帆に付け替えられた。

帆によって、倭寇でない事や宗湛であることを相手側に示すことが、安全に入港する取り決めだと説明を受けたが、嘉隆は船が乗っ取られたと少しの間不貞腐れた。

それを見た前田利益が遊郭に連れ出し、一晩騒いだ後、すっきりした表情で戻ってきて、九鬼の家臣たちは胸をなでおろした。

その後、対馬へ補給へ寄った後、富山浦ふざんほへ向かった調査団は無事につくことが出来た。

途中、倭寇だと思われる船が遠くから見ていたが、近づくことなく去っていった。


「ところで藤孝殿、拙僧は何故同行することになったのですかな」


富山浦に付き、宗湛の差配により、荷下ろしなどをしている時に、旗艦に残った玄蘇が質問をしてきた。

宗湛のみ同行すると思ったが、出発前日に、同船して義智と共に玄蘇も同行することを依頼してきた。依頼と言っても現状を考えれば、拒否権のない命令ではあった。

義智は、利益に捕まり政実と共に、富山浦を案内させられていた。利益の強引な誘いにより、非常に迷惑そうな表情を浮かべ藤孝に助けてほしそうな視線を向けていたが、それを藤孝は無視し連行されることになった。

政実は、異国の地に興奮しながら付いていったが、興元は見聞を広めろという藤孝の言葉に、二人のお守りをするのかと思い肩を落としながら後を追った。

柳生宗章だけは、護衛ということで藤孝の元に残っていたが、他の者は宗湛の仕事ぶりや、富山浦を見物に宗湛の手の者に案内されて船を降りていた。


「朝鮮側と少し交渉してもらいたいことがありまして、来ていただきました」


その言葉に玄蘇は表情を変えることなく、心の中で眉をひそめた。朝貢が無理なことを藤孝は承知しているはずで、どのような無理難題を言われるか、身を引き締めた。


「義智殿と共に、国王に会って頂き、済州島を譲ってもらえないか交渉してもらいたい」

「……」


藤孝の言葉に、玄蘇は無理だという表情を浮かべた。その表情に、藤孝は苦笑を浮かべた。


「別に交渉が成功しなくても良いのです」

「それは、どういうことですかな」

「ああ、勘違いしないでもらいたいが、脅して奪えと言っているわけではない。金銭的なもので譲ってもらえないか聞いてもらい」

「金銭と言っても、難しいのでは」

「確かにそうだが、あの島自体、流刑地として扱われているとか。それに、かつては独立した国があり、自立心が高いとも聞いている」


玄蘇は頷いた。済州島はかなり昔に、独立国で独自に日本ともやり取りしていたが、今は朝鮮王朝に組み込まれていた。

流刑地として扱われている為、半島からは一段下に見られることもあり、流された人たちの中にも反抗心を持つものも多かった。


「対馬は宗氏の事を見れば、朝鮮に近すぎる。宗一族は、我が国を裏切る気はなかったとはいえ、今後、裏切るものがでるやもしれない。統治するものが替わったとしてもその危険性はなくならない。そうであるならば、対馬と同じ立ち位置の場所を作れば危険性も緩和され、相互監視ができる」

「それを済州島に求めると」

「そうだ。対馬ではなく済州島を緩衝地帯としたい」

「……」


国が領土を売り渡すのだろうかと玄蘇は考えた。莫大な金額を提示するかもしれないが、それを向こうが受け取るか。儒教という世界にいる者たちが、見下している国に対して、流刑地の島とはいえ渡すのだろうかと疑問に思った。


「流刑地にしているぐらいなので、そこまであの島に価値を見出していないと思っています。ただ、彼の国は我々を見下している。その為に、理由がなければ交渉することが出来ないでしょう」

「確かに、あの方々は我々を蛮族と見下しているのは事実。奪いに来たと思われれば、話もできないでしょう」


その言葉に、藤孝は頷いた。


「殿下の天下統一の祝いを贈るためでも良いです。理由はなんでも良いので交渉してみてください。それに、中枢の者たちには、しっかり贈り物を贈っておきます」


古今東西、国が興れば衰退するもの。現在の朝鮮の王朝は腐敗と派閥争いで、国が揺らいでいる。その揺らぎが国民へしわ寄せになって押し寄せている。

中枢の腐敗は、付け入る隙を見せているようなもので、交渉次第では済州島を譲り受けれるかもしれない。


「……しかし、それでは、後に禍根を残しませんか」

「それに対する危惧はある。だが、住んでいる者たちが、帰属するべきところはどこかを強く思うことが出来れば、禍根にはなるまい。住むものを放置して、己の領土と叫んだところで、住んでいる者たちは納得せず、反乱を起こすだけであろう」


住む者の帰属意識を日本に向けさせる。それは、短期的なものではなく、長期的な先を見据え見ている世界が違うのかと玄蘇は思った。


「後々、済州島を独立国として復古させ、国としての関わり合いをしても良い」

「受け取った土地を独立させるなど、他の大名たちが騒ぎますぞ」

「確かに、それならば、受け取った後、独立させ属国として扱えばよいのではありませんか」

「いや、それさえも有力な大名は騒ぎかねません」

「殿下の一族の誰かを送れば良いでしょうが、それは交渉がうまくいってからの事」

「……」

「資金は、殿下の元から出しますゆえ、交渉できるか否か、出来れば、どれくらい必要になるか、感触を確かめて来て頂きたい」

「……分かりました」

「もし、交渉がうまく言えば、殿下のお気持ちも多少鎮まると思います」


半島を通り、明へ攻め入るのは、秀吉が亡き信長を超え、信長の影を払しょくする為の方便でしかないと藤孝は考えていた。

出兵しないことは秀吉自身、頭で理解できるが、積もり積もった信長への感情は払しょくすることは出来ないだろう。それが、何かのきっかけで爆発することを鶴松は危惧していると政実から聞いていた。

済州島という朝鮮から流刑地として扱われている島ではあるが、その一部が帰属するとするならば、秀吉の負の感情を払しょくし、無謀な出兵も抑えられるかもしれないとの考えを聞いていた。

既に何通りかの考えがあり、どうするかは議論されていた。鶴松の考えでは、基本的には関わり合いにならないという方向ではあるが、秀吉の面目が少しでも立つのであればとの考えだった。

今後、返還しても構わないとも思っていたのだが、そのことは政実にも藤孝にも伝えられていなかった。


玄蘇にしてみれば、最高権力者の我がままで無用な戦乱や隣国との諍いは愚かと思ってはいたが、権力者とはそのようなものだと諦めた。


「交渉がうまくいかなくても問題ありませんが、決裂を前提とした交渉はしないでもらいたいのです。よろしいですか、再度、謀ることないきようお願い致します」

「わかりました」


藤孝の言葉に、玄蘇は頭を下げ船室から出ていった。


玄蘇には話していないが、済州島を日本、明、朝鮮の貿易地できればよいと藤孝は聞いていた。明や朝鮮の鎖国により、日本との貿易が表立って行えないこともあった。それならば、済州島を独立させ、そこを中継地点にして貿易をすれば、鎖国政策に抵触せずに貿易できる。どの国も大義名分の元、言い分の出来る地を作れば、貿易もしやすいのではないか。琉球との交渉も同じ意図をもって交渉してもらいたいと、鶴松から言われたと政実は言っていた。

無駄な出兵を回避し、秀吉の心をやわらげ、貿易で資金を稼ぐ、本当に幼子の考えた事か藤孝は首を傾げたが疑念は脇に置いて、次の作業に取り掛かった。




「藤孝様」


玄蘇が居なくなった後、部屋の脇から声をかけられた。


「卯吉か」

「はっ」

「玄蘇や宗智にも人をつけているな」

「つけています。また、三名ほど既に船を降り、各地の様子を見る為に旅立っております」

「分かった。ただ、帰りはこの地には来ないので、博多で落ち合うことになっているが、大丈夫か」

「問題ありません」

「では、よろしく頼む」

「はっ」


卯吉の気配がなくなり、藤孝自身も船を降りて、現地の状況と商人たちと話を聞いて、情報集めをせねばと船室から出ていった。




富山浦の酒屋で一杯ひっかけながら、利益は深い溜息をついていた。


「利益殿、どうされた」


富山浦の港を興味深く、好奇心いっぱいの表情であっちこっち見ていた利益が、酒屋で酒を飲みながら深い溜息をしていることに、義智は疑問に思い質問した。


「ああ、義智殿。慶次郎は遊郭に行けないことに落ち込んでいるんですよ」

「……何故です」


無理やり連れてこられ、案内されて傍若無人な利益が遊郭に行けないのは何故か首を傾げた。行ったところで黙っていれば、ばれることはないはずで、そんなことに躊躇する理由が義智には分からなかった。

政実は苦笑しながら義智の顔を見た。


「同行する際の約束で、現地の女に手を出さないことを誓わされたんですよ」


その言葉に義智は驚愕の表情を浮かべた。


「なんだ、その顔は」


利益は、不貞腐れた表情で義智に絡んだ。


「いや、利益殿であれば、そんな誓い鼻をかんでそこらへんに捨てると」

「わはははは」


政実は、義智の言葉に大声で笑い利益は口をへの字に曲げた


「なんだよ、誓ったことを守っておかしいのか」

「いやいや、そうじゃないけど、まあ、お主ならそう思われるだろうな」


そう言いながら、政実は笑い続けた。


「誓った相手は女ですか。いや、情が深いことですな」


政実は顔の前で左右に手を振った。


「違うよ、鶴松様だよ」

「え、鶴松様って、殿下の御子の」

「そうだ」

「不貞腐れるなよ、理由も聞いているだろう」


不貞腐れた利益の顔を見つつ、義智は質問をする。


「理由とは何ですか」

「古血の危険があるからやめておくようにと言われてな。まともな処ならば心配ないだろうけど、潜伏期間とかあるらしくて、判断しにくいからやめた方が無難なんだと」

「そうなんですか」

「その危険も楽しみの一つだっていうのに、子どもには分からないかね……」

「ならば、無視したらよいのでは」

「すぐばれるし、子どもとの約束だ、破るわけにはいかんよ」

「律儀だな」


そう言いながら、政実は口を歪めた。それが気に食わないのか、利益は酒瓶をもって、政実に酒を注いだ


「なので、女が抱けないなら酒を飲む、付き合ってもらおう」

「分かっている」


継がれた酒を一気に飲み、政実は義智に酒を注いだ。


「え、私関係ないですよね」

「何を言っているのだあきらめろ」

「付き合わせるにきまってるではないか、とことん行くぞ」

「えーーー」


蟒蛇に捕まり、義智は意識が無くなるまで酒に付き合わされ、二日酔いの頭痛で目が覚めてみた。目の前では、まだ飲み続けている二人を見て驚愕の表情を浮かべた拍子に吐き気が来て、無理やり抑え込む羽目になった。

その後、吐き気を抑えながら宿に戻ることを伝え、戻ったところ、玄蘇に捕まり交渉の話を聞き、二日酔いの頭痛と交渉の困難さを考えた頭痛で意識を失い、まる一日寝込むことになった。



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